カードファイト!! ヴァンガード overDress 公式読み物サイト

世界観

World
世界観コラム ─ 解説!惑星クレイ史
第8章

聖竜紀前期 ~神格「守護聖竜」と光と闇の抗争~

中村聡

未来を変える力……「運命力(デザインフォース)」は、世界に属するあらゆる存在に宿る。だが時に、ある命に巨大な運命力が集中することがある。世界が在るべき未来を託した者。人はそれを英雄と呼ぶ。

◆神聖王国の誕生

世界中に広がる次元の歪み、次元の扉から溢れ出す次元魔獣(ユビキタスオーガ)に対抗するために、世界は新たな神格を産み出した。神格「守護聖竜」である。

しかし、世界はすでに次元の歪みが生ずるほどに弱まっており、神格が直接干渉すれば、シャボン玉のように砕けるリスクがあった。そのため、守護聖竜はいくつかの間接的な手段を選択する。ひとつが、神格の持つ運命力を加護に変え、秘宝や英雄に託す方法。そしてもうひとつが、自らを世界の法則に縛られた姿に変え、分身として顕現する方法である。

最初の加護は、ロイヤルパラディンの騎士に与えられた。名をアルフレッドと言う(本書では、彼の名を継承した子孫と区別するため、初代アルフレッドと記載する)。初代アルフレッドは、群雄割拠が続いていたサンクチュアリ地方を統一し、騎士王国「ユナイテッドサンクチュアリ」を建国した。


守護聖竜の分身と思われるドラゴンとして、3体の名が記録に残っている。そのうち「物質」を司るシングセイバー・ドラゴンは、世界各地に現れたようだ。

例えば、ドラゴンエンパイアでは、シングセイバーと黙示録の竜と呼ばれる英雄が交流を重ね、友情を築いたという伝承がある。生まれたばかりの若き化身とまだ武勲を上げる前の英雄は、どのような未来を語り合ったのだろうか。実に興味深い逸話である。

こうして守護聖竜の加護が世界に広まるにつれ、各地の次元の扉はその数を減じていった。


同じ頃、オラクルシンクタンクのメイガスと呼ばれる魔女たちが、守護聖竜の加護を礎として、意志ある予言書「ケテルエンジン」を発明している。これより後、ユナイテッドサンクチュアリは幾度となく世界の危機を予見し、人々を救うことになる。

◆勇気の剣、覚悟の剣

時は流れて数世代後、初代アルフレッドの血を引く若き王子がその名を継承した時代。オラクルシンクタンクが危機を予見し、全世界に警告を発した。

世界各地に再び次元の扉が出現し、扉からあふれ出た次元魔獣が大きな被害をもたらした。特にドラゴンエンパイアでは、「ぬばたま」の里が壊滅的な打撃を受け、「むらくも」の里が隠密任務を引き継いでいる。

警告を重視した神聖帝国は、クレイ史上最大級の秘宝を産み出した。聖域の辺境の刀匠が、守護聖竜の加護をこめて鍛えた一連の武器。ブラスター兵装である。この伝説の武器は使い手を選び、力及ばぬ者が手にすれば武器に人格すら侵食されたと記録されている。

そして予見された最大の危機が現実になる。神聖国家の首都にこれまで類を見ない巨大な次元の扉が出現したのだ。溢れ出た次元魔獣の被害は凄まじく、シングセイバー・ドラゴンすら傷つき倒れてしまう。この時、シングセイバーは人々の怒りと無念を取り込み、漆黒の姿、ファントムブラスター・ドラゴンに変質してしまう。

この危機を救ったのは1人の英雄であった。若き王子アルフレッドの盟友たる彼はブラスター兵装に認められ、勇気を刃に変えて次元魔獣を打ち砕き、巨大な扉を封じたのである。


この時、ブラスター兵装に受け入れられた英雄は1人ではなかった。その英雄は、人々の無念に染まったファントムブラスターの加護を受け、あらゆる犠牲を払う覚悟を刃に変えた。彼と共に歩む影の騎士団「シャドウパラディン」は、後に聖域を分断することになる。

◆祈り聞く者

次元の扉は出現し続けた。いつ果てるとも知れぬ次元魔獣の脅威に人々が疲れ切った頃、扉への対抗方針を巡り、光の騎士と闇の騎士の抗争が始まった。

光の騎士は人々の和を重んじた。力無き人々を守ることを優先した上で世界に呼びかけ、協力して次元魔獣に立ち向かおうとしていた。闇の騎士はその方針を迂遠過ぎると否定した。速やかに全面攻勢に転じ、いかなる犠牲を払おうとも敵を殲滅すべしと声を荒げた。

両陣営それぞれに神格の化身が加護を与えたことが、問題を拡大した。ファントムブラスターが闇の騎士に加護を与え、ソウルセイバーが光の騎士を支持したのである。軋轢の余波は国境を越えた。ダークゾーンの各クランが影の騎士に、オラクルシンクタンクとノヴァグラップラーなど複数のクランが光の騎士の陣営に加わり、抗争は世界規模に広がっていった。


この頃、対次元魔獣戦線で目覚ましい武功を上げたドラゴンエンパイアの英雄、ドラゴニック・オーバーロードが神聖王国を訪れている。そして、黙示録の竜はブラスター兵装に認められた光の騎士と邂逅する。後に彼らは幾度となく共に戦い、世界の危機を救うことになる。

私が入手したあらゆる世界線の記録において、彼らは必ず出会い、歴史を左右する役割を果たしている。彼らはまぎれもなく、重なり合う世界が未来を託した特筆すべき英雄であった。

さらにその後、黙示録の竜は、神聖王国に訪れた理由と思われる、ファントムブラスターとの会見を果たしている。その会見の目的や結果には諸説がある。ある伝承では、黙示録の竜が奈落の竜を滅ぼそうとしたと語られ、また別の伝承では、黙示録の竜が、若き日に語りあった友の元を訪れ、誤った選択を諫めようとしたのだと伝えられている。


その会見の直後、次元魔獣による最大の侵攻が開始される。この絶望的な危機に際し、クレイ史上でも非常に重要な現象が発生する。惑星クレイに住む人々の未来への祈りが、重なり合う世界である地球に届いたのである。その祈りを受け止めた少年は2人。彼ら「祈り聞く者」たちは、それぞれ光の騎士と闇の騎士を分身とし、黙示録の竜の想いを受け止めて、ある重要な選択を行ったようだ。

これにより重なり合う世界の「運命力(デザインフォース)」は絡み合い、特異な形で安定する。膨大な次元魔獣の軍勢は、光と闇の騎士と黙示録の竜を筆頭とする各国・各クランに制圧され、以後扉の発生は終息していった。

かくして役割を果たした神格「守護聖竜」はイデアへと還り、再び神格の休眠期が訪れる。
次回は、当然のように忍び寄る虚無の干渉、「時空混戦」について解説する。

>>第9章