◆探索の旅路(シークメイト)
本章では、リンクジョーカーのさらなる侵攻を取り上げる。しかし残念ながら、その正確な解説は極めて困難である。この時期の記録は非常に曖昧で、時系列や因果関係の矛盾が多発しているからである。
これは、星輝兵と惑星クレイの両陣営が、次元と時空に干渉し、歴史が幾度も書き換えられたためと推測される。本書は解読できた記録とそれを元にした推測を記述してきたが、本項では特に仮説部分が多くなることをお断りしておく。
惑星クレイ側で時空への干渉を行ったのは、導きの賢者ゼノンである。まず彼は、来るべき危機について聖域に警告を行った。それを受けた光の剣士は予言された希望を探し出す部隊、探索者を編成している。その上で、ゼノンは過去(あるいは異なる世界線)から、シングセイバーを召喚し、探索者に加護をもたらしたようだ。
星輝兵側の干渉は、その光の剣士を標的としていた。星輝兵は探索者を襲撃して彼を捕獲、惑星クレイの時空連続体から隔離した。星輝兵は、重なり合う世界という運命力(デザインフォース)の源から切り離し、光や正義といった彼を支える概念の存在しない空間で虚無を注ぎ込み続けることで、ついに光の剣士のЯに成功する。さらには彼の記憶から、彼が信頼する仲間である沈黙の騎士や小さな賢者の複製体製造に成功している。
光の剣士の隔離により、世界は彼が存在した歴史を失った。同時に彼が保持していた巨大な運命力(デザインフォース)を喪失し、決戦の前に敗北が決定しかねない状況となった。ゼノンはやむを得ずさらなる干渉を行う。過去(あるいは異なる世界線)から、世界を支えるに足る運命力(デザインフォース)を持つ忘れられた英雄たち、青き炎の騎士団を召喚した。
歴史は改変された。かつて、騎士王アルフレッドと「青き炎の騎士」がファントム・ブラスターを打ち破った。そして、滅びに瀕した奈落竜を、ブラスター・ダークが魂を繋いで消滅から救った。彼らは1つの魂を共有する存在として、光の無い世界を影として支え続けた。
反転した光の剣士は両陣営を拒絶する。彼は「祈り聞く者」とのリンクに成功したのかもしれない。虚無の浸食により狂気に呑まれたはずの彼が、それに抗う意志を持ち得たのだから。
これまでの戦いでЯに抵抗し続け、さらに隔離空間で虚無を注ぎ込まれた彼の体内には、過去に類をみない膨大な虚無のエネルギー……「虚無の種」が宿っていた。もし彼が惑星クレイに戻れば、先の戦禍を上回るほどの感染爆発を引き起こすことになる。それゆえ、彼は隔離空間に留まったと思われる。
光の剣士が存在しない世界。ごく少数だが、存在しないはずの光を感知する者がいた。その者たちは光の剣士の意志を理解し、彼に協力したと言われている(※)。
(※)光の剣士の協力者に、青き炎の騎士団を含める説もある。確かに彼らは、ブラスター・ジョーカーの隔離空間に向けて進軍する星輝兵との戦いにおいて、大きな活躍を果たしている。また彼らは、時の賢者に選ばれるほどの運命力を持ちながら、歴史に名を残さない道を選んだ騎士団である。光の剣士の選択に敬意を表したとしても不思議ではないだろう。
光の剣士が存在しない世界。その世界の在り方を否定した英雄がいた。黙示録の竜である。宿敵と出会うことも、反転することもなく自らを高め続け、煉獄を率いる将となった彼は、魂の奥から消えぬ光を求めて、盟友と共に戦場を切り裂いて探索を続けた。彼に協力した者、封じられし光に与した者、両者を理解し中立を保った者。様々な想いを受け止め、2人の英雄はついに相まみえた。
狂気に呑まれたはずのブラスター・ジョーカーは、黙示録の竜との戦いの中でその意志を取り戻す。その際、彼の中に封じられた虚無の種は無数の破片へと分断され、惑星クレイに住む無数の「英雄の志を継ぐ者たち」がそれを受け入れた。この時たしかに、リンクジョーカーは惑星クレイの一部となったのだ。
両軍による時空への干渉は解かれた。しかし、絡み合った時空は完全には復元できず、いくつもの世界線で本来の歴史から修正が行われたようだ。シングセイバーや青き炎の騎士団が元の時空に帰還し、彼らが「存在しなかった」はずの時空にも、彼らの記憶や記録はかすかに残されている。
◆メサイアの覚醒(メサイアスクランブル)
あくまで惑星クレイの住人となったのは、先行部隊にすぎなかった。リンクジョーカーの本隊はついに最大戦力の投入を選択する。世界を侵略する「星輝兵(スターベイダー)」ではなく、世界を消し去る「根絶者(デリーター)」とその母星「遊星ブラント」である。
根絶者のある強力な個体が、「祈り聞く者」と絆を結んだ。その青年は、重なり合う世界の絆が断ち切られることを望んでおり、それが根絶者と共鳴したのである。このリンクにより、根絶者は他の「祈り聞く者」の絆をも根絶(デリート)する力を手に入れた。
重なり合う世界の運命力すら断ち切るこの危機には、光の剣士や黙示録の竜を始めとする英雄たちや、各国の共闘ですら対抗し得なかった。そのため「創造神 メサイア」は覚醒を選択。自らと遊星ブラントを融合し、世界に取り込んだ。これによりついに、長きに渡る星輝大戦が終結したのである。
戦いを通じて「祈り聞く者」の想いもまた、少しずつ変化していた。それ故だろうか、メサイアとブラントの融合を機に、根絶者との絆もまたメサイアの化身との絆へと変化する。「世界を滅ぼす祈り」から「世界を創り出す祈り」へ。力を使い果たし、か弱い幼体の姿となったメサイアの化身。それは、かすかな瞬きでありながら、確かな未来への希望となった。
星輝大戦をも乗り越えた重なり合う世界は、無数にある世界の中でも特別な輝きを放つ存在となる。次章では、その輝きに惹かれて訪れた時空の観測者たちについて解説しよう。