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世界観コラム ─ 解説!惑星クレイ史
第12章

新聖紀前期 ~アカシックブックと時空超越~

中村聡

高まり続けた運命力(デザインフォース)が、世界の在り方を変えていく。その世界は、近隣する世界の運命をも巻き込み共鳴し始める。そして、2つのクランがその変化に気付いた。

◆星を詠む者

第一のクランは、世界の危機を予測し対策するための研究を続けていたジェネシスである。ある一族がこの世界のものではない運命力の高まりを感知。それを追跡した結果、星域と呼ばれる特殊な空間と、星域だけに存在できる巨大なエネルギー体・銀河の精霊を発見した。

異世界間の運命力の流れが分析できれば、より高い精度で「世界の危機」を予測できる。以後、星詠と呼ばれるその一族は、星域を通じて、無数に分岐する世界線の調査と分析に注力していく(※)。



(※) 分岐する世界は、それぞれがほんの少し異なる歴史を持つ。その意味では、本書は無数にある真実のたったひとつを解説しているにすぎない。「世界の記憶(アカシックブック)」と呼ばれる文書には、全ての世界線の歴史が記されているという。分岐する世界の探究を進める星詠は、いずれ「世界の記憶」に至り、あらゆる世界に確率的に遍在する存在となると予言されている。

◆時空の観測者

第二のクランは、厳密に言えば惑星クレイに属しては「いなかった」。その勢力は、次元を超えて旅を続け、様々な世界の時空を観測し、必要があればその修復も行う「ギアクロニクル」と呼ばれる存在である。

繰り返し発生する時空の歪みを感知し、ある世界を観測し始めた彼らは、前例の無いデータに驚愕した。その世界は、あまりにも不安定な時空に膨大な運命力が集約し、無限とも言える「可能性」が宿っていたのである。彼らはその惑星を重要観測点と定め、その結果として、魔力が集中するダークゾーンに、ある遺跡が「発見された」。

後に、その遺跡を研究した考古学者はこう述べている。「これは異世界文明の遺跡である。その文明は遥か太古から惑星クレイを観測してきた可能性が高い」と。すなわち、ギアクロニクルは「太古からの住人」として惑星クレイに現れたのである。

◆メサイアの子ら

神格「創世神メサイア」にとって、世界の生物は全て自らの子供である。そして今、メサイアのゆりかごに、新たな子供たちが加わった。

1人目の子はリンクジョーカーである。その母星と融合したメサイアは、新たな子を守るための化身を顕現させた。その化身は、惑星クレイに残された異界の因子に加護を与え、メサイアの眷属たる新たな種族を産み出した。



もう1人の子はギアクロニクルである。異界から現れたにも関わらず世界を守ろうとするその種族を、メサイアは庇護すべき存在として認識した。ある記録には、メサイアの化身がギアクロニクルから離れて見守り、試練と加護を与えて導いたと記されている。



◆時空超越(ストライドジェネレーション)

ギアクロニクルの危惧は現実になった。彼らの到来がきっかけになったかのように、時空の歪みを原因とした特異な現象が発生し始めたのである。遠い未来や遥かな過去の生命体が突如現れ、現実に多大な影響を与えるその現象は、「時空超越(ストライドジェネレーション)」と呼ばれた。超越現象のいくつかは暴走し、災害が如き被害をもたらした。

ギアクロニクルはこれを緊急事態と捉え、ただちに暴走による時空の歪みの修復に尽力した。当初、独力で事態を鎮静しようとしていた彼らは、各地でクレイの人々と接触を重ねるにつれてその方針を変化させていった。彼らはクレイの人々を信じる道を選んだのである。

ギアクロニクルは、ユナイテッドサンクチュアリを皮切りとして、各国の英雄に時空超越を制御する技術を指導し始める(※)。暴走は次第に減少し、その功績と交流によって、ギアクロニクルは諸国に受け入れられていった。

(※)その判断を下したのは、ギアクロニクルの指導者クロノジェット・ドラゴンであった。多数の英雄たちがその技術に開眼したが、光の剣士以来最高の騎士の1人と評されるアルトマイルと、ネオネクタールの祖とも言える四季折々の花乙姫たちを顕現させたアーシャは、高い超越制御技術を持つ人物として特筆されている。



◆弱さは罪

超越災害が終息に向かう頃、ある事件が発生する。シャドウパラディンの不満分子(※)を率いたクラレットソード・ドラゴンが、「強者による支配」を掲げ、反乱を起こしたのである。

(※)伝承はこう語っている。かつて2つに分かたれたファントム・ブラスターの魂のうち、善なる魂はモルドレッドに宿った。残る魂は邪竜となり、ある世界を滅亡の淵に追い込んだ。モルドレッドは、己が分身を討ち果たすため、騎士団長の座をブラスター・ダークに託して旅立った。ブラスター・ダークはその経緯を胸に秘め影の任務に徹したため、影の騎士団の中に不満の種が芽生えてしまった……と。


反乱軍の主張は明確であった。「弱さは罪であり、強き者が全てを支配すべきである」と。反乱軍は、その言葉を証明するかのように、ゴールドパラディンの俊英による調査部隊を打ち破り、次々と勢力を広げていった。ジェネシスで監視されていた危険人物が、反乱軍の主張に同調して合流。さらには、患者を人質に取られたエンジェルフェザーの一軍が軍門に下った。



その反乱軍の強さの中核となったのは、まぎれもなくクラレットソード・ドラゴンであった。彼はかつて、時空超越の暴走によって時の流れの果てから現れた、ある強大なドラゴンの強さに魅せれられてしまった。その強さのなんと美しいことか。それと比較して自分の弱さのなんと醜いことか。強さこそ全て! 彼は超越現象を人為的に暴走させ、「在りえるはずのない未来」から禁忌の力を引き出す術を編み出した。弱さは罪。時空崩壊のリスクなど、取るに足らぬ些事にすぎない。後は、その強さを証明するだけである。


だが、惑星クレイには新たな英雄が育っていた。ギアクロニクルとの交流を通じ、彼らは時空超越(ストライドジェネレーション)の本当の意味を理解していた。

本当の強さとは、禁忌に頼った短絡的な力ではない。1つずつ今を積み重ね続けた先にあるはずだ。若き英雄達は、「無限に広がる未来」から「自分に秘められた可能性」を引き出し、その力で反乱軍を打ち破ったのである。



エンジェルフェザーを指揮したガウリールは、患者を守る為という事情を酌量され、職務を継続して贖罪する機会を与えられた。その後、アーシャとの交流を深めたという記録も残されている。フェンリルはアルトマイルに捕えられたが後に脱獄。彼と再戦する機会を狙い続けた。また、ゴールドパラディンの新鋭グルグウィントは、聖域を守る任務を果たせなかったという反省を胸に努力し、その後大いなる成長を遂げたという。

なお、反乱の中核となったシャドウパラディンに対して責任を問う声は大きく、影の騎士団は自ら解散を申し出ている。しかし、騎士王は反乱に与しなかった騎士たちの忠誠と能力を高く評価していたため、正式な騎士団ではなく、文字通りの影、非公式の直属部隊としての存続を命じたと記録されている。

可能性が現実になるこの時代、未来は希望に満ち溢れていた。しかし、多様な未来を求めていない者も存在した。次章、惑星クレイは「無限の可能性」を否定する「完全なる未来」に直面する。

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