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世界観

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世界観コラム ─ 解説!惑星クレイ史
第13章

新聖紀中期 ~ストライドゲートと完全なる未来~

中村聡

◆機械仕掛けの神

これは、遥か遠く離れた世界の、遥か遠い昔の伝承である。その世界の住人達は、誰よりも時空を操る術に長けていた。ある竜とその仲間たちは考えた。優れた者が、あらゆる時空を支配すべきであると。そして彼らは神を作った。

機械の神はいくつもの時空を歪め、その未来を奪ってしまった。それを憂いた12の獣が機械の神を作った竜たちを倒し、機械の神を封印した。12の獣は志を同じくする者たちと共に、歪んでしまった時空の調律者になった。



◆時を刻む獣

永遠とも思える長い間、ギアクロニクルは様々な世界を旅し、「重なり合う世界」にたどり着いた。その過去と未来を観測した十二支刻獣の1体が、幾度乗り越えても訪れる世界の危機と、必然的に繰り返される戦いの連鎖を終わらせたいと考えてしまった。そして、時空の修復者としての任務を逸脱し、歴史に介入しようとした。残る11の刻獣により犯行は未然に防がれ、その虎は時空の狭間に封印された。



ある日、地球の青年が夢を見た。時の牢獄に捕らえられた獣の夢を。その青年と虎の抱く夢は同じだった。争いの無い世界を創りたい。青年はもう1つの世界の存在を信じ、2人の夢を実現することにした。青年は実験を重ね、ついに限定的な成功を果たした。2つの世界の間にほんの一瞬、小さな穴が開いたのだ。

この成功は、ある偶然の出会いが引き寄せたものだった。実験に巻き込まれた十二支刻獣の竜の幼体の声に、地球の少年が応えた。そして、竜の子は地球に転移し、少年は「特異点」と呼ばれる存在となった。この出会いが後に、「重なり合う世界」の運命を大きく変えることになる。なお、竜の子の出自に関しては様々な説がある。その多くは「幼竜は時空を超えて現れた、クロノジェット・ドラゴンの若き姿である」と推測している。



地球の青年は実験を繰り返した。望む成功はなかなか得られなかったが、実験は重なり合う世界を少しずつ歪めていった。同じ頃、惑星クレイでは「時空超越(ストライドジェネレーション)」と呼ばれる現象が多発しているが、実験との因果関係は不明である。

そして、クレイ上で幾度も発生した時空の暴走のひとつが、遥か離れた世界の遥か昔から強大な竜を呼び寄せた。その強さに魅せられたのが、クラレットソード・ドラゴンである。



◆終末への秒読み(ギアースクライシス)

覇道黒龍の乱が終結した後、ギアクロニクルも含めた各国各クランの交流が盛んになった。各地の伝承に「進化させる者」と呼ばれるメサイアの化身の導きの元、未来ある若者たちが国境や世代を超えて交流し、試練を乗り越えていく様子が描かれている。



メサイアは、歴戦の英雄たちにも加護と試練を与えた。彼らは時に若者たちを導きながら、語られることの無い歴史の裏側で世界を支え続けた。そして彼らが備える世界の危機は、すぐ間近に迫っていた。



◆運命の門(ストライドゲート)

旧き竜は、潰えた野望を叶えるために動き始めた。彼はまず世界を巡り、協力者を集めたようだ。協力者と思われる人物は複数存在するが、その多くが互いを利用する仮初の関係だったと推測される。ただし、それぞれが独自の指針で行動しているため断定が難しく、協力者の範囲には諸説ある。

特にナイトローゼとハリーに関する記録は矛盾するものが多い。活躍した陣営すら真逆の記録が混在しており、互いの関係も敵対関係から深い信頼関係まで幅広い記載がある。同様の混乱は、ナイトローゼとアルトマイルに関連する逸話にも多く見られる。



彼らの計画は確実に進行していった。最初の成果は、時の狭間に封印されていた十二支刻獣の解放である。解放された虎は、かつて未然に終わった罪、時空への干渉を完遂した。それにより、かつて「重なり合う世界」の間に空いた小さな穴は、「運命の門(ストライドゲート)」と呼ぶべき巨大な門へと変貌を遂げた。



計画は進む。彼らは「運命の門」を通じて手に入れた「重なり合う世界」の運命力(デザインフォース)を利用し、他の十二支刻獣を次々と捕えていった。そしてついに、地球に転移していた最後の刻獣クロノ・ドランの捕獲に成功する。

旧き竜の野望は果たされた。十二の鍵はそろい、時空の神が解放されたのである。

◆完全なる未来

旧き竜は、あらゆる時空の支配者たることを望んだ。

刻獣の虎は、「完全なる未来」を望んだ。重なり合う世界の1つを滅ぼし、その運命力の全てを、もう1つの世界へと流し込む。そして、住人たちが想う理想の時間を永遠に繰り返す世界へと変えてしまう。それが虎と青年が望んだ、争いの無い世界だった(※)。

(※)地球に直接的な影響があった事象のひとつ。完全なる未来事件を参照のこと。

だが、世界は、隷属も、滅亡も、永遠に繰り返される理想の世界も望まなかった。

アルトマイルは、彼と戦うために刻獣たちと行動を共にしていたフェンリルと剣を交えた。その熾烈な戦いを制したのは、時空超越により、聖剣「フィデス」の力を身に宿したアルトマイルであった(※)。

(※)第一次弐神戦争の終わりに、英雄フィデスとその聖剣は、ゼロスドラゴンを封印するために地球に転移したと言われている。その聖剣は、英雄の名と共に、今なお地球のどこかに存在し、相応しき試練を乗り越えた英雄にのみ時空を超えて応えるのかもしれない。

アーシャは、シャルハロート、ハリー、ナイトローゼと交戦した。その戦いの詳細は明らかではないが、この日の出会いによって、それぞれの運命が大きく変わったと記録されている。

そして、クロノ・ドランとクロノジェットは、重なり合う世界の出会いの中で「積み重ねてきた過去」を力に変え、機械の神と旧き竜を打ち破り、「無限に広がる未来」を勝ち取った。



なお、この一連の事件に関連する記録には、伝承によって矛盾する記載がある。例えばある伝承では、クロノ・ドランは、地球ではなく惑星クレイに転移し、若き英雄たちと交流を深めたと記されている。またある伝承では、聖剣「フィデス」は代々クレイの剣士に名前と共に継承され、ある剣士の戦いの結果狭間を漂い続けたと語られている。

特に矛盾が目立つのは、クロノファングと夢を共有した地球人の描写である。彼は伝承によって、乳児、少年、青年、老人など全く異なる姿で描かれている。彼に関する結末も、「全ての力を使い果たして死亡した」から「罪を許され新たな人生を歩んだ」に至るまで、その内容は多岐にわたる。これらの矛盾はおそらく、デミウルゴスの消滅によって時空が混乱し、観測のずれが発生したためと推測され、真実の特定は困難である。

若者たちが勝ち取った無限の未来。その先には、「運命の門」がもたらす最後の試練が残されていた。次章は、メサイアとギーゼを巡る宿命の結末、第二次弐神戦争について解説する。

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