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世界観コラム ─ 解説!惑星クレイ史
第14章

新聖紀後期 ~第二次弐神戦争~

中村聡

【竜神の器】

破滅の竜神ギーゼの復活。数千年に渡り、歴史の影に潜み続けてきた者たちが、その悲願に手を届かせようとしていた。創世神メサイアが目覚め、運命の門(ストライドゲート)が開いた。そしてついに、待ち焦がれていた「器」が生まれたのだ。

その少年は孤児だった。人生に絶望していた彼は、シャドウパラディンの騎士に拾われる。初めて手に入れた家族の絆。だが、彼の幸せな時間は長くは続かなかった。彼が憧れ、兄として慕う騎士は、何者かに殺害された。



少年は心を決める。兄のように強くなりたい。そしていつか兄の仇を討ちたい。彼は師の勧めにより、竜の力を身にまとう「竜刻魔道士(ドラグウィザード)」の修行のために旅に出た。そして、世界を巡り、様々な出会いを重ねていった。



【時空間憑依計画(ディフライド・プロジェクト)】

メサイアとギアクロニクルは協力してある計画を進めていた。重なり合う世界を安定させるために、クレイ人の精神を地球人に、両者合意の上で憑依し、2つの世界を巡る運命力の流れを調査する。いわゆる「時空間憑依計画(ディフライド・プロジェクト)」である。

調査に赴く人員は、各国から多様な人材が選抜された。ネオネクタールの銃士アンテロは、新たな可能性を見出すために世界を渡った。彼はアーシャの護衛であったが、ルアードと出会った際に敗北。以来、大切な人を守れる強さを目指していた。

ジェネシスの神託能力者アマルーダは、「可能性を輝きとして感じる力」を持っていた。彼女はもう1つの世界の輝きに惹かれ、計画に自ら志願した。また、かげろうの歴戦の傭兵ダムジッドは、平和な世界に赴く観光気分の仕事として依頼を受けた(※)。

(※)ほとんどのクレイ人にとって地球は認識すらできない想像上の存在だったようだ。ごく一部の「高い運命力を持ち」「地球人との絆を有する」者だけが、地球の存在を認識、あるいは信じることができた。そのため、メサイアとギアクロニクルは、重なり合う世界の存在を各国のごく一部の人間にのみ公開し、計画を進めている。そして、地球を認識できるごく少数のクレイ人にとって、地球に対して抱く印象は、極めて個人差が大きかった。

計画は予定通りには進まなかった。メサイアの加護を受け入れず、不正な手段で精神を転移させた者が現れたのである。



不正憑依者は、ドラゴンエンパイアの諜報部隊「ぬばたま」の忍竜シラヌイ。かつて、彼が率いた一軍は、味方に見捨てられて壊滅した。そして、苦悩する彼の元に、ギーゼの使徒、邪神司教ガスティールが現れた。

ガスティールは騙る(かたる)。惑星クレイの運命は、地球人の意志によって歪められている。お前の一族の無念もまた、歪められた運命の1つである。竜神を復活させれば、惑星クレイは運命の支配から解き放たれるだろう……と。

シラヌイは、一族の無念を晴らすためガスティールに協力する。不正な憑依を成功させるため、ガスティールの実験に肉体を提供。操られた彼は、意図せずシャドウパラディンの騎士を殺害している。そして世界を渡り、ギーゼ復活へ向けて活動を開始する。



地球では、シラヌイは正規のディフライダーと行動を共にしている。シラヌイにとって、地球人はクレイの運命を捻じ曲げる悪であったが、アンテロやアマルーダは地球人の善意と可能性を信じていた。後にアンテロは不慮の事故で死亡し、シラヌイの信念に小さな変化をもたらすことになる。

シラヌイは2つの任務を達成した。1つ目は、ある人物を不正にディフライドさせること。その人物とは、ガスティールが互いに利用する形で受け入れた協力者であり、かつて惑星クレイを絶望の底に陥れた異界の道化師……カオスブレイカー・ドラゴンであった。



もう1つの任務は、ギーゼの「地球側の」器となる、高い運命力を持つ候補者の選別だった。その過程で、シラヌイの想いは変化していく。当初、地球人に出会ったシラヌイは、強い苛立ちと怒りに苛まれた。彼から見れば地球人はみなか弱く、凡庸であった。許せない。こんな存在に惑星クレイの運命は歪められ、彼の一族は壊滅したのかと。

しかし彼は、「特異点」と呼ばれる少年に出会い、アンテロの想いを理解することになる。運命力の流れに触れ、死んでいった一族の想いを感じたシラヌイは、ガスティールの言葉に疑念を抱く。重なり合う世界の間にあるのは絆であり、一方的な運命の支配ではないと。

アマルーダとシラヌイはクレイへと帰還し、計画本部へと使徒の動きを報告する。そして、ルアードという名の復讐者が、シラヌイの一族の生き残りへの襲撃を繰り返していることを知った。

【第二次弐神戦争】

カオスブレイカーは、働き者だったようだ。彼はギーゼの使徒を次々とディフライドさせている(※)。転移したのは、数千年前からの使徒、ガスティール、ヴァレオス、グレドーラに加え、グレドーラの忠実な戦士アルキデスである。これにカオスブレイカーと、転移後に地球人への敵意を深めたダムジッドを加えた6名が、地球側で暗躍している。

(※)全ての憑依が成功したわけではないようだ。候補の1人であったクラレットソード・ドラゴンのディフライドは、対象となった地球人が強靭な意志力で拒絶したとの記録がある。



ガスティールの魔術とアルキデスが憑依した科学者の知識により、彼らは「重なり合う世界」の両方につながる疑似空間を産み出した。レリクスと呼ばれるその空間は、取り込んだ生命体に「重なり合う世界」の双方から集めた運命力を注ぎこむ機能を持っていた。

クレイでは、メサイアに協力する英雄たちが、ルアードを止めようと動いていた。ルアードは彼らに真実を告げられ、激しい精神的なショックを受ける。その時、それを待ち構えていたガスティールが現れ(※)、ルアードを攫いレリクスへ転移させてしまう。

(※)ギーゼの使徒のディフライド期間は特定できていない。記録によって、使徒ごとに地球とクレイで同時期に活動した記録が混在しているためである。その傾向は、ガスティールとカオスブレイカーの記録で顕著であり、分身の存在等様々な仮説が論じられている。

ルアードはクレイにおけるギーゼの器であった。破滅の竜神にふさわしい器となるように、ガスティールは彼の人生に干渉し、丹念に希望や幸せを塗りつぶしてきた。そして、煮詰まった復讐の念すらも否定された時、怒りと絶望に染まった器が完成したのである。



この時をもって、ギーゼの使徒たちの進軍が開始された。メガコロニーの大群がネオネクタールに侵攻。アクアフォースの旧世軍がユナイテッドサンクチュアリへ。そして、天空から無数の星輝兵(スターベイダー)が、世界各地を無差別に攻撃し始めた。アマルーダ及びシラヌイの警告により、完全な奇襲は免れたものの、各国は必死の防衛を強いられた。

【竜神の覚醒(ネオンギーゼ)】

地球では、使徒たちが最後の暗躍を開始した。まず、ヴァレオスが第一次弐神戦争において自らを倒し、ギーゼ軍の敗因となった聖剣フィデスを破壊。そして使徒たちは世界中に散り、6体のゼロスドラゴンを次々と封印から解放していった(※)。ただし、ガスティールはメサイアの「祈り聞く者」の排除を試み、失敗に終わったようだ。その後、任務を達成した(あるいは憑依に必要な運命力を使い果たした)ディフライダーは、クレイへと帰還した。

(※)地球に直接的な影響があった事象のひとつ。ゼロスドラゴン事件を参照のこと。



ここで、ギーゼの使徒に紛れ込んだ異物が本性を現した。カオスブレイカーである。そもそも、異界の道化師はギーゼの復活に興味など無く、望んできたのは常に「極上の絶望を味わう」ことであった。彼は気紛れにガスティールを襲撃し、ルアードの肉体を奪った(※)。

(※)別の記録によれば、カオスブレイカーは、ほぼ同時期に地球側の器となる人物を捕え、レリクスに封じている。推測ではあるが、彼はなるべく多くの絶望を味わうために、自身のクローンとも呼べる異世界分岐体を複数所有していた可能性がある。

狂える道化師の本意は定かではないが、事態の一層の混乱と、彼が楽しめる状況を求めた行動と思われる。だとすれば、カオスブレイカーの願いは叶えられた。メサイアの干渉により、いずれかの時空からレリクスへと、2人の英雄が呼び出されたのである。



カオスブレイカーにとって、重なり合う世界は何が起こるかわからない最高の遊び場であり、現れた2人の英雄は飽きることのない最高の玩具であった。存分に遊び、満足と共に敗北したカオスブレイカーは、最高の終幕を望んだ。彼はただ、2人の絶望を見るためだけに、自身を生贄としてギーゼ復活に必要な最後の運命力をレリクスへと注ぎこんだ。



【真に望む未来】

ギーゼは、重なり合う世界の双方に、甚大なる破壊をもたらした。クレイでは帰還したギーゼの使徒とその軍勢、そしてゼロスドラゴンと共に顕現したギーゼとの絶望的な戦闘に突入した。地球では、「虚無の雨」と呼ばれる疑似生命体による侵食が記録されている(※)。

(※)地球に直接的な影響があった事象のひとつ。虚無の雨事件を参照のこと。

クレイでは、メサイアの加護の元、世代を超えた英雄が集結し、各地で戦線を支えた。この際、メガコロニーを率いるグレドーラは勝敗を予測したのかギーゼに与せず、地球の少年の想いを受け止めた傭兵ダムジッドはメサイア陣営で参戦している。また、一族と共に参戦したシラヌイはギーゼに一太刀浴びせ、器となったルアードの精神の解放に寄与したとする記録がある。

この大戦の結末に関する詳細は不明である。ただ、メサイアの加護により、重なり合う世界と絆を持つ世界中の英雄たちの運命力を受け止め、3人の若き英雄たちが世界を救ったと記録されている(※)。

(※)限られた記録の中で、いくつかの興味深い伝承を紹介しておく。アルトマイルは破壊されたはずの聖剣フィデスの力を振るったとする伝承がある。その記録には「聖剣の本質は剣にあらず、その志にある」と記述されている。

また別の伝承には、アーシャは生命に関わる危機に際し、死んだはずの銃士アンテロに救われたとする記録がある。それは、時空を越える想いがもたらした、ただ1度の奇跡だと伝えられている。



こうして、長きに渡る2つの神格の争いが終わりを迎えた。破壊の竜神ギーゼは消滅。器となったルアードは解放され、自らの人生を取り戻した。6体のゼロスドラゴンは、クレイエレメンタルへと姿を変えた。そして、ギーゼと対をなす創世神メサイアもまた、役割を終えてイデアへ還った。

同時に、運命力の流れは正され、「特異点」と呼ばれた地球の少年は、ごく普通の少年に戻った。彼には夢があったという。いつの日か自分の力で、惑星クレイにたどり着き、もう一度あの幼き竜に会いたいと。ギアクロニクルは時を司る。その長たる竜は、大切なその時間を見守り続けるだろう。彼らが出会った時から、いつか再び出会う時まで。



メサイアがイデアに還ったことにより、重なり合う世界は大いなる変革期を迎える。次章は、「祈り無き時代」と呼ばれる暗闇の時代を解説する。

次回更新をお楽しみに!