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世界観コラム ─ セルセーラ秘録図書館

018「運命力(デザインフォース)」

  • 運命を実現する力……。すべてはここで終わり、そしてまたここから始まる。
  • 師匠?どうしちゃったんですか、真面目な顔で地図と水晶玉を睨んで。
  • ええい!せっかく集中していた所をジャマをするでない、アリウス!このバカものが!
  • バカはないでしょ!僕は科学者ですよっ!
  • ふっ、では賢い科学者殿。せいぜい私の役に立つ助言でもしてみたらどうなのだ。
  • 助言ですか……おぉ、寒っ!ねぇ師匠、早く山小屋に入りましょうよ。なんでこんな冬山のてっぺんに陣取っちゃってるんですか、僕たちは。
  • 忘れたのか。我々が、何のためにこの美ヶ岳観測所──惑星クレイ有数の天体観測ポイント──まで来たのかを。
  • それは……新竜骨(ネオドラゴボーン)山系の絶景を見ながら山小屋名物のおいしい鹿肉シチューをいただくため?

  • たわけ!「運命力」を観測するためだ!高山に登って頭から情報が抜け出たか?!
  • はぁ、運命力(デザインフォース)ですか。
  • 「運命力」が何ものかについてはお前も知っているな。
  • 魔法などに関係する生体エネルギーの一種ですよね。でも僕は科学者なので、オカルトの類いはちょっと……。
  • おまえといい、あのヴェルストラといい、科学を信じる連中はまったくどいつもこいつもこう頭が固いのか……。よい、改めて説明してやろう。
  • わぁ!ブリッツ・インダストリーCEOヴェルストラさんと僕を並べていただけるなんて光栄です!
  • ……。運命力とは神格の加護の下、惑星クレイに宿る「星自体の生命力」のようなもの。この星全体とそこに住む生物を活かす、莫大なエネルギーの流れだ。ちなみにドラゴンは特に運命力と関わりが深い生き物だ。また魔法、魔力の力源とも言われているな。
  • あ、思い出しました!先の龍樹がこの星を狙い、根を下ろしたのも惑星クレイの運命力を吸い上げるため、でしたね。しかも龍樹はそれに成功して、僕らは危うく支配下に落ちる所でした。
  • ほう、調子が出てきたではないか。
  • でも、師匠は魔法使いですから運命力は長年慣れ親しんだものでしょう。今さら運命力の観測や研究にとり掛かられるんですか?
  • うむ、よい質問だ。先の《世界の選択》そして龍樹侵攻以来、私は運命力を「運命を実現する力」と考えるべきではないかと思い始めているのだ。単なる星に由来するエネルギーやその流れとしてではなく、な。まだあくまで推測の域を出ないが。
  • 「運命を実現する力」。でも、もしそんなものが悪いヤツの手に渡ったら……。
  • 実は「運命力の観測」については、すでに利用されているのではないかと思う。
  • まさか、そんな!?
  • 実例があるぞ。すでに判明している通り、今回の騒動に関係する謎として「龍樹の到来を予知しそれを支えるために準備をしていた悪の勢力」が惑星クレイにはいたらしい。一方で我々はそれに前もって対策することができなかった。何故か?
  • ……なるほど。師匠は運命力の乱れが龍樹の予兆で、それを観測して備えていた者が敵側にいたと?
  • おそらくな。実は我々惑星クレイを守る側にも、こうした運命力の状態を専門に研究している団体がある。「世界危機予測研究所」というのだ。
  • ストイケイアとケテルサンクチュアリの共同研究組織。師匠宛によくお手紙が届いていますね。エンジェルフェザーの宅配便で。
  • あれを見逃さなかったとは感心だ、アリウス。実はケテルの賢者や「世界危機予測研究所」に所属するオラクルたちの中にも、運命力の乱れを報告し“何らかの災いの到来”(龍樹襲来)を予測していた者はいたのだ。だが決め手となる情報がなかったために、全世界への警告が遅れてしまった。
  • そして龍樹侵攻は本格化して一年ほどで、惑星クレイのほとんどを覆い尽くすほどに……。
  • うむ。以前も話したが、滅尽の覇龍樹グリフォギィラ・ヴァルテクスを相手に勝利できたのはまさに奇跡であった。

Illust:かんくろう
  • 確かに。もしそうした予測や対策ができるのなら、師匠はそうした不穏な動きを見逃したくないのですね。
  • そうだ。そこでこの地図の出番となる。
  • ? 特に変わったこともない世界地図ですけど……。

  • 言ったであろう。「すべてはここで終わり、そしてまたここから始まる」と。最近起こったことを思い出すのだ。我々が今見下ろしているギーゼ=エンド湾で。
  • 天輪の勝利と龍樹の消滅ですね。
  • その際、起こった事があるだろう。あぁ、お前は逃げるので精一杯だったか。
  • あ、あれは師匠が僕を置いてさっさと逃げ出しちゃうからでしょう!……ん?でも確かに、滅尽の覇龍樹グリフォギィラ・ヴァルテクスが消えるとき……。
  • 「ぐわぁぁぁぁぁ──!!」子供の少年の青年の大人の、そしてひどく年老いた声がひとつの苦鳴となって木魂する。そして辛うじて形を留めていた滅尽の覇龍樹グリフォギィラ・ヴァルテクスから、眩しい幾筋もの光芒が立ち上がると、それは光の矢となって天に飛び立った。
  • ほれ、このような感じであったろうが。
  • (まさかあのどさくさの中でちゃっかり水晶玉に録画してあるとは思わなかったけど)……あ!ホントだ!龍樹から何かが空に飛び出してる!
  • 今、観測データと対照しているのは①光が何本であったか②どの方向に飛んで行ったか、だ。水晶玉の惑星儀と、研究所と繋がる運命力メーターを併せても特定は難しいぞ。ギーゼ=エンド湾を中心に推測しても範囲が広すぎる。対象は全世界だからな。
  • でも、あの飛び散った光は、必ずしも悪の力になるとは限らないのでは?
  • たまにはお前も良いことを言うな。その通り。私はあの光が「龍樹が惑星から吸い上げ、貯め込んでいた運命力の解放・回帰」であったと考えている。だが、強い運命力とは文字通り、運命を左右する大いなる力。一度吸い尽くされ一気に解放された「運命力の偏り」が、これから世界が激動するような出来事の原因となる恐れは無いだろうか。
  • なるほど。……それでその運命力の光の本数と方向はわかりましたか、師匠?
  • それをさっきお前がジャマしたのだ。バカもん!
  • す、すみません。てっきりまた師匠は水晶玉の携帯ゲームを遊んでいるのかと……。
  • 『惑星クレイ歩き』アプリか。まぁ移動して世界地図を塗りつぶしていくアレは面白いゲームだが。
  • 真面目に使っていらっしゃったのなら、いいです。あの……それでその、師匠。せっかく中断してしまったことですし。やっぱり山小屋で暖を取りませんか。吹きっさらしの尾根の上に半日もいるんですよ……。
  • はぁ。あいかわらず鍛え方が足りんなぁ、アリウスよ。
  • でも師匠はずっと、ムーンバックの毛皮に包まれてぬくぬくじゃありませんか!
  • むーちゃん(※注.無敵の獣ムーンバック)と私はいつも寄り添う心友だからな。いわば師匠の特権だな。……さぁ、運命力の実地観測を続けるぞ、アリウス!早くその結果を「世界危機予測研究所」とケテルのオラクルたちに伝えねばならぬ。
  • あの、師匠、せめて毛布を借りてきたいのですが……。
  • ダメだ。全世界が我々の情報を待っているのだ。手がかりを得られるまで、この場所を動かぬぞ!
  • うぅ、この先、何時間かかるんだろう……。