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ううぅ、寒い……師匠、なんでボクたちまた南極大陸に来ちゃったんですか?
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アリウスよ、忘れたのか。「柩機(カーディナル)」なる新たな存在について知りたい、と言ったのはお前自身ではないか。
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いや、それだったらその場で教えてくれたらいいでしょ。なんでわざわざ極寒の地のしかもこんな真夜中に。
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百聞は一見に如かずというではないか。ここにはその答えがあるのだ。黙って聞いておれ。
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はぁ……。
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解説役は我が「賢者の杖マクガフィン」だ。
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はい、セルセーラ様!
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わっ!いつも唐突に動いて喋りだしますよね、その杖は。
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お前は何度やっても驚くから面白いな。さあ、頼むぞ、マクガフィン。
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はい、ではさっそく。リンクジョーカーを知っていますか、アリウス?
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うん。かつては侵略者として惑星クレイに現れ、現在はブラントゲートの国民でもある存在だよね。少し変わった外見をしていて、確か「呪縛」や「デリート」と呼ばれる特殊能力を持っているとか。
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ではアリウスもまだ実際にリンクジョーカーに会ったことはないのですね。でもそれも当然。彼らの多くは母星である遊星ブラントや宇宙空間に暮らしていますから。
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遊星ブラントはボクらが「第2の月」とか「ブラント月」とか呼んでいるアレだね。
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そう。お前の頭の上に輝いているアレだ。遊星ブラントが惑星クレイの衛星となったときは大変な騒動だったのだぞ。地上の被害はもとより、星回りが変化したことによって占星術のホロスコープまで一新されたからな。それはもう大迷惑だった。
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ははは……(師匠が古代の事を見てきた様に言うのにも慣れてきちゃったな)
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ブラントの星の地表には未来の予言が記された「メサイアの碑文」が建てられているのは知っていますか、アリウス?今から2500年ほど前、無神紀と呼ばれた時代にその「メサイアの碑文」の地下で、あるものが発見されたのです。
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あるもの?
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奇妙な六面体です。意思を持つように反応する機械生物、それは「柩(ひつぎ)」と呼ばれています。ブラントの住人であるリンクジョーカーはこの「柩」を深く研究し、異世界の敵と戦うための武器として利用することを考えたのです。
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機械生物兵器ってこと?発掘品を武器にしちゃうなんてすごい発想だね。
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異世界や異次元の存在には、常識的な手段では対抗できません。「柩」には因果を歪める効果があるため、通常の攻撃が利かないそうした異界の敵にも有効というわけです。
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そしてその「柩」の使用法に熟達した者が特別部隊「柩機(カーディナル)」というわけだ。
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わかりました。……あの、そろそろボク凍えそうなんですけど。ここに連れてこられた理由って?
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「柩機(カーディナル)」と異界のものとの戦いは、“夜”に行われるのです。ここで言う夜とはつまり、柩機が戦闘の舞台とする異界との境界のことですね。
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はぁ……それと南極で夜更かしとの関係は?
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こうしてブラントゲートの凍える月を見上げていると、人知れず惑星クレイの防衛にあたっている「柩機(カーディナル)」の戦いの様子が感じられるかもしれぬと思ってな。
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セルセーラ様のおっしゃる通りです。
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感じるも何も、そもそもその異界との戦いって地上で見られるものなんですか?
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うむ。戦場のほとんどは宇宙空間やブラント月の地表であろう。……いや実は、ブラントゲートの宇宙軍に、戦いの様子を見せてもらえないかと頼んでみたのだが断られてな。
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あーなるほど……それでさっきボクらは軍のドームから追い出されたんですね~。
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失敬な!ダークステイツの至宝、知の探究者セルセーラ様の頼みを断るとは!
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わかってくれるか、さすが賢者の杖マクガフィン。
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いやいや、そりゃ断わられるでしょ。生命を賭けた戦いの最前線に観光気分で来られたら大迷惑ですって。
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まぁいい。今日はこのままブラント月見と洒落込もう。……見よ、氷原オオカミも次々と現れて月見に加わってくれそうだぞ。
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あれって、ボクらを餌食にするつもりだと思いますけど……。
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セルセーラ様、暖かい飲み物をどうぞ。お菓子もありますよ。
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うむ。楽しい夜になりそうだ!
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こっちも生命を賭けた戦いの夜にならなきゃいいけど。とりあえず絶対、火は絶やさないでおこう……。
世界観
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世界観コラム ─ セルセーラ秘録図書館