ユニット
Unit
短編小説「ユニットストーリー」
ブラントゲート・セントラルドーム 深夜0:11
「今すれ違ったエイリアン、見たよね」
「はい?」
「サイレン鳴らして!Uターンするわよ」
「はい、ピンク先輩!」
このとき同じ車内にいた取材班には見えなかったが、映像を見直してみると確かに超銀河警備保障のパトカーを避けるように急カーブするエアカーが写っていた。さすが極光戦姫 リサット・ピンク、本日のパトカードライバー兼オブザーバーを務めるベテランの勘である。
『はい、そこの黄色いエアカー。高度を下げて路肩に寄せて止まりなさい。左です、左に寄って』
* * *
「@▲◇×!」
「なんて言ってるの、カナリー」
本日助手を務めるエージェント、極光戦姫 ビレート・カナリーは新人である。この乗務前のインタビューでは『少し緊張してまーす。てへっ』とのことだったが。
「えっと……“オレなんで捕まっちゃったんスか、お姉さん”って」
「じゃあ通訳して。車の中で見つけたこれね、お兄さん。反陽子電池、持ち込み禁止の違法エネルギーよ。わかる?」
「◎、θ凹$!?凸&!」
人型エイリアンは強く抗議する姿勢を見せた。
「そう、わたしたちは警察じゃない。通報があって捜査に協力してるわけ。軌道ステーションの税関から無許可のエネルギーパックを持ったエイリアンが、審査をすり抜けてセントラルドームに入ったって。お兄さん、反陽子電池の危険性、知ってるわよね。暴走したら惑星ごと吹き飛ぶわよ」
「“オレ、知らないッスよ”ですって」
「はいはい。じゃあ、ちょっと警察まで一緒に来てね。あ、抵抗しても無駄だから、暴れないで」
「そうです。抵抗しても無駄ですよ」
取材班は、噂に聞くリサット・ピンクの捕縛術が見られるかと身構えたが、エイリアンが観念したのかがっくりと首を垂れて抵抗を止めたため、犯罪者をメロメロの骨抜きにして監獄送りにするという彼女の捕縛術《メルティング・ハート》が炸裂する現場は撮影することができなかった。
「カナリー、手錠を」
「はい、ピンク先輩!セントラルドーム標準時0:32分、容疑者確保。前肢を出してください」
後にセントラルドーム警察本部に引き渡されたこのエイリアンは《エネルギー所持/取扱違反》で国外退去を命じられた。
超銀河警備保障本部捜査一課 朝7:42
超銀河警備保障の朝は早い。
「おはよーっす」
エリート部門として知られる捜査一課のドアを開け、取材班に元気な挨拶をしたエージェントは、極光戦姫 ワッパー・プルン。
「遅いよ~、プルン。こっちはもういつでも出られるんだから」
腰に装着した三連砲システムをテストしながら声をかけたのは極光戦姫 メル・ホライズン。
撮影ディレクターは取材初日、彼女の名前──極光戦姫は“輝く美しいもの”をコードネームにするという──について質問してあやうく砲撃の的にされそうになった。いわく『地平線こそ輝く美しいものでしょ!』とのことだった。
「準備オッケー。いつでも灰にできるよ」
物騒なことでは負けていないのが六連装ロケットランチャーを装備した極光戦姫 ローデッド・アザレー。彼女は花の名前なのでそれのどこが美しいのかと要らぬツッコミを入れて消し炭に変えられることもない。
「揃いましたね。では班長、ひと言お願いします」
エージェント、極光戦姫 デリィ・バイオレットが一同に声がけをした。落ち着きのある彼女はこの班のまとめ役的な存在。しかし心に秘めた正義感は隊員の中でも最も熱いと言われている。
「おはようございます。今日も市民の皆さんが安心して生活できるよう、内外の脅威に備えて参りましょう。皆さん本日もよろしくお願いします」
「よろしくお願いしまーす!」
極光戦姫 ペリオ・ターコイズ班長が檄を飛ばすと、捜査一課の空気がピリッと引き締まった。
ブラントゲート・セントラルドーム外 午後13:03
「手配済みの目標を発見。追尾し、無力化を試みます」とペリオ・ターコイズ。
『超銀河警備保障だ!そこを動くな!』
ブラントゲートの凍てつく大地、降りしきる雪の中に警告の声が響くと、エイリアンたちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
「ドーム至近距離につき重火器の使用を禁じます」
指揮車両の中から、ターコイズ班長は超銀河警備保障無線で一斉通達した。
『了解』
応答の言葉とは裏腹に、エージェントたちの声なき抗議が聞こえるようだった。
もちろん平和裡に行われるに越したことはない。越したことはないのだが、凶悪なエイリアンたち相手の最新装備を駆使した手に汗を握るような逮捕劇もまた超銀河警備保障の華である。
『へっ、超銀河警備保障つってもこの程度かよ!』
『ちょろいもんだぜぇ、ハッハー!』
集音マイクが逃げるエイリアンたちが嘲る声を拾う。
このときデリィ・バイオレットが思わず腰の銃に手を伸ばしかけたのを取材班は見逃さなかった。それを察知したターコイズ班長が目顔で止めたのも。
極光戦姫のエージェントは若者の集まりである。彼女たちにとって、正義であり続けることは時に辛い忍耐をともなうものなのかもしれない。
『観測係より班長へ。エイリアンの捕捉3人、残数4人が進路変更。このままだとドームに逃げ込まれます、どうぞ』
「了解。対処します。最新装備ということではガッカリさせないと思いますよ」
ターコイズ班長の言葉の後半は、我々取材班にかけられた言葉だった。
「バイオレット、空飛ぶ手錠」
「了解。空飛ぶ手錠放出します。総員散開!」
デリィ・バイオレットが復唱し、総員に指示を出した。
『何じゃこりゃあ!?』
取材班のカメラがそれを捉えた。
吹雪の中から巨大な金属製の手錠が現れ、エイリアンたちに迫ってゆく。手錠は本物のそれと同じ2つで1対であり、白いビームによって繋がれている。
次々と飛来した巨大な手錠は逃げる対象を追尾し、ガチャン!ガチャン!と重い音を立てて、法を執行してゆく。

『うわっ!』『ひいぃ!!』『ぎゃあっ!』『お助け!』
瞬く間にエイリアン4人が文字通り、お縄についた。
容疑者を安全かつ確実に確保する。これが超銀河警備保障捜査一課の最新装備、空飛ぶ手錠である!
『当該事案解決。ご苦労様でした』とデリィ・バイオレット。
『お疲れ様でーす』とエージェントたち。
「休んでる暇はないわよ。セントラルドームF地区で強盗事件の通報あり。今度はあなたたちの武器の出番のようね」
このとき無線からは歓声があがったように思ったが、取材班としては聞こえなかったことにする。
通報即現場に急行。被害を最小限に。
それが彼女たち超銀河警備保障の行動原理である。
了
※註.単位は地球のものに変換した※
----------------------------------------------------------
《今回の一口用語メモ》
極光戦姫
ブラントゲートの企業、超銀河警備保障のエージェント。
超銀河兵装「オーロラフレーム」に身を包み、惑星クレイへの侵入・侵略などエイリアンの違法/迷惑行為について、ひと度通報があれば現場に急行し、速やかに犯罪者を確保、銀河中央監獄 ギャラクトラズに収監する。
ブラントゲートは、惑星クレイと異界や外宇宙との交流点として共存・発展してきたため、常に様々な訪問客が多く訪れる。中でもこうした敵対的なエイリアンについては宇宙軍、各居住ドームの警察そして超銀河警備保障がそれぞれのレベルで対応している。
----------------------------------------------------------
本文:金子良馬
世界観監修:中村聡
世界観監修:中村聡