ユニット
Unit
短編小説「ユニットストーリー」
夜の吹雪の氷原に竜が音もなく舞い降りる。
柩機の竜デスティアーデは美しい金属の光沢をきらめかせながら、白い雪と氷が堆積した大地に優雅に着地した。
次の瞬間──。
竜の首と背後を形どる“尾”が下がった。人間で言えば、ひょいと身をかがめた恰好となる。
途端に、今までデスティアーデの首と尾があったはずの空間が真横にズレた。
それは……『次元裂斬』とでも呼べば良いのだろうか。
吹雪の向こうから放たれ、空間を斬り裂いた膨大なエネルギーは大気の分子を相転移させ、瞬時に熱と音に変化したそれはデスティアーデを中心として大爆発を引き起こした。
……。
溶け落ち水蒸気が湧き上がるクレーターの中に、竜は悠然と浮遊していた。
デスティアーデはリンクジョーカーが産み出したサイバードラゴンである。
竜の頭を縁取る“髪”が波打つ。
周囲に浮遊していた立方体「柩」が輝くと同時に、デスティアーデは口から青白色の光線を放った。精強にして高度な次元介入能力《因果》をもつ柩機の竜デスティアーデは「柩」の力を身体の中に埋め込んで使用することができる。
正面。
いまの一撃を、なにかが避けた気配があった。
続いて右・右・上方!
光の軌跡が吹雪に吸い込まれてゆく。
続いてデスティアーデは予備動作もなく、左方に躱した。残像を曳くほどのスピードだった。
またも、今度はタテ一直線に大気を切り裂く『次元裂斬』!
大爆発が巻き起こる。
柩機の竜と、見えない異界の敵との戦いはまだ始まったばかりだ。
Illust:凪羊
南極の空が白んでいる。
薄光の下に現れた雪原の風景は、惨憺たるものだった。
“門”が破壊され、四散していた。
“門”は古代よりこの星の外、異次元と外宇宙とブラントゲートとを繋ぐ交通の拠点となる施設であり、本来はそう簡単に破壊できるものではない。だが異界の敵はこれを、自身が出現したときに破壊していた。
表層の雪と氷がはぎとられ、所々むき出しになった岩盤。
そして、戦いは──まだ続いている。
いま柩機の竜デスティアーデと敵はほんの10数mを隔てて、相対していた。
デスティアーデの頭部にあるセンサーは夜明け前、吹雪の勢いが弱まった時から、相手の姿を捉えていた。
それは渦巻く雲に覆われた、四足獣の形をしていた。
『次元裂斬』はその獣が、雲を収束させて大気に放つことで威力を発揮する。
破壊不能とまで言われる“門”をも切り裂き、粉々にした異次元の刃である。
センサー越しの異次元獣は、必中の一撃を狙うかようにぎりぎりまで身体と雲の緊張を高めた構えに見えた。
一方、デスティアーデも必殺の構え。
その顎に収められた砲身は収斂し、いましもエネルギーの奔流を放とうかという態勢。
荒廃した雪原に、殺意が交錯した。
間違いなく、次の一撃でどちらかが死ぬ。見る者がいたらそう確信させる瞬間だった。
その時──
周囲に、黒い“夜”が落ちた。
柩機以外の存在は、まるで粘油に叩き落されたように感じたことだろう。
まるで昇りかけた太陽が【蝕】に入ったかのようだ。
わずかにデスティアーデの頭が下がったのを、異次元獣は気がついただろうか。
──!!
デスティアーデは咆哮した。
その足元から4体の黒い影、夜影兵が出現し、異次元獣に殺到した。
獣は、デスティアーデのために溜めていた『次元裂斬』を上体だけ人型をしている4体の夜影兵に向かって放った。
岩盤までえぐる異次元の刃に、夜影兵のすべてが両断され、消滅する。
次の瞬間、放射された光線を
──獣は、上空に飛びあがって避けた。
「!」
それが人間であれば、観念して瞳を閉じたかもしれない。
だがデスティアーデは柩機の竜だった。死を怖れる感情など、無い。
空中で身をひねった獣は“雲”を収束させ、デスティアーデを一刀両断に
……しようとした時、その身体は振り降ろされた巨大な鎌の一撃で真っ二つとなり、大気分子に同化して消滅した。
ただの一撃。
柩機の竜デスティアーデは、まさに命が奪われる間際、黒い“夜”で周囲を包み、救いの手を差し伸べてくれた柩機の神オルフィストに向かって、頭を垂れた。
ブラントゲート対外宇宙戦略部の評価レポートによれば、この夜、7箇所の“門”を襲った異次元獣による同時侵攻の対処に追われ、オルフィストの救援が間に合ったのは幸運に過ぎないとされている。
昇り染めた朝日を背に、運命の大鎌を構えたオルフィストは無言だったが、その威厳に満ちた立ち姿にはどこか誇らしげな様子が、伺えなくもなかった。
柩機、彼らは遊星ブラントで発見された謎の遺物「柩」を駆使し、人知れず異界の敵と戦う“夜”の兵士である。
彼らは刃を納めない。次に来る“夜”の中の死闘の為に。
※註.アルファベット、単位等は地球のものに変換した※
----------------------------------------------------------
《今回の一口用語メモ》
サイバードラゴン
サイバードラゴンはブラントゲートに所属する生命体。その身体は有機金属でできており、極寒の南極はもちろん、遊星ブラント(現在は惑星クレイ第2の衛星である「ブラント月」)の地表や、宇宙空間での活動が可能。もともと竜として戦闘力は他の種族に比べて非常に高いが、柩機であるデスティアーデの場合には「柩」の力と機能を自在に操ることによって、“夜”に繰り広げられる戦いでも、異界・異次元からの侵入者が使う異質な攻撃にも対抗できる。
サイバーゴーレム
リンクジョーカーによって産み出された半有機生命体。サイバーゴーレムは(サイバードラゴンなどとも違い)人造生命としての特徴が際立っており、かつて“侵略者”リンクジョーカーの尖兵として出現した際にはその機械的・無機質的な遂行能力をもって、徹底的な破壊と敵の完全制圧を役割として担っていた。創世神メサイアの干渉によりリンクジョーカーが惑星クレイの住人となった後は、その戦闘能力は別の方向へと向けられるようになった。オルフィストは、異世界からの侵略に対し、最前線で人知れず惑星クレイを守る「柩機」、その頂点に位置する存在である。
「柩」のその機能
→ユニットストーリー016「柩機の兵サンボリーノ」も参照のこと。
柩機カーディナルと“夜”の戦い
→世界観コラム「セルセーラ秘録図書館」柩機(カーディナル)、参照のこと。
----------------------------------------------------------
柩機の竜デスティアーデは美しい金属の光沢をきらめかせながら、白い雪と氷が堆積した大地に優雅に着地した。
次の瞬間──。
竜の首と背後を形どる“尾”が下がった。人間で言えば、ひょいと身をかがめた恰好となる。
途端に、今までデスティアーデの首と尾があったはずの空間が真横にズレた。
それは……『次元裂斬』とでも呼べば良いのだろうか。
吹雪の向こうから放たれ、空間を斬り裂いた膨大なエネルギーは大気の分子を相転移させ、瞬時に熱と音に変化したそれはデスティアーデを中心として大爆発を引き起こした。
……。
溶け落ち水蒸気が湧き上がるクレーターの中に、竜は悠然と浮遊していた。
デスティアーデはリンクジョーカーが産み出したサイバードラゴンである。
竜の頭を縁取る“髪”が波打つ。
周囲に浮遊していた立方体「柩」が輝くと同時に、デスティアーデは口から青白色の光線を放った。精強にして高度な次元介入能力《因果》をもつ柩機の竜デスティアーデは「柩」の力を身体の中に埋め込んで使用することができる。
正面。
いまの一撃を、なにかが避けた気配があった。
続いて右・右・上方!
光の軌跡が吹雪に吸い込まれてゆく。
続いてデスティアーデは予備動作もなく、左方に躱した。残像を曳くほどのスピードだった。
またも、今度はタテ一直線に大気を切り裂く『次元裂斬』!
大爆発が巻き起こる。
柩機の竜と、見えない異界の敵との戦いはまだ始まったばかりだ。
Illust:凪羊
南極の空が白んでいる。
薄光の下に現れた雪原の風景は、惨憺たるものだった。
“門”が破壊され、四散していた。
“門”は古代よりこの星の外、異次元と外宇宙とブラントゲートとを繋ぐ交通の拠点となる施設であり、本来はそう簡単に破壊できるものではない。だが異界の敵はこれを、自身が出現したときに破壊していた。
表層の雪と氷がはぎとられ、所々むき出しになった岩盤。
そして、戦いは──まだ続いている。
いま柩機の竜デスティアーデと敵はほんの10数mを隔てて、相対していた。
デスティアーデの頭部にあるセンサーは夜明け前、吹雪の勢いが弱まった時から、相手の姿を捉えていた。
それは渦巻く雲に覆われた、四足獣の形をしていた。
『次元裂斬』はその獣が、雲を収束させて大気に放つことで威力を発揮する。
破壊不能とまで言われる“門”をも切り裂き、粉々にした異次元の刃である。
センサー越しの異次元獣は、必中の一撃を狙うかようにぎりぎりまで身体と雲の緊張を高めた構えに見えた。
一方、デスティアーデも必殺の構え。
その顎に収められた砲身は収斂し、いましもエネルギーの奔流を放とうかという態勢。
荒廃した雪原に、殺意が交錯した。
間違いなく、次の一撃でどちらかが死ぬ。見る者がいたらそう確信させる瞬間だった。
その時──
周囲に、黒い“夜”が落ちた。
柩機以外の存在は、まるで粘油に叩き落されたように感じたことだろう。
まるで昇りかけた太陽が【蝕】に入ったかのようだ。
わずかにデスティアーデの頭が下がったのを、異次元獣は気がついただろうか。
──!!
デスティアーデは咆哮した。
その足元から4体の黒い影、夜影兵が出現し、異次元獣に殺到した。
獣は、デスティアーデのために溜めていた『次元裂斬』を上体だけ人型をしている4体の夜影兵に向かって放った。
岩盤までえぐる異次元の刃に、夜影兵のすべてが両断され、消滅する。
次の瞬間、放射された光線を
──獣は、上空に飛びあがって避けた。
「!」
それが人間であれば、観念して瞳を閉じたかもしれない。
だがデスティアーデは柩機の竜だった。死を怖れる感情など、無い。
空中で身をひねった獣は“雲”を収束させ、デスティアーデを一刀両断に
……しようとした時、その身体は振り降ろされた巨大な鎌の一撃で真っ二つとなり、大気分子に同化して消滅した。
ただの一撃。
柩機の竜デスティアーデは、まさに命が奪われる間際、黒い“夜”で周囲を包み、救いの手を差し伸べてくれた柩機の神オルフィストに向かって、頭を垂れた。
ブラントゲート対外宇宙戦略部の評価レポートによれば、この夜、7箇所の“門”を襲った異次元獣による同時侵攻の対処に追われ、オルフィストの救援が間に合ったのは幸運に過ぎないとされている。
昇り染めた朝日を背に、運命の大鎌を構えたオルフィストは無言だったが、その威厳に満ちた立ち姿にはどこか誇らしげな様子が、伺えなくもなかった。
柩機、彼らは遊星ブラントで発見された謎の遺物「柩」を駆使し、人知れず異界の敵と戦う“夜”の兵士である。
彼らは刃を納めない。次に来る“夜”の中の死闘の為に。
了
※註.アルファベット、単位等は地球のものに変換した※
----------------------------------------------------------
《今回の一口用語メモ》
サイバードラゴン
サイバードラゴンはブラントゲートに所属する生命体。その身体は有機金属でできており、極寒の南極はもちろん、遊星ブラント(現在は惑星クレイ第2の衛星である「ブラント月」)の地表や、宇宙空間での活動が可能。もともと竜として戦闘力は他の種族に比べて非常に高いが、柩機であるデスティアーデの場合には「柩」の力と機能を自在に操ることによって、“夜”に繰り広げられる戦いでも、異界・異次元からの侵入者が使う異質な攻撃にも対抗できる。
サイバーゴーレム
リンクジョーカーによって産み出された半有機生命体。サイバーゴーレムは(サイバードラゴンなどとも違い)人造生命としての特徴が際立っており、かつて“侵略者”リンクジョーカーの尖兵として出現した際にはその機械的・無機質的な遂行能力をもって、徹底的な破壊と敵の完全制圧を役割として担っていた。創世神メサイアの干渉によりリンクジョーカーが惑星クレイの住人となった後は、その戦闘能力は別の方向へと向けられるようになった。オルフィストは、異世界からの侵略に対し、最前線で人知れず惑星クレイを守る「柩機」、その頂点に位置する存在である。
「柩」のその機能
→ユニットストーリー016「柩機の兵サンボリーノ」も参照のこと。
柩機カーディナルと“夜”の戦い
→世界観コラム「セルセーラ秘録図書館」柩機(カーディナル)、参照のこと。
----------------------------------------------------------
本文:金子良馬
世界観監修:中村聡
世界観監修:中村聡