ユニット
Unit
短編小説「ユニットストーリー」
044「澄み渡る雪夜 ベレトア」
リリカルモナステリオ
種族 デーモン
「猫獣人が作り!」
「人魚が贈って!」
「悪魔が食べる!」
……。
パルヴィ、エドウィージュ、ベレトアの三人は耐えられず同時に噴き出し笑い出した。
お昼のカフェテリア。
いわゆる学生食堂なのだがリリカルモナステリオの場合、その規模がケタ違いである。端から端まで中距離走もできそうなこの広いスペースの一角に、女の子の歓声が沸いた所で気にする者など誰もいない。
「あー。やっと上がったよねぇ。捨てる素材がなさすぎて編集終わらないかと思ったぁ」
猫獣人、スノウスキップパルヴィは雪が積もった窓の外を見ながら、うーんと伸びをした。
「シグネ先輩の声、何度聴いても良くて……歌録りで泣いちゃったの、わたし」
人魚、珠玉の一曲エドウィージュがタコのエイトを抱えながらうっとりと思い返す。
「見返して驚いた。先輩たち、陽の光まで計算してるんじゃないかと思う。それがスターらしさなのかも」
悪魔、澄み渡る雪夜ベレトアは物思わしげにドリンクのカップを見つめていた。リリカルモナステリオの紋章が印刷されたカップは三人がそれぞれ好みで買った飲み物が茶、水色、黒と冬の陽に輝いている。
ステージから裏方まで。
リリカルモナステリオの日常で、生徒が自主的にやるべきことは多い。
三人娘(いつも一緒に行動しているので以後こう呼ぶことにする)はCM『魅惑の輝き』撮影の後、学業と映像制作を両立させて寮~教室~編集室を行き来する毎日を過ごし、ついに本日の完成を見たわけである。
「とにかくお疲れ様。あとは先生のチェック待ちね」とベレトア。
「……はぁ。でもどうしよう、気がつけばもう2月よ。忙しいと1年が早すぎ」とパルヴィが嘆息をつき
「結局、新年のお祝いも駆け足になっちゃったね」とエドウィージュも息を合わせる。
「私の住んでいた所では2月がお正月だけど?時計の針が進むだけで、そんなにおめでたいものかしら」
ベレトアの物言いは論理的だが、彼女をよく知らないと時々冷たく感じられることもある。「澄み渡る雪夜」の名前は伊達ではなかった。ちなみに悪魔ベレトアはドラゴンエンパイア東部の生まれ。惑星クレイの暦法には地方差があり、正月を祝う時期も違う場合がある。
それだ!とパルヴィが白黒柄の猫手袋で、ベレトアを指さした。
「じゃあお祝いしよう!新年とCM完成祝いと、それと『チョコレート祭り』で!」
「『チョコレート祭り』?!」
エドウィージュとベレトアが目を丸くした。(註.惑星クレイにもチョコレートに酷似した菓子がある)
「えっ知らない?お菓子を作って配り合うやつ。2月といえば心を込めてチョコレート作り……って、あれ?」
二人の反応が薄いのを見て──特に悪魔ベレトアはまだ乗り気ではないようだ──、パルヴィは言葉に熱意をこめた。
「と、とにかく!ね、私たちって元々みんな別々でしょ。得意も違う」
と猫獣人パルヴィ。人魚エドヴィージュと、彼女につかず離れず付き従うギターを持ったタコのエイトまでがふむふむと頷いた。
確かに寮友(寮の部屋が同じ)でもなく級友(授業が自由選択のリリカルモナステリオにも一応学年ごとに複数のホームルームが存在する)でもなく同種族でもない三人娘がいつの間にか大親友になっていたのは、当人達も“きっかけって何だったっけ?”と首を捻るこの学園名物「校友」の不思議さであった。
「だからね。それぞれお得意を活かして……」
と、ここで話は冒頭に戻る。
「猫獣人が作り!」と料理大好きな猫獣人パルヴィ。
「人魚が贈って!」と贈り物大好きな人魚エドヴィージュ。
「悪魔が食べる!」と実は食いしん坊な悪魔ベレトアもとうとう破顔した。
三人娘と一匹(これは言うまでもなくギターを抱えるタコのエイトのことである)はひとしきりお腹を抱えて笑って、ようやく次の行動に移った。
場所は変わって、リリカルモナステリオ家庭科実習室・厨房。
「ほ~ら、ホッカホカの出来たて!」
とエプロン姿のパルヴィ。
オーブンから引き出されたハートのケーキが、ドン!と型のままテーブルに置かれる。
Illust:KEI
「わぁ!」
とエドヴィージュが歓声をあげた。料理好きで知られるパルヴィの腕は確かだった。
悪魔ベレトアは、午後の外せない授業に出ていて今ここにはいない。それと、ある人から言伝があって、その相談のためにエドヴィージュはパルヴィとだけ話す時間が欲しかったのだ。
「これで型を外せば出来上がりだよっ。美味しそうでしょ!」
「そうね!あ……でもこれ、どこがチョコレート祭り?」
とエドヴィージュ。タコのエイトも後ろで首を捻っている。
違う違~う、とパルヴィは調理手袋と両耳を振った。ピンク色のミトンの柄までが白い猫だ。
「生地に練り込んであるんだよ、チョコレート」
ふうーん……とエドヴィージュは感心した。
シャッ!
小さな叫びと共に、ケーキの上で何かが弾かれる音がした。
ギター持ちのタコ、エイトの手がつまみ食いを狙って、後ろからそっと伸びるのを猫獣人の目は見逃さなかったのだ。
「ダーメっ。これはキミのご主人がこれから包んで運ぶんだからね!」
人魚エドヴィージュは友の悪戯を詫びつつ、さっそくデコレーションと梱包に取りかかった。
夕方。
私服に着替えたエドヴィージュはカフェテリアでベレトアを待っていた。
今回のパティシエ役、パルヴィも厨房の片付けに時間を取られて、少し遅れている。
エイトはいつものようにギターをつま弾いている。
エイトは物心ついた時からの海友だ。寮の部屋の水槽でも、校内でも(なお入学の際に授業の同席許可はもらっている)このタコはいつも一緒だった。地上でぐにゃぐにゃしながらギターだけは離さない様子を見ていると言葉はなくても、なんと言うか……安らぐのだ。
「まだかなぁ」
右手の時計を見ながら、エドヴィージュはそわそわしていた。こういう事はタイミングが大事だ。
「ごめーん!」
まず猫獣人パルヴィがテーブルに辿り着いた。厨房で使っていた白エプロンを外したので服は黒一色。髪と尻尾の白黒とマッチしてお洒落だった。
「あら、可愛い……」
とエドヴィージュ。パルヴィは髪を撫でつけながら猫らしくぐしゃぐしゃに照れた。
Illust:こよいみつき
「そういうエドヴィージュだって」とパルヴィ。
「特別な日だからね」
とエドヴィージュ。リリカルモナステリオは、授業以外ならば私服の着用が認められている。お洒落のセンスを磨くのもアイドル修行として大事なことだ。もっとも、お洒落着が多くなりすぎて寮の部屋に収まりきらず魔法や科学の力でドレッサーを拡張してもらったり、街の反対側の居住区に借りるトランクルームが増えていく、なんて悩みを持つ生徒が多いのもこの学園ならではである。
「お待たせ」
悪魔ベレトアがテーブルに近づいてきた。
パルヴィとエドヴィージュが拍手して迎え、椅子を勧めた。
導かれるまま席に着いたベレトアの前にケーキ、チョコレート、パフェが並べられてゆく。
「ねぇ何か気づかない?」とエドヴィージュ。
「今日は特別な日」とパルヴィ。
「? お祝いでしょう。新年とCM完成祝いと『チョコレート祭り』」
ベレトアは小首を傾げて二人を見上げた。
エドヴィージュがパルヴィに目配せする。調理が終わったとき、相談した通りに。
「せーの……」
「「お誕生日おめでとーう!」」
パン・パン!
クラッカーが鳴らされ、その声と音に気がついたカフェテリアの生徒たちも、皆振り返って拍手に加わった。
「え!?あの……」
ベレトアは目をぱちくりさせた。誕生日のことは誰にも言っていない。
悪魔の誕生日なんてなんだか照れくさかったし、知ってるとしたら昨日の夜ベランダで歌っていたらひょっこり顔を出してお喋りした、寮の隣部屋の悪魔だけ……そうか!
「パライネね?!もう、おしゃべりなんだから!」
ベレトアはぷっとむくれた。悪魔のくせに「染み入る優しさパライネ」なんて名前、変だと思ったのよ。あのお節介屋さんめ!
タコのエイトの伴奏が始まった。
「♪お誕生日おめでとう♪おめでとう~♪ベレトア♪」
ぜったい泣かないぞ。お礼も言わない。だって私、悪魔だもの。
猫獣人、スノウスキップパルヴィは笑顔でベレトアの髪を撫でた。
人魚、珠玉の一曲エドヴィージュも笑顔で優しくベレトアの肩に手を掛けていた。
二人と生徒達の歌声はなんだか今までに無いほど、心にしみた。
澄み渡る雪夜ベレトアは友達に囲まれながら、パフェの一口目に手をつけた。
ぼやけるカフェテリアの風景とともに、チョコレートはちょっとしょっぱい味がした。
Illust:樹人
※註.お菓子や素材名などは地球のものに変換した※
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《今回の一口用語メモ》
リリカルモナステリオの年中行事
学園都市リリカルモナステリオは惑星クレイの世界中から生徒が集まるため、さまざまな種族が混ざり合い融合している。年中行事はその良い例であり、新年を迎える祭りでさえ開催日や期間に差が見られる。これは多様性を受け入れ、歌や踊り、芸術によって世界に平和と調和をもたらさんとするリリカルモナステリオ建国の理念に沿うもので、結果としてリリカルモナステリオの街や学生寮では一年中何らかの「祭り」や「お祝い」が催される状態になっている。
なお今回、三人娘が祝っている『チョコレート祭り』は2月中旬に行われるものだが、その起源や由緒(なぜチョコレートや菓子を贈り合うのか?)、どの種族・地方から持ち込まれたものなのかについては世界に冠たる学問の府であるリリカルモナステリオにおいても定説がない。
→惑星クレイの暦については、ユニットストーリー017「樹角獣 ダマイナル」末尾の《今回の一口用語メモ》を参照のこと。
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「人魚が贈って!」
「悪魔が食べる!」
……。
パルヴィ、エドウィージュ、ベレトアの三人は耐えられず同時に噴き出し笑い出した。
お昼のカフェテリア。
いわゆる学生食堂なのだがリリカルモナステリオの場合、その規模がケタ違いである。端から端まで中距離走もできそうなこの広いスペースの一角に、女の子の歓声が沸いた所で気にする者など誰もいない。
「あー。やっと上がったよねぇ。捨てる素材がなさすぎて編集終わらないかと思ったぁ」
猫獣人、スノウスキップパルヴィは雪が積もった窓の外を見ながら、うーんと伸びをした。
「シグネ先輩の声、何度聴いても良くて……歌録りで泣いちゃったの、わたし」
人魚、珠玉の一曲エドウィージュがタコのエイトを抱えながらうっとりと思い返す。
「見返して驚いた。先輩たち、陽の光まで計算してるんじゃないかと思う。それがスターらしさなのかも」
悪魔、澄み渡る雪夜ベレトアは物思わしげにドリンクのカップを見つめていた。リリカルモナステリオの紋章が印刷されたカップは三人がそれぞれ好みで買った飲み物が茶、水色、黒と冬の陽に輝いている。
ステージから裏方まで。
リリカルモナステリオの日常で、生徒が自主的にやるべきことは多い。
三人娘(いつも一緒に行動しているので以後こう呼ぶことにする)はCM『魅惑の輝き』撮影の後、学業と映像制作を両立させて寮~教室~編集室を行き来する毎日を過ごし、ついに本日の完成を見たわけである。
「とにかくお疲れ様。あとは先生のチェック待ちね」とベレトア。
「……はぁ。でもどうしよう、気がつけばもう2月よ。忙しいと1年が早すぎ」とパルヴィが嘆息をつき
「結局、新年のお祝いも駆け足になっちゃったね」とエドウィージュも息を合わせる。
「私の住んでいた所では2月がお正月だけど?時計の針が進むだけで、そんなにおめでたいものかしら」
ベレトアの物言いは論理的だが、彼女をよく知らないと時々冷たく感じられることもある。「澄み渡る雪夜」の名前は伊達ではなかった。ちなみに悪魔ベレトアはドラゴンエンパイア東部の生まれ。惑星クレイの暦法には地方差があり、正月を祝う時期も違う場合がある。
それだ!とパルヴィが白黒柄の猫手袋で、ベレトアを指さした。
「じゃあお祝いしよう!新年とCM完成祝いと、それと『チョコレート祭り』で!」
「『チョコレート祭り』?!」
エドウィージュとベレトアが目を丸くした。(註.惑星クレイにもチョコレートに酷似した菓子がある)
「えっ知らない?お菓子を作って配り合うやつ。2月といえば心を込めてチョコレート作り……って、あれ?」
二人の反応が薄いのを見て──特に悪魔ベレトアはまだ乗り気ではないようだ──、パルヴィは言葉に熱意をこめた。
「と、とにかく!ね、私たちって元々みんな別々でしょ。得意も違う」
と猫獣人パルヴィ。人魚エドヴィージュと、彼女につかず離れず付き従うギターを持ったタコのエイトまでがふむふむと頷いた。
確かに寮友(寮の部屋が同じ)でもなく級友(授業が自由選択のリリカルモナステリオにも一応学年ごとに複数のホームルームが存在する)でもなく同種族でもない三人娘がいつの間にか大親友になっていたのは、当人達も“きっかけって何だったっけ?”と首を捻るこの学園名物「校友」の不思議さであった。
「だからね。それぞれお得意を活かして……」
と、ここで話は冒頭に戻る。
「猫獣人が作り!」と料理大好きな猫獣人パルヴィ。
「人魚が贈って!」と贈り物大好きな人魚エドヴィージュ。
「悪魔が食べる!」と実は食いしん坊な悪魔ベレトアもとうとう破顔した。
三人娘と一匹(これは言うまでもなくギターを抱えるタコのエイトのことである)はひとしきりお腹を抱えて笑って、ようやく次の行動に移った。
場所は変わって、リリカルモナステリオ家庭科実習室・厨房。
「ほ~ら、ホッカホカの出来たて!」
とエプロン姿のパルヴィ。
オーブンから引き出されたハートのケーキが、ドン!と型のままテーブルに置かれる。
Illust:KEI
「わぁ!」
とエドヴィージュが歓声をあげた。料理好きで知られるパルヴィの腕は確かだった。
悪魔ベレトアは、午後の外せない授業に出ていて今ここにはいない。それと、ある人から言伝があって、その相談のためにエドヴィージュはパルヴィとだけ話す時間が欲しかったのだ。
「これで型を外せば出来上がりだよっ。美味しそうでしょ!」
「そうね!あ……でもこれ、どこがチョコレート祭り?」
とエドヴィージュ。タコのエイトも後ろで首を捻っている。
違う違~う、とパルヴィは調理手袋と両耳を振った。ピンク色のミトンの柄までが白い猫だ。
「生地に練り込んであるんだよ、チョコレート」
ふうーん……とエドヴィージュは感心した。
シャッ!
小さな叫びと共に、ケーキの上で何かが弾かれる音がした。
ギター持ちのタコ、エイトの手がつまみ食いを狙って、後ろからそっと伸びるのを猫獣人の目は見逃さなかったのだ。
「ダーメっ。これはキミのご主人がこれから包んで運ぶんだからね!」
人魚エドヴィージュは友の悪戯を詫びつつ、さっそくデコレーションと梱包に取りかかった。
夕方。
私服に着替えたエドヴィージュはカフェテリアでベレトアを待っていた。
今回のパティシエ役、パルヴィも厨房の片付けに時間を取られて、少し遅れている。
エイトはいつものようにギターをつま弾いている。
エイトは物心ついた時からの海友だ。寮の部屋の水槽でも、校内でも(なお入学の際に授業の同席許可はもらっている)このタコはいつも一緒だった。地上でぐにゃぐにゃしながらギターだけは離さない様子を見ていると言葉はなくても、なんと言うか……安らぐのだ。
「まだかなぁ」
右手の時計を見ながら、エドヴィージュはそわそわしていた。こういう事はタイミングが大事だ。
「ごめーん!」
まず猫獣人パルヴィがテーブルに辿り着いた。厨房で使っていた白エプロンを外したので服は黒一色。髪と尻尾の白黒とマッチしてお洒落だった。
「あら、可愛い……」
とエドヴィージュ。パルヴィは髪を撫でつけながら猫らしくぐしゃぐしゃに照れた。
Illust:こよいみつき
「そういうエドヴィージュだって」とパルヴィ。
「特別な日だからね」
とエドヴィージュ。リリカルモナステリオは、授業以外ならば私服の着用が認められている。お洒落のセンスを磨くのもアイドル修行として大事なことだ。もっとも、お洒落着が多くなりすぎて寮の部屋に収まりきらず魔法や科学の力でドレッサーを拡張してもらったり、街の反対側の居住区に借りるトランクルームが増えていく、なんて悩みを持つ生徒が多いのもこの学園ならではである。
「お待たせ」
悪魔ベレトアがテーブルに近づいてきた。
パルヴィとエドヴィージュが拍手して迎え、椅子を勧めた。
導かれるまま席に着いたベレトアの前にケーキ、チョコレート、パフェが並べられてゆく。
「ねぇ何か気づかない?」とエドヴィージュ。
「今日は特別な日」とパルヴィ。
「? お祝いでしょう。新年とCM完成祝いと『チョコレート祭り』」
ベレトアは小首を傾げて二人を見上げた。
エドヴィージュがパルヴィに目配せする。調理が終わったとき、相談した通りに。
「せーの……」
「「お誕生日おめでとーう!」」
パン・パン!
クラッカーが鳴らされ、その声と音に気がついたカフェテリアの生徒たちも、皆振り返って拍手に加わった。
「え!?あの……」
ベレトアは目をぱちくりさせた。誕生日のことは誰にも言っていない。
悪魔の誕生日なんてなんだか照れくさかったし、知ってるとしたら昨日の夜ベランダで歌っていたらひょっこり顔を出してお喋りした、寮の隣部屋の悪魔だけ……そうか!
「パライネね?!もう、おしゃべりなんだから!」
ベレトアはぷっとむくれた。悪魔のくせに「染み入る優しさパライネ」なんて名前、変だと思ったのよ。あのお節介屋さんめ!
タコのエイトの伴奏が始まった。
「♪お誕生日おめでとう♪おめでとう~♪ベレトア♪」
ぜったい泣かないぞ。お礼も言わない。だって私、悪魔だもの。
猫獣人、スノウスキップパルヴィは笑顔でベレトアの髪を撫でた。
人魚、珠玉の一曲エドヴィージュも笑顔で優しくベレトアの肩に手を掛けていた。
二人と生徒達の歌声はなんだか今までに無いほど、心にしみた。
澄み渡る雪夜ベレトアは友達に囲まれながら、パフェの一口目に手をつけた。
ぼやけるカフェテリアの風景とともに、チョコレートはちょっとしょっぱい味がした。
Illust:樹人
※註.お菓子や素材名などは地球のものに変換した※
了
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《今回の一口用語メモ》
リリカルモナステリオの年中行事
学園都市リリカルモナステリオは惑星クレイの世界中から生徒が集まるため、さまざまな種族が混ざり合い融合している。年中行事はその良い例であり、新年を迎える祭りでさえ開催日や期間に差が見られる。これは多様性を受け入れ、歌や踊り、芸術によって世界に平和と調和をもたらさんとするリリカルモナステリオ建国の理念に沿うもので、結果としてリリカルモナステリオの街や学生寮では一年中何らかの「祭り」や「お祝い」が催される状態になっている。
なお今回、三人娘が祝っている『チョコレート祭り』は2月中旬に行われるものだが、その起源や由緒(なぜチョコレートや菓子を贈り合うのか?)、どの種族・地方から持ち込まれたものなのかについては世界に冠たる学問の府であるリリカルモナステリオにおいても定説がない。
→惑星クレイの暦については、ユニットストーリー017「樹角獣 ダマイナル」末尾の《今回の一口用語メモ》を参照のこと。
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本文:金子良馬
世界観監修:中村聡
世界観監修:中村聡