ユニット
Unit
短編小説「ユニットストーリー」
146 「リペアロボ ラニ」
ブラントゲート
種族 ワーカロイド
Design:Quily Illust:三越はるは
『チェックチュウ……クオリティチェックチュウ……』
その白い補修用機械の頭の後ろ、背中に載せられたミニスクリーンには同じ文字が流れ続けている。この“表示板”は作業状況を知らせるものであり、彼の意思を伝えるコミュニケーションツールでもある。
銀河中央監獄ギャラクトラズ、鉱山採掘エリア。
リペアロボ ラニはワーカロイドである。
働くために産み出され、働く機械として仕事に全生涯を捧げる。
ラニの仕事、補修はたった一人の地味な作業だ。
しかしこの宇宙鉱山に新しい設備を建造し、完璧に整えた状態にして引き渡す最終調整工程では──ラニ自身がどう感じているかは定かではないが──チーム『シルエット』が請けた今回の仕事の中でも、もっとも責任が重く重要なセクションと言っても良かった。
『チェックチュウ』
ラニはひと言も発しないまま(ミニスクリーンに文字を流しながら)、無機質な機械とそれが備えつけられた剥き出しの岩肌、そして空気のない無重力の環境下で淡々と仕事を進めてゆく。
『!』
それが起こったのは今回このエリアに入ってから3,087回目の微機動の後、214回目の機器チェックを始めた時だった。
センサーが突如、今までまったく察知されなかった“何者か”の存在を感知し、ミニスクリーンに驚きの表示がされた瞬間──。
!!
『カイヒ』
急制動をかけるラニ。だがその動きはわずかに間に合わなかった。機体をかすめて岩壁に粒子ビームが直撃し、飛び散った無数の破片で周囲の視界が閉ざされる。
無音。
すべては真空中で起こった出来事だ。
ラニは下方から襲い来る鉱石の嵐を避けきれず。天頂方向の壁に激突して土砂に埋められた。
無人の採掘エリア、その最奥で起こったそれはあまりにも密やかな事件の始まりだった。
Illust:藤ちょこ
部屋の天上全体を覆う窓からは、光り輝くガスの流れとその先に空いた虚が見えていた。
降着円盤。
ブラックホールの超重力が宇宙に描く物理現象である。
だがこうして全天を覆って果てなく広がる宇宙的な天体現象を目の当たりにすると、たとえ安全な距離が保たれていると解っていても、その光景には圧倒されるばかりだ。
「全モニター作動。システム・オールグリーン」
「これで“目”は完璧というわけだな」
追随するパトドローンと共に極光戦姫が振り返ると、監獄長が重々しく頷き、その後ろに並んだ看守長以下スタッフは女性エージェントとその背に展開される数多くのモニター映像へ、期待に満ちた視線を向けた。
銀河中央監獄ギャラクトラズ中央監視室。
絶対脱獄不可能と言われるこの刑務所の心臓部である。
「いえ。まだ一点、採掘エリアのカメラだけは今、調整中です。まもなく映像が入るでしょう。ただ、滞在限界時間が迫っていますので、このあとの処理はAIとチーム『シルエット』に任せる事になります。任務完遂まで立ち会えず、申し訳ありません」
ジェイラス監獄長の感情をその表情から読み取ることが難しいが(職業柄、またエイリアンであることからも)、極光戦姫コーナー・シトラスは、彼の気持ちの幾分かはおそらく自分と同じではないかと考えていた。
「ご存じの通り、新しい管理AIはブリッツ・インダストリー社提供のものです。性能は優秀ですから任せて不安はありません」
とシトラス。任務を成し遂げた満足感に、いまは少しほろ苦い味が混じっている。
ブリッツCEOヴェルストラはその豪放かつ無軌道なふるまいで、法の番人の彼女たちと鎬を削る仲。皮肉にもこのような優秀なシステムでまっさきに摘発し、収監してやりたい相手なのだ。絶対に尻尾を掴ませてはくれないけれど。
さらに言えばヴェルストラはつい先日(こちらの時間にして)、なんと自ら望んでこの刑務所に収容されたこともある。リーフル・ロイヤーからの報告によれば、食堂にゲーム機を導入するなどして風紀を乱しまくり、さらには監房への装備持ち込み、深夜の脱獄未遂(記録では無断外出となっている)、潜伏していた犯罪者の発見と現行犯逮捕など等、どれ一つ取っても囚人としては不適当きわまりない。
さらに悠々と退所した後、こうして彼の会社からギャラクトラズが技術支援を受けている事も、また数ある建設屋の中でも特にチーム『シルエット』をヴェルストラが指名して、新たに半自動化されたギャラクトラズ鉱採取施設の建設を任せたことも、極光戦姫から見ると(表情には出さないが)率直に言って矛盾と謎に満ちている。
「ご苦労。速やかに帰投なされよ」
新システム構築の功労者に、あえてジェイラス監獄長が帰りを急がせる理由は言うまでもない。
この刑務所では、惑星クレイに比べて約30倍のスピードで時間が過ぎ去ってしまうのだ。
コーナー・シトラスは人間。彼女が本来生きている惑星クレイとの時間差を最小限に留める事こそが、最大の感謝であり労いであり、思いやりでもある。
「ありがとうございます。それでは」
極光戦姫はシトラス色のストライプが入った髪とチェッカー柄の制服を整え、ぴしっと敬礼を決めた。監獄長もそれに答える。
「貴女を派遣してくれたエージェント・セラスにも改めて感謝の意をお伝えいただきたい。そしてここからは……」
ジェイラスが言葉を継ぐ間に、一同の視線は同じ方を向いていた。
示し合わせたように同じモニターを。今はまだ繋がっていない、ただ一つのスクリーンを。
「彼らの仕事だ」
Illust:山﨑奈苗
プロフェッショナルほど地道な仕事の価値、いわゆる縁の下の力持ちの意味を知っているものだ。
それが宇宙の建設屋における凄腕の整備士ならばまして。
実用的な現場機械とはそもそも製品だけで成立するものではない。整備され続けなければ維持はおろか、まともに動くことさえ覚束ない。
「こいつは今回が初お目見え。ぶっつけ本番だけど、いざという時、硬質な対象にはかなりの効果が期待できる。ま、テスト兼ならし運転だと思えばいい。あとはおまえ次第だけど、耐久性と反応速度……ここから更に上げてみせるさ!」
そう言って新装備の整備パネルを閉じたウィンストンに、カイザル シルエットは立ちあがりながら称賛した。
「お見事。ピットインから1分以内に整備完了なんて手際が良すぎるね」
「経験と勘、ひらめきと技術がメカニックの売りだからな。どんなに時代が進んでも整備は人間が受け持つ理由がこれさ」
ウインクするウィンストンは「さぁ、もう時間だ!」とカイザル シルエットを促した。
チーム『シルエット』母船、この格納庫の内部は“惑星クレイ時間”だ。ここよりも30倍時間が早く流れる現場へは、メンテナンスが終わり次第なるべく早く帰してやる必要がある。
「じゃ、マニとラニにも『頑張れ』って!」
「伝える。彼らもそのうち交替で補給に来ると思うから……」
そう言いながら、カイザル シルエットの身体はすでに、宇宙船の格納庫内に設けられた特設臨時転送機の中で消えかけていた。
「よろしく頼む?ふふっ、まったく仲間思いもここまで来ると……」
ウィンストンは空の転送ブース、光の粒子と化して消えた彼の同僚そして親友でもあるワーカロイドに答えた。手にはインパクトドライバー。留める剥がす穿つ磨く、整備士必携のマルチツールだ。
「こっちもいっそう手を掛けたくなるってもんさ。な、シルエット」
Design:Quily Illust:三越はるは
立ち並ぶ工業機械、複雑に組み合わせられたベルトコンベアー、張り巡らされたケーブル、照明が落とされたそれらの狭い隙間を巧みにすり抜けながら飛ぶ小さな影ひとつ。
「異常なーし♪マニはこのままのコースを維持して次のエリアに回るっ♪」
サポートドローン マニは真新しい再生プラントの内部を巡回している。
誰の好みで設定されたものなのか、その歌うような音声はやたら陽気な少年のものだった。
「マニのカメラアイは何ごとも見逃さない♪惑星クレイでもここギャラクトラズでもっ♪」
歌うような独り言は──はたして大切な仕事を任せて良いものか否か──聴く者を不安にさせそうだが、チーム『シルエット』のサポートドローン マニは惑星クレイに冠たる超科学国家ブラントゲートのワーカロイド。知性は高すぎるほど高い。ただ性格設定がやや退屈に弱いタイプなだけである。
「ほーい♪次は採掘エリア♪採掘エリア~♪」
サポートドローンはイオン推進を噴かせると一気に小惑星帯へと躍り出た。
銀河中央監獄ギャラクトラズは大きく分けて監房棟と(職員の)住居棟、そして少し離れた小惑星帯にある鉱山、刑務作業場であるギャラクトラズ鉱の採掘エリアから成っている。
「ラニ♪ラニ♪元気、ラニ♪」
マニは上機嫌で眼下に超巨大ブラックホールの降着円盤を見ながら、不規則に浮遊する小惑星を滑らかにすり抜けて、同僚のラニが一人で補修作業に当たっている採取施設の整備された発着場の埠頭に接岸した。……はずだった。
「!?」
そこにあったのは破壊された機械設備、崩れた岩場、無重力に浮遊し続ける瓦礫。
洞穴状の発着場は見るも無惨な状態となっていた。
そしてつい先ほど、定時通信したラニの姿も見えなかった。
「ラニ!ラニ!!どこいるラニ!?」
さっきまでの陽気な調子をかなぐり捨て、マニは慌てて信号を発信し、周囲を走査した。
センサーの反応は早かった。上方の瓦礫の山の内部に『シルエット』識別信号のエコーがある。
「ラニ、今助ける!」
だが、脇目も振らず仲間の元に急ぐマニは気づいていなかった。
彼を狙う気配が、密かにまたエネルギーを充填させ始めていることを。
Illust:Quily
『着装完了システム・オールグリーン!』
巨大な両腕と合体し、シルエットは新たな形態に変化した。
『――起動アクティベート!アームド・アームズ!』
ギガントアームズ シルエット!!
カイザル シルエットは、特設臨時転送機のもう一方、つまり銀河中央監獄ギャラクトラズの外部にある浮遊ゲートに現れた瞬間に、最終変形プロセスを完了していた。
臨戦態勢。
ワーカロイドであるシルエットに何か予感があったわけではない。
惑星クレイの30倍もの速さで時間が過ぎるこのギャラクトラズ宙域では、パワーもスピードも最高のギガントアームズ形態が最適だという、文字通り1秒も無駄にしないきわめて論理的で理に適った行動である。だからこそ……。
「メーデー、メーデー、メーデー!」
星間共通の救援信号を受信してもまったく慌てることも無く、シルエットの反応は早かった。
フルブースト!
無重力下、狭い領域内での急加速はあまり望ましい機動ではない。シルエットはワーカロイドなので瞬間加速Gの影響は生物ほど深刻なものではないが、それでも宇宙では一旦加速した速度は自然に落ちることはない。さらに小惑星帯ではスイングバイが使える強い重力がない以上、逆噴射で大きなエネルギーを消費せざるを得ないからだ。
だがシルエットは一瞬もためらわなかった。
相手がマニであってもラニであっても、あるいはチーム以外のものであっても、産みの親──伝説的な職人である先代──の教えが染みついているからだ。すなわち、
「宇宙において意思と生命の存在は貴重なものだ。それが生物であれ機械であれ」と。
「メーデー、メーデー、メーデー!」
見つけた。
ギガントアームズ形態となったシルエットは出力だけでなく、各種センサーの性能も上がっている。
採掘エリアまで少し距離は残っていたが、それでもシルエットには破壊された発着場と、救難信号を発信しているサポートドローン マニ、そして洞穴の天頂方向の壁に埋もれた地中のリペアロボ ラニの姿までもが察知できた。
そしてもう一つ、見えたもの。
「侵入者あり!不可視!脅威レベル、レッド!ラニが負傷!救援求む!」
マニの叫びがシルエットの警戒を高め、不可視に備えてセンサーを異なる帯域に広げる。
……いた!
それはブラントゲートのエイリアンデータベースにも該当がない。輪郭からすると恐らくスペースドラゴンだ。
この小惑星帯に本来棲息していたものかどうかは定かではないが、岩に擬態して隠れ潜んでいるらしい。
いまマニの背後に忍び寄る姿と動きは、センサー映像だけでもそうして獲物を狙うのを得意としているのが窺えた。
Illust:羽山晃平
だが、普段なら興味深く分析の対象にしたであろうそれらのデータを、シルエットはひとつを除いて重要視しなかった。
“敵!僕の仲間を傷つける者!僕らが造るものを壊す者!”
その事実が、沈着冷静なはずのワーカロイド シルエットの核心に火を入れた。
人間で言えば驚きと怒りの発現だ。
シルエットを“親友”と呼ぶヴェルストラCEOならこう言っただろうか。
『あーあ、シルエット君をキレさせちまったか。もうどうなっても知らないぜ』
アームド・アームズ “L”!『旧きに数多の価値を見出す。再生の左手』
アームド・アームズ “R”!『眩き勝利を引き寄せる。創造の右手』
ギガントアームズ シルエットは急接近しながら、巨大な2つの“手”を出現させた。
もちろん宇宙は無音である。
だが、通信ごしにそれを聞いて喜色を浮かべたマニだけではなく、まるでシルエットの叫びが聞こえたかのように敵スペースドラゴンも振り返った。
岩に擬態していた敵の姿がちらつき、一瞬露わとなる。
本来有り得ぬ存在が、像を結び質量を伴って現れた。
それが動揺した結果隙を見せたのではなく、敵が臨戦態勢に入ったのだと判断したシルエットは、LRのラッシュを見舞うことを止めた。
かつてブリッツ・インダストリーCEOが見抜いた通り、シルエットに与えられている能力はただの宇宙の建設屋ではない。
宇宙空間戦闘の優れたセンスだった。
作り手である先代がどのくらい意図して設計したのかは今となっては不明だが、宇宙には様々な脅威が存在する。どんな形であれ、彼の前に障害が立ちはだかる時、ワーカロイド シルエットとチーム『シルエット』がそれを克服するための力、力強い“腕”が与えられているのだ。
「シルエット!気をつけて!」
だからマニの警告を心強く受け止めながら、ギガントアームズ シルエットの電脳にはこの後のプランが見えていた。
もう一つ。彼の意図を助けるデータが、瓦礫の底から直接流れ込んできた為もあった。
「そのまま伏せて!2人とも!!」
シルエットの呼びかけに、マニは瓦礫の上に、その下の仲間を守るように身を伏せた。
そのすぐ背後まで迫っていた敵スペースドラゴンも一瞬、そのままマニを打ち砕こうか、それとも収束させたエネルギーをシルエットに向けようかと迷い、その2者択一がほんの一瞬、今度こそ本物の隙を生んだ。そしてこの一瞬がシルエットに勝機を与えた。
シルエットを迎撃せんと粒子ビームが放たれる。
ギガントアームズは軽快な機動でひらりと避けた。
そして叫ぶ!
「喰らえ、アームド・アームズ “ドリル”!!」
着装せよ!想いを貫き、突き進むための力を!
Design:Quily Illust:三越はるは
マニが、ラニが、そして惑星クレイ宙域にいるウィンストンやチーム『シルエット』の仲間たちの思いが、ギガントアームズ シルエットの背中を押し、この必殺の一撃を生む力となった。
──!!
ドリルが空間と異界の敵、そしてラニを覆っていた瓦礫までを抉り、打ち砕いた。
逆噴射しながらシルエットが発着場に降り立った時、戦闘は終わっていた。
『Good job! シルエット!Good job! マニ!』
ギガントアームズの両腕で瓦礫の下から救け出されたリペアロボ ラニは、背中の表示でシルエットとマニを労った。
「良かったラニ!ありがとうシルエット!」
サポートドローン マニは全身を蛍光色に光らせて喜びを表現している。
「ラニ、逃げ損ねた原因はそれだね」とシルエット。
ラニは2人にタブレットを掲げて見せた。誇らしげに。
このタブレットはラニが現状を分析し、これからもチームの仕事の基礎となるデータを蓄積する重要なデバイスである。
リペアロボ ラニはワーカロイドとして鈍速ではない。この機器をかばうために、ほんの少し反応が遅れたのだろう。職人にとって道具は命なのだ。
「さあ!身体を直したら、仕事に戻るよ」「おー!」「モチロンサ!」
シルエットは安堵に長く浸ることをしなかった。そして2人の仲間もまた力強く同意した。
ここでは時間は飛ぶように過ぎてしまう。
新たな設備で増産されるギャラクトラズ鉱は、世界に素材とエネルギー源として新たな息吹を吹き込むことだろう。宇宙の建設屋の喜びはそんな豊かな未来のために働くことにある。
すべては惑星クレイとギャラクトラズ宙域の人々のために。
そして彼らチーム『シルエット』を──どのような困難も克服し仕事を完遂してくれるだろうと信じて──起用してくれたブリッツCEO ヴェルストラのために。
了
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《今回の一口用語メモ》
ブリッツ・インダストリー社と銀河中央監獄ギャラクトラズとの業務提携、ギャラクトラズ鉱
「破壊と再生」とはブリッツ・インダストリーCEOが唱える企画方針。
彼ヴェルストラが率いるブリッツ・インダストリー社は、その言葉通り、優れた工業技術と飛び抜けた企画力で製品を生産・販売すると同時に、「ギャロウズボール」や「ノヴァグラップル」で損傷・破壊されたものを修理・再生させる手際の良さでも知られている。
このブリッツ・インダストリー社の生産/修理業務に、拍車をかけるものとして最近話題にあがっているのが「銀河中央監獄ギャラクトラズの保守保安業務提携」締結の報道だ。
CEOヴェルストラと宇宙監獄長ジェイラスが握手を交わす画像が世間を賑わせたニュースだが、互いが得る真の利益について察することができたものは少ないだろう。
銀河中央監獄ギャラクトラズ側としては、絶対脱獄不可能と言われる同監獄をより一層完璧なものとするために、ブリッツ・インダストリー社のセキュリティー製品と技術ノウハウを得ることができる。噂では一時、長期音信不通となったヴェルストラCEOが極秘入所して視察していたのだとも──あくまで噂だがこの視察でヴェルストラは身分を隠すことすらしなかったのだという。しかしそれでは覆面視察にならないのではないか。信じがたい話である──、また同監獄の廃棄物再生プラントで後述のギャラクトラズ鉱について着想を得たのだとも伝えられる。
次にブリッツ・インダストリー社側のメリットとして、銀河中央監獄ギャラクトラズと提携することで、広い宇宙でもこの監獄があるブラックホール近くの小惑星帯にしか存在しないという「ギャラクトラズ鉱」の採掘権を得たことである。
ギャラクトラズ鉱は万能鉱物と呼ばれ、素材としても導体(運命力の蓄積や転換、放出にも適性をもつという説もある)としてもエネルギー源としても優れた特性をもつ資源だ。だが採掘場所が刑務所であり、ブラックホールの影響による時間の流れの速さから外部との関わりや採算性をあげるのが困難であり、今までは刑務作業として細々と採取されるに留まっていた。
これに目をつけたのがヴェルストラCEOであり、転送装置を改修するついでに──これこそがブリッツ・インダストリーの恐ろしいところである──惑星クレイへの資源輸送としての出入り口を設置。さらに採掘現場や再生プラントへの人員を機械に任せることによって生産性の大幅なスピードアップ、さらに加齢と時間経過のリスクも減らすという施策に取り込んだ。
この業務については少数精鋭の職人たちで知られる、宇宙の建設屋チーム『シルエット』が大きな力を発揮したとされる。一説には『極大衛星兵器 オイリアンテ』を完成させたシルエットの建設業者としての腕と、クライアントに対しても筋を通す誇り高い姿勢がCEOの琴線に触れたのだともいう。
なお、惑星クレイに素材革命を起こす予感もあるこのギャラクトラズ鉱増産だが、ここから得られた素材の第一便として利用されたのが「ブリッツ・アームズ」の核、つまりCEOの個人的な発明のためではないかという追及に対し、同社広報は今のところ肯定も否定もしていない。
また、(再生プラントに紛れ込んだゴーストなどはいたものの)これまで存在していなかった、鉱山自体に脅威を及ぼす存在が出現した事と、ブリッツCEO ヴェルストラが「運命力導入プロジェクトチーム」を結成した事との関係もまた不明だ。ただし採掘エリアの警備体制について、ギャラクトラズ側は楽観視しているという。警報システムが本格稼働することで、今回のような突発的な脅威にも対応できると判断しているようだ。宇宙監獄長 ジェイラスが、ヴェルストラとブリッツ・インダストリー社に対して寄せる信頼の篤さが窺える逸話である。
宇宙の建設屋『シルエット』と、シルエットマンからギガントアームズ シルエットへの段階変化については
→ユニットストーリー101「ギガントアームズ シルエット」を参照のこと。
銀河中央監獄ギャラクトラズと小惑星帯、希少鉱物ギャラクトラズ鉱については
→ユニットストーリー110「宇宙監獄長 ジェイラス」を参照のこと。
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本文:金子良馬
世界観監修:中村聡
世界観監修:中村聡