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ユニット

Unit
短編小説「ユニットストーリー」
158 宿命決戦第7話「時の宿命者 リィエル゠オディウム」
ダークステイツ
種族 エンジェル

Illust:海鵜げそ


 レザエルを迎えたのは軋みながら回る無数の歯車。
 再び息を吹き返したかのようなギアクロニクルの遺構。
 かつては岩のようだった壁面や天井そして床も、こうして隠されていた機械装置がせり出してきた様子を見れば、やはりそれは惑星外科学技術による特殊素材と機械仕掛けの集合体だったと判るだろう。
 そして居並ぶギアビースト、ギアロイド、ギアコロッサス。
「何故だ、リィエル!何故また僕の前に君が立つ?!」
「否。その名で呼ばれるべき身体はこの墓の下にいる」
 奇跡の運命者レザエルの呼びかけに冷たい声が答えた。駆動するこの部屋の機械のように規則正しい声。
「いいや。彼女は君であり、君もまた彼女だ」
 諭すように語りかけるレザエルの声は悲しみに満ちていた。そのはるか後方には涙を浮かべる大望の翼ソエルと、無表情の零の運命者ブラグドマイヤーが彼らの師匠を見守っている。
 その一方で、彼の眼前に浮かぶ黒き天使の口の両端はわずかに吊り上がり、微笑んでいるようにも見えた。
 だが、ヴェールのように顔を覆う小さな翼のために肝心の表情が窺えない。
 果たして次の言葉は──数学的に美しい発音と抑揚でありながらも──感情の色はなかった。
「そもそもの論理に誤りがある。貴様のリィエルとはユナイテッドサンクチュアリの華。癒やしの天使」
 黒い翼が残酷にはためく。
「そして死人だ。決して蘇る事のない」
「リィエル!!」
「問いにまだ答えていなかったな。私がこの時代に戻ってきた理由。ここにいる理由」
「……聞かせてくれ」
「それは死だ。奇跡の運命者レザエル。我を生み出した運命力と宿命者の名の下に、私は貴様を殺す」
 素っ気ないまでに冷徹な死の宣告。
 顔の覆いが取り払われる。
 愛した人に酷似した顔。だが、その目は燃えていた。静かな怒りと激しい憎しみに。
「リィエル、どうか聞いてくれ!君にそんな事はさせない!」
「その甘さこそが不幸を呼ぶのだと知れ。いや、何も分からぬうちに滅ぼしてやろう。我は時の宿命者リィエル゠オディウムなれば」
 聖なる水の涸れた祭壇の間。美しき墓所の空中に滅びの羽が伸び開かれる。
 それは、黒き絶望に満ちていた。

Illust:kaworu


 遺構への入り口は(爆破した壁の穴から侵入した)以前に訪れた時に比べると整備が進められ、豪華な装飾がほどこされた扉は、まるで元々このような構造だったのかと錯覚させるほどだった。
「当遺構の保安担当、明敏の騎士カテルスであります」
 扉の前で一行の到着を待っていたエルフの少年騎士はレザエルとソエル、そしてブラグドマイヤーに敬礼すると、掲げていたケテルサンクチュアリの軍旗を三脚台に収めて説明を始めた。
「つい先日まで、ここギアクロニクル第99号遺構は、ケテルサンクチュアリ防衛省と我々ロイヤルパラディンによって管理されてきました。もちろん特例です。ブラントゲート領なのですから。遺構を買い取った所有者であるヴェルストラ氏の許可と我らが長官との国際連携が無ければ不可能でした」
 2人の反応を見ながら解説したカテルスは、扉に掌を当てて生体認証でロック解除すると、どうぞと師弟をうやうやしく奥に促した。慇懃でテキパキとしていながら人当たりも悪くない彼の様子を見てソエルはなんとなく、気が合いそうだなと思った。
「いま開けた扉の向こうに、あなたを指名し待ち構えているものがいます。救世の使いレザエル」
「遺構に動きがあったとの通報を受けて、我々は来た。では彼女・・は中に?」とレザエル。
「はい。それと配下の者が。そしてここは、我々ケテル国民にとって特別な方が永遠に憩う場所でもあります」
 カテルスは通路への石段を先導しながら振り返った。
 以前は真っ暗だったこの遺構にも柔らかい間接照明が導入されている。かつて水路の底だった広い空間は今はまるで城の空堀のようであり、荘厳で神秘的な雰囲気を醸し出していた。
「奇跡の運命者レザエル。あなたにはその名の通り、運命大戦では奇跡をもたらし、この世界を救っていただきました。我々ケテルの騎士はあなたと時の運命者リィエル゠アモルタに深く敬意を表するものです」
「こちらこそ御礼申し上げる。私のリィエルのためにこれ程美しく整えてくださって」
「恐れ入ります。自分としてはこうした案内だけでなく援護もさせていただきたいと存じますが、許可が下りず」
「どうぞお気になさらずに。これは私自身の運命なのだから」
「堀から水が抜かれているのは何故だ」
 騎士と医師の丁寧かつ心温まる交流が果てるのを待てず、ここまで黙っていた零の運命者が口を挟んだ。
 ブラグドマイヤーは、たとえ朱色の霧渦巻く敵地の只中であってさえ好奇心が勝るのだ。
「ここからは船で進むものだと聞いていた。警備もいない」
「はい。ここの水が失われ、最奥に蠢動が観測された後、防衛庁長官のご指示ですみやかに総員撤収となりました。あとは自分が残って内部よりの“声”を聴き続け、あなた方のご到着をお待ちするようにと」
 カテルスはあくまで丁重に返答した。
 零の運命者ブラグドマイヤーはゼロうろによって、あやうく世界を無に帰す所だった事件の張本人である。だがケテルの騎士は公正を尊ぶ。それに無垢な存在として、一からこの惑星クレイ世界を学ぶ者となったブラグドマイヤーに辛く当たるいわれはなかった。
「霊廟の祭壇までご案内いたします」
 ブラグドマイヤーとソエルは顔を見合わせ、レザエルはただ黙って、エルフの少年騎士の後に続いた。
 この先にあるのは言葉にするのも重い場所。
 そしてこの先には思いを叶えてあげられることの無かった只一人のひとが待っているのだった。

Illust:菊屋シロウ


 迎えはあちらから現れた。
「よう、奇跡の運命者ご一行様。いらっしゃーい!」
 ……軽い。軽すぎる。
 ソエルは、蒸気銃スチームガンらしきものを肩付けにして明るく叫んでいる青年を見て、どうしてこの世界のあちこちにはこうしたお調子者タイプが必ず一人はいるのだろうと、ここまで来ると逆に感心してしまう。ヴェルストラCEOとか、打ち合わせにおもむいたリューベツァールで出会ったバロウマグネスさんとか……。でもソエルが知る限り、一見、人間にしか見えないこの男性はギアロイドのはずなのだ。
「おぉ、そこの天使の少年。ジト目で見ているがその観察は正しいぞ。ギアクロニクルだからと言って四角四面の時間警察ばかりとは限らないのさ~」
 蒸気銃スチームガンをブシュブシュ空打ちしながら(これはどうも武器と言うより工具に当たるものらしい)スチームバーナー アンミ・ディターナと名乗った男は、ケテルの少年騎士カテルスから案内を引き継いだ。
「さぁこっちだ。彼女、お待ちかねだよ。レザエル医師せんせい
「……」
 レザエルはアンミ・ディターナの軽口に応えない。こんな時に、代わって質問するのはいつもブラグドマイヤーだ。
「お前たちギアクロニクルは、いつからこの遺構を復活させたのか」
「質問の前提が間違ってるから回答不能」
「では質問を変える。この遺跡を再起動させたのは誰か」
「オレ、それには答える権限がないんだ」
「つまりはそれだけ上位の力の在る存在だということだ。ここにいる宿命者は」
「ハハ。人が悪いなぁ、零の運命者。ホント噂通りだ。なーま意気ぃ」
「では全てを知るあのレヴィドラスのジジイも関係しているのだな。宿命者同士だけに」
 あぁもう!わかったよ、とアンミ・ディターナは両手をあげて降参の仕草をした。
「オレの案内はここまで。仕事に戻らなきゃ」
「「仕事?」」ソエルとブラグドマイヤーは声を揃えた。
「言ったろ、スチームバーナーだって。オレの仕事はここの機械ギアを問題なく動かし続けることにあるんだ」
 アンミ・ディターナは石壁にしか見えない壁を叩いた。するとその合図に応えるように、沢山の歯車の駆動する音がどこからか聞こえ、高まってきたようだ。ほらな、とアンミ・ディターナは肩をすくめると
「ギアクロニクル第99号遺構へ、ようこそ」
 ニヤッと笑って壁に同化するように姿を消した。
 アンミ・ディターナが事情通であり、またギアクロニクルとして、その剽軽ひょうきんな振る舞いや見かけよりもはるかに高い知性と実力を持っていることは、自分たちの居場所をあえて運命者側がつけた仮称で呼んでみせた事でも明らかだ。
『少し先に塔みたいな場所が見えるだろ。あれが祭壇だ、ここからはレザエル、あんた一人で行きなよ』
 姿なきアンミ・ディターナの声が響いた。
「それは何故だ」とブラグドマイヤー。
『恋人たちの時間をジャマするのは野暮ってことだよ、ブラグドマイヤー君。これも勉強だ。じゃあな!』
 それっきりギアクロニクルのスチームバーナーの声は聞こえなかった。
「聞いたとおりだ、私は行く。2人とも、全てが終わるまでここで待っていてくれ。騎士サーカテルスも」
「お供させてください!」
 とソエル。師匠はゆっくりと首を振った。
「予言と予知が告げているのは、この私レザエルに対する怒りと罪の追及だ。受けて立つのが道理」
「それも理屈が通じる相手ならだ」
 ブラグドマイヤーは不満そうだったが、良き教師レザエルの判断には絶対の信頼を置いている。
「気をつけろ。劣勢になったら介入する。何にジャマされようともな」
「誰も君を止められるとは思えないな。ところで、ブラグドマイヤー」「なんだ」
「さっきまた悪い言葉を使ったな」「何のことだ。覚えていない」
 そうか。レザエルは低く笑うと翼を開き、一瞬で、水の涸れた床から塔のように聳える頂上──かつては孤島の祭壇だった場所──へと飛び上がった。

 そしてひと飛びで辿り着いた祭壇の間。
 背後と天井で歯車が駆動するそこには、一羽の機械仕掛けの鳥と、両脇を固める女性型ギアロイドとギアコロッサス機械巨兵が2体ずつ、そしてレザエルが何よりも尊ぶ人の墓の前には、黒い羽でヴェールのように顔を隠す、黒き天使が浮かび、冷たくこちらを見下ろしていた。


Illust:saikoro


Illust:絵西


Illust:北熊


「ギアクロニクルには手を出させない。ここが私と貴様の終点だ」
 自己紹介も何もない。
 リィエルの顔を持つ宿命者が放った最初の言葉は、決闘の条件と死の宣告だった。

 ──そして話は冒頭に戻る。
「剣を引いてくれ!話し合おう、リィエル!」
 レザエルの叫びも空しく、両者は亡きリィエルの墓の上に飛び上がった。決着をつけるために。
 もとより遺構の終点である祭壇の間はそれ自体が巨大な半球型ドームとなっており、かつてもう一人のリィエルとレザエルが戦った際にも対戦する2人は自由に飛びまわることができた。
 レザエルは運命者の白き運命力の軌跡を曳き。
 一方のリィエル゠オディウムは黒い翼に白い髪、天女の羽衣はごろものような輝く紅いオーラをまとっている。
「やはり自分から仕掛けてはこないか。そうだろうと思った」
 時の宿命者はそう言うと、しなやかな指でレザエルを差した。すると彼女の周囲に浮かぶもやが黒い小さな針のような形となって空を走る。
 かすかな衝撃とともにレザエルは左肩に痛みを覚えた。
「?!」
 これは異常なことだった。
 レザエルは医師だが、ユナイテッドサンクチュアリの時代にはその剣術の力量を、随一と称された遍歴へんれき剣聖けんせいアイディラスに認められるほどの達人だ。
 いかにこちらから攻めかかるのをためらう、リィエルと同じ顔をもつ宿命者相手とは言え、これは戦闘である。攻撃を避けない訳にはいかない。いや、正しく言えば避けなかったのではなく、黒い針のようなものの攻撃があまりに速すぎて反応できなかったのだ。
「気がついたようだな。肩を見よ」とリィエル゠オディウム。
 レザエルもはっ・・と先程の着弾点を見る。
 レザエルの白銀の鎧、その肩甲に黒い染みが焼き付いていた。
「その痛みこそ我が怒りと憎しみ。そして……」
 今度はレザエルが右胸を押さえた。手を放すとまた、そこには黒い痕跡が残っている。
「貴様が黒く染まる度に、均衡バランスがこちらに傾き、我は強くなる。」
 そして今度は左腿。
 なぜ……避けられないのだ。レザエルは愕然となった。
「足りないのは強い意志だ、レザエル。何かを成し遂げようとする心の力。私には明確な《在るべき未来》があるが、今の貴様にはそれが無い。故にこの瞬間も、引くべき剣はおろか押すべき剣すら無いのだろう」
 レザエルの五体、白銀の甲冑がみるみる黒く覆われつつあった。
「……リィエル……いやリィエル゠オディウムよ。では教えてほしい。君は何を強烈に追い求め、そして何故それほどまで私に怒り、私を憎むのか」
 時の宿命者リィエル゠オディウムはレザエルをじっと見つめた。
「なぜ怒り、憎むかだと?お前の胸に手を当てて考えよ!レザエル」
「……確かに、ゼロうろの戦いでは君をまた救えなかった。それどころか君の力が私を救ってくれた」
「論理に誤りがある、と言っただろう。私はリィエル゠オディウム。亡きリィエルでもなければ時の運命者リィエル゠アモルタでもない」
「では何故……」
 リィエル゠オディウムの目が燃え上がった。
「私を生み出したのは《絶望》。かつて世界を2分した、すなわち惑星クレイに生ける者の半分が祈った、破壊によるこの世界の浄化と再生、それを望む力だ」
「……聞いている。バヴサーガラが祭司となった絶望の祈り、その運命力だ」
 レザエルはもう飛び続ける力も無く、祭壇の前にゆるやかに着地した。
 その天頂にいるリィエル゠オディウムは残酷に微笑んだ。
「弱いなレザエル。もっと手応えがあると思ったぞ」
「続きを、リィエル゠オディウム。せめて、真実を」
 オディウムの攻撃、黒い針によって侵されるダメージに耐えかねたのか、レザエルは研ぎ澄まされたその大剣と剣技を一度も振るえぬまま、地に膝を着いた。
「私は絶望の力の中で生まれた。奪われた命、叶えられなかった希望、間に合わなかったあなたの助け、そしてそれであなたに負わせてしまった世界の均衡を乱すほどの深い悲しみ。無力感、やるせなさ、取り戻せない空しさ……罪の意識。それが心閉ざす絶望のループよ」
 レザエルは朦朧とする意識の中、凄まじい努力をして顔をあげた。
 リィエル゠オディウムは自分を何と呼んだのか。あれほど否定していたのに、彼女リィエル゠オディウムは今、他ならぬ亡きリィエルとして喋っているようだ。
「私は好きな時間からやり直せる。《声》は私にそう告げた。私とあなたをわかつポイントはどこ?そう、それは私が死んだ時。私を*記憶し、私の想いを縛りつけているあなた、レザエルを倒すことでその運命力がこの私に集まれば、より遠い過去へも飛べるはず。あの死の瞬間に。そうすれば、その後の全ての出来事も……いいえ、変えるわ、必ず!」
「そんな……それほど大規模な歴史の改変なんて……できたとしても、その影響は、均衡そのものを……」
 破壊しかねない。それは時空間のことわりを侵す大罪である。レザエルもまた絶望した。
 リィエル゠オディウムはあれほど論理的である事を誇っていたはずなのに、どこかで大きくその望みが歪んでしまっているのではないか。だが、それを指摘し、伝え、いさめる力はもうレザエルには残っていなかった。
「あなたは優しすぎる。それがあなたの罪、そしてそんなあなたを愛し、2度消滅してもなおやり直そうと望んでしまうのが私の罪。あなた自身が本当に望まないと《在るべき未来》は実現しない。私とまた共に暮らしたいとそう望んでくれてもきっと叶わない。あなたはこの世界をも愛しているから。そうよ。私は愛するが故にあなたに強く怒り、そして深く憎んでしまう宿命。絶望の祈り、ギアクロニクルの遺跡の力、そして宿命者。あぁ……苦しいわ、レザエル。もう終わらせましょう」
 ダメだ!リィエル!僕は誰よりも、君を愛しているのに!
 レザエルは何とか起き上がり、叫ぼうとした。
 だがその叫びは届かず、手を差し伸べようとする試みは空しく、終わりの時は迫っていた。
「せめて苦しまず、逝かせてあげる」
 時の宿命者リィエル゠オディウムは、頭上の光輪に手を差し伸べ、目を閉じ、忘我の境地に入った。
 さぁ、これで絶望の日々が終わり、時が奇跡を生み出す時代が始まる。

Illust:匈歌ハトリ


 因果歪曲・断罪ディストーテッド・ベイン!!
 黒い靄が光輪に集束し、無数の針となったそれがレザエルを絶命せんと一斉に降り注ぐ。
 リィエルーっ!!!
 だが、終わりの一撃は、いつまで待っても落ちてこなかった。
 レザエルの目の前に、白い羽根がふわりと漂った。
 機械と歯車が駆動する祭壇の間、愛しき人の墓所に、えもいえぬ芳しい香りが満ちた。
 目を開けるレザエル。
 そこには空に向かって手を広げ、黒い針の雨を押しとどめる優美な姿。
「次に目覚めた時はきっとまたあなたがいる。そうよね、レザエル」
 振り返って微笑んだのは、亡きリィエルの言葉を現世に再び紡いだのは、
 時の運命者リィエル゠アモルタだった。

Illust:海鵜げそ




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《今回の一口用語メモ》

因果歪曲・断罪ディストーテッド・ベイン──時の宿命者リィエル゠オディウムとは何者か?

 第99号遺構における戦闘で、リィエル゠オディウムがレザエルに向かって放った「因果歪曲・断罪ディストーテッド・ベイン」。
 この力や他の要素から、時の宿命者リィエル゠オディウムが何者であるかを推測してみたいと思う。
 まずは種族。
 リィエル゠オディウムはエンジェルだ。
 ギアクロニクルの種族としてはギアビースト、ギアロイド、ギアコロッサス、そしてギアドラゴンが知られているが、そのいずれもが惑星クレイ星系の外(正しく言えばクレイが属する時空間の外)に起源を持つ機械生物である。
 だがギアクロニクルのエンジェルというのは過去の記録にも無い。つまりリィエル゠オディウムは種族から見るとギアクロニクルではない。
 次にリィエル゠オディウムに付き従う者たちを見てみよう。
 彼女に仕えているのはギアビースト(万里鵬翼ばんりほうよくのギアケツァール)、ギアロイド(スチームメイデン ティグラット)、ギアコロッサス(命脈途絶めいみゃくとぜつ時空巨兵コロッサス)など律儀なまでにギアクロニクルの主要種族を網羅している。
 これはリィエル゠オディウム自身がギアクロニクルでは無いものの、特定のギアクロニクルに対して強い影響力を持っていることを表している。前述の従者たちについては、第99号遺構の中に眠っていたギアクロニクル
であり、この遺構を再び起動させる者がいれば以後その者に仕えるようプログラミングされていた、と考えるのが自然だろう。(ギアクロニクルの遺構を目覚めさせ、その設備によって新たな身体を得る者がギアクロニクル以外の種族だとは、そのシステムを作った者にとって想像もつかない事である)
 そして表題にあげた「因果歪曲・断罪ディストーテッド・ベイン」は魔法である。
 彼女の“元”となったリィエルはユナイテッドサンクチュアリ(現ケテルサンクチュアリ)の天使であり、エンジェルフェザー隊員として当代いちと評された治癒魔法の使い手だった。黒に染まった天使エンジェルリィエル゠オディウムがふるうのもその魔法の力だがかつての回復や癒やしとは正反対に、攻撃の用途に使われている。

 最後に宿命者としてのリィエル゠オディウムについて。
 ここまで挙げてきた特徴に「力源」考察を加えてみよう。
 種族:エンジェル 身体を形成したもの:ギアクロニクル遺構 従者:ギアクロニクル
 攻撃:魔法 力源:絶望の運命力
 先日、天意壊崩プロヴィデンス・ディソーダー バロウマグネスによってもたらされた、アカシックブック写本の情報によれば、死せるリィエルを複製化クローニングして時の宿命者リィエル゠オディウムを生み出したのは「絶望の祈り」。すなわち、かつて惑星クレイ世界を2分したその一方、封焔の巫女バヴサーガラが集め、そして希望に敗れて霧散したはずの「絶望の運命力」なのだという。
 それ故にか、リィエル゠オディウムは前身黒ずくめであり、特に羽や頭部などは絶望の祭司バヴサーガラを連想させる衣装や形状となっている。
 そして、リィエル゠オディウムがふるう力は怒りと憎しみが元となっており、圧倒的なその力によって奇跡の運命者レザエルを敗北させるに至ったのだ。


歪んだ時間軸によって、流れ込んだ絶望の祈りとその運命力が、時の宿命者 リィエル゠オディウムを生み出した事実。そしてその事を示唆するアカシックブックの記述については
 →ユニットストーリー157 「天意壊崩 バロウマグネス」を参照のこと。

時の運命者 リィエル゠アモルタとギアクロニクル第99号遺構については
 →ユニットストーリー132 運命大戦第7話「奇跡の運命者 レザエルII 《在るべき未来》」
  ユニットストーリー137 運命大戦第11話「時の運命者 リィエル゠アモルタ」
  を参照のこと。

時の運命者リィエル゠アモルタと奇跡の運命者レザエルとの戦い、また遍歴へんれき剣聖けんせいアイディラスとの関わりについては
 →ユニットストーリー137 運命大戦第11話「時の運命者 リィエル゠アモルタ」
  ユニットストーリー138 運命大戦第12話「時の運命者 リィエル゠アモルタII 《過去への跳躍》」
  ユニットストーリー139 運命大戦第13話「時の運命者 リィエル゠アモルタIII《奇跡の運命》」
  を参照のこと。

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本文:金子良馬
世界観監修:中村聡