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短編小説「ユニットストーリー」
172 「エンディアリング・ベンダー メイティーナ」
ブラントゲート
種族 ヒューマン
カード情報
 
──ブラントゲート セントラルドーム 標準時刻18:36

 ノヴァグラップル・スタジアム8エイト
 その名の通り、8角形のリングオクタゴンでは今、闘士グラップラーによる熱戦が繰り広げられている。
「はいはーい!ギャラクシードッグお2つですねっ♪」
 注文を受け、通路を駆け上がる彼女は笑顔。
 オォオ──!!
 闘士グラップラーのラッシュが決まった。
 彼女は歓声と共に両手をあげ、そして振り向く。
「ぃやったー!さぁてお飲み物などはいかがでしょうかー?」
 そう言いながら、手は背中のタンクから伸びるノズルと、腰に下げたコップに掛かっている。
 その輝く瞳に見つめられたら……
 断れるわけがない。
「さぁ!ギャラクシードッグ&ドリンクでもっと盛り上がっちゃいましょー!」
 1つ!2つ!こっちには3つ!
 注文の手が上がる。
 笑顔が弾ける。
 彼女の行く先には常に歓声があがった。
 ステージと客席と一体になって盛り上がり、楽しませること、それを楽しむこと。
 メイティーナはここにいる事が心から好きなのだ。

Illust:がり


ビハインド・ザ・シーンBehind the Scenes #172
 エンディアリング・ベンダー メイティーナ/ノヴァグラップル、客席からの夢』

(番組OPテーマ。提供スポンサー、ワイプ表示)
メイティーナ(以下、メイティ):わたし達ベンダーの仕事は、お客様に楽しんでもらうことです!
番組ナレーション(以下、N)N:試合の日。彼女は誰よりも早くスタジアムに姿を見せた。
メイティ:厨房はもっと早く動いてますから『ご苦労様。今夜もよろしくお願いします』って。
(従業員用ゲートを抜けると、学校の制服姿のままあちこちに挨拶してまわるメイティーナ。顔を出した先の人々も笑顔になってゆく)
メイティ:ギャラクシードッグは人気で何本あっても足りないくらい。とっても美味しいんですよ。
N:エンディアリング・ベンダー メイティーナはノヴァグラップルの売り子ベンダー。年齢は16歳だ。
メイティ:スタジアムでのお仕事はアルバイトです。友だちも働いているから特別じゃないけど、両親を説得するのが大変でした……。
N:そう笑う彼女はごく普通の学生。彼女が学ぶ芸能科ではアルバイトはむしろ奨励されている。
(ハイスクールでの様子。休み時間、友だちと喋っている)
メイティ:推してる闘士グラップラーですか?うーん、絞るのは難しいかなぁ。クラスにもよるし。
(スタジアムのバックステージを颯爽と歩くメイティーナ。ふとあるポスターの前で立ち止まる)
メイティ:クラスか……そうだ、チーム〈グランドスラム〉!『出し惜しみは無しだ!必ず当てる――!』やっぱりこれで決まりでしょ♪

Illust:かんくろう


N:彼女が指したのは人型機動兵器バトロイドトラヴァンツ・ロートバイザー。言わずと知れた、現在大人気の新鋭闘士グラップラーチームである。
メイティ:『バトロイドによる全階級制覇。それがチームの掲げる絶対目標だ』くーっ!かっこいい!……あ、それじゃ着替えてきますので!
(更衣室に入るメイティーナ。動画編集で次の瞬間、ベンダーファッションとなってドアから出てくる)
N:スタジアムのベンダーが重労働であることはあまり知られていない。まして16歳の少女ともなれば。
(タンクとチューブの調子を念入りに点検した後、よっこいしょっと背負うメイティーナ)
メイティ:ジュースからお酒までなんでもアリ。アツアツのギャラクシードッグとの相性もバッチリ!
N:メイティーナは笑いながら今夜もスタジアムの客席へと駆けていった。『この重さがお客さんのワクワクそのもの』なのだと彼女は言う。

 ──翌日。ブラントゲート セントラルドーム 標準時刻09:01

 朝のスタジアムに人気ひとけはない。
 綺麗に清掃された客席、広大な広がりの中に、私服姿のメイティーナがひとり腰掛けている。
メイティ:わぁ、また夢が叶っちゃった!ありがとうございます!
N:インタビューを申し込んだところ、彼女が希望したのはここだった。
メイティ:昼間の誰もいないスタジアムに入る機会ってなかなか無いですよね。あとでクラスのみんなに自慢しますっ。
N:どうしてそんなにスタジアムが好きなの?
メイティ:ノヴァグラップルの大ファンですから!あとスタッフの皆さんが優しいので。
N:いつからファンになったの?
メイティ:ずっと小さい頃からです。ファイトを観せると泣き止む子供だったって、ふふっ!
N:ノヴァグラップルのどんな所が好き?
メイティ:スリルがあって、盛り上がるし、どのファイトもすごく熱くて。『刮目せよ!凍土すら溶かす、最も過酷でタフな闘いを!』

Illust:かんくろう


N:彼女が言っているのは、すでに幾つもの名勝負が生まれている、ノヴァグラップルのニューステージ『超新星格闘技場ノヴァグラップル・アリーナ永久凍土パルマフロスト』のキャッチフレーズである。
メイティ:わたし、ノヴァグラップルの実況解説になるのが夢なんです。
(ここで彼女の背後、スタジアム備えつけの大型モニタービジョンにある・・映像が映る)
N:振り返ってみて。メイティーナ。
メイティ:?……え?!えええっ!!
ヴェルストラ:やぁ、メイティーナ。はっじめまして~♪
メイティ:ヴェルストラCEO!?
N:はい。実は、私たちがメイティーナの取材を始めたきっかけは、番組に届いた一通のメッセージだったんです。ブリッツ・インダストリーCEOからの。
ヴェルストラ:セントラルスタジアムに、ギャラクシードッグ大売れのすっごく可愛~いベンダーがいるって聞いてさ~。ほっとけないじゃん。
メイティ:……。あ、すみません。わたし、ビックリしちゃって、まだ理解が……。
N:黙っていてすみません。今回、取材の終わりにどうしてもヴェルストラCEOからお話がしたいという事で。
メイティ:わたしに?
ヴェルストラ:話というか、君にお願いがあってね。
メイティ:はぁ。
ヴェルストラ:この後、ノヴァグラップルの特別試合があるんだ。わがままなスポンサー会社CEOのためだけに開かれる、プライベートファイトってヤツ。
N:あなたの大好きなチーム〈グランドスラム〉の闘技グラップルですよ。
ヴェルストラ:観られるのはオレたちと君だけ。
メイティ:ほ、本当ですか?!
ヴェルストラ:ホントホント。ところがさ。困ったことに急すぎる開催なんで実況がいないんだよ。これじゃちっとも盛り上がらない。チーム〈グランドスラム〉の連中も君のために張り切って闘うって言ってくれてるのになぁ。
メイティ:そうですか。それは残念ですね……。
ヴェルストラ:でさ。やってみない?実況。
メイティ:えっ?!
ヴェルストラ:休日によく一人で配信に実況をつけてるって、聞いたよーん。
メイティ:いや、それはえーっと、その……趣味で。
ヴェルストラ:いいじゃん!聞くのはオレたちだけなんだし。
メイティ:やだ。恥ずかしいし、いきなりなんて、ちょっとムリ。
ヴェルストラ:夢なんだろ、実況やるの。じゃあちょうど良い機会だ。失敗しても誰にも笑われない。
メイティ:で、でもわたしプロじゃないし、こんなの初めてで。
ヴェルストラ:誰でもみんな最初は初心者さ。
メイティ:でも、あの……。
N:どうしますか、メイティーナ。
ヴェルストラ:やっちゃお。な、メイティーナちゃん。さ、立って!
メイティ:(恥ずかしい)
ヴェルストラ:頑張れ!ノヴァグラップルの実況は昔っから“叫んで踊る”、だもんな。
メイティ:……はい!わたし、やってみます!
N:ではマイクを。
ヴェルストラ:さぁ。これが君の夢の第一歩だぜ。
メイティ:ヴェルストラCEO!
ヴェルストラ:ん、なぁに
メイティ:ありがとう!ありがとうございます!
ヴェルストラ:いいって。じゃ楽しみにしてるよん!
N:では始めましょう。チーム〈グランドスラム〉スペシャルマッチ!実況はエンディアリング・ベンダー メイティーナでお送りします!

 エンディアリング・ベンダー メイティーナは大きく息を吸い込んで、立ち上がり、闘士グラップラーが対峙するモニターを見つめ、構え、そして実況し始めた。
 叫んで踊るノヴァグラップルの生中継を。
 魂を込めて。

ヴェルストラ「『我々は今、まさに伝説が生まれる瞬間を目にしようとしている』、かな」
 ブリッツ・インダストリーCEOはマイクを切ってからそう呟いて、執務室のソファーで何かもの言いたげな様子のブリッツセクレタリー秘書 ペルフェにウインクすると、悪戯っ子のような笑みを浮かべながらエンディアリング可愛らしい・ベンダーの熱い実況に耳を傾けた。



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《今回の一口用語メモ》

チーム〈グランドスラム〉
 ブラントゲート国発祥の娯楽で、今や外宇宙でも人気を集める総合格闘技イベント、ノヴァグラップル。
 最近では、凌駕の宿命者インバルディオの参入によるノヴァグラップル《デッドゾーン》の新設と挑戦者の殺到が大きな話題となっているが、そんな中、浪漫ロマン外連味けれんみに溢れたファイトスタイルで人気を博しているのがチーム〈グランドスラム〉である。
 〈グランドスラム〉の特徴は、何と言っても闘士グラップラーがいずれもバトロイドであること。
 もう一つの特徴が、搭載された次世代型バトロイド用OS「V.I.S.O.R」。
 これにより単に戦闘能力が向上しただけではなく、パイロット同士が緊密に連携しあいながらも個性も強調されたロートバイザー軍団による熱いファイトによって、観客を盛り上げる闘いが可能になった。
 そしてチームが掲げる「バトロイドによる全階級制覇」という壮大な野望、いやメンバーの主張によれば「チームの絶対目標」こそが、今までのグラップラーチームとの最大の違いだと言えるだろう。
 ノヴァグラップルは周知の通り、小規模な個人戦から宇宙を舞台とした大艦隊戦まで、様々なカテゴリーが存在する。さらに双子星ジェミニ級など新たな趣向も増えていることもあり、バトロイドに参加可能なものに絞るとしても全階級制覇は極めて困難である。
 それでも〈グランドスラム〉が掲げる目標と熱いファイトは観客の心を確実に捉えており、メイティーナなど将来、ノヴァグラップル実況を志す者たちにとっても格好の素材となっている。


 ノヴァグラップル《デッドゾーン》については
 →ユニットストーリー156「凌駕の宿命者 インバルディオ」および《今回の一口用語メモ》を参照のこと。

 ノヴァグラップルの新設カテゴリー、双子星ジェミニ級については
 →ユニットストーリー168 「波動の聚合 グリッチエピセンター」および《今回の一口用語メモ》を参照のこと。

 ノヴァグラップルとノヴァグラップラーについては
 →ユニットストーリー010「グラナロート・フェアティガー」
  ユニットストーリー050「軋む世界のレディヒーラー」および《今回の一口用語メモ》を参照のこと。

 バトロイドについては
 →ユニットストーリー010「グラナロート・フェアティガー」の《今回の一口用語メモ》を参照のこと。

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本文:金子良馬
世界観監修:中村聡