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ユニット

Unit
短編小説「ユニットストーリー」
197「ダイアフルドール ふぃんりー」
ダークステイツ
種族 ワーカロイド
カード情報


 暗黒地方とは濃厚な瘴気がたちこめる、ドラゴニア大陸南部の一帯を指す名称である。
 惑星クレイ世界地図を広げてみると、その広がりは国家ダークステイツの版図と合致する。
 この国がダークゾーンと呼ばれていた頃には大陸南西部一帯から南端までが「暗黒地方」だった。
 現在の暗黒地方は中央部と西部・東部に分かれている。
 一説には、陽光を翳らせるこの「瘴気」とは運命力の顕れであり、ダークステイツに満ちる魔物と魔法の力の源だという。
 闇の国ダークステイツ。野望と欲望そして力こそ正義の国ダークステイツ。
 そんな地域で暮らす民が熱狂する娯楽が2つある。
 超過激格闘技ギャロウズボール。
 そしてもう一つが、サーカスだ。

 おおきな掌にのせられて。さぁさ、夢の入り口へ!
 小山のような少女が、観客をそっとてのひらに載せると、そのまま注意深く藤の編み籠へと移し替えた。
 ふぃんりーはダイアフルドール。
 お客様をサーカスの舞台、大テントへと導く案内役だ。
「今夜は良い月ですね。楽しい夜公演ソワレになりそう」
 観客はここで決まって、間近にみる巨大自動人形に言葉を失う。
 するとこの少女はボンネット帽とフリフリのリボン、ヒンジ状の関節を滑らかに曲げ、赤いカールヘアを揺らして愛らしくはにかむのである。
「まぁ。そんなに見つめられると照れちゃいますわ。でも……」
 ここで、お客方はあっと言う間にテントの入り口に着いたことに気がついて驚くことだろう。
 ふぃんりーの歩幅はとても広く、その歩みも早いのだ。
 そしてニッコリ笑ったふぃんりーのひと言。
「驚くのはこれからです♡」
 さぁさ、もう聞こえてきましたね。心躍る音楽と観客のざわめきが。

Illust:ピスケ


 編み籠のゴンドラから下ろされると、そこは客席。
 あなた様のご入来にゅうらいを待ち構えていたように、序曲オーバーチュアのマーチが高まると……
 客電点灯フルライト
 テントの中央をご覧ください。
 浮き立つテーマ曲とともにオープニング・パレード!

 竜使いが火を吐く翼竜ウイング・ドラゴンに乗っています。
 わちゃわちゃ群れるデーモンのピエロさんたち。キモかわいいですね。
 ほかにも火や鳥を放つ奇術師、人間大砲も控えています。
 こちらに向かって吼え猛り、その迫力で目を奪うのはキメラやディノドラゴン達。
 でも大丈夫。
 猛獣使いたちがその見事な指示、ムチ捌きで猛獣を操ります。
 そして派手派手しいプレショーの締めくくりに、マスクを着けた団長が銀のステッキを振り、皆の歌を盛り上げます。
「サーカスへようこそ!ライブで味わう究極のエンタテインメント!どうぞ酔いしれて、一夜の夢に!」
 エルフがフープを回し、ワービーストのジャグラー、玉乗りが団員の輪を彩ります。
 そして全員でポーズ!
 客席のボルテージは早くも最高です。
 皆、この華々しい技と色彩、躍動するパフォーマーが見たかったのですから。

 ここで、ステージのライトが黄と真紅に染まりました。
 フルメンバーの並びは瞬きするうちに消えて、中央に立つのはダイアフルドール べさにー。
 当サーカスのスター、真紅の装い、ナイフ投げのべさにー。
 ちなみに彼女は人間と同じくらいのサイズのダイアフルドールです。

Illust:絵西


 人形の手と豊かなウイングヘアが閃くたび、細長いダイヤ型のナイフが2つ3つと、投げ上げた赤いリンゴに突き刺さります。
 なお当サーカスでは食べ物はいっさいムダにいたしません。
 助手のチビ助アビスドラゴンが片っ端からリンゴを捉え、噛み砕いて呑み込みます。
 あれ、今のリンゴはナイフが突き刺さったまま飲み込んでいなかった?
 気にしない気にしない。
 アンコール!アンコール!
 いったんはお終いの礼をしたべさにーですが、お客様の期待を裏切る彼女ではありません。
 四方から現れた四色のアビスドラゴンが持つリンゴの山をご覧ください。
 ……同時に投げ上げました!この量を?いやまさか?
 シュトト!シュトト!トトトトトト!
 投げ上げたリンゴはすべて射止められ、大口をあけた四色のアビスドラゴンに呑み込まれました。
 咀嚼。
 お辞儀したべさにーの元へ、ドラゴン達はナイフを吐き出して返します。
 これも込みでショーなのですね。アビスドラゴンさんたちの喉は頑丈です。
 ……でも受け取るべさにーはかなりイヤそうで、観客の爆笑を買っていました。

 さて、ここで──
 いったん客電が落ち、妙なる音色が流れ始めます。

Illust:ロクシロコウシ


 ロマンチックなバイオリンの演奏はこう告げています。
『今はただ、時を忘れて。弦奏と人形ヒトガタの饗宴に酔い痴れよう』と。
 天輪聖紀、ダークステイツの子供たちの多くはこの調べと、そして人形たちのパフォーマンスを見て育ちます。だから大人になってもサーカスが忘れられず、一人であるいは家族を連れてまたやってくるのです。
 劇場の外でゆったり楽しませてくれる人形、ステージを彩る活発な人形。
 大小のダイアフルドールたちは年を取らず、色あせることの無い思い出なのですから。

 お客様がたがこうした物思いにふけっている内に、キメラ火の輪ショー、奇術ショー、客席参加の人間大砲(ぶっ飛ばされた人がどこに行ったかですって?それも気にしない、ここはダークステイツのサーカスなんですから)、テントと客席いっぱいを使ったダイアフルドール あまんでぃーぬの優雅なダンス、そしてピエロの幕間劇と進み、いよいよクライマックスです。

 さあ、また音楽が変わりました。
 サーカスの花形といえば、いつの時代でも空中技、宙乗りと決まっています。
 スリルと興奮、美しいダンス。それはもうアートなのです。

 ダイアフルドール おるねーた。
 人間ヒューマンサイズのダイアフルドール。
 彼女の特技はエアリアルフープ。宙づりのフープでテントのほぼ頂上から地上スレスレまでを素早く、誰よりも自由に、人形ヒトガタが宙を乱舞する。

Illust:ロクシロコウシ


 ほら。今、目の前をかすめていったのがそう。
 青と赤、そしていい香りがする一陣の風のようだったでしょう。
 しかも彼女の人形の瞳は、あの澄み切ったブルーの輝きはあなたを捕らえ、もう目を離すことはできない。
 優雅で爽快、そして魅惑的。
 そう、これはダークステイツのサーカスなんですから。

 他の演者では絶対に不可能な身のこなしで、フィニッシュのロープが巻き上がりそして舞い降りると、初めてフープから手を離して、おるねーたが一礼します。
 満場の拍手。スタンディング・オベーション。

 ……お客様。お客様。
 眠気を催されましたか。あぁ大丈夫。当サーカスでは良くあることです。
 今夜のショーは全て終了いたしました。
 行きと同様、ダイアフルドール ふぃんりーの藤のゴンドラでお送りいたします。
 フィナーレの花火が、お帰りになる空でご覧になれますよ。
 ただ見上げすぎていると、またたまらなくこのサーカスに来たくなってしまうかもしれませんが。
 そうしたらどうぞ何度でも。演目は公演によって変わりますから飽きる心配はありません。

 はて、我々サーカスの名前を覚えていない?
 いやどうぞお気になさらず。名前は重要ではありません。

 どうぞまたお越しください。
 ダークステイツのサーカス、我々ペイルムーン一同はいつでもあなた様をお待ちしておりますから。



※註.植物や楽器の名称については地球の酷似したものの名を借りている。※

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《今回の一口用語メモ》

ペイルムーン──ダークステイツ、サーカスの夜

 闇と魔法、魔の眷族の国家ダークステイツでも一部、高速通信とデジタルコンテンツが導入されている昨今だが、それでももっとも人気がある娯楽といえば超過激格闘技ギャロウズボールとサーカスである。
 そしてまだダークゾーンと呼ばれていた頃から、この国のみならず惑星クレイ世界でもっとも有名かつ恐れられてきたのが、蒼ざめた月ペイルムーンとも呼ばれる「真夜中のサーカス団」だ。
 本編はそのサーカス公演をあくまで観客の立場から描き、体感したものであり、謎めいた『蒼ざめた月ペイルムーン』の正体に迫るものではない。
 それでも天輪聖紀におけるダークステイツのサーカス団について考察することはできる。
 ①サーカス団のパフォーマーには大小のダイアフルドールが参加している。
  →これはかつてのナイトメアドールの流れを汲むもので、同じ「ワーカロイド」であることからも明らか。
 ②サーカス団のダイアフルドールは、演者寄りに作られている傾向があるようだ。
  →一方で、恐怖劇場『グラン゠ギニョール』のダイアフルドール達は公然と武器を所持している。
 ③無神紀以前にも魔王直属の暗殺者集団という噂が絶えなかったペイルムーン。
  “表”の顔サーカスは世界で絶賛されるエンタテインメントショーであり、その興業に暗い裏稼業を
  窺わせることは無いようだ。もっともそうした事実の目撃者や内偵者が蒸発している可能性もあるが……。
 ④ではサーカスが安全な娯楽かというと、公演の夜は危険な香りに満ちている。
  観客が行方不明となる(奇術で消され、しばらく・・・・帰ってこない)等は日常茶飯事。
  もっとも観客の多くは極限のスリルを求めてやってくる同国民のため、大きな問題になることは少ない。
  何事であれ、望み、手に入れることには対価を求められるものなのだから。
 ⑤「真夜中のサーカス団」ペイルムーンと恐怖劇場『グラン゠ギニョール』の関係について。
  どちらにもダイアフルドールの製作者アンドロルドが一枚噛んでいるのは間違い無いようだが、
  サーカスは「永遠の夜宴」の魔王がパトロンであり、恐怖劇場の主アンドロルドとの関係について
  明確な情報はない。

 最後に、天輪聖紀に入ってこれまでに行われたペイルムーン海外興業の中で、特に物議を醸したのが
 ケテルサンクチュアリ公演であったことを申し添えておく。
 まるで臨戦状態とまで言われた騎士団の警戒も、ペイルムーンの行く先と当地の要人失踪との関係を匂わす
 優位なデータがある以上、至極当然のものと言えるかもしれない。


“天輪聖紀の現在、ダークステイツの傭兵隊長もスマホを普段使いしてる”事については
 →ユニットストーリー157「天意壊崩プロヴィデンス・ディソーダー バロウマグネス」
 にバロウマグネスのコメントがある。

ダイアフルドール・マスター アンドロルドと恐怖劇場『グラン゠ギニョール』のダイアフルドールについては
 →ユニットストーリー142 「ダイアフルドール・マスター アンドロルド」および同《今回の一口用語メモ》
 も参照のこと。

ダークステイツのサーカス団とペイルムーンについては
 →ユニットストーリー007「高層の曲芸師アップワード・アクロバット マージョリー」および同《今回の一口用語メモ》
 を参照のこと。

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本文:金子良馬
世界観監修:中村聡