ユニット
Unit
短編小説「ユニットストーリー」
Illust:絵西〔テロップ:腕利き整備士 フェイフィル/ブリッツ・インダストリー中央整備工場勤務〕
インタビュー?ブリッツCEOのご指名で?あたしに?
話すのは得意じゃないんだよね。他を当たりなって。
「ノヴァグラップルの裏方に光を当てる番組」……ふーん。
あぁ、メイティーナの動画なら見た。いい娘だろ。学校終わってすぐにこんな所まで差し入れてくれるんだよ。あの配信後からベンダーの売上爆増だってさ。やるじゃんCEO。
食事?あぁ、弁当で済ませちゃうかな。
あたしたち整備士の居場所はここ、格納庫だから。
そう「整備」。これが仕事。忙しいよ、いつも。
喋っても手は止めない。整備長にドヤされちまう。
人型機動兵器っていうのはさ。こうして注意深く隅々まで点検して、くたびれた部品交換して、悪い所直して……ちょっとアンタ、ここ支えててくれる?……で、結局のところ、バトロイドって手をかけた分だけ良くなるし、ごまかしは利かない。あたしの腕の見せ所ってヤツ。
依頼があったら即決だ。「いいよ。その仕事、あたしが請け負った!」ってね。期待には応えたいじゃん。
あぁ。もうパネル離して大丈夫だよ。助かった。ありがと。
さぁて、これで一丁上がり!危ないから退がってて。
「発進OK!ブリッツ新型の凄さ、見せてやんなよ、ヘルデンタート!」
〔耳をつんざく噴射音〕
ふー。ぶっ飛んでっちまった。頑張れ、あたしのバトロイド。
な?話聞いてもつまんなかっただろ。そんなことない?……おだてたってダメだよ。
さぁもう行った行った!
表にはもっと楽しく話せる娘がたくさんいるんだし。あたしの頭ん中は、いつも可愛いメカのことでいっぱいなんだからさ。
じゃあな。また来なよ。
Illust:イシバシヨウスケ〔テロップ:プリティアシスタント フレミィ/ノヴァグラップル ラウンドガール〕
「ラウンド2!」
〔やや遅れてゴング。沸きあがる歓声〕
ふー、お疲れさまー。インタビュー?試合見ながらでいいかな。
右!右!ホラ、そこっ!
ボクシングって、いいよね。
どんな宇宙大艦隊戦より、わたしは好き。
ワン・ツゥ!
ん、何?このあとのバトロイド戦が予想閲覧数爆上がりだから、そっちが見たい?
悪いけどお兄さん、あなたノヴァグラップルは素人よね。
クレイ世界ヘビーディビジョンタイトルマッチ、舐めちゃダメよ。
きゃーっ!
〔歓声。赤ダウン。カウント開始……辛うじて立ちあがる〕
闘技場級ってね。実は今でも一番、生観戦チケットが売れてるの。
研ぎ澄まされた感覚!鍛え上げた肉体!技術の応酬!
ライブの興奮って、他では味わえないものがあるもんね。くぅーっ!
あーっ……。
〔歓声。青スリップ。ノーダウンをアピールしながら立ちあがる〕
一喜一憂?のめりこんでる?
そうね。リングの上と下ではあるけど、わたしたちラウンドガールも戦っているのよ。
それにせっかく来てくれたんだから、熱い闘技でお客さんに盛り上がってもらいたいじゃない。
じゃあね。楽しんで!
〔ゴング!フレミィ、ラウンドボードを抱えてリングに颯爽と入場。そしてウインク&投げキッス〕
「ハーイ、みんな!勝負はまだまだこれから。目を離しちゃイ・ヤ・ヨ♡」
Illust:けんこ
Illust:ゆずしお〔テロップ:ブリッツセールス アスティル/ブリッツ・インダストリー プレゼンルーム〕
セミファイナルマッチのバトロイド戦は、スプラシィ・アウトスタンダーの勝利。
ビームサーベルで一薙ぎ、鮮やかなフィニッシュでしたね。
誰よりも注目を浴びる。それが彼の勝利条件です。
まもなく会場からCEOも戻ります。
お待たせいたしまして大変恐縮ではございますが、ここで本日次の対戦、闘技場級のメインイベントで登場いたします弊社の『ブリッツネオモビル ヘルデンタート』について、ご説明させていただきます。
モニターをご覧ください。評価飛行の模様です。
ヘルデンタートは、我がブリッツ・インダストリーの最新鋭バトロイドであります。
その機動性。
〔画面:追尾してくるミサイル群を高速機動で回避、爆煙の間をすり抜けて飛行するヘルデンタート〕
俊敏性。
〔画面:ヘルデンタート、回避しきれなかった1発のミサイルを左腕で弾くと……〕
防御力。
〔画面:誘爆に巻き込まれたかと思いきや、爆発の中から無傷のヘルデンタートが飛び出す〕
そして攻撃力。
〔画面:ビームライフルを連射すると、次々と破壊される標的〕
いかがでしょう。
人型機動兵器に求められる全ての性能を矛盾なく、最高レベルで実装いたしました。
それがヘルデンタート。
ブリッツネオモビル ヘルデンタートなのです。
もう一つ。
CEOが到着しないうちに、皆様だけにお知らせしておきましょう。
このヘルデンタートは試験段階からヴェルストラCEOが気に入りましてね。実は、これまでも護衛機として一緒に世界を飛び回っています。
ここで注目すべきは──皆さんもご存じの通り──CEOは自力で超高速飛行が可能ですが、運命者であるヴェルストラと並んで飛べるほど、ヘルデンタートは優秀です。
世界に冠たる我が社の技術力に、運命力科学の結晶であるブリッツ・アームズとヴェルストラCEOとの飛行データがフィードバックされたバトロイド。新型でありながらベテラン機。これこそがブリッツネオモビル ヘルデンタートの真の魅力なのです。
本人は「オレの遊びで連れ回しているだけだから」と言ってこれを宣伝材料にはしていません。こういう事には厳しいのです。
噂をすれば、CEOが到着したようです。
……いま僕が言ったことは、くれぐれも内密でお願いしますね。
〔テロップ:ボーダーコリー系獣人アスティル。新製品のPRにおいて、彼の右に出る者はいない〕
Illust:ToMo【ノヴァグラップル 闘技場級メインイベント】
機動性!
〔追尾してくるミサイル群を高速機動で回避、爆煙の間をすり抜けて飛行するヘルデンタート〕
俊敏性!
〔ヘルデンタート、回避しきれなかった1発のミサイルを左腕で弾くと……〕
防御力!
〔誘爆に巻き込まれたかと思いきや、爆発の中から無傷のヘルデンタートが飛び出す〕
そして攻撃力!
〔ビームライフルを連射すると、次々と破壊される敵機〕
見たか!全機撃墜!
〔警告音 Pi──!!!〕
敵機後方!
チッ!1機撃ち漏らすとは気が散ってたな。
だからイヤだったんだぜ。この装着通信ってヤツ!喋りながらドッグファイトなんてできるかっての!
あぁ、聞こえてるよ。お客さんの歓声。
観てるそっちは楽しいだろうけど、こっちはロックオンされそうなんだ。
ちょっとの間、集中させてくれよ。
ミサイル接近!フレア!
〔射出音が連続し、誘爆。警告音が消える〕
当たるかよぉ!
〔ビームライフルを速射〕
こっちも当たらねぇや!勝手に笑ってろよ、もう……。
だが敵も凄腕だ。簡単には墜とせない。
……となれば一か八か!
〔噴射音。急激なGにコクピットと機体がきしむ〕
いま、急・降・下・中……だ。都市ドーム、の、影に。
〔スピードが落ちる。が、接近警報!〕
やかましい!ドームにぶつかって墜ちるかビームを受けて墜ちるかだ!
見てろよ!シールド投棄!
〔ミサイル接近。しかし破壊されたのは分離したシールドのみ〕
引っかかった!
さぁ、最後に見ときな。オフハンド・シューティング。この構えなら外さねぇ。
墜ちろ!
〔ビームライフル、照準射撃。1発目は敵機バトロイドの足に、2発目が都市ドームに曲面反射して……〕
命中!
残機撃墜!!
〔ファンファーレ!観客の大歓声!〕
闘技終了!
嘆息。
「……ブリッツ1(ワン)帰投する。賞金はオレのもんだ」
ああ、忘れてた。
「本部。格納庫のみんなに言ってシャンパンを用意させといてくれ。……いや、オレじゃない。腕利き整備士とヘルデンタートに浴びせる、とびきりのヤツをさ」
了
※註.ボーダーコリーは地球の酷似した犬種の名称を使用した。祝い酒のシャンパンの慣習と種類も同様。また、惑星クレイにも地球とまったく同じルールのスポーツとして、ボクシングが存在する。ただしノヴァグラップルは級で分けられているため、ディビジョンが(地球の英語に訳した場合の)階級となっている※
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ノヴァグラップルを支える人々と組織
エンディアリング・ベンダー メイティーナ、腕利き整備士 フェイフィル、プリティアシスタント フレミィ。
売り子、整備士、ラウンドガール。今回までに触れられた人々は種族も担当も場所もそれぞれ違うが、いずれもノヴァグラップルを支える大事なスタッフである。
現在、宇宙的人気を誇る一大バトルイベントとなっているノヴァグラップルは、当然ながら、ステージで戦う闘士だけでは成り立たない。
今回はノヴァグラップルに関わる組織を概観しながら、関わる人々の役割を見ていこう。
ノヴァグラップルを成立させている組織を系統立てると、下記のようになる。
①グラップラー&サポート
②マネージメント、イベント運営
③アイテム
④ステージ
⑤医療
⑥スタジアム&フード
⑦映像制作、配信
⑧デザイン、演出、広報、マーケティング
⑨ジャッジ&法務
もちろん上の分類は非常に大まかな分け方であり、実際にはもっと細分化され、複雑な相互関係にある。
では、ひとつずつ見てみよう。
①グラップラー&サポート
:選手とサポートスタッフに関わること全てがこれに当たる。
ノヴァグラップルは、最小単位の闘いであっても、大会側のサポートが全くないという事はありえない。
後述する撮影と配信、競技ごとのルール通達と合意、コスチュームや武装、対戦用具などの調達などからも
きちんとした枠組みがなければ、競技は容易に無法地帯となってしまう。
このあたりが、ダークステイツのギャロウズボールとの違いといえるだろう。
②マネージメント、イベント運営
:自薦であれ他薦であれ、大会側のスカウトであれ、闘士は
ノヴァグラップルに参加している間、イベント運営側の指示に従わなければならない。
ただし、これは窮屈なものではなく、闘士の練習から本番までをサポートし、
競技に臨みやすいように環境を整えるのが主旨で、大きな不満が出た例はほとんどない。
また報酬と経費についても同様で、大会参加中はマネージメント側からすべての経費が出る上に、
(厳正な監視ルールの下で、という条件はつくが)なんと自分自身に賭けることもできる。
ノヴァグラップルは個人からも組織からも、膨大なスポンサー資金を集めて運営されている。
利益を見える形であげなければいけないマネージメントは責任が重いのだ。
なお収益化の観点からいうと、ノヴァグラップルで最大の利益を上げているのは
宇宙規模の広がりを見せる『放映権料』である。
③アイテム
:興味深いことに、ノヴァグラップルでは全ての武装と戦闘用具をアイテムと呼ぶ。
ボクシンググローブや魔法使いの杖、バトロイド、宇宙戦艦までグラップルに関わる装備の全てと、またそれぞれを構成する部品も「アイテム」である。
一説によれば、これは映画や舞台に似た管理方法であり、闘士は役者、武器は道具と考えるとわかりやすい。後述する通り、ノヴァグラップルは興行であり、殺し合いではないのだ。
なおメカニックの整備と管理もこの部門に入っている。
④ステージ
:ノヴァグラップルで通がもっとも評価するのがこのステージ部門だ。
ノヴァグラップルではどんなに派手な撃ち合いでステージが破壊されても、翌日には元通りに修復される。
すでに他で解説しているので割愛するが、これはブリッツ・インダストリーの力技なのだ。
⑤医療
:ステージと並んで、その超回復力に注目されるのが医療部門。
全力で強豪闘士が衝突するのだから、怪我はつきもの。
各ステージには優秀な医師と医療スタッフ、そして充実した医療器具と病院も造られている。
⑥スタジアム&フード
:観客がもっとも身近に触れあうのが会場スタッフ。
ノヴァグラップルのスタジアムフードはどこも美味しいと評判。
噂によれば美食家としても知られる某有力スポンサーCEOが味見という名の監修をしているとか。
清掃もこの部門に入る。落とし物をしても必ず持ち主に戻されるということで、こちらも好評である。
⑦映像制作、配信
:地味だがこの部門とスタッフがなければ、全世界と外宇宙にまでグラップルの配信が届くことはない。
リポーターやMCもこの部門の所属であり、グラップルは昼夜を問わず、切れ目なくクレイ惑星圏の
どこかで行われているため、忙しさという点では整備士やステージ修理・設営スタッフと並ぶ激務である。
⑧デザイン、演出、広報、マーケティング
:この4つを1つにまとめるのはやや乱暴だが「ノヴァグラップルの顔を決める」ということでは
共通点がある。コスチュームやペイントを用意し、照明や地形効果を設定し、ポスターやイメージビジュアル
を決め、それを最適なタイミングと視聴者層に向けて発信する。
実はひとつのチームのように連携していないといけない部門でもある。
⑨ジャッジ&法務
:ノヴァグラップルと法律というと意外な組み合わせに思われるかもしれない。
だが「対戦は派手だが、闘士も観客も安全に楽しめること」をモットーとする
ノヴァグラップルでは試合ルール、勝利条件と違反条項が徹底されている。
そして闘技スペースとなる場所では、必ずその国の認可と安全基準を満たす必要がある。
さらに、ノヴァグラップルはその競技運営の巨大さとスピード故に、犯罪者や悪人が紛れ込むケースもある。
法務はノヴァグラップルが清廉潔白であることを保つために、各捜査機関とも連携している。
なおノヴァグラップルの賭けも、この法務部門によって不正がないように厳しく監視されている。
ノヴァグラップルとブリッツ・インダストリーについては
→ユニットストーリー067 世界樹篇「ブリッツCEO ヴェルストラ」を参照のこと。
ノヴァグラップルとバトロイドについては
→ユニットストーリー010「グラナロート・フェアティガー」
ユニットストーリー050「軋む世界のレディヒーラー」および《今回の一口用語メモ》を参照のこと。
ノヴァグラップルとサポートスタッフ、また「賭け」については
→ユニットストーリー198「スパトレス・クリーナー リジェリア」および《今回の一口用語メモ》
を参照のこと。
ノヴァグラップルに犯罪者や悪人が紛れ込むケースについては
→ユニットストーリー010「グラナロート・フェアティガー」を参照のこと。
ノヴァグラップルのバトロイド格納庫については
→ユニットストーリー079「アーベント・ローバスト」
を参照のこと。
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本文:金子良馬
世界観監修:中村聡
世界観監修:中村聡