ユニット
Unit
短編小説「ユニットストーリー」
Illust:トビ丸小夏真夜中、ダークステイツを歩く時には気をつけな。
瘴気たちこめる寒空の下、港町の入り組んだ路地にうろついてるなんて、ヤバイ奴に決まってるんだから。
……ホラ見ろ、あれ。横丁の階段のとこ。
ぱっと見、ただの犬の散歩だと思うじゃねぇか(前にも言ったけどオレって愛犬家だからさ。どうしても目で追っちゃうんだよな)。
ところがリード持ってるのはゴースト。周りに人魂もフワフワ浮いてる。白いワンちゃんはスケルトンだぜ。そして裏路地に面した窓によぎる不気味な影。怖ぇよな。よい子は早く寝ちまいなよ。
怪しげな輩や亡霊、骸骨、魔物が群れる夜。
これぞ闇の国!オレがずっと慣れ親しんできた光景なんだ。
……と、ここでオレの前を歩いてる少年が口を開いた。
「もうすぐ町の外れに出ます。警戒して。……僕の言ってる事ちゃんと聞いていますか、バロウマグネス?」
あ?
オレ──こと天意壊崩バロウマグネス──は耳を指でほじりながら少年を振り返った。いけね。昼間眺めたインヴァースの水着姿を思い出してたせいで、聞き逃した。
「時間が迫っています。急いでください。あと雇い主の言うことはきちんと聞くこと!プロなんですから」
暗がりで赤く光るプロディジーの目はちょっと怒ってる。
オレと同じ人間だが、明らかに魔力を帯びた眼だ。
そいつの服は上から下までバッチリ決まっていて、手に持ってる宝玉の付いた杖も合わせれば、どこからどう見ても“魔法学校の生徒”そのもの。14って言ってたか。年齢の割にはしっかりしてるぜ。
まぁ実際、ソーマタージ・プロディジーの名が示す通り、この魔法使いの小僧の先導は大したもんだった。オレ同様、初めて訪れたこのトマイの港町の入り組んだ路地を、杖に灯した淡い光だけを頼りに、一度も立ち止まることなく早足で通り過ぎていく。
潮の匂いが強くなってきた。確かに、もう海岸が近いらしい。
「隠れて!」
プロディジーの声で、オレも民家の壁にぴたりと身体を寄せた。標的か?
「いましたよ、バロウマグネス。第1の悪魔です」
おいおい。こんな調子でコチョコチョ喋り続けられたら、戦場じゃ命がいくつあっても足りないぜ。オレは天を仰いだ。こいつにゃ早くハンドサイン教えねぇとな。
「ね!本当に聞こえてます?」
しつけぇよ。オレはプロだぜ。いい加減イラついてきたから腹話術で答えてやった。
『声を落とせよ!聞こえてるって。ターゲットの前であんま喋んな』
耳のすぐ横で、少し離れたオレの声がしたことにびっくりした様子のプロディジー。
まぁこれも傭兵の技の一つって所だ。唇を動かさず喋るこの技術は、慣れれば方向や人数まで相手に誤認させることもできる。意外と役に立つんだぜ。
『“岬の悪魔が守るもの”を突き止める。それがオマエの課外学習ってヤツなんだろ』
プロディジーは頷くと、杖を構えて民家の角から浜辺を伺った。
淡い光の下、第1の月が照らし出したのは、青い肌に長く伸びた鋭い爪。典型的な男の悪魔だった。
Illust:つのびんオレたち東部ダークステイツ傭兵団が冬のバカンスに選んだのは、暗黒地方の東の果て、トマイの町だった。
ここは低い緯度と暖流のおかげ(なんだとよ。インヴァースによれば)で人気の保養地なんだ。
皆にも見せてやりたかったぜ、荒くれ傭兵どもを率いて添乗員よろしく、海岸に先導していく幻想の奇術師カーティスの姿をよ。あいつ、インヴァースに管理業務まかせて表に出てこなくなったと思ったら、膨れ上がるオレたち傭兵団部隊の大元締めに成り上がってやんの。斡旋係から大した出世だね。まぁオレたち、明日の命の保証もない傭兵の心をがっちり掴んでいるのだけは認めてやる。
「こういう休暇なんて、あんたには退屈でしょ。バロウマグネス」
ビーチチェアのアトラクト・インヴァースがサングラスを光らせながら、不意に振り向いた。
彼女のナイスバディを惚れ惚れ眺めていたオレは、ぴょんとチェアに正しく座り直すとゴーグルで目線を隠し、くつろぐフリをした。
「へっ。ベテランこそ、休暇を心から楽しむもんだぜ」
ふぅーんと言いながらカクテルを傾けるインヴァース。
整った顔、勝ち気な表情、抜群のスタイルとそれを引き立たせる水着のデザイン、パラソルごしの強い陽の光までが完璧に絵になってる。何しろダークステイツの魔王たちからモデルのオファーが殺到するくらいだから。あ、これは132「奇跡の運命者 レザエルII」でも言ったよな。
「そんなベテランさんにアルバイトのお誘い。興味ある?」
彼女はピッと指先に折りたたんだメモを取り出し、オレに差し出した。
「それより今夜のデートだろうが。グロウシルトまでひとっ飛びして、カジノで派手に楽しもうぜ」とオレ。
「派手な賭けには元手が必要でしょう。現金で」
ふむ。オレは少し考えた。一理ある。
カジノで信用枠が持てるのは富豪やVIPだけだ。オレたち傭兵は高給取りだけど、社会的な“信用”なんて無縁だ。となると現ナマにものを言わせるわけだけど、現金って持ち歩くには不便だから大抵は「カーティス金庫」でツケ払い。つまり今、手持ちは少し心許ないわけだ。
「アルバイトね。だが、オレたちは高いぜ。何人雇えるかな」
「それは心配しないで」
インヴァースは優雅に起きあがった。揺れるでかいバスト、見事なウェスト&ヒップライン。見飽きることが無い完璧なプロポーション。オレの視線はもう……いや、オマエだって見るだろ。彼女の怒りの重力を喰らわない程度には、こう、チラ見というかガン見というか。
「あんた一人のみのご指名。依頼主は可愛い~天才魔法少年よ。キャッチフレーズは『太古の魔法も諳んじる、紛うことなき才能の塊』。あんたとあの子、うまくやれると良いけど」
インヴァースの色っぽい流し目。
はぁぁ?何だそりぁ!オレは派手に顔をしかめて、口を突き出した。
Illust:寿ノ原「で、こいつシメちゃっていいのかぁ?可愛い~天才魔法少年さんよぉ」
オレは悪魔の背中を踏んづけでぐりぐりしながら、少年に尋ねた。
「こ、このインクレメント・アングワールを足蹴にするとは……」
スーツ姿の青白悪魔は悔しげに爪をカチカチ触れ合わせていた。プライド高そうだな。
「すまねぇな。あんたが弱いんじゃないぜ。インヴァースが妙な言い方してたからムカついて、ちょっと本気出しちまった」
とオレ。実際、不意打ち(見えない重力の拳でギュッとワシ掴み。こりゃ痛いぜぇ)じゃなければもっと手間取ったはずの相手だった。お世辞じゃない。
「離してあげてください。もう聞きたいことはありませんし、テリトリーを侵したのは僕らの方です」
だとよ。オレは足を離すと、青白悪魔アングワールは恨みがましい眼でオレを睨みながら、よろよろ町の方へ去って行った。手加減したし、悪魔なんだ。一晩ならぬ一昼寝てりゃ怪我や痛みも消えるだろ。
「ところで天才魔法少年」「僕の名前はソーマタージ・プロディジー」「長ぇーよ。じゃプロディな」「ジーしか減っていないでしょう。絶対、プロディジーのままで」
わかったよ。オレは頭をかいて少年に向き直った。
「プロディジー。大枚はたいて、このオレご指名で雇ったのは。悪魔を瞬殺できるからじゃないだろ。そろそろ聞かせろよ」「何を?」「オマエの狙い」「言ったでしょう。“悪魔の探求”です」「それがオマエの課題なのか。魔法学校の、飛び級のための」「えぇ。進級試験です」
プロディジーは頷いた。
「オマエがあの悪魔……なんだっけ?」「インクレメント・アングワール。意味は『無慈悲なる鉤爪』です」「そう。その悪魔から聞き出したのは“地点”。何か場所を特定する手掛かりだよな」
再びプロディジーが頷く。
「宝探しでもしてるのか?それとも悪魔退治でポイント貯めるとか」「これはスマートフォンのゲームではありません」(ダークステイツでもいまや一部の連中はスマホを持っている。157 「天意壊崩 バロウマグネス」をチェックだぜ)「ゲームみたいなもんだろうが。オレっていうチートを課金して手に入れて」「……」「そもそも魔法学校の課題ってのはチートありなのか」「我が国は実力主義です。僕の学校も」「まぁ、金も力だよな。たくさん小遣いくれる親に感謝しな」
プロディジーがちょっと赤い目を伏せたので、オレは話題を戻した。こういうつまんねぇ事で少年を責めるのは本意じゃない。
「まぁ、目的はいいや。そのうち話してもらうから。それで、次のお相手はあれか」「!」
オレが岩礁に姿を表したそいつを、顎で指した。
──こっからは後で聞いた話だ。
この時、オレはちょっとワケありでさ。
Illust:ヨシヤ「この音が嫌い?ふぅん、あなた『いい人』なのね」
鬼哭の琴音ダナヴァが爪弾く音に顔をしかめながら、僕──ことソーマタージ・プロディジーは答えた。
「君の竪琴は……何だろう。叱られた日に聞いた、窓を叩く風の音みたいだ」
「悪魔の夜想曲だから。人間にとっては不気味で、不安と怯えを掻き立てられて辛いはず。それで?あなたの目的は“悪魔の探求”?珍しいね」
「君は心が……?」「読めるわ。音を奏でている間、少しだけ」
悪魔ダナヴァは目を閉じて、演奏に集中した。
「邪魔してごめんね。君たちはただこの場所にいて、暮らしているだけなのに」「やっぱり『いい人』だ」
「いや、そんな」僕は首を振って続けた。
「進級試験のためだから」
「それは嘘ね」
ダナヴァはまっすぐに見つめ、僕は軽く息を飲んだ。
Illust:п猫R「殴り倒し、殴り飛ばし、殴り潰す。それが俺様の美学!」
あぁ!ムダに熱い悪魔野郎だぜ。
オレは陶酔の剛拳マシュキムが放った悪魔の鉄拳を、重力を盾にし、両手をクロスして受けた。
ってことでお待たせ、これがワケありのワケだ。
プロディジーがのんびり竪琴の悪魔ダナヴァと話してる間に、背後に忍び寄る影があったからガードしたんだ。ったく、あの魔法学校の坊ちゃん、後ろスキだらけなんだからな。
港町トマイの対岸にある島の名前は(地図を参照だ)「魔指岬」。ドラゴニア海を指差してるみたいな形だよな。
で、夜中になるとこの魔指岬から、悪魔が潮の引いた岩礁を伝ってゾロっゾロ上陸してくるので有名らしい。ただオレたちみたいに秘密を探ったりケンカ吹っかけでもしない限り、危険なことはないみたいだ。だから普通の街以上に、夜になるとみんな厳重に戸を閉めて、寝ちまうんだな。
昼のトマイは綺麗な砂浜に海水浴客(つまりオレたち東部ダークステイツ傭兵団ご一行様など)が押し寄せるけど、夜は悪魔の天下。これがプロディジー坊やの言う「テリトリー」ってわけだ。
「でもおかしいじゃねぇか。飛べるヤツもいるだろうによ。ここの悪魔は腰抜けか?」
オレは重力の拳を繰り出しながら挑発した。
が、剛拳の悪魔マシュキムは動じなかった。苦い笑いを浮かべただけで、またごっついパンチを繰り出してくる。で、オレは避ける。そうそう喰らってばかりもいられねぇからな。
はぁ。請けたバイトとはいえ、今ごろ傭兵団の連中はふかふかベッドでおねんねだろ。嘆息が出るぜ。
せめてもの慰めはインヴァースとのカジノデートだよな。すげーセクシーだったなぁ、昼の水着姿。
ん?
「あぁ。なーるほど」「?!」
オレはジャブを止めることにした。不穏な雰囲気に剛拳の悪魔マシュキムの表情が変わる。
「とりあえずアンタにゃ、ちょっと黙っててもらうぜ」「なんだと?!」
ゴゴゴゴ……。
浜辺の砂が浮き上がってくる。
「な、なんだ?」「へッへッへー、呼ばれたからにはこれくらいやらないとスッキリしねぇよなぁ」
オレはとびきり邪悪な笑いを浮かべた。陶酔の剛拳マシュキムがビビる。
「これがオレの世界だ――磁極正転・天意壊崩ッ!!」
そして砂浜は地形ごと舞い上がり、グチャグチャにかき混ぜられ、そして崩落した。
Illust:Moopic──少し前。
耐えながら聴いていると、鬼哭の琴音ダナヴァの音色もそう気分の悪いものではないと思えるようになっていた。
「慣れてきたのね。ではそろそろ聞かせて」「何を」
「あなたの本当の目的。というか、なんで進級試験の課題にここを選んだの?山奥の悪魔城でも魔都グロウシルトの悪魔街でも良かったでしょう」
僕は少し黙って、そして答えることにした。
「先絶つ邪念」
「“明らかな未来ほど、つまらぬモノも無いだろう”」
打てば響くようにダナヴァも答え、そして続けた。
「高度な悪魔召喚をしようすると見る幻視。有名な『悪魔の啓示』ね。ご家族が悪魔学に詳しいの?」
そうだよ。父が召喚師なんだ、と僕は頷いた。
「父さんの部屋でね。本を読み尽くしてしまって、最後に残った禁書をこっそり開けてみたら……」
「行く末に待つ、悪魔と地獄を見た」
「あの幻視は僕に『これ以上進むのなら、覚悟を決めろ』って伝えているような気がして」
「悪魔に関わる魔術の階梯ってそんなものよ。秘儀を深く突き詰めることは、常に生命と精神の危機と隣り合わせ」
「でも僕は、進んでみたい」
「それで魔指岬の悪魔たちに会いに来たの」
「“秘儀の門を守るため、夜に封じられた悪魔”。そうだよね?僕はその門の向こうに、新しい知識が隠されていると思うんだ」
僕は一拍おいて尋ねた。
「第1の悪魔、インクレメント・アングワールは『門は島にある』とだけ教えてくれた。もっと詳しく教えてくれないか」
ダナヴァは嘆息をついた。竪琴の音が止まる。
「知りたいという欲には果てが無いのね」
ここで僕らは空間と重力の異常を感じたんだ。バロウマグネスの叫びも。
『これがオレの世界だ――磁極正転・天意壊崩ッ!!』
Illust:桂福蔵「おーい!プロディ坊や!」
「ソーマタージ・プロディジーです!坊やは止めてくださーい!」
オレが大声で呼びかけると、プロディジーのヤツは(オマエ竪琴の悪魔と話し中だったろうによ)即反論して駆け寄ってきやがった。
「わかったぜ。ここの悪魔の秘密!」
オレは得意に胸を張ると、足元で気絶している陶酔の剛拳マシュキムの背中を足でまたぐりぐり踏みつけた。
「“秘儀の門を守るため、夜に封じられた悪魔”たちなんですよ。それは調べて知っていました」
と魔法少年プロディジー。なんだよ、早く言えっての!
そして続くセリフにオレはつんのめりそうになった。
「お疲れさまでした。仕事はここまでで結構です」
「あ?何言ってんだよ。最後までやりきろうぜ」とオレ。
「あなたは本当に傭兵年鑑の通りなんですね。あのディアブロス“悪魔”ブルースともご友人と聞いたので、相性がいいかと期待していたのですが……」
プロディジーは嘆息をついた。
うわ、あの記事まだ削除依頼が反映されてないのかよ!インヴァースが辛口コメントを入れた傭兵年鑑については103「麗酷なる魔公子 バティム」。それからええっと、オレが尊敬する悪魔の兄貴ブルースとの出会いは074「アトラクト・インヴァース」、それとついでにオレとバチバチ火花を散らす不仲の悪魔栄耀総裁モラクスについては157「天意壊崩 バロウマグネス」を見てくれ。はぁ、疲れた。
「秘密の知識の門はあの島の中にあるんだろ?バーッと行って、ドカーンとぶっ飛ばして……」
「それがまずいんです。僕も最初は、彼女たちが敵だと思っていたのですが」
その視線の先には、岩礁の上で竪琴を弾く鬼哭の琴音ダナヴァがいた。その音色はオレには心地よく聞こえる。(後で聞いたけれど、つまりこれはオレが“悪人”ってことなのか?)
「ここに留まって、家を借りて生活しながら、もっと時間をかけて謎と彼女たちの守るものの正体を……」
「研究したいってワケか」
フフン、とオレは鼻を鳴らした。
実はちょっと感心してるんだ。プロディジーは探るだけでなく、相手の事情を理解するってことも覚えたんだな。
まぁこいつやインヴァースの言うとおり、力押し一辺倒のオレじゃできない芸当だ。
「じゃあ学校は休学か、せっかく良い学校入れたのに親御さんが泣くぜぇ。でも頑張れよ、ソーマタージ・プロディジー」
オレがヤツの頭を軽く叩くと、天才魔法少年は目を丸くした。
フルネームで呼んだからか、オレがあっさり身を引いたからか、それとも励ましたからか。
「あの……色々、ありがとうございました。天意壊崩バロウマグネス」
あー、違う違う。オレはチッチッと指を振った。
「契約は終わったんだ。ただのバロウマグネスでいいぜ」
「うん。どうもありがとう、バロウマグネス」
プロディジーはぱっと良い笑顔になった。可愛いじゃん、こいつ。
「荒っぽい事が必要になったらまた呼んでくれや。じゃあな!」
オレは天才魔法少年と悪魔たちに二本指で敬礼して、振り向かず街へと歩き出した。
な、うまくやれたろ。インヴァース。
あいつからもらったギャラ。明日はカジノで、ぱーっと使っちまおうぜ。
これで退屈な休暇ともオサラバさ。

了
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《今回の一口用語メモ》
闇の国ダークステイツと、魔法を学ぶ道
ダークステイツは瘴気たちこめる、闇と魔物と魔法の国。
このうち闇と魔物は自然のもの。
残る「魔法」こそ運命力(瘴気)を源とし、クレイ世界では科学と並ぶ法則。現実世界に働きかけ、変化をもたらすもうひとつの力である。
※ちなみに、惑星クレイ世界では魔法よりも科学のほうが歴史が古い。
これについては、世界観コラム ─ 解説!惑星クレイ史
第5章「弐神紀前期 ~神格「創世神メサイア」と魔法科学文明~」を参照のこと。
無秩序を絵に描いたような「力こそ正義」のダークステイツにおいて──意外にも──、魔法を学ぶことについては何通りもの系統だった道がある。
魔法は一見、人知を超える力のようでいて、実は制御可能なものだ。ただしそれにはほとんどの場合、地道な学習と訓練、知識の探求と秘技の追求が必要となる。まさに魔法に王道はないのだ。
代表的なものを挙げてみると
①家業を継ぐ/魔法使いへの弟子入り
②独学
③魔法学校
今回はそのうち、この3つについて解説してみよう。
①家業を継ぐ/魔法使いへの弟子入り
魔法使いは、魔法街や人里離れた土地など様々な場所に住んでいるが、名乗る職業もまた分かれている。
魔術師、妖術師、呪術師/まじない師、錬金術師、召喚師、合成術師……などなど。中には医術に近かったり、科学に近いものもあり、勝手に名乗っているものも含めるとその数は多く、ダークステイツ魔法省(これは天輪聖紀になってから創設されたものだ)も公式には分類していない。
ただ、そうした魔法使いの特徴として、魔術・魔法の技と力は秘伝であり、家族やごく身内、あるいは指定の誓いを交わした者にのみ継承されることがほとんどだ。
こうして魔法使いの弟子たちは、師匠から課せられる難題に頭を悩ませながら、いつか一人前になることを夢見て、厳しい日々の修行を送るのである。
②独学
自由奔放な実力主義のダークステイツでは、独学で大成した魔法使いも少なくない。
見よう見まねで失敗を繰り返しながら修得するもの。あるいは魔法使いになるために生まれてきて、誰に教えられるでもなく成長とともに優れた素養と力を振るう者(これはダークステイツを覆う瘴気が気まぐれに産み出した天才なのだろう)。古の墳墓で見つけた紙片や石碑から「力ある言葉/存在」と接触して学び取った者。魔法街に売られている書物を購入・実践する者。もっとダークステイツらしい方法として、魔法使いの持ち物を盗んで我が物とする方法もある(逃げ切れないと恐ろしい罰が当たるが)。
③魔法学校
ケテルサンクチュアリの神聖魔術学校やストイケイアの魔法学校、リリカルモナステリオ学園魔法学部など、惑星クレイ世界には魔法を学ぶ公的機関も多い。
そして魔法のいわば本場であるダークステイツにも、魔法使いが個人的に教える私塾、各地の魔王が運営する私立校、魔皇帝と魔法省が認可する公立校、幼稚園から大学院までの一貫教育システムがある全寮制学校まで、多くの魔法学校がある。
今回登場したソーマタージ・プロディジーは、その中でもエリート校出身のようだ。
ダークステイツにあっても、庶民は日々の生活のため働かねばならない。魔法はこの闇の国で生き残り、優位を勝ち取るための大いなる力だ。親もまた人生を切り拓く術を子に学ばせたい、良い師匠と良い教育をと願う気持ちは変わらないのだろう。
ダークステイツの魔術街と、そこで取引されている怪しげな物品について
→ユニットストーリー103「麗酷なる魔公子 バティム」
でも触れられている。
バロウマグネスが愛犬家であることは
→ユニットストーリー157 「天意壊崩 バロウマグネス」
に記述がある。
本編でも度々触れているが、バロウマグネスが登場するユニットストーリーは以下の通り。
ユニットストーリー006「重力の支配者 バロウマグネス」
ユニットストーリー018「異能摘出」
ユニットストーリー074「アトラクト・インヴァース」
ユニットストーリー103「麗酷なる魔公子 バティム」
ユニットストーリー132「奇跡の運命者 レザエルII 《在るべき未来》」
ユニットストーリー157「天意壊崩 バロウマグネス」
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本文:金子良馬
世界観監修:中村聡
世界観監修:中村聡