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短編小説「ユニットストーリー」
229幻真星戦編「決意と罪を抱く者 リィエル゠アニムス vs LettiaMateS マグノリア “幻影”」
リリカルモナステリオ


Illust:かわすみ


『MateS With U!!』
 カーテンコール。
 あかき月光の下、華々しいデビューを果たしたLettiaMateSレティアメイツのステージ。観客のボルテージは最高潮を迎えていた。
 歓声に応えるローテ、カリス、ラティス、そしてリーダーのマグノリア。
 サポートメンバーのアルピンやターヌゥ、シミエス、ディルアーシュの顔も上気している。
 リリカルモナステリオ特設野外ステージ。屋根付きのそれはライティングも音響も完璧だった。
 皆、このきらめく舞台の上でパフォーマンスできる喜びを噛みしめているのだ。
「ありがとうございます!またお会いいたしましょう!」
 獣人ワービーストアイドル マグノリアの声に、観客は湧き立った。
 袖に戻ると、真っ先にレギュラーメンバーがねぎらいの言葉をかけ合い、ハイタッチを交わす。
「お疲れさまー!」「すごく良かったよ!」「最高のスタートが切れたと思う」
 その中でそっと一人、マグノリアは喜びの輪を外れた。
 目配せするとラティスが笑顔で頷いてくれる。彼女は故郷にいた頃から気配りができる友達だった。
 今日、レティア大渓谷を中心に活動するローカルアイドルから始めて、このリリカルモナステリオのデビューライブまで、いつも一緒に過ごしてきた仲間だ。気心は知れている。

 バックステージ通路。
 アンコールが終わったというのに、会場の盛り上がりはここまで伝わってくる。
 マグノリアは心からの笑みを浮かべながら、廊下の奥にある扉までその柔らかい足で歩き、ノックした。
「どうぞ」
 ドアを開けると黒白二色の翼をもつ来客が、マグノリアを迎えるために立ちあがった所だった。
「ごめんなさい。お待たせしてしまって、リィエル」
「いいえ。こちらこそお時間ありがとう、マグノリア」
 向き合った2人は、旧知の仲のように微笑んだ。実際、現実世界でも彼女たちは親しかった。
 獣人アイドルが口を開く。
「今の名前で呼び合いましょう。私はリリカルモナステリオのファントムガーディアン、LettiaMateS マグノリア “幻影”。そしてあなたは……」
「決意と罪を抱く者リィエル゠アニムス」
 白と黒が一体となった天使は答え、かつての友の目をまっすぐに見つめた。
「あなたを倒し、在るべき世界を取り戻す者です」




 ──ズーガイア大陸北部、上空。
「レザエル、話を聞いてくれないか」
 奇跡の運命者レザエルは友の呼びかけに応じず、無言で先を急いでいた。
 目指すはファントムドーム『リリカルモナステリオ』。
 世界に愛と歌と平和を運んでいたあの空飛ぶクジラが、いまやそれ自身が白い霧をまとって移動し、幻世界の領域を広げる脅威となっているのだ。
「レザエル!」「聞きたくない!」
 やっとレザエルが口を開いた。医術に関しては沈着冷静、普段も周囲には温厚かつ親切なレザエルが、まして相手が月の試練以来、強い信頼で結ばれている奇跡の幻真獣リフィストールとなればこれは異例の事態である。
「なぜ教えてくれなかったのだ」「彼女がそう望んだからだ」「しかし……」「わかってくれ。それでも私は彼女が出発した後、できる限り早く君に伝えたのだ」「それでもオディウムを一人で行かせるなど!」「責めは甘んじて受ける。君が怒るのも当然だ」「あぁ怒っているとも!今までにないほどに」
 そう。レザエルは憤っている。
 今朝、病室を回診に訪れてみると、時の宿命者リィエル゠オディウムの姿はなく、替わりに窓辺にたたずむリフィストールの姿があったからだ。幻真獣いわく、
『レザエル。彼女はリリカルモナステリオに向かった』と。
 リリカルモナステリオは先日、幻世界に呑み込まれている。つまりそこは敵地のまっ只中を意味する。
 レザエルは即座に、後事とヴェイズルーグへの連絡をソエルに任せ、取るものも取りあえず、こうして空飛ぶクジラの停泊地を目指して飛んでいる。
「レザエル。彼女のことを、先に告げなかったのには理由がある」「……」
「言うまでもなく、君にとってリィエルは2000年もの間、恋焦がれた女性。たとえ似姿であっても想いの深さは変わらず、心は乱れる。君の優しさと愛の強さゆえに」「……」
 レザエルの今度の沈黙は拒否ではなく、友の指摘を受けてこれまでのことを省みているものだった。戦士リフィストールはあえて(惑星クレイの生物である天使)レザエルの心に訴えかけている。
「ブラグドマイヤーに滅ぼされた未来で死んだ君レザエルの運命力から生まれたアモルタ、消え去った絶望の未来の世界線の憎しみから生まれたオディウム。時空の囚われ人アモルタが聖竜ガブエリウスの力を得て、この世界に復帰したドラコニス。愛した人と同じ顔を持つ女性に出会い、あるいは戦い、その想いを受け止め、そしてまた姿を消す度に君は深く傷ついてきた。心が砕けそうになるほどに」
「君にそれを言われるとは……」
 レザエルはぽつりと呟いた。図星だった。対するリフィストールの答えには思いやりが感じられた。
「我ら幻真獣とて木石ぼくせきではない。共に戦う者として人の感情を知り、特に君レザエルの歩みもまた学んでいるのだ」
 ユナイテッドサンクチュアリの頃、レザエルとリィエルに起こった悲劇はいまや世界中で知られている。
「そして君が今、なりふり構わず助けに向かっているように、私の加護を得て変わった彼女の今の姿を見ればきっと、喜びと同時に激しく心乱れただろう」
「? 何を言っているのだ、リフィストール」
 レザエルは空中に静止した。リフィストールもそれにならって、静かな目で彼を見つめた。
「リリカルモナステリオに向かった彼女は、オディウムではない」
「オディウムではない?!しかし……」
「彼女の中で、もう一人のリィエルが目覚め、新しい姿となった」
「すまない、リフィストール。私にはまったく理解が……」
 リフィストールは友をなだめるように両腕を挙げた。こうなる事はわかっていた。この後に告げなければいけない事実も。
「彼女の今の名は、決意と罪を抱く者リィエル゠アニムス。その意識は……幻真星戦の直前に失踪したドラコニスのものなのだ」
「なんだと?!」
 レザエルの叫びがストイケイアの森の上空に響き渡った。


Illust:タカヤマトシアキ


 リリカルモナステリオ バックステージ、応接室。
 アイドル マグノリアは、柔らかい毛で覆われた手で器用に紅茶を淹れながら問いかけた。
「それでリィエル゠アニムス。今、目の前にいるあなたはオディウムですの?それともドラコニス?」
「話しているのはドラコニス……ガブエリウスの力を失ったのだから“アモルタ”という方が正しいかもしれないけど」
 マグノリアは興味深そうに目を細めた。
 確かに落ち着いた無駄のない話し方はマグノリアも知るドラコニスのものだけど、口調にはオディウムの活発さがある。
「ドラコニスは姿を消したはずでは」
「幾つもの条件が重なった結果だけど、起こったこと自体はまさに奇跡ね。実は、私アモルタはいなくなった訳ではなく、ずっとオディウムの中にいたの。レザエルも知らなかったことだけど」
 マグノリアは傾けていたカップをソーサーに戻しながら促した。
「興味深いですわ。説明してくださる?」
「リィエル=ドラコニスは、リィエル=アモルタに聖竜ガブエリウスがその力を分け与えることで、世界に定着できていた存在。だけど、魔王竜ガブエリウスの出現と同時に、聖竜ガブエリウスの力は消滅した」
「なるほど。ではその時に……」
「そう。アモルタへと戻った私は──ガブエリウスの力なしには本来この時間軸に存在できないので──実体を維持できず、消滅するはずだった。だから緊急避難したのよ、同じ存在を元にしたオディウムの身体に。でもそれが限界だった。私の意識はオディウムの奥深くで眠り続けるしかなかった。誰にも気づかれないほど弱く、静かにね」
「それがなぜ今、覚醒したのです。どのような理由で?」
「リフィストールのおかげよ。私が生まれた経緯について、あなたは知っているかしら?私は、ブラグドマイヤーに敗北したレザエルの運命力によって生まれた存在。故に、私の持つ運命力はレザエルと”全く同じもの”なの」
「では、リフィストールはそれを利用して」
「ええ。私の微弱な運命力に、病室を訪れたリフィストールだけが気づき、その加護をくれたおかげで覚醒できた。奇跡の運命力に、真の覚醒を遂げた奇跡の幻真獣が共鳴したのね。きっと」
「ようやく合点がいきましたわ。なぜ幻真獣を持たないあなたが、このファントムドームで元の意識を保っていられるのか。……ところで、オディウムは自分の身体を使われることに納得しているのかしら?」
「『道理で眠たいと思った。この分は貸しにしておいてあげる』、と言っていたわ」
「でも、いまレザエルと一緒ではないのですね。幻真獣も引き連れていない」
「リフィストールに、できるだけ黙っていて欲しいとお願いしたのよ。私から」
「それはなぜですの?」
 リィエル゠アニムスは一拍おいて答えた。
「まずは、あなたと私、2人だけで話したかったから」「私と?レザエルと一緒でも歓迎しましたわよ」「としてよね。それは」
 2人の間に、しばし沈黙が落ちた。
「私、このリリカルモナステリオにいられる事で満足しておりますのよ」「アイドルとして?」「それも含めて全て。ここには私が望んでいたものが全てありますもの。愛と平和。心許す友と一緒に目指す高見たかみ。……さて」
 獣人アイドル マグノリアはテーブルに、少し身を乗り出した。
「ここまで分かった上で、リィエル゠アニムスがこのリリカルモナステリオで私に望む事とは?」
「解決に向けて協力してもらいたいの。この現実と幻に別れた世界を」
「無理ですわ。幻真星戦は始まっているのですよ。個人としてどうであろうと、もうせめぎ合うことでしか決められない」
「マグノリアはどうなの。アイドルとしてここで暮らしてみて」
 その問いに、マグノリアはにっこりと笑った。
「とても幸せですわ。短い時間では説明しづらいけれど、この幻世界での私たちLettiaMateSメンバーは幼馴染みですの。レティア大渓谷生まれのね。現実世界の家臣のようではなく、気の置けないお友達」
 そしてそのマグノリア当人は、仕草や言葉遣いから察するに獣人社会の名家の生まれのようだった。
 リィエル゠アニムスはお茶を飲みながら、黙って聴いている。
「正直、ここまでは長かった。ローカルアイドルとはいったもののオファーも少なく、お金もなかったのです。だから本当に弱い獣が身を寄せ合うようにして暮らして、努力して、色んな所を回って、そしてとうとうこの地に来た空飛ぶクジラに出逢えて入学。さらにレッスンとテストを繰り返し繰り返し……ですから今日のデビューライブ、メンバーみんなの笑顔が眩しくって」
「でもそれは偽りの記憶」
 現実世界から来訪した白と黒の天使は優しく指摘した。
「いいえ。私にはこれこそが現実。長年の夢も仲間も手離したくない。あなたと戦うことになったとしても」
 幻世界の守り手ファントムガーディアンはまっすぐに、多くの名を持つ1人のリィエルを見つめた。
「あなたもここでレザエルと愛と平和の日々を過ごしませんか、とお誘いしたい所ですけれど、リィエル゠アニムス。答えはもうわかっています。私たちはやはり折り合えないようですわね」
「最初にも言ったけれど、私は在るべき世界を取り戻す。私はその決意と、かつて時間と空間のルールを破り世界を危うくした罪の意識を抱いて、ここに来たのだから。マグノリア」
「わかりました。では」
 2人は申し合わせたように同時に、そして優雅に立ちあがった。
「「決着をつけましょう」」


Illust:辰馬大助


 リリカルモナステリオのファントムドームは、空飛ぶクジラに備わった元の透明な天蓋を半球状の白い霧が覆っていた。
 その境界から距離を置いて、レザエルとリフィストールを待つ人影があった。
「アニムスに同行してもらっていた護衛だ」
「「刻天想命こくてんそうめいウルト&ルエル」」
 リフィストールの紹介に、ギアロイドの剣士ウルトとケテルの天使ルエルが、声を揃えて一礼した。
 レザエルが2人を労いながらも、幻真獣に向けられた目線にリフィストールは答えた。
「これ以上近づけば幻世界の侵食は免れない。彼女たちはここまでが限界だった」
「中ではこれから特別ステージが始まるようです」
 ルエルがスマートフォンを取り出すと、リフィストールが頷いた。ヴェイズルーグから与えられたこのデバイスは現実世界側の者にとって、幻世界でも唯一、通信可能な手段なのだ。
「どうやら間に合ったようだ」「それは良かった」
 レザエルにもう責める意志はない。リフィストールがレザエルとリィエル゠アニムスの間で、最大限できることをしてくれたことを理解したからだ。
「彼女たちも中に入るのか、リフィストール」「いいや。幻真獣の加護を受けられる君やリィエル゠アニムスとは違う。ここで脱出の手引きをしてもらう」「では……」「急ごう、レザエル。彼女たちが決着を望むなら、私たちも客席から力を送らねば」


Illust:かわすみ


 アンコールは既に3回。
 だが観客は誰も帰ろうとはしない。
 獣人アイドルグループLettiaMateSレティアメイツの船出は、観客の熱狂度からいっても間違いなく、幻世界リリカルモナステリオでも近年まれに見る大成功と言って良かった。
 突然の暗転。
 どよめきがあがり、そして沈黙した。
 スポットライト。
 白い和毛に覆われた足先が踏み出し、そしてLettiaMateS マグノリア “幻影”が光の中に立った。
 歓声と励ましの声がステージに押し寄せる。
「皆様ありがとうございます。本当に。今日は私たちLettiaMateSの船出です。この日のことを私たち、絶対に忘れません」
 再びあがる歓声の中、マグノリアは目尻を拭うと、袖で見守るメンバー達も皆うるうると瞳を光らせていた。
 まだだ。まだ終わらせない。
「でも、今日のパフォーマンスは次で本当に最後です」
 湧きあがる失望の声に、マグノリアは手を挙げる。
「ちょっと驚かれると思いますが、演舞か歌劇のようなものだと思ってください」
 観客は顔を見合わせ、そして期待を高めた。
 リリカルモナステリオの演舞は(愛と平和を掲げるこの学園としては珍しく)真に迫った模擬戦が見られることで人気があり、歌劇は歴史啓発の面も持っている。
 例えば『天輪聖紀ニルヴァーナ』は焔の巫女リノと封焔の巫女バヴサーガラとの戦いを通じて《世界の選択》と新しい時代の幕開けに触れるものだし、『トリクスタと龍樹』も《龍樹侵攻》の裏側を描いてゼフィロシィドのファンを増やしたと言われる。

「ゲストをご紹介します。決意と罪を抱く者リィエル゠アニムス」
 白と黒の天使が、スポットライトに照らされた。
 リィエル゠アニムスは客席を見渡し、レザエルとリフィストールの姿を認めると、小さく頷いた。
 マグノリアが観客には聞こえない声で“本気の戦い”を誓い、彼女もそれに答える。
「よい戦いを。リィエル゠アニムス」「あなたも。マグノリア」
 静かに向き合った2人は身構え、他に誰もいないステージで左腕を互いに突き出し、その甲を触れあわせた。
 空気がピンと張りつめ、レザエルは微かに息を飲んだ。
 諸国を巡った彼は知っていた。これは決闘の始まりの所作だと。

 シュッ!
 鋭く息を吐く音と共に、めまぐるしく獣の拳と天使の繊手が交差して、
 パァン!
 激しい打撃音と共に、両者が飛び退り、すぐに構え直した。
 マグノリアが和毛の拳を舐め、リィエル゠アニムスも痺れた手に唇を当てた。
「やりますわね。さすがは元エンジェルフェザー」
「あなたもお嬢様武芸などではないようね」
 2人はふっと微笑んだ。
 観客のほとんどは今、何が起こったかわからなかっただろう。
 マグノリアは掌の強打、いわゆる熊手で襲い、アニムスはそれを受け流し押し込むことで制圧を狙った。
 引っぱたきにくるのを受け流し、掴もうとして払いのけられ、殴ろうとしたのを弾く。この間、一秒もかかっていない。
 ファントムガーディアンと互角だと?!
 レザエルは思わずリフィストールを振り向いた。
 リフィストールが目覚めさせたアニムスを、このファントムドームへ単独行で送り出したことには、その強さを確信するものがあったのだろうとは思っていたが、オディウムとアモルタ、2人のリィエルの総和は本当に幻真獣にも匹敵すると言うのだろうか。

「マグノリア。今この瞬間も私はあなたを友達だと思っている」
「私もそうですわ、リィエル゠アニムス」
 マグノリアは中腰。襲撃を待つ態勢。アニムスは屈み込み、飛翔に備えている。
 互いに狙うは必勝。
 演舞に見せかけたこの勝負が、次の一手で決まるのは明白だった。
 アニムスは話し始めた。それはマグノリアに語りかけるようで、独り言のようでもあった。
「今起きている、幻による現実の浸蝕。“世界を元ある形から変質させる”こと。それは、かつて私の行った“時間遡行による未来改変”──時空のことわりを犯すこと──と本質的には変わらない。だから、私にこの行いを正しくないと糾弾することなどできない。そう、私は望みのために罪を犯し、罪を抱いてここにいるのだから。だからこそ、強く決意する。私が――私たちが手を伸ばし、ようやく掴み取った幸福を、辿り着いたこの現実を、誰にも奪わせたりしないと」
「それを言っているのはアモルタ?それともオディウム?」
 マグノリアはまた問いかけた。答えはもう分かっていたが。
「リィエルである私よ。時空すら超えてレザエルを愛し続ける者」
「本当、あなたらしいですわね。でも私も手放したくはない!」
 そしてマグノリアは弾丸のように飛びかかり、リィエル゠アニムスは鳥のように空に舞った。
 アニムスが手を広げる。
 降り注ぐ千もの光の剣。それはかつて殿軍しんがりに立って死したリィエルを貫いた敵の刃のよう。
 客席のレザエルは息を飲み、リフィストールが小さく頷いた。
 マグノリアは勢いを殺さず、セットの鉄骨を足がかりに跳躍を繰り返し、刃の雨を全てかわす。
 そのまま舞台の床に、身を滑らせながら着地。
 天に浮かぶ白と黒の天使をきっと見上げる。
「まだですわ!」
 だがリィエル゠アニムスの決意はこの時、獣人アイドルの想いを上回った。
「私は、私の望んだ世界を──勝ち取る!」
 その叫びと共にアニムスが放ったエネルギーの奔流は、怒濤のようにマグノリアに迫り、それはしかし強引に押し流すのではなく彼女の被った殻を優しく洗い流すように撫でた。
 幻世界での最後に、獣人アイドルは呟いた。
「いつかまた、皆で……」
 次の瞬間、照明が落ちると共に、リリカルモナステリオのファントムガーディアンもまた陥落した。


Illust:海鵜げそ


「リィエル。私は……何と言えばいいのか」
 帰途についた一行の中で、レザエルとリィエル゠アニムスは距離を測りかねていた。
 長すぎる沈黙の末にやっとレザエルが語りかけた。
「君は本当にドラコニス、いや、アモルタなのだな」
「ええ、そうよ。ただ、今はアニムスと呼んで」
 声の調子はオディウム、話者はアモルタというアニムスは肩をすくめた。
「わかるでしょう。あなたが混乱することは、私たちには容易に想像がついたのよ」
「……言葉もない。少し時間をくれないか」
 思わず頭を押さえるレザエル。
「いいのよ、レザエル。私だって混乱しているんだから」
 アニムスはそんな恋人の肩になだめるように触れてから、遠慮がちに編隊を組む奇跡の幻真獣に寄って、声をかけた。
「ありがとう、リフィストール。何もかもあなたのおかげ」
「お役に立てて何よりだ、リィエル゠アニムス」
 リィエル゠アニムスは頷き、後にしてきた空飛ぶクジラを振り返った。
 ファントムガーディアンが敗退し現実世界に戻っても、あのドームも幻世界も白い霧も、消え去ることはなかった。この目で見るまで実感はなかったけれど……。
「これでまた一歩前進だ。君たちの戦いに敬意を表する」
 そんな想いを読み取ったかのようにリフィストールは声を掛け、アニムスはいい笑顔でまたレザエルの元へと戻っていった。
 いつかくれた抱擁と安心を、今度は彼女が与えるために。
 彼に笑ってもらえるように。

 ──ミラージュタワー最上階。
 ゴッ!
 白い闇の中、壁面にめられた巨大な石板、惑星クレイの全図からまた一つ、半球状の岩が剥がれ落ちた。
「リィエル。おまえも我が悲願を阻むのなら、倒すだけだ」
 玉座に座る魔王竜ガブエリウスの視線の先にあるのは、ただの風景ではなく、この世界の行く末であることは確かだった。



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《今回の一口用語メモ》

オディウムの睡りとアモルタ/ドラコニスの覚醒──決意と罪を抱く者リィエル゠アニムス

 決意と罪を抱く者リィエル゠アニムスは、リィエル゠アモルタ/リィエル゠ドラコニス、リィエル゠オディウムが一つとなった、2人で1人の天使だ。
 ただその成り立ちからすると、もっと複雑な背景を持っていることに気づかされる。

 本編で語られている情報を、順を追って振り返ってみよう。
・ブラグドマイヤーに滅ぼされた未来で死んだレザエルの運命力から生まれたアモルタ。
・消え去った絶望の未来の世界線の憎しみから生まれたオディウム。
・時空の囚われ人アモルタが聖竜ガブエリウスの力を得て、この世界に復帰したドラコニス。
 リフィストールの言葉は端的にリィエル゠アニムスの在り方を伝えている。そして、
・リィエル゠ドラコニスは、ギアクロニクルに拘束されていたアモルタに、聖竜ガブエリウスが力を与えて惑星クレイ世界に戻してくれたもの。つまりドラコニスとガブエリウスは一体。
・幻真星戦の始まり、魔王竜ガブエリウスが出現した時に、一心同体であったドラコニスは本来、消滅するはずだった。
・そのためオディウムの身体を借り、緊急避難した。
・リフィストールの加護を受けて、顕在意識はドラコニス/アモルタ、身体はオディウム、そして外見は白黒二色が混じり合った天使となった。
 以上が、ドラコニスの失踪とオディウムの不調の真実である。

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本文:金子良馬
世界観監修:中村聡