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短編小説「ユニットストーリー」
230幻真星戦編 紫炎の幻真獣 「カルヴァネイル vs ユースベルク“龍吼燎騎・幻影”」
ダークステイツ



 竜の棲み処から一路、ダークステイツ/ブラントゲート国境を越えて南下。
 ドラジュエルドたちは今、低く飛んでいた。
 ここはすでに幻世界の領域。
 白い霧が立ちこめる眼下の雪原には累々るいるいと竜の屍が並べられている。
「なんと無惨な。人家を襲い、作物や家畜をさらう彼らは、人間などの住民にとっては確かに“悪竜”とも言えましょうが……」
 紫炎の幻真獣カルヴァネイルが沈痛な面持ちで言葉を発した。
「そうじゃ。これほど容赦のない死を、ただの道標みちしるべとして尊厳のカケラもなくむくろのまま放置するとは」
 カルヴァネイルが表情を引き締める。彼が知る老竜ドラジュエルドの剽軽ひょうきんさは消えている。
「これは誘っておりますな。我々を」
 竜殺しドラグスレイヤーの足跡を探る必要もなかった。
 大地にさらされた竜の屍が、その行方を何よりも明確に示していたからだ。
「あぁ。まさに鬼の所業じゃ。竜を滅ぼす執念に身も心も焦がれておる」
 魔宝竜皇ドラジュエルド・マグナスも重々しく答え、続けた。
「そしてヤツは待っておるのだ。このワシをな」
 白い地表に続く屍の道を辿たどる、2人の羽音は重かった。


Illust:北熊


 ──2日前。
 虹の魔竜の地下迷宮ダンジョン最深部、ドラジュエルドのねぐら
「カルヴァネイルよ。首尾はどうかの?」
 はい。迷宮の主ドラジュエルドの問いに、カルヴァネイルはうやうやしくこうべを垂れた。
「今宵は私が全階層の監視役を引き受け、ご家来衆はみな休んでおります」「うむ。それで良い」
「この私めにお任せを」
 これが紫炎の幻真獣カルヴァネイルの口癖だ。
 カルヴァネイルがこの迷宮の住民となったのは、ドラジュエルドが《月の試練》に挑み、達成し、彼を連れ帰ってからだ。
 以来、ドラジュエルドには忠実な執事として、また古参にも礼儀正しく振る舞い、言われた仕事も他人の3倍こなすカルヴァネイルは、瞬く間に虹の魔竜たちの心を掴み、安心して監視役を任せるに至ったのである。
 まさか2人がこの後、命がけの決闘に出かけるとは露知らず。

「ドラジュエルド様。お出かけの前に、ファントムガーディアンにつきましてのご報告を」
 カルヴァネイルは懐から取り出したスマートフォンを起動すると、指の爪を器用に動かし、空中に立体映像を投影させた。
 虹の魔石であふれたドラジュエルドのねぐら瘴気しょうき満ちあふれる室内に突如、白色無地のスクリーンが浮かんだ。『ユースベルク幻影ファントム調査資料』と文字が書かれている。
「ほう。それはヴェイズルーグから支給されたものか」
「はい。各所との連絡や情報共有、ヴェイズルーグ様の元に帰還できる緊急退避機能などもございます」
「それは便利じゃが、緊急退避などワシには不要じゃな。これまで我らが倒してきたファントムガーディアンの小童こわっぱどもの数を見よ。誰が相手であれ、負けることなど有り得ぬ」
「恐れ入ります」
 紫炎の幻真獣は会釈し、画面をスワイプする。


Illust:萩谷薫


寂寞せきばく孤影こえいユース』。
 独り、砂漠を歩む少年の背後に、空を飛ぶ竜の機影があった。瞳には深い悲しみが見える。
「これは?」「幻世界のユースベルク、その少年時代でございます。調査資料によれば、ユースベルクは現実世界同様、ケテルサンクチュアリの天上に生まれましたが、少年時代に父親を亡くし、天涯孤独となりました。父が従軍していたのはドラゴンエンパイアの悪竜退治。しかし彼は逆に、その悪竜に食われて命を落とし、嘆きのあまり母親も亡くなりました。少年ユースは差し伸べられる援助の手を振り払い、年端もいかぬ頃から槍をもって一人、荒野を彷徨さまよっていたのです。家族と幸福を奪われた竜への復讐心を抱いて」
「ふむ。悪竜そして復讐とな」
 ドラジュエルドは寝床に伏せた姿勢のまま、目を細めた。
「……しかし、月の門番ヴェイズルーグは、幻で作られた過去の映像までをこうして自在に覗くことができるのか?」
 カルヴァネイルは首を振った。
「いいえ」「ではこれは何か」「竜殺しドラグスレイヤーユースは誰もが知る名前です。彼の人生の転換点に名を付け、こうしてユースを描いて広めているのです。悲劇と恐怖の伝説として」「ふむ。幻世界で流布されている情報が今、ここ現実世界にある。……ということは?」「はい。私が潜入し、手に入れました」「なるほど。大儀であった」
 ドラジュエルドは唸った。悲劇はその通りとして、恐怖とは。この後に一体、何が起こったのだ。
「続けてくれ」「は。この私めにお任せを」


Illust:萩谷薫


滅龍めつりゅうの意志ユース』。
 荒野の少年が成長し、竜を仕留めている姿だ。
 惑星クレイでは成長や業績、性格や癖など様々な変化で名前が変わる。
「では仇は取ったということか」とドラジュエルド。
「いえ、これは野良竜に過ぎません。ただユースはこの頃には既に、自分一人の力で竜と互角以上に渡り合えるようになっていたと言います」「人間の少年がか?」「日々、竜との戦いに明け暮れた結果、片目と引き換えではありますが」「ふむ。現実世界でも衆に優れた騎士であったが……」
 次を。ドラジュエルドは促した。


Illust:萩谷薫


『赫怒のドラグスレイヤー ユース』。
「本懐を遂げ、父の仇の悪竜を討ち果たした後、ドラゴンエンパイアのみならず西方諸国で『竜殺し』と恐れられていた頃のユースです。ドラジュエルド様」
「ほう……こう“成った”のじゃな」
 凄まじい怒りを全身から漂わせる白面の男の姿を見て、ドラジュエルドは呟いた。カルヴァネイルが補足する。
「幻世界の住人としてのユースは、仇討ちという目標を達した後もその怒りを収めることもなく、全ての竜族にとって悪夢的な存在となりました」
 幻真獣を得てからのドラジュエルドは何人ものファントムガーディアンと戦い、現実世界とは異なる、その様々な変化を見てきた。ユースベルクが幻世界で送ってきた人生については驚きよりも、この後に相対する者として強く興味を引かれたようである。
「ふむ。仇討ちまではわかる。だが本懐を遂げてもなお、彼という人間にこれほどの怨念を漂わせ竜殺しを続けさせるものとは何じゃろうか」
「ドラジュエルド様。私はまだこの惑星の人々の感情や生き方を学んでいる途中でありますが」
 幻真獣はひとつ息をついて続けた。
「現実世界のユースベルクは正義感が強く、弱き者のため、つまり天上に苦しめられてきた地上の都の民のために、破天の旗印をかかげて立ちあがった。他者の苦しみを知り、他者のために傷つき、戦う男。その不屈の意志と鍛え上げられた心身、慈愛と騎士道、カリスマが彼を解放者、人望を集める指導者としました」
「……」
「もしそれが、幻世界では反対に働いたとすればどうでありましょう。幻世界のユースベルクは自分の受けた悲しみと苦しみ、家族との幸せな時間を奪われた怒りと憎しみから、仇である悪竜を滅ぼすことだけに少年時代の全てと膨大なエネルギーを注ぎ込んだ結果……」
「果てしもない怒りを燃やす竜殺し、ユースベルクが生まれたわけじゃな」
 ドラジュエルドは嘆息をつき、立ちあがった。
「これより後は、直接会ってみねば分かるまい」「御意」
 普段ならば主の一挙手一投足に反応し、寝返りでも打とうものなら必ず誰か1人はすっ飛んでくる魔竜たちだが、ドラジュエルドにはカルヴァネイルが付いていれば安心と、いま迷宮は静まりかえり、配下はみな深い眠りの底である。
「行くぞ、カルヴァネイル!たった2人の出陣じゃ」
「は。紫炎の幻真獣カルヴァネイル、どこまでもお供いたします」


Illust:萩谷薫


 ──現在。五角城塞跡/旧ダークステイツ現ブラントゲート領。
 宵の月。そのあかき光の下、荒城の塁壁に立つ仮面の男。
 竜殺しの騎士はその全身を、夜目にも鮮やかな赤い甲冑でよろっていた。
「待っていたぞ、ドラジュエルド」
 ユースベルク“龍吼燎騎ドラグフォース・アームズ幻影ファントム”。
「おぉ。来てやったぞ、ファントムガーディアン。2日もかかった。あんまり年寄りに長旅をさせるでないわ」
 ユースベルク幻影は老竜のぼやきを一切無視して続けた。
「ここにいればきっと現れると思っていた」
「五角城塞。ここがダークゾーンと呼ばれていた土地であった頃からの古き遺跡よな。かつてこの地で我らは戦い、そしてお前はワシに負けたのじゃった。のう、ユースベルク」
「それは現実世界での話だろうが!」
 ドラジュエルドの皮肉をたっぷり効かせた答えに、ユースベルクは怒りの赤いオーラを燃え立たせた。
 こんな人を食ったような対応をされたことがないのだ。
 幻世界において竜殺しユースベルクを前にしたドラゴンたちは皆、恐怖におののき、慈悲を乞いながら斃れていったのだから。
「ずいぶん殺してくれたようではないか。ワシらの同胞、幻世界のドラゴンたちを」
「そうとも。アリアドネが作ったこの甲冑は竜の屍を力に変える。殺せば殺すほど、その竜の魂を食らって出力を上げるのだ」
「悪趣味じゃのう。アリアドネとやら、現実世界ではワシは顔を合わせておらぬが、そこまで邪悪な科学者じゃったか?」
「大差はないさ」
 仮面の下でユースベルクは低く笑った。
 今の言葉は(現実世界の破天騎士)ユースのものだと、ドラジュエルドには察せられた。
「なぁユースベルク。若者よ。ワシはお前たちに虹の魔石を与えるほどに評価していた。覚えておるか」
 そう。ドラジュエルドがセイクリッド・アルビオンを襲い、それを謝罪してケテルの各騎士団とユースベルク、つまり破天騎士団に世界の至宝ともいえる一欠片を渡し、こう言ったのだ。
『汝は高く飛べ。天の高みをどこまでも。いつかこのワシを超えるその時まで』
「……」
「だが今のその姿。怨念と竜の血にまみれ、殺戮を繰り返す恐怖の騎士。ワシに言わせればお前こそ悪鬼じゃ。本当にこれがあのお前なのか?」
「そうだ!」
 ユースベルク幻影の答えは断固として、迷いがなかった。
「慈悲深く、慕われ、衆のために進んで身を投じる破天騎士ユースベルク。信頼で結ばれた仲間に囲まれ、味方どころか敵をも魅了する革命の旗手、一代の英雄ユース。あぁそうとも。現実世界ではな。この幻世界でのオレは……」
 甲冑が空を見上げた。束の間、彼は幻世界の生涯を振り返るようだった。
「聞いたぞ。年端もいかぬ子供には気の毒なことだったのう」
「貴様もその悪竜だろうが!」
 ドラジュエルドは小さく首を振った。
「その怒りは誰のものなのじゃ、ユースベルク」
「オレだ!ユースベルク“龍吼燎騎・幻影ドラグフォース・アームズ幻影ファントム”のものだ!」
「では戦いは避けられぬと?お前もまたあの魔王竜ガブエリウスに力を貸すのか」
 その問いに、ユースベルク幻影は激高から覚めたようだった。そして平然と答える。
「違う。我は幻真星戦などに興味はない」
 ドラジュエルドと幻真獣カルヴァネイルは思わず顔を見合わせた。
「オレは戦い、殺す。この世の全ての竜を。それだけが生きる目的、ここにいる意味だ。故にお前も……」
 龍吼燎騎の肩甲が音を立てて上がると、ドラジュエルドとカルヴァネイルが身構えた。
 ──始まる。
「殺す!魔宝竜皇ドラジュエルド・マグナス!!」


Illust:萩谷薫


 ユースベルクは最初から全開だった。
「我が前には復讐のほのお、我が道は暗く血濡れ、我が後に生ける龍なし」
 滅べ、跡形もなく! ドラグドレス!
 ユースベルク“滅龍燎騎ドラグフォーム赫絶ダイナスト”!
「おぉっ!」
 ドラジュエルドとカルヴァネイルは散開し、滅龍燎騎ドラグフォームの突進をかわした。
 数多の竜を葬ってきた必殺武装である。ただの体当たりなどではない。
 並みのドラゴンであれば避けるどころか反応する前に、緑色のオーラを帯びた拳に砕かれ、緑の炎を蓄えた力強い翼で灼かれ、八つ裂きにされていただろう。
 ──!
 ユースベルクは離脱することなく、振りかぶった拳をドラジュエルドに叩きつけた。
 運命力を急速展開させた四炎の障壁で受け止めたドラジュエルドだが、緑色の焔をまとった騎士の攻撃は老竜の身の奥までずしんと響いた。
「避けよ、カルヴァネイル!」
 ドラジュエルドはカルヴァネイルには距離を取らせ、四炎の奔流を吐き出す。
 ユースベルクは最小限の動きでこれを回避すると、彼我の距離をさらに詰め、反転した勢いを殺さずに羽根と裏拳で続けざまにドラジュエルドを襲う。
 至近距離の連続攻撃である。障壁を展開する余裕もない。ドラジュエルドは翼を交差させて受けた。
「なんの!」
 吼えて耐えきったものの、ドラジュエルドの防御は後手を踏み始めていた。
 竜殺しに明け暮れた幻世界のユースベルクは、対ドラゴン戦闘に特化した戦術を会得している。
 敵が猪突型であればなし、高速飛行が得意なのであれば追尾して、それぞれ背後から襲う。虹色の炎を吐き出す老竜であれば相手が得意とする距離を取らせず、懐に飛び込み素早く攻撃を刻む。
(本気で立ち向かわぬとられるな、これは)
 ドラジュエルドが心中に呟いたように、やはり竜殺しの名は伊達ではないようだ。
 だがドラジュエルドもまた、普段の寝ぼすけ老竜の姿を脱ぎ捨てれば、惑星クレイに名だたる猛竜。強敵との真剣勝負、その昂揚が彼を酔わせた。
善哉よきかな!」
 守勢一方だった超至近距離での戦いからようやく身を引き剥がして、ドラジュエルドが叫ぶ。
「さすがは虹の魔石を与えた若き英雄じゃ。だが我には今、誰よりも頼りとする相棒がおる。カルヴァネイル!」「は!この私めにお任せを」
 ドラジュエルドの背後で、真の覚醒を経た幻真獣が力を増幅させてゆく。
「我、古の魔竜と共に駆ける、月より出でし真なる獣!闇夜に燃える、宝珠の魂!」
 紫炎の幻真獣カルヴァネイル!
 名乗りは勝利の確信に満ちていた。


Illust:北熊


 幻真獣の強さは、ファントムガーディアンにも共有されている。
 ユースベルクは攻撃の型である“滅龍燎騎ドラグフォーム赫絶ダイナスト”を解き、速やかに幻影の姿に戻る。
 だがドラジュエルドはさらに疾かった。
「受けよ、我が虹色の炎!」
 怒濤の勢いで襲い来る四炎の奔流に、ユースベルク“龍吼燎騎・幻影”は、手に赫月の力を収束させ防御する。この一瞬、完璧だった騎士の構えにわずかな隙が生まれた。
「もらった!」
 次の瞬間、ドラジュエルドの背後を飛び越えたカルヴァネイルの姿が輝く!
 幻真獣が吐いた紫炎はひと筋の光線となって、ユースベルク幻影を貫く。
 グォォォ──!
 無念の叫びと共に、赫き竜殺しの騎士は弾け飛び、そして地に伏せた。

「ユースベルク!」
 ドラジュエルドは叫びながら好敵手の元に降り立った。
「すまぬ。お主が強すぎて手加減できなかったのじゃ」
「竜風情が、このオレに気安く話しかけるな……」
「ワシは竜ではなく好敵手としてお主に語っておるのじゃよ。良き戦いであった」
 敗北してなお辛辣な竜滅の騎士に、ドラジュエルドがかける言葉には微笑が感じられた。
「……。やっとわかった。竜などいくらでもいるのに、なぜこのオレがここでお前を待っていたのか。どうやらオレにとってお前は、ただの竜ではないらしい。お前の名を聞くとオレの"心”がたぎるのだ。殺すためではなく、ただ全力を尽くして戦いたい相手として」
 幻世界のユースベルクは苦しい息の中、自ら仮面を外し、兜を脱いだ。竜滅の騎士が初めて見せる勝者への礼儀である。
「また戦おう。ドラジュエルド」
「あぁ、受けて立とうぞ。ユース」
 2人ともわかっていた。若者でも老竜でもない。いま互いに初めて相手が呼ばれたい名を掛け合ったのだ。
 気がつくと、騎士の姿は現実世界のユースベルク“破天黎騎スカイフォール・アームズ再鍛リビルド”に戻っていた。
 ドラジュエルドの返答が騎士に届いたのだろうか。虹の魔竜が認める若き英雄ユースベルクは、目を閉じて意識を失い、その口元は笑っているようだった。
「ユースベルク殿のお身体は、ヴェイズルーグ様が保護いたします」
 友人同士の時間を壊さぬよう、充分な時間を空けてからカルヴァネイルは声をかけた。
「礼を言う。我が友をよろしく頼むぞ……ん?」
 この時、2人はそろって地面に膝をついた。前触れもなく力が抜けたのである。
「これは?」「無理が祟りました。そろそろ限界のようです」
 ヴェイズルーグがかつてレザエル達に解説したように、幻真獣の力は無限ではない。特に真の覚醒を遂げた幻真獣は。それ故に定期的に月の門に収容し、エネルギーを“充電”する必要があるのだ。
「しかしこの私めにお任せを。まさに備えあれば憂い無しですな。緊急退避の時です。ドラジュエルド様、こちらのデバイスを」
 差し出されたスマートフォンに気がつくと、ドラジュエルドは一瞬ためらってから画面を押した。
 虹の魔竜と幻真獣の姿が薄れていく。
「我らは退場というわけか。確かに少々疲れたのう。やれやれじゃ」「お供いたします、ドラジュエルド様」「うむ」
 ドラジュエルドは最後にようやく彼本来のとぼけた調子を取り戻したようだった。
「レザエル。後は頼んだぞ」
 老竜の声は、雪原を吹き渡った一陣の風に吹かれ、かすかな木霊とともに消え去っていった。



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《今回の一口用語メモ》

ファントムガーディアン ユースベルク“龍吼燎騎・幻影”と、最強の竜ドラジュエルド

 ユースベルク“龍吼燎騎ドラグフォース・アームズ幻影ファントム”は、他のファントムガーディアンには見られない特徴がある。
 それは極めて強力な幻存在でありながら、(武装担当である天才科学者アリアドネを除けば)配下の軍勢や協力者すらいない単独行動を貫いていることだ。

 現実世界のユースベルクには、地域の悪ガキ達のリーダーだった少年時代から、将来を嘱望された士官学校時代、父を亡くし苦難に満ちた天上騎士時代、そして天上への不満と抵抗の意志を一身に背負い発起した破天騎士団のすべてを通じて、人を引きつける力があった。そうした“人の中で活きる”ユースベルクを評するのに、敵味方を問わず「生まれついての王者のよう」という表現もよく使われている。
 対するに、幻世界のユースベルクは少年期以降、ずっと孤独だ。
 そして幻世界での親の仇を討ち果たし、現実世界の記憶を思い出した後も、ブレることなく悪竜滅殺に生涯を捧げている。
 そんなファントムガーディアン ユースベルク“龍吼燎騎・幻影”が、ドラゴンエンパイア西部からダークステイツ中央部まで出会う悪竜を片っ端から滅ぼし、倒すべき地上最強の悪竜と認めて狙ったのが、魔宝竜皇ドラジュエルド・マグナスだ。
 一方のドラジュエルドも、かつて龍樹の種グリフォシィドの到来を「星降る夜(流星雨)」を夢に見て察し、今回の赫月病(あるいは白い霧)もぼんやりとした悪夢として感じ取っていた。ダークステイツの貪欲なる猛竜として恐れられる存在である一方で、惑星クレイの危機をもっとも早く予見し、対抗してきた防人としても知られていた。つまりユースベルク幻影ファントムが、惑星クレイと竜族にとっても脅威だとドラジュエルドは見なしたのである。

 こうして今回、両雄の衝突となったわけだが、振り返ればこれは龍樹侵攻以来の再戦。
 そしてその舞台も同じ旧ダークステイツ現ブラントゲート領、五角城塞跡となった。
 ドラジュエルドを待ち受ける場所として、この古い遺跡を選んだのは(幻世界と現実世界両方の記憶を持つ)ユースベルクの流儀、好敵手に対する敬意と必勝の意志の表れだったのかもしれない。


ドラジュエルドとユースベルクが以前、対戦した時のことは
 →ユニットストーリー091 龍樹篇「業魔宝竜 ドラジュエルド・マスクス」
  ユニットストーリー092 龍樹篇「マスク・オブ・ヒュドラグルム」
 を参照のこと。

ドラジュエルドが、惑星クレイ有力者の誰よりも早く災いの前兆をとらえていたことについては
 →ユニットストーリー083 龍樹篇「グリフォシィド」
  ユニットストーリー202 赫月篇第3話「魔宝竜皇 ドラジュエルド・マグナス」
 を参照のこと。

ユースベルクに、ドラジュエルドから虹の魔石が渡されたエピソードは
 →ユニットストーリー116 龍樹篇「ユースベルク“反抗黎騎・閃煌”」
 で触れられている。

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本文:金子良馬
世界観監修:中村聡