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ユニット

Unit
短編小説「ユニットストーリー」
234幻真星戦編「悠久の大魔法師 ベルクレア vs 泡沫の大魔法師 ゼーリス “幻影”」
ストイケイア


Illust:へいろー


「墜ちよ!我が震天の雷砲を受けて!」
 ドームの境界を抜けた瞬間の奇襲。
 水面から半身を突き出していたのはアクアフォース──後に、黒天の水将レィミーナだと判明する──だった。照準も待ち伏せのタイミングも、プロの軍人らしく鮮やかなものだ。
「くっ!」
 黄緑色の雷撃を浴びた悠久の大魔法師ベルクレアは、真っ逆さまに海へ落下した。レィミーナはすぐさまその後を追って、海中へと潜り込んだ。
「ベルクレア!」
 悠久の幻真獣ニルズベイグは相棒の後を追おうとしたが、水中から乱射される弾幕に阻まれて近づけない。旋回して一旦、射程外まで逃れる。
 ベルクレアが墜ち、レィミーナが追撃した一帯の水面は今、激しく波打ち、泡立っている。海中で激しい攻防が行われている証拠だ。
「ベルクレア」
 意を決し、助けに行こうとニルズベイグが身構えた瞬間──
 ゴボゴボゴボ!!!
 泡立った水面が弾けると、悠久の大魔法師ベルクレアが姉妹杖に引っ張られるように、空中に飛び出してきた。遅れて気を失ったアクアフォース レィミーナが海面に浮かび上がる。
「ベルクレア!」「ごほっ!ごほ……大丈夫」
 むせ返りながらもベルクレアにはまだ軽口を叩く余裕があった。
「アクアフォースに水中格闘戦を挑むなんて、グランブルーにでもなった心地よ」
「あっちはゾンビだろ?僕らは不死の海賊じゃない……ん?」
 水音に目を下ろせば、海上に隊列を組んだアクアフォースの士官たちがこちらに武器を向けた所だった。先ほどの対空砲火、阻止射撃バレージは彼ら彼女らによるものだったらしい。
「あっちもよ」
 ベルクレアは、幻真獣ニルズベイグに行く手を指し示した。
 鳥型獣人ワービーストの群れが空を埋め尽くしている。
「照験の学徒シーグナ」
 先頭に立つ女性が剣型の浮遊石を構えている。その表情に浮かぶのは激しい闘志だ。


Illust:ゆずしお


「ふぅ。海だけではなく空の守りも万全ってわけ。こっちは2人なのにあっちは大勢。どうやら彼女・・は、僕らを一瞬も休ませるつもりがないようだね」
 幻真獣ニルズベイグが寄り添うと、ベルクレアも答えた。
「それだけ本気だってことよ。……でも、ここ一帯全てがファントムドームになっているなんて」
 2人の目の前には、多島海アーキペラゴに面した港と背後にそびえる山と森、1本だけ突出した大樹、そして街ひとつがある目的のために建てられた場所だった。
 エルフ総合魔法学校。
 かつてベルクレアはここで一人、生涯の友を得ていた。
 今は敵として、世界の未来をかけて戦う相手として、彼女はこのどこかで待っているはずだ。
 どのような敵に塞がれても突破しなくてはならなかった。
 月の門がその機能を停止した今、戦える力が残されているのは自分ベルクレアとニルズベイグ、レザエルそしてリィエル゠アニムスしかいないのだから。
「行くわ、ゼーリス!必ず、あなたの元に!」


Illust:NOMISAKI


 ──ファントムドーム『ストイケイア』学外、近郊。
 その隣り合った一軒家は対照的な保存状態にあった。
 学外に辿り着いたベルクレアとニルズベイグを迎えたエルフの少女、湖心の学匠フォンタインは、まず見事に飾り立てられた瀟洒な館を示した。 
「こちらの建物の名は『泡沫』。今は一棟貸しのホテルになっています。ここに泊まると学業と出世に御利益があると言われるパワースポットで、宿泊予約が追いつかないほどの人気なんです。だから見学者も、ほら」
 確かに泡沫館は宿泊と観光地を兼ねているらしく、正午を過ぎたくらいの今でも、エルフの学生たちで人だかりができている。皆、学校の休み時間を利用してやってくるのだろう。休日ともなればその賑わいは推して知るべしである。
「へー」「ふーん」
 気のない返事はベルクレアと幻真獣ニルズベイグ。
 杖にすがったベルクレアの髪はくしゃくしゃだし、やっとのことで浮遊しているニルズベイグの羽根も乱れている。アクアフォース隊の水上射撃を避けながら、鳥型獣人ワービーストの群れとの空中戦もこなし、なんとか勝利を収めた2人はよれよれだった。
「そっちは……」
 ベルクレアが指した建物は長いこと誰も住んでいなさそうな、しかし手入れだけは行き届いている、不気味な幽霊屋敷っぽいものだった。
「あぁ。そこですか。どういうわけか誰も住もうとしない、私たち学生の間では事故物件とかオバケ屋敷だとか言われている場所なんですよ」
「あのー。そこに住んでたの、私なんですけど……」
 がっくりと肩を落としたベルクレアに、ニルズベイグがまぁまぁと身を寄せる。
 海と空の大部隊と繰り広げた激戦よりも、今のひと言のほうにベルクレアはダメージを受けたようだ。
 そんな反応も知らぬげに、エルフの少女は魔導書に浮かび上がった文字を見て笑顔を浮かべた。
「あ、そろそろご予約のお時間です。お二人をゼーリス校長の元にご案内しますわ」
「ゼーリス……」「校長?」
 えぇ。お忙しいのですよ校長先生は、と湖心の学匠フォンタインはにっこり笑った。
「私たち全てが尊敬し憧れる、偉大なる廻命魔法の使い手、泡沫の大魔法師 ゼーリス “幻影ファントム”様ですわ」


Illust:BISAI


 ──ファントムドーム『ストイケイア』エルフ総合魔法学校。
 その部屋は何の変哲もない並びの一つだった。ある2人以外にとっては。
「校長先生は中でお待ちです。では、私はこれで失礼いたします」
 湖心の学匠フォンタインは、目の前にいるエルフの女性と校長との関係に興味津々といった感じ。だが礼儀正しく、最後まで詮索することはなかった。
「僕も一緒に行こうか?」
 ニルズベイグが羽根を鳴らしながら尋ねた。今はエルフたちが使う施設の大きさに合わせて、ミニチュアサイズに身体を縮めている。
「廊下で待っていて」「でも……」「危なくなったら呼ぶわ。飛び込んできてくれるでしょ?」「もちろん」
 ベルクレアは笑みを浮かべてノックした。
 どうぞ、と答える声を聞いてからベルクレアは寮部屋の中へと入った。

「楽にして。すぐに片付くから」
 机に向かっているゼーリスの後ろ姿は大人のものだったけれど、それを見た瞬間、時間が一気に戻ったような錯覚に襲われた。
 駆け寄って抱きしめたい衝動と戦いながら、そっと窓に歩み寄るベルクレア。
「いい眺め。こっち来て見たら?」
「ここからでも見えるわ」
 ベルクレアはそのままベッドへ仰向けに倒れこんだ。さりげなく片手で顔を覆ったのは涙を見られたくなかったからだ。
「泣いてるの?」「泣いてなんか無いやい!」
 それは学生の頃とまったく同じ掛け合いだった。残酷なほどに。
 ゼーリスは椅子を回して向き直り、ベルクレアも起き上がった。
「……ねぇ。いつ以来?私たち」
 ベルクレアはゼーリスをまじまじと見つめた。親友は生前よりもさらに落ち着いた雰囲気で、知性に溢れ、そして怖いほど綺麗だった。
「カフェで祝杯をあげたのが最後よ。直接会ったのはね」
 ゼーリスは一瞬どこか遠くを見る風になり、すぐにその意識は幻世界の魔法学校に戻ってきた。
「わたしとの決着をつけにきてくれたんでしょう、ベルクレア」
 それは疑問ではなく、あなたならそうするでしょうねと納得している口調だった。
「当然でしょ。親友だもの」「……親友ね」
 ゼーリスは窓の外に目をやった。外の風景は彼女たちの知る学園のようでいて、似て非なる幻世界のものだ。
「あ!そうそう。私たちの並びの一軒家、何よあの扱いの差は!」
 ベルクレアは窓の外、ドームの内側の学外に小さく見える2軒の家を、ビッと指差してみせた。
 自分は不気味な幽霊屋敷、親友のはおしゃれで綺麗な人気パワースポットである。
「お気の毒ね」
「あんたね、他人をバカにするのもいい加減にしなさいよ!」
 ベルクレアは本気で怒って抗議し、ゼーリスはくすくす笑う。意地悪ではない。こうして言葉を投げ合うこと自体がお互い、立場を忘れるほど楽しいのだ。毒づいたはずのベルクレアまでが「もうひどいよー」とお腹を抱えて笑っている。
 でもどんな時もいずれ終わりが来る。
「思ってたより冷静なのね。わたしの存在を見て、もう少し動揺するかと思った」
 ゼーリスが机に向かってぽつりと呟くと
「幻世界では何でも起こるって、ここまで沢山見てきたわ。まさか友だちが生き返るとは思わなかったけどさ!」
 またベッドにひっくり返り、ベルクレアは天上を見つめた。
「……知ってる?わたし、あなたのことがずっと羨ましかったのよ」「はぁ?!」
 ゼーリスの言葉に、ベルクレアが飛び起きる。
「同時主席で進級して、専攻科出る前にもう人気の精神科医だった、ゼーリスが?」「そういうことじゃなくて」「どういうことよ?」
 ゼーリスは嘆息をつく。するとその息は薄い泡となって漂い、弾けて消えた。
「どんなに頑張っても主役はあなた。いつも朗らかで元気で、頼られて、輪の中心にいて、人助けもする……あぁ。わたしとした事が、お礼がまだだったのじゃないかしら。森の一件では助けてくれてありがとう」
 最後の一節。その意味とは裏腹にゼーリスの口調は冷たく、心がこもってはいなかった。
 ベルクレアは激しく頭を振り、豊かな髪が芳しい香りを振りまいた。
「ゼーリス!こんなのゼーリスらしくないよ。聞きたかったのはそんな言葉じゃない」
「ではどんな言葉がいい。現にわたしは、ここへ来るまでにあなた達2人を襲わせ、消耗を図ったでしょう。わたしは自分のためならなんだって利用するわ」
「そんなの嘘だ!」
「本当のことしか言っていない。わたしは、ファントムガーディアンとして現実世界の侵略者ベルクレアを滅ぼす!」
 ベルクレアが目を鋭くするのにゼーリスも強気ににらみ返す。
「ほらね。わたしたちの距離は離れて、もう引き返せない所まで来てしまったのよ、ベルクレア」「……」
 大魔法師ゼーリスは音もなく立ち上がった。
 ベルクレアもまた大魔法師としてベッドから起き上がる。
 机を離れたゼーリスが寮部屋の扉を開けながら、最後に友だちの顔で振り返った。
「魔法勝負。学生時代にもしたわね」
「50勝50敗の五分。学校祭のハイライトだったね、在学中は」
 2人が掛け合う言葉は明るかった。悲しいほどに。

 ──ファントムドーム『ストイケイア』エルフ総合魔法学校、上空。
 魔法師の対決。
 多島海アーキペラゴを背にしたゼーリス、山と巨大な世界樹を背にしたベルクレア。空中の2人。
 眼下のキャンパス、港には鈴なりの群衆。
 学生時代と変わらない光景だ。
 ここが幻世界であることを除けば。
「泡沫の大魔法師ゼーリス “幻影ファントム”」
 尊崇を集める校長の名が呼ばれると、群衆は大歓声をあげる。
「悠久の大魔法師ベルクレア」
 こちらの反応は──幻世界ではそうした名で知られた魔法師はいないので──静かなものである。
 だがベルクレアの闘志はもう揺るがなかった。
 その耳にレザエルの声が蘇る。



 ──7日前。リィエル記念病院。
『ゼーリスの強襲により、月の門はその機能を停止した。もはや幻真獣や負傷者を回収・回復させる術もない』
 ヴェイズルーグからの通信を聞く、カフェテリアの雰囲気は重かった。
 レザエルとベルクレア、幻真獣リフィストールとニルズベイグ、リィエル゠アニムスも声がない。
 信頼するソエルさえ遠ざけて、誰もいない極寒の屋上スカイポートを会談の場に選んだのは、この事実に耐えられる者はこれしかいないと判断したからだ。
「祖の幻真獣たちは戦えなくなり、補給線は断たれたが、悲観するほどではない」とリフィストール。
『その通りだ』
 彼の主であるヴェイズルーグも月世界から、その発言を後押しする。
「残るファントムガーディアンはゼーリスのみ」
 レザエルはベルクレアを見て言った。ベルクレアも頷く。レザエルの意図は正しく伝わっていた。
「私が行きます!待っているとまで言われたんです。彼女を止めるのは親友の私しかいない」
 ベルクレアは言った。その口調には誰も口を挟めない強さがあった。
「それに彼女がいる場所には、心当たりがありますから」


Illust:BISAI


 ──現在。
「ここだと確信があったのね。どうして?」
 ベルクレアの心を読み取ったかのように、ゼーリス“幻影”が尋ねた。
「だって、ここしかないじゃない。あなたと私が暮らした大切な思い出は全部」
 ここだもの、とベルクレアは手を広げた。
「でも、今のあなたは私の知っているゼーリスじゃない!」
「それはやっぱりわたしが死んでいるから」
「そうじゃない」
 ベルクレアは首を振る。それは頭を曇らせるこの矛盾と幻を振り払いたい、という心の現れのようだった。
「ゼーリス“幻影”。あなたのやろうとしていることは現実世界を踏み倒し、塗り替えて幻を本当にしてしまおうとする事でしょ」
「それのどこが悪いの」
「私たちは約束したじゃない!『人を助けることに人生を捧げる』って。それでも平気だって言える?!」
「そうよ。わたしは今の自分が好き。だからあなたは負け、幻が勝ち、現実の思い出も消える。……言い残すことは?ベルクレア」
 ベルクレアは拳を握ってみせた。
「私が勝つ!」
 2人の魔法師がそれぞれの構えに移った。
 幻と現実。どちらにとっても瀬戸際の戦いが、いま始まる。

強化魔法エンハンスマギア スタルキング!」
 まずベルクレアが仕掛けた。ベルクレアが使う廻命魔法としては定石。脚力を強化だ!
 世界樹を背景にしたその姿がかき消すようにいなくなると、ゼーリスが避けたその場所を拳を突き出した格好のベルクレアが猛烈なスピードで駆け抜ける。
「くっ!相変わらずのバカぢからね」
 ベルクレアの突進をかわしきれなかったのか、ゼーリスは痺れた腕を振りながら呟いた。


Illust:BISAI


促進魔法グロースマギア ヴォクストール」
 ゼーリス“幻影”の声に応え、海がざわめくと、波だった水面から水草が急成長して上昇し、魔法師を守るようにその周囲を固めた。


Illust:BISAI


 ゼーリスが姉妹杖を突き出すと、体勢を立て直そうとしていたベルクレアに、水草の群れが硬いムチのようにしなり、その身体に叩きつけられた。
「ぐっ!」「ベルクレア!」
 思わず叫んだ幻真獣ニルズベイグに、ベルクレアは「まだ待って」と手で制した。
促進魔法グロースマギア ヴォクストール」
 ベルクレアの次の手は、結果としてゼーリスと同じものだった。


Illust:BISAI


 促進の廻命魔法に応え、世界樹と森がベルクレアに新たな力を注ぎ込む。
「これならどうだっ!」
 大地から伸びた木々が、ゼーリスの操る水草群と拮抗する。
 またしても構えたベルクレアがかき消すようにいなくなると次の瞬間、姉妹杖を噛み合わせた状態でゼーリスの目の前に現れる。身体を捻って繰り出したベルクレアの回し蹴りが、ゼーリスの左腕の防御ごと吹っ飛ばす。
「くうっ!」
「その杖!」「?!」
 ゼーリスは後退しながら、ベルクレアが突き出した指先を見つめ返す。
「姉妹杖よ。この世界樹のひとつの枝からもらった2つで1つの杖」「杖が何?」「私は知ってる。あなたとその杖が、この世からなくなったということを」「それ、今言うこと?」「今だからよ!」
 ベルクレアは胸を張って今度はゼーリス“幻影”を指差す。
「私の知っている、私の友だちのゼーリスは死んだ。確かに死んだのよ!生と死は、覆るものじゃない!覆らないからこそ生には輝きがある!私はそう信じてる!おかしいのよ、何もかもが!」
 ゼーリス“幻影”も見た目ほどには余裕がなかったようだ。
 その目が、肩が、失われたはずの杖すらもが大きく震えていた。
「……何がわかるの、あなたに」「?」
「失うこと。奪われること。叶えられないこと。死んだらもう終わりなんて誰が決めたの!なぜ望むことをしてはいけないの!」
 ベルクレアの目が見開かれた。確かにベルクレアにはわからない。
 世界を救うため?幻が現実を呑み込むのが許せない?だから何なのだ。誰かが切に望むことを叶えようとする努力を遮ることは、正しいことなのか。正義は一つではない。
「そしてこれがわたしの答え」
 ゼーリス“幻影”の背後で泡が膨らむと、そこからゼーリスと瓜二つの姿が出現した。先に対戦したヴェイズルーグからの情報にあった幻体、ゼーリスの複製体である。
「!!」「!!!」
 ベルクレアと幻真獣ニルズベイグは驚愕する。そして……。
  泡沫の大魔法師ゼーリスは杖を放すと、姉妹杖はまるで意志あるものの様に、その手の先で一文字に固定された。
 呪文の詠唱が始まると、泡がさざめき、輝く魔方陣が浮かび上がった。
「我、泡沫の魔法師が切に願う。水よ、母なる恵みをここに。空よ、遥かなる青をここに。雲よ、星の営みをここに。しかして活性せよ、生命いのちの源」
 振りかぶった手の先には巨大な水球が出現していた。


Illust:BISAI


「廻れ、廻れ、廻れ、廻れ……
 泡沫の極大魔法ファントム・グランマギア グリド・ラディアール!」
「……!」
 2人のゼーリスが唱え終わると同時、ゼーリスとベルクレアの周囲すべてが水に包まれた。それは世界をも騙す、究極の幻。2人のいる空間そのものに、「水中である」と錯覚させる、超常の神秘。
 水はゼーリスにとって手足も同然。もはやこの空間で、ゼーリスが負ける道理などない。
 今まで固唾を飲んで見守っていた観客が、校長ゼーリスの勝ちを確信して歓声をあげる。
 だが、そんな歓声を一瞬で止めた者がいた。
 悠久の幻真獣ニルズベイグ!
「僕のこと忘れてないか!」
 その羽ばたきがゼーリスの幻を打ち破り、世界に正気を取り戻させる。ベルクレアを救出すると、ニルズベイグがいつもの陽気さで語りかける。
「ねぇベルクレア。すっかり2人だけの世界に入っちゃってさ。僕のこと、もっと頼ってよ」「あ、ありがと、ニルズベイグ」「ほら、チャンスだよ!反撃!急いでベルクレア!」
 ベルクレアはまだ目を回していたが(ニルズベイグが促したように)極大魔法を放った後、ニルズベイグの登場に攪乱された2人のゼーリスを見て、総身に残る力を奮い起こした。
(ゼーリス。あなたが幻であったとしても……)
 ベルクレアの手には“姉妹杖”が、頭上には幻真獣が、そしてその背後には今、世界樹の偉大なる力と修行の末に身につけた廻命の力が泉のように湧きあがってくる。
「我、悠久の魔法師が真に願う。大地よ、循環のことわりをここに」
 それは生命力を操る究極の術。
「緑よ、自然の息吹をここに。大気よ、魂の息吹をここに。しかして活性せよ。生命の源。
 廻れ、廻れ、廻れ、廻れ……
 悠久の極大魔法エターナルグランマギアゼグレ・リオース!」


Illust:BISAI


 姉妹杖を前面に掲げると爆発的な廻命の力が解放され、魔法によりその肉体を極限まで強化したベルクレアは疾風の勢いで突っ込むと、1発!2発!。
 ゼーリスの1人には平手打ちを、もう1人には正面蹴りを。
「ぐっ……!」
 それぞれ魔法で極限まで強められた打撃を受けた2人は、複製体が“泡”となって四散し、本体であるゼーリス“幻影”は海に散る枯れ葉のように力を失って、舞い落ち、落水した。
 戦闘終了。
「ゼーリス……」
 ベルクレアは残心の構えで、苦い勝利を確信した。

 眠ったゼーリスを引き上げ木陰に寝かせると、突然膝をつくベルクレアとニルズベイグ。
 激しい戦闘の連続に、ついに限界が来たようだった。
「まいったな……まだ戦わなきゃなのに」
「帰ろう、ベルクレア。レザエルたちの元へ」
「……うん。エクス……ルーナス……」
 廻命魔法で無理やり体に言うことを聞かせる。
「必ず、現実を取り戻そう」
 ベルクレアは軋む体に鞭打って、ニルズベイグと共に幻世界を後にした。
 沈まぬあかい月の光に照らされながら。



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現実世界のベルクレアとゼーリス、2人の学生時代については
 →サイドストーリー ベルクレアとゼーリス「大魔法師物語」
 を参照のこと。

ベルクレアの生い立ちについては
 →ライドライン解説「石川カナミ」
 を参照のこと。

ゼーリスの生い立ちと死については
 →ライドライン解説「石川クルミ」
 を参照のこと。

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本文:金子良馬
世界観監修:中村聡