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アリウスよ、まだ雲は見えぬか。 -
見えませんね、師匠。この真っ昼間に見渡すかぎりスカッと快晴です。やはり無謀だったのでは……? -
いいや。漁師によれば2日前にドラゴニア海のこの一帯で見かけたという。リグレイン号はきっと現れる! -
それにしても大海原にこんな小さなヨットで乗り出すなんて……。 -
しかたなかろう。飛んでこようにも、むーちゃん(念のため言っておくとこ首の周りについてるフワフワに化けている最強の獣ムーンバックのことだ)は海水がキライなのだ。さぁ帆をかけよ。追い風に備えるのだ。 -
師匠……手伝ってはくれないんですね。……あ、ところで師匠は何故そんなに雲を探しているのですか? -
うむ。リグレイン号は雲をまとい、風雨とともに現れるという。 -
リグレイン号って幻の幽霊船ですよね。実家があるドラゴンエンパイアでも有名です。ボクも小さい頃よく言われました。「いい子にしていないとリグレイン号に連れて行ってもらうからね」と。実在するんですか?ボクはてっきり…… -
そう。すっかりおとぎ話の中のものの様になってしまっているな。私は実物を見たことがある。船長と会い、言葉を交わしたことも。 -
え!?船長って、たしか謎の…… -
「怪雨の降霊術師 ゾルガ」だ。リグレイン号の乗員は化け物だらけで、ゾルガの住まいの船長室は禁断の呪術実験室になっているという噂だな。おそらく一部は事実だろう。 -
一部って、じゃあ嘘が含まれていると? -
見てみればわかるが、リグレイン号は実在する船だ。問題はその目的なのだ。私は、ゾルガの本当の目的は(もちろん魔術をきわめることもあろうが)この海域や他国の動きを偵察するスパイ活動なのではないかと考えているのだ。 -
へぇ……。えっと、あの……師匠。実在するリグレイン号って、たとえば水面よりかなりの高さを飛行していたりしますか? -
ほう、よくわかったな。 -
骸骨や幽霊の船員が船べりからのぞき込んでいるような? -
あぁ、船員のほとんどが不死の存在だとも。 -
ドラゴンなんかも併走していたりして。船の周りに黒雲がまとわりついているみたいな。 -
おまえ、今日はずいぶん冴えているな。リグレイン号には最近、竜の用心棒がついたというぞ。 -
……む。なんだ頭上から水滴が……さっきまで晴天ではなかったか? -
あわわ……。 -
! 頭上にリグレイン号だと?!いつの間に!! -
あっ!飛び去っていきますよ(なにやら笑い声も聞こえるんですが) -
この私、ダークステイツ国の至宝にして、『知の探求者セルセーラ』をからかうとは!追え、アリウス!ゾルガのヤツをとっ捕まえて真の目的を吐かせてくれる! -
ヨットで空飛ぶ帆船に追いつけるわけないでしょ……もう、はいはい。行きますよ、行きますとも、海の果てまで……。