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世界観コラム ─ セルセーラ秘録図書館

010「封焔(ほうえん)」

    Illust:前河悠一
  • 封焔……か。
  • どうかしましたか、師匠?難しい顔をされて。
  • ふむ。前の町でもこの町でも、“彼女”の絵姿をよく見かけると思ってな。
  • 封焔の巫女バヴサーガラですね。封焔竜を率いて各地を巡り「人々を絶望から救う者」として大勢から敬われている存在です。人間なのに翼が生えていますが……これは絵師が付け加えた想像上の羽根でしょうか、セルセーラ様?
  • いいや。惑星クレイの人間にも羽根を持つ者はいる。極めてまれだが。
  • 強い竜に守られて、人気があって、綺麗で、みんなの為に力を尽くしている巫女、バヴサーガラさん。いいじゃありませんか。
  • お前、ふだんは難しい理屈ばかり言うのに美人には甘いのう。……修行が足りん。
  • まったく同意です。これだから若い殿方は。
  • マクガフィンまで、そんな……。じゃ、じゃあ師匠は、バヴサーガラと封焔竜のどこがそんなに引っかかるんですか?
  • うーむ……そこなのだ。「人々を絶望から救う」、この理想は大変よろしい。天輪聖紀になったとはいえ、まだまだ世の中には希望の光は乏しく、“絶望”に長くさらされると人間やあるいは竜までもが、ともすれば諦めや無気力に陥りがちだ。
  • ええ。加護が失われ、この惑星の民すべてが打ちひしがられ、絶望に向き合った無神紀の2,000年間は本当に長かったですからね。
  • まったくだな。もしもあの時代に目覚めていた竜がいたら、眠り続ける同類を前に孤独のあまり心砕けていたかもしれぬ。
  • (マクガフィンは物だから良いとして、なんで師匠は2,000年前のことを知っているみたいに言うのだろう……)
  • さて、“絶望”の反意語はなにか。もちろんそれは希望だろうな。そして我らは大いなる希望がこの地上に降りているのを知っている。
  • 焔の巫女と竜の卵。ト=リズンの町の一件ですね。遠くからでも師匠のように感性の鋭い人には天輪聖竜の幻視が見られたとか。
  • そうだ。まだ覚醒ではない予兆の段階でもあれほどの力を感じさせてくれたのだ。世界に希望が満ち溢れる日もそう遠くはないぞ、喜ぶがよい。
  • そうするとますます残念だなぁ。結局すれ違いになっちゃったけど、一度会いたかったですね。焔の巫女さんたちには。
  • いつか会えますよ。そういうものです。
  • バヴサーガラに話を戻そう。封焔竜はバヴサーガラから身の内に焔を分け与えられたドラゴンで、人間である彼女に忠誠を誓っている。
  • ちょ、ちょっと待ってください。ドラゴンに力を分け与えて従わせる人間ってメチャクチャ強い力の使い手じゃないですか?
  • ああ、規格外の存在だろうな。その封焔の巫女バヴサーガラは無神紀の頃より、不安の多い世の中を見て「このような苦しみを終わらせて欲しい」と祈る人々の思いに応え、信仰を集めている。“絶望”が深まるほど人々を引きつけ、世の中に影響を及ぼす力は強くなる。つまり“絶望”こそが彼女らをつき動かす理由であり源なのだ。
  • はい、そうですね。
  • しかし封焔の巫女バヴサーガラの口から「人々に“希望”を与える」という言葉が出たと聞いたことがない。「人々を悩みや苦しみのない世界に導いて救う」とは聞くのだが。それは一体どんな世界なのだ。
  • ……なるほど、これは危険ですね。
  • わかるか。さすが、賢者の杖マクガフィン。
  • すみません。僕にはもう何が何やら……。
  • それで科学の徒を名乗るとは未熟よなぁ、アリウス。もっと神学と哲学を学ぶのだ。よし!これから旅の道すがらたっぷりと講釈してやるぞ。天輪聖竜と封焔の一派との違いと、近い未来に起こりうる出来事についてな。さっそく第1章だ、書き留めよ!
  • おぉ、セルセーラ様の予見がついに文字となるのですね!
  • あの……それって全部僕が書くんですよね、しかも手書きですよね、師匠はただ話し続けるだけですけど、僕はペンと本をもつ手が疲れても休憩できませんよね……。
  • 当然だ。お前は弟子だぞ。弟子は師匠に仕えて学ぶものだ。
  • 偉大なる賢者のお言葉ですよ。心して書き留めてください、アリウス。
  • はーい、がんばりまーす……。