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ユニット

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短編小説「ユニットストーリー」
011「発破怪獣 ボバルマイン」
ブラントゲート
種族 エイリアン
カード情報
世界にとっての脅威とは常に目に見える形で現れるとは限らない。
──大賢者ストイケイア

深夜 ブラントゲート中部近海 海中監視塔より報告

 海底に異常振動観測。プレート性のものか火山性のものか確認中。

深夜 惑星クレイ衛星軌道 気象衛星観測班より報告

 ブラントゲート中部近海に重力波異常を観測。
 “震源”は微速ながら移動が認められる。
 旧時代ゲート17と呼ばれた海域にあたるため注意のこと。

深夜 ブラントゲート中部沿岸 無人哨戒機制御班より報告

 本土海岸に向けて水中を移動する物体あり。非惑星クレイ型生体反応陽性ポジティブ、再度確認中。
 潜影は巨大。データベースのいかなる生物、または船型とも合致せず。
 警告レベル3。至急、哨戒艇の出動を求む。

深夜 ブラントゲート中部沿岸 沿岸警備隊より報告

『アイツが上がってきた!なんて大きさだ!(爆発音)……こちらの装備では(雑音)とても手におえない。こちらは撤退する!増援(雑音)なるべく……(通信途絶)』

未明 ブラントゲート ウェストドーム防衛庁緊急対策会議

「怪獣……だと言うのか」
 ウェストドーム防衛担当大臣の顔色は悪かった。
「ゲート17。はるか昔、海底に封鎖された宇宙門スペースゲイトから出現したものと思われます」
 ウェストドーム海軍大将の答えは明快だった。
「怪獣?しかもこれほど大きな個体など聞いたこともないぞ。いったい何年ぶりなんだ」
 同・陸軍大将の驚きと問いかけはもっともなものだった。
「いま記録を当たらせていますが、この地域での出現例は数百年ではきかないでしょう。おそらく数千年……」
「バカを言うな!それではまるで考古学ではないか!これは現実の脅威だぞ」
 科学庁代表の報告に、空軍大将は激昂する。
 そんな中、ブラントゲート宇宙軍参謀長──怪獣出現の一報を受け、対エイリアン作戦の専門家として急遽、軌道ステーションから降下して来た──は、呑気とも言える口調で話し出した。
「我々、宇宙軍からすればこのような事態は珍しいものではありません。惑星クレイへのエイリアンの侵入は日常茶飯事です。我々が片付ける・・・・か、超銀河警備保障コスモセキュリティが出るかの違いだけで」
「左様。まずは刺激しすぎないことですな」
 参謀長に頷いてみせたのは、いったいその齢は幾つなのだろう。小柄で腰の曲がった老人だった。
誰だ?と会場のあちこちからあがる声なき疑問に、宇宙軍参謀長が本人に替わって答えた。
「古より極点近くに住む一族の長老です。以前エイリアンとの接近遭遇で相談に乗ってもらってからのご縁でして」
「火急の際じゃ。説明は後にして、わしのことはまぁ“怪獣使い”とでもお呼びくだされ」
 老人は低い頭をさらに下に垂れて一礼した。
「“怪獣使い”?」
 防衛担当大臣はぎろりと老人をにらむ。
「はい。お任せいただければ彼奴きゃつに名を与え、おとなしく収めて御覧にいれますゆえ……」
「何を言っとる!ヤツは銃でも大砲でも止められない!既に一個大隊が壊滅し、最寄りの都市ドームに迫る勢いなんだぞ!」
「こうなったら艦砲一斉射撃で吹き飛ばし……」
「いやいや、まだ絨毯爆撃を試してませんぞ。いざとなればもっと強力な……」
「待て!そんな大火力を居住ドームの近くで使うなど許可できるわけが……!」
 老人の言葉を、陸海空軍の代表は一蹴し、そこへ防衛担当大臣が割って入る。議論は、沸騰するばかりで進展する様子はなかった。
「ここを出ましょう。私が上空までお送りします」
「うむ。みな怖いのじゃ。いつの時代も似たようなものよ」
 宇宙軍参謀長と老人がひっそりと去った後も、悲劇的な報告と怒号はいつまでも止まなかった。

早朝 ブラントゲート ウェストドーム近郊

 ズーン!ズ・ズーン!
 ブラントゲートの氷原を巨大な影が歩いて行く。
 すでに無力と知り沈黙した迫撃砲部隊も負傷者を収容して後退。背後の雪の上に人の姿はなく、潰され撃ち落された戦車や戦闘機の焼け焦げた残骸が黒い影を落としている。
 この“怪獣”は危険を感知すると、体表の状の組織を分離・飛散する。
 どういう分子構造なのか、惑星クレイの大気でその管は燃え上がり、まるで爆薬のように強烈な衝撃と炎をあげるのだった。
 ズーン!
 ブラントゲートの都市ドームまであと少しに迫った時、“怪獣”は足を止めた。
 頭部らしきものが持ち上がり、辺りを伺う。
 ♪……♪
 吹きすさぶ吹雪の中から、かすかに旋律を伴った音が響いていた。
「ほーいほい、こっちじゃこっち!」
 “怪獣”は声のほうに振り向いた。声を感知し、その意図に反応する知性をもっているようだった。低空を一機の垂直離着機VTOLがそろそろと近づいてくる。 
「さ、あれ・・の上に降ろしておくれ」
「危険ですよ」
「大丈夫。この見知らぬ世界に現れる“怪獣”というのは臆病なのでな。飛行機の轟音さえ避けたいのじゃ」
 “怪獣使い”の老人は吹いていた横笛をしまうと、参謀長の答えを待たず、乗ってきた垂直離着機VTOLから、眼下の巨体にひらりと飛び乗った。
「ほい、派手にやらかしたもんじゃのう」
 老人は初めて会った“怪獣”に、まるで旧知の友にでも会ったかのように首を撫で、穏やかに語りかけた。
「おまえに名をやろう。発破怪獣 ボバルマインでどうじゃ」
 “怪獣”はとまどうように管つきの頭を傾げた。
「ケンカはもう終わりじゃ。行くぞ。わしら以外、誰もいない土地。おまえを脅かす者のいない土地へ」
 ボバルマインから今日最後の管=発破が雪の地面に落ち、破裂することなく鎮火した。

 “怪獣”が行く先を南極へと変えたことを確認し、宇宙軍参謀長はウェストドーム防衛庁を通じて同ドームの全軍に正式な攻撃停止と帰投の命令を出した。
あれ・・もこの星の住民になるのでしょうか?」
 副官の質問に、参謀長はあくびを噛み殺しながら答えた。
「さぁ……まぁ異世界から来る者もいつの間にか住民として取り込んでしまうのが、我が国ブラントゲートの特徴だとは思うがね」
「あの老人はいったい?」
「正体など誰がわかるものか。それよりも、科学も最新兵器もまるで通じない“怪獣”を遠くに連れ帰ってくれたんだ。感謝しこそすれ野暮な詮索などするべきじゃないだろう。ただ、それでいいじゃないか」
 参謀長はコートの襟を引き寄せて、垂直離着機VTOLの座席に深く横たわった。悟られぬほど薄く微笑しながら。
「いまは少し眠らせてもらおう。帰ったらまた質問責めだろうから」

 雪の平原には怪獣の足跡だけが、南の極点に向かって長く長く続いていた。






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《今回の一口用語メモ》
怪獣
 外宇宙や異世界から現れた生命体のうち、人的・物的な被害をもたらすもの。外見に決まった特徴はなく、人型のもの、動物型のもの、不定形など様々。惑星クレイの住民にとっては破壊やエネルギーを盗むなどの被害をもたらす、疎まれる存在である。
 はるか太古には、銀河超獣と呼ばれる、全星系が協力して対応した怪獣の記録も残されている。

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本文:金子良馬
世界観監修:中村聡