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短編小説「ユニットストーリー」
013「真相読解 コカビエル」
ケテルサンクチュアリ
種族 エンジェル
カード情報
 天使エンジェルコカビエルが求めるのは常に最適解である。

 ケテルサンクチュアリ──天空の浮島ケテルギア、中央島セントラル
 天上騎士団《クラウドナイツ》本部、指揮統制室。
「コントロールよりKナイト24、天上港埠頭ピア17番に接岸する貨物船でエイリアン警報アラーム。急行・確認されたし」
 案件受け渡し済。
 コカビエルは目の前に浮かぶ半透明な浮遊スクリーンの一つ“天上港”を指でスワイプして消す。
 次はギア6からのレベルIIメッセージ。
 両手を軽く交叉させると、浮島ギア6の模式図とリアルタイムモニターが開いた。
「ギア6オペレーターリーダー。状況を報告せよ」
「ブロック4で神聖魔術使用警告アラート。おそらく魔術実験の暴走かと」
「情報不足のままの推測など最適解を遠ざけるだけです。お止めなさい」
 コカビエルの背の羽根がわずかに逆立つ。人間でいえば怒りや不満に似た感情だろうか。
「申し訳ございません」
「被害は」
「魔術師街の壁が一部倒壊。火災・溶解・消失なし。負傷者なし。引き続き情報収集中です」
「対応はギア6警察・消防に任せる。原因が判明したら報告をあげて」
「承知いたしました」
 ──ほんのひと時、全浮島からの通報連絡が途絶えた。
 繁忙を極める彼女の仕事にもこんな時はある。
 コカビエルが胸の前で手を合わせると、すべての浮遊スクリーンが消え、前面の透過壁全体にケテルギア浮島群の構造図が目の前に広がった。天使たるコカビエルの思考を他人が窺い知ることはできない。しかし彼女がこの図を見ることに喜びを感じていることだけは確かだった。



 ケテルサンクチュアリの首都ケテルギアは9つの浮島群で構成されている。
 真ん中が首都機能が集まった中央島セントラル。通常ケテルギアと呼ばれる場合はこの中央島セントラルのことを指す。
 すぐ横に半円上の天上港があり、これが地上と天空の都を結ぶ唯一の玄関口である。
 そしてその周囲を右回りにギア1からギア9の浮島が囲む。
 真上からの視点ではそれは空に浮かぶ王冠のように見える。しかも中央島セントラルを取り巻く王冠の飾り(9つの浮島)は互いの妨げにならない程度に制御され、常にその位置を変えている。ケテルギアの都は、すべてが人工物であるのにまるでひとつの生き物のようだった。

「起立!」
 短い休憩からコカビエルが復帰しようとした途端、指揮統制室に緊張が走った。
 コカビエルの席はこの指揮統制室でも特異な位置を占めている。それは壁に半ば埋め込まれた小型のドームと透過壁で仕切られた個室であり、椅子を中心に球状をした内部は彼女の天使の羽根と同じく鮮やかな光で満たされている。
「敬礼!」
 頂の天帝 バスティオン。
 全身を隙間なく完全鎧フルアーマーで覆うこの男こそ、呼び名の通り天上騎士団の頂点に立つ存在である。
 コカビエルは起立こそしなかったが、優雅に一礼して仕事に戻る。
 ……はずだった。
「コカビエル」
はいサー、バスティオン」
 コカビエルは再開しかけた浮遊スクリーンを閉じて、重い足音を響かせる上司に向き直った。
 並みの団員ならば畏敬と緊張のあまり凍りついてしまいそうな接近も、コカビエルは自然に対応する。
 バスティオンの表情がうかがえない兜の中から低い声がかかった。
「団員の国外派遣について」
「ベイスをお考えですか。例の場所へ」
「そうだ。評価を」
「経験不足。判断力・危機察知・集中力に不安あり。お勧めはできません」
「解としては」
「消極的否定」
「弱いな」
「9つの浮島に同じ。最適解に近づくには互いの相乗効果をも考慮すべきかと」
「さしずめベイスはギア1(天上港)か」
真円フルではなく半円ハーフの。それもまたサークルの一つ」
「渾然一体は混沌カオスの象徴ではなかったか」
ローの護り手としては皮肉ですわね」
「では決まりだ」
「“頂の天帝”のよろしいように」
「手配を」
「承知いたしました」
 指揮統制室の団員がざわめく。二人の会話の内容と意味と速度に全くついていけないのだ。

 全員が直立不動で見送る中、完全鎧フルアーマーの騎士は去った。
 コカビエルは任務に戻る前に、一件だけ天空通信網クラウドネットに通知を載せた。
 天空の騎士ベイス。見習い天上の騎士クラウドナイトに対する隣国ドラゴンエンパイアへの派遣命令だった──。



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《今回の一口用語メモ》
天空の浮島ケテルギア
ケテルサンクチュアリの首都ケテルギアは9つの浮島群から構成されている。中央は最も古く、首都機能が集まったもっとも権威のある島であり、通常「ケテルギア」といえばこの中央の島セントラルのことを指す。

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本文:金子良馬
世界観監修:中村聡