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ユニット

Unit
短編小説「ユニットストーリー」
014「ディアブロスジェットバッカー レナード」
ダークステイツ
種族 デーモン
カード情報
 競技場アリーナで賭けるのは名誉だ。金じゃない。
 ギャロウズボールで散るのは熱い血と汗、あるいは命か。
 オレたち選手ボウラーは常に死線ギリギリで勝負してるのさ。

 Wing T!!
 フォーメーションの掛け声と同時にエンジン全開フルバーナー
 0コンマ3秒で時速250kmまで加速。
 “ジェットバッカー”のオレは左サイドを突っ走った。
 足が触れているフィールドの表面が風圧でめくれ上がってゆく。
 30ヤードに達したのは0コンマ4秒後。
 Go!!
 縦進ストレートで敵陣を突破したオレに、ピタリと合わせたパスが届く。
 ギャロウズボールのボールがオレの真横、地面から2mほどの空中に止まって見えた。
 相対速度は0ゼロ
 つまり俺たちは今、放たれた矢のようなスピードで併走しているってことだ。
 しかし軽いスナップショットで球速250kmを放るとは恐れ入ったぜ、ブルースのアニキ。
 『“暴虐バイオレンス”ブルースの肩はいしゆみか!?』だの『規格外デーモン』、『存在自体が反則』とか言われるワケだよな。
 まもなく100ヤードライン。
 所要1秒と少しでファーストダウン。ハッ、ちょろいもんだね。
 オレが回転するトゲだらけの球に手を伸ばした時…
 最初の着弾がきた。
 ──!
 目の前の芝生が盛り上がった瞬間、オレは反射的にボールを諦めて、身体をスクリューさせた。
 爆発!
 破裂した榴弾の破片がオレの身体をきわどくかすめていく。まずは迫撃砲の歓迎か。
 オレはスピードを緩めることなく、重心を逆側に傾ける。
 着弾!
 芝生が土塊をまきあげながらオレの後方、自陣に向かって点々と大穴を開けていく。
 今度は重機関銃か、いやこの威力は機関砲だろう。
 しかも直接照準で狙ってきやがったぜ、くそっ!(ま、この手の「うっかり」はオレらもやるけどね)デーモン相手とはいえ無茶しやがる。
 オレはエンジン出力を緩めて、フィールドを派手に転げた。
 これがオレたち“ジェットバッカー”の減速方法だ。いかに早く敵陣を駆け上がるかが仕事のオレたちに、逆噴射だのエアブレーキだのといった余計な装備は必要ない。
「球は!?」
 ギャロウズボールは球技だ。一応な。
 オレたち選手ボウラーは球のありかを常に意識して動いてる。
 ルール上、ボールを確保した者に攻撃権が移るので、特にいまのオレは血眼にならざるを得ない。加えて敵陣にここまで深く入り込んでるのは(ジェット担いだ)このオレしかいないので、頼れる味方も周りにはいない。
 あった!
 楕円の球は不規則にバウンドしながら100ヤードラインを超えてゆく所だった。その視界の端、右からオレと同様、必死で球に駆け寄るディフェンスが見えた。敵だ。
「やらせねぇ!」
 オレは躊躇無くエンジン全開フルバーナーにして突っ込んだ。
 繰り出される捕縛棒をかいくぐり、ついでにわざと相手の顔を踏みつけ足場にして、数mmの差で球を先にキャッチ!
 見たとおり、“ジェットバッカー”を捕まえるのは容易なことじゃない。
 だからオレを狙い捕捉するなら、散弾や弾丸の雨あられか爆風や炎じゃないとダメなんだ。
 いつもならこのまま直進する所だったが、突如背中をおそった悪寒──こういう直感と経験には従ったほうがいい──にしたがってオレは噴射角度を変え、上空に飛びあがった。
 とたんに今までオレたちがいた地点で続けざまに爆発が起きた。
 ロケット砲の連射らしい。
 味方を巻き添えにするなんて悪魔デーモンみたいな連中だ。いやデーモンはオレもか。
 爆煙の中から、オレはジェットの軌跡を曳きながら飛び出し、上空でボールを掲げた。
 オォォォォォォ!!
 地響きのような歓声に競技場アリーナが揺れる。
 0コンマ数秒の競り合いに客席が湧き、チアのお姉ちゃんたちがサイドラインで踊る。
 いいねぇ。この瞬間がたまらない。
 だが、得意になったこの瞬間が命取りだった。
 ──!!
 眼下の爆煙を割って、1本の地対空ミサイルが突っ飛び、避ける間もなく熱源──つまりオレの背中のジェット噴射を追尾して迫ると、エンジンの至近距離で爆発した。
「ぐあっ!」
 紅蓮の炎に焼かれ、オレは100ヤードラインの上空50ヤードくらいから墜落した。
 そのまま地面にめり込む勢いで激突する。
 筆舌に尽くしがたい激痛の中、オレの意識は暗黒の中に沈んでいった。

 目を開けると、瘴気が垂れこめるダークステイツの夜空が見えた。
 次に目に入ったのがニヤリと笑う髑髏スカル。オレを囲む野郎どもの身体のどこかに必ず入っている『チーム・ディアブロス』のエムブレムだ。
 口に何か液体をブチまけられ、オレは猛烈にむせ返った。ウチの魔王特製の強壮水だ。
 気付けの水かけるなら顔とか頭とか色々あるだろうが!わざわざ息を塞ぐなんて殺す気か!?この悪魔ども!……と怒鳴ったつもりだったが、おなじ悪魔デーモンのオレの口から出たのはうめき声だけだった。
「お、起きた!」
「フン、ずいぶんと長いおねんねだったなぁ」
「もう救護班は要らんな。引き返させろ」
 “無垢イノセント”マット、“悪童バッド”スティーブ、“憤怒アンガー”リチャード。
 周りを囲んだチーム・ディアブロスの野郎どもを見て、仰向けのオレからはひと言。
「……地獄にもアンタらみたいなのが群れてるらしいな」
「へっ、レナード。おまえがミサイル程度でくたばるタマかよ」
 三人は顔を見合わせてゲラゲラ笑いやがる。何が可笑しいんだか、この悪魔どもめ。
「ボールだけは離さなかったな。それでこそチーム・ディアブロスだ」
 ただ一人、手を差し伸べた大男が長兄、“暴虐バイオレンス”ブルースだった。
 言われて気がついた。オレは上空から地面に叩きつけられ、気を失った後も球はしっかり抱えたままだった。ギャロウズボールでの落球は敵の攻撃権に直結する。オレはアニキのパスを命がけで受け止め、レシーバーの役割を文字通り死守したわけだ。この伸ばされた手こそが何よりの名誉の証だ。
 手を借りて起き上がってみると、オレは100ヤードラインをちょうど超えた所にいて、さっき激突した(ついでにロケット砲の連射を浴びた)敵ディフェンスが介抱されていた。
 ズタボロになっても応急処置で復帰できそうなアイツも、どうやらデーモンらしい。
 まぁ人間あたりじゃ初撃でオダブツだもんな。頑丈でそう簡単にはくたばらないのがオレたちのいい所だ。
「Hey!殊勲の“ジェットバッカー” レナード!またまたブッ飛ぶ準備はいいかーい?」
 MCの煽りとともにオレの相棒──替えのジェットエンジンがお姉ちゃんたちに囲まれまるで踊るように運ばれてきた。
 どうやらオレたちがロストしてた間、ディアブロスガールズのチアダンスで間をもたせてくれたらしい。
 オレたちスパイクブラザーズのお得意、スペシャル“暴虐バイオレンス”エールってヤツだ。盛り上がるんだよな、あれ。

 装着完了。
「レナードには、初っ端いいとこ持ってかれちゃったからな~」
「ヘッ、すぐに取り戻すって。今夜のヒーローはこの俺様だぜ」
「いきがるな。突っ込むばかりじゃなくたまには頭も使え」
 ディアブロス兄弟の三人はいつものくだらん掛け合い。そこへ低く渋いアニキの一声。
「できるな」
 “暴虐バイオレンス”の言葉は確認ではなく、断定だった。
 たったこのひと言でズシリと重い信頼を感じる。いいね、そうこなくっちゃ!
「あったりまえさ。こんなんで退場させられたらスパイクブラザーズの名が泣くぜ」
 とオレ。競技場アリーナで賭けるのは名誉なんだ。
 Set! Hut! Hut!!
 エンジン点火。
 オレたちはフィールドに散開し、フォーメーションに付く。
 熱い試合はまだ始まったばかりだ。



※註.時間・距離の単位は地球のものに変換した※


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《今回の一口用語メモ》
キャロウズボール
魔法王国ダークステイツで一番人気の球技であり、惑星クレイ全土でも非常に多くの観客、視聴者を集めている。地球で言うアメリカンフットボールにかなり似ているが舞台となるフィールドの広さは約10倍もある。さらにこちらは肉弾戦に加えて重火器を含むありとあらゆる妨害・突破手段が認められており、必然的に試合は過激きわまりないものとなる。選手と観客の安全のため、重火器による直接攻撃は認められていないが
「ついうっかり」
「手が滑って」
「狙いがはずれて」
などの理由で当たってしまうことはよくあるし、これは反則ではない。もともとはこの国がダークゾーンと呼ばれていた頃、各地を治めていた魔王たちが戯れに始めた娯楽が元になっているため、ルールなどあって無いようなものである。

チーム・ディアブロス
ギャロウズボールの強豪「スパイクブラザーズ」に所属する一団。チーム内にいくつかある派閥の中で最大の人気と実力を誇る。熱狂的なファンの間で生まれた愛称「ディアブロス」がいつしか公認となった。
惑星クレイ一の暴れん坊として知られる、“無垢イノセント”マット、“悪童バッド”スティーブ、“憤怒アンガー”リチャード、“暴虐バイオレンス”ブルースのディアブロス四兄弟が中心となっている。

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本文:金子良馬
世界観監修:中村聡