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短編小説「ユニットストーリー」
052 世界樹編「忍妖 アマヴィエラ」
ドラゴンエンパイア
種族 ゴースト
カード情報
ドラゴンエンパイア海洋生物研究所よりシースケイル ドラゴニア海東方面司令への報告書 No.0502_058

 昨5月2日。研究所近くの岩礁で、かねてより目撃例があった忍妖と、本職員が第三種接近遭遇。
 当海沿岸の民と警備担当への伝言メッセージを預かったため、証言とレポートに添えて提出するものとする。

《証言1 ドラゴンエンパイア東部沿岸の漁師A 人間ヒューマン男性》

 あの方に逢ったのは、沖でオレの船が難破しかけた時だよ。
 突然の時化でな。ひでぇ嵐だった。
 帆は暴れまくって装具に手も着けられねぇし浸水も止まらない……あぁ、こりゃもうオダブツだなと。
 甲板に突っ伏して波と風を被りながら、そう覚悟した時だ。
 船の縁に光が見えた。
 ほら、船幽霊って聞いたことあるだろ?時化の夜に現れて船を沈めようとするヤツ。
 オレはもうガタガタ震えながら思いつく限りの神格に祈りを捧げるばかりだった。
 ところが、だ。
 その光が言葉を喋ったんだ。
「落ち着いて。この船は沈みません。帆を畳み舵を取りなさい」
 オレは答えたね。この風じゃ立つこともできないぜと。
「どのような嵐もひと時のこと。やがて風は止み、海は凪ぎます」
「ダメだ!もう終わりだって!」
「では、私の姿を見て名を呼びなさい。……と」
 オレは藁にもすがる思いで、その通りにした。
 すると、どうだい。風が少し緩んだじゃねぇか。
 オレは慌てて帆を畳み、舵にしがみついた。必死でな。

 どれくらいたったかな。長い間、気を失っていたのかもしれない。
 オレと船は晴れ渡る海の上を漂っていた。助かったんだ。
 ん?名前か。
 あの方の名はオレにとってありがたい神聖なもんなんだ。
 別にケチるわけじゃない。この海であんたがもし本当に助けが必要なら、オレなんかが言うまでもなくあの方が現れ教えてくださると思うぜ。

《証言2 海洋生物研究所所員(浅海環境課) エルフB 女性》

 ええ。私の目下の研究対象はアマヴィエラです。
 忍妖アマヴィエラ。
 ドラゴニア海の広い範囲で目撃例、遭遇例があります。
 大抵は、海で困ったこと。たとえば遭難したり海路を見失ったり、水が無くなったりした時に出会うことが多いようです。変わった例では、魔女に呪いをかけられたストイケイア北部の水先案内人が、アマヴィエラの“似姿”を肌身離さず持っていることによって解呪したということがあります。
 私の場合、アマヴィエラとの遭遇はそんな深刻な事ではなかったのです。
 研究所近くの磯で貝の採集をしていた時のこと。
 タブレットと水中カメラを磯だまりに落としてしまって。運が悪いことに夜の、しかも波の高い満潮でしたからまったく所在がわからなくなりました。
 どちらも代えがたい貴重なデータなのにひと晩に2つも無くし物をするなんて……と諦めかけていたその時、磯から光が立ち上がって、その中からタブレットとカメラを抱えたアマヴィエラ、私の研究対象そのものが現れたのです。
 そもそもアマヴィエラは控えめな性格の海の幽霊ゴーストです。
 でも、私が彼女という存在に強い興味をもって研究していること、彼女の癒やしの力によって救われた人たちのその後の話(私は沢山のエピソードを取材していましたから)を伝えるとアマヴィエラは喜んでくれて、私に伝言と写真を撮る許可をくれたのです。複製し、みんなに広めても良いそうです。
 幽霊ゴーストがデジタル写真に収まったのか、ですって?
 ええ、私もこれは賭けでした。
 工夫があったとすれば波打ち際の岩に座ってもらったことが、功を奏したのかもしれませんね。海を撮る水中カメラもひょっとしたら相性が良かった(呪術的、魔法的に何らかの意味があった)のかも。彼女は海そのものですから。
 伝言と写真データは所長にお預けしました。
 もちろん写真は私用にもコピーを撮って、部屋には大判のポスターを、あとこんな感じで携帯の待ち受けにもしてありますよ。最初に申し上げたとおりアマヴィエラは研究対象なんですから。これは私の幸運のお守りです。

Illust:筒井海砂


★進言と伝言メッセージ/海洋生物研究所所長

 忍妖アマヴィエラは、グレートネイチャー総合大学の『惑星クレイ種族一覧』に沿えば幽霊ゴーストに分類される。怪光を伴って出現し、しかもその遭遇が大抵、生命の危機にある時であったことから怖れられることもあったが、証言から見られる素行は穏やかなものであり、海や沿岸で生活する民に対して友好的な存在である。戦いの場で助けが必要な時も、彼女が言う“似姿(写真のことである)”をかざせば力を貸してくれるものと思われる。
 忍妖アマヴィエラとその力が、シースケイルの警備隊に導入される可能性についてはご判断に任せるとして、最後に、当研究所所員のエルフが聞いた伝言とデジタル写真を添えてこの報告の終わりとする。

 迷い、傷ついたとき、生命が脅かされたとき。私の似姿を見せなさい。
 私が帯びるのは海の力。連なる厄を祓い、路を照らす。淡く尊き癒しの灯。
 深き海底より浅き磯まで、アマヴィエラはいつでもあなたの側にいます。




※註.船幽霊は地球の似た存在(日本の妖怪)を使用した。ナンバリング(No.)は地球の言語・方式に変換した※


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《今回の一口用語メモ》

シースケイル
 ドラゴンエンパイアとストイケイアによって創設された海の治安維持組織。正規の軍隊としては惑星クレイの歴史上、画期的な2国合同軍である。
 多くのドラゴンが眠りにつき、存在を魔法に依存する不死者たちが姿を消した無神紀。
 かつて世界の法を支えた神聖王国ユナイテッドサンクチュアリ(現ケテルサンクチュアリ)が実質、鎖国状態となる中、世界の治安を支えたのは、陸と空を制する軍事国家ドラゴンエンパイアとメガラニカ(現ストイケイア)の海の護りアクアフォースであった。
 国境を超える脅威に対抗するために協力体制を取ることも多かった2つの軍隊だが、天輪聖紀に入り、その連携を強化しようという試みが現実化する。かくしてドラゴンエンパイアが唯一手薄とする海軍戦力をストイケイアが補完する形で生み出された多国籍海域治安維持軍が「シースケイル」である。
 現在「シースケイル」には惑星クレイに住む様々な種族が参加しており、対超国家犯罪と世界危機対策を目的として日々、海の安全を守っている。

→惑星クレイの暦については、ユニットストーリー017「樹角獣 ダマイナル」末尾の《今回の一口用語メモ》を参照のこと。

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本文:金子良馬
世界観監修:中村聡