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ユニット

Unit
短編小説「ユニットストーリー」
095 龍樹篇「出動!お掃除三姉妹!」
ブラントゲート
カード情報
「さぁ、今日も張り切って、皆でお掃除頑張りましょ~!」
 長女ウィープルが箒で掃けばウィープ
「我ながら、惚れ惚れするほど完璧な仕事です」
 次女ブラーシュがここまで綺麗にブラシをかけた床や壁、天井・・を満足げに振り返り、
「きゅっきゅっきゅ~♪るっるるっのるーん♪」
 三女モーピィが歌いながら振り回すモップに──低重力あるいは無重力でも飛び散らぬように制御された──水流が帯のように巻き付き、舞い踊った。

 惑星クレイのブラントゲート国に三人の姉妹がおりました。
「「「お電話一本即出動!どんな汚れも一網打尽!」」」
 その名はプッツェンシュヴェスタン。
「「「お掃除は私達!プッツェンシュヴェスタンにお任せ!」」」
 彼女たちはお掃除のプロフェッショナル、宇宙を駆ける噂のワーカロイド三姉妹なのです。

Illust:mado*pen


 ──超銀河基地ヒーローズ・ベースA.E.G.I.S.アイギス”。
 惑星クレイの衛星軌道上を周回するこの宇宙ステーションは、世界を脅かす悪の手からこの宇宙と惑星ほしとそこに暮らす民を護る『銀河英勇ギャラクティックヒーロー』の本部だ。
「いよぉ、お嬢さん達!……フッ、なんと美しい光景。まるでこの基地自体が君たちを歓迎しているようだっ」
 伊達男は基地の廊下に出ると斜に構えてドアによりかかった。ニヒルな笑みを浮かべながら、流れた髪の裾を粋に指先で整えたりしてみる。
 銀河英勇ギャラクティックヒーローワイヤード・クロステン。
 彼は一気に詰めてくることで知られている。戦いの間合いは勿論、心の距離も。

Illust:キリタチ


「ぶ!うへ!むぼぉ!」
 クロステンは目の前を通り過ぎた箒、ブラシ、モップに丁寧に洗われて妙な音をあげてしまった。
「……ご、ごほっ!ごほっ!」
 クロステンはむせ返った。そのこすられ洗い清められた顔もゴーグルも、基地の掃除済みの部分同様、通常のケアをした後よりもはるかに良い状態になっている。プッツェンシュヴェスタンの素晴らしい“掃除”効果は生物/非生物を問わないのだ。しかしまぁ、水も滴るいい男とはよく言ったものである。
「あら、ごめんなさーい!」「失礼いたしました」「るる、るーん♪」
 急停止した三姉妹がそれぞれのお詫びの言葉を送る。なお三女モーピィについてはふざけているのではなく、いつもこんな感じである。
「いやぁ、お気になさらず。プッツェンシュヴェスタンに清められたのなら、それはむしろ誇りとすべきだ」
「そうですか」「それは何より」「るる、またね~♪」
「いやいやいや!ちょっと待ったぁ!」
 踵を返しかけた三姉妹を、クロステンは慌てて呼び止めた。なにしろ韋駄天のプッツェンシュヴェスタンときたら、目を離した瞬間、はるか彼方まで掃除を進め、消え去ってしまうのだから。
「君たちに伝言があるんだよ。この後のことについて、フォリエから」
 フォリエとは、彼と同じ銀河英勇ギャラクティックヒーローの女性隊員、戦術オペレーターである。
 伊達男ぶりを取り戻したクロステンはフッと笑ってポーズを決めた。
 ワーカロイド三姉妹からの反応は何もないネガティブ
 クロステンは咳払いして本題に入った。同じくプロフェッショナルとして時間泥棒は忌むべきものである。
「ン・ン!“ゴミ捨て”についてさ。焼却処分のアレ・・だけど」
 クロステンが後ろ手に指でさしているのは窓の外、宇宙空間に浮遊している“焼却ゴミガベージ”の一群と、その横に浮かぶひときわ大きな物体だ。なお燃えるゴミと言っても宇宙と地上とでは分別の基準が違う。衛星軌道から大気圏に突入した際、摩擦熱と空力加熱による温度は数千度から1万度を超える場合もある。これは大抵の物質の融点を超えているため、地上までに燃え尽きる質量であれば大抵のものが“焼却ゴミガベージ”なのだ。
「伝言というか相談だな。アレ・・をどう処分したものか、いま揉めに揉めている所なんだ」
 浮いているその“焼却ゴミガベージ”は基地の一区画ちかい容量があった。

「どう思う0Gゼロ・ジー?」長女ウィープル。
 ゼロ・ジーと呼ばれた円筒型ワーカロイドは単眼モノアイを光らせて答える。
「やあ、やっとワタシに相談してくれたね。お嬢さん達シュヴェスタン
 0Gゼロ・ジーこと「Coarch 0G46」は控えめな性格の補助サポートワーカロイドだ。お掃除三姉妹とチームを組んでいながらあまり表に出ることはなく、こうして保護者的な立場から彼女たちの活動を支え、成長を見守っている。
「ワタシの意見を言わせてもらえば、銀河英勇ギャラクティックヒーローから頼りにされるのは喜ばしいことだ。我々はただの清掃人クリーナーではない。宇宙における廃棄物処理の専門家プロフェッショナルでもあるんだ。もちろんこうした内外の施設を掃く、ブラシする、モップがけを完璧にこなして清めていく地道な作業が第一だけどね。ちなみにワタシはそのゴミを“吸引し収集する”わけだが」

Illust:mado*pen


「状況を整理させて、0Gゼロ・ジー
 次女ブラーシュはそんなCoarch 0G46を頼れる先輩として対話している。0Gゼロ・ジーは三姉妹に比べると型式はかなり古い世代に属する。実際、こうした宇宙基地の清掃についてはベテランなのだった。
銀河英勇ギャラクティックヒーローが不要になった基地の区画は、廃棄物として慎重に処理すべきだと?」
「そうだよ、ブラーシュ」

Illust:mado*pen


「ぶっ壊しちゃえばいいんだよ、ボーン!って。るる♪」
 三女モーピィはニコニコ笑いながら物騒なことを言った。彼女の周りには水を重力制御する浮遊子機ビットが浮いている。

Illust:mado*pen


 ワーカロイド0Gゼロ・ジーの答えはあくまで穏やかだった。
「それはあまり勧められないね。まずひとつ目の問題として、基地が今回の廃棄に割り当てられるエネルギーが少ないことにある。最近、事件が多くて銀河英勇ギャラクティックヒーローの転送に消費してしまったんだ」
 こうした宇宙空間に浮かぶ建造物の場合、備蓄や生産が限られている活動維持エネルギーの配分は──外部からの訪問者であるお掃除三姉妹が想像するよりも──シビアである。
「ここからロケット推進を取り付けるにしても加速ビームを使うにしても、爆破の影響がない地点ポイントまで離すことは難しい。そして二つ目の問題。お嬢さん達シュヴェスタンはよく解っていること。ゴミの消滅だ」
 三人は0Gゼロ・ジーを囲んでふむふむと頷いた。ちなみにここは超銀河基地ヒーローズ・ベースA.E.G.I.S.アイギス”の格納庫の片隅である。
「仮に爆破したとしても、より細かい宇宙ゴミスペースデブリが散らばるだけだからね。宇宙船の邪魔にならないように完全に消し去らなくては」
「じゃ、燃やしちゃおう。るる♪」と三女モーピィ。
「地球周回軌道から高度を落として惑星クレイに落とす?」と長女ウィープル。
「危険ね。もし大気圏で燃え尽きなかったら、地上に大きな被害が出るわ。そうですね、0Gゼロ・ジー
 次女ブラーシュの問いかけに、ワーカロイド0Gゼロ・ジーは頭上にホログラムで3D落下想定図を表示して見せた。Coarch 0G46は惑星クレイ最高の科学技術をもつブラントゲート国のワーカロイドである。進入角に、クレイ周囲に密集する惑星の重力多体系を加味したこれ位のリアルタイムシミュレーションなら軽々とこなしてしまう。
「廃棄ブロックの軌道維持噴射を逆転させれば比較的短時間で落下軌道に乗せられるだろう。ただブラーシュの言うとおり、あの大きさが残っていてはダメだ。どうにかして細かくしながら落とせれば……つまりこれには“砕く”と“加速”するを同時に果たす必要がある。それには膨大な……」
「そう。必要なのはエネルギーよね」
 長女ウィープルは額に指をつけながら目を瞑った。ワーカロイドながら真面目で責任感の強い性格を設定されている彼女らしい悩み方である。すると、ホログラムをじっと見ていた三女モーピィが
「これ、何?るる♪」
 と、画面を指差した。一同の視線が超銀河基地ヒーローズ・ベースA.E.G.I.S.アイギス”の周回針路のやや下方から、地上に伸びる細かい線に注がれた。

 ズ・ズーン!!
 音にすればこんな感じだっただろうか。
 それは実際には氷床を通じて南極大陸の地下、そしてその中に広がる棲み処コロニーを構成する冷たい水中を揺るがした衝撃波であり、激震だった。

Illust:kutay


「なんだ、今のは!」
 グラビディア・ガオギニーは棲み処コロニー上層の警備を担う現場指揮官である。
 その思念は乱れ、水を掻くコウモリのような翼の動きにもまた動揺が現れていた。
「わかりません!ブラントゲート軍の奇襲でしょうか?」
 思念に答えたのは同じく前線で歩哨を務めているグラビディア・クラクストンだ。

Illust:TODEE


 ちなみに、グラビディアンはいずれも(惑星クレイの動物学分類で言うと)雌のみの単一性である。よって仮に彼女らの思念を受信できる知的生命体がいれば、すべて女性の声で聞こえただろう。
「氷床を揺るがすほどの衝撃だと!?ありえぬ!」とガオギニー指揮官。
「我らが女王の力に匹敵する超兵器でしょうか?」
 クラクストンの思念は震えていた。ガオギニー指揮官がそれを励ますように、叱咤する。
「うろたえるな!今、深部・・司令部に問い合わせてみる」
 グラビディアンはこれまで見たように本来、思念のコミュニケーション・情報共有で一つとなる種族である。とはいえ国土を防衛する兵士には機密や命令手順があるため、女王よりも下の軍人がすべての情報を共有しているわけではない。
「待て……なに!?なんですと?それは本当ですか……」
 ガオギニー指揮官の思念がまた乱れた。
 少し離れた位置にいたクラクストンが──本来は歩哨としては違反になる行為だが──上官の元に近づく。
「どうなっているのです?」
「いや……わかった。部下にも伝え、警戒態勢を保ちます。思念遮断」
 ガオギニー指揮官は、持ち場を離れたクラクストンを叱らなかった。それほど動揺していたのだろう。
「隊長?」
「誤射だそうだ」「は?」「だから、誤射だ。隕石の一つが我々の頭上に落ちた」「はぁ、そんな事がありえるのですか」「持ち場に戻れ」「あのぅ……」「とっとと戻れ!営倉に入れられたいのか!」「は!」
 ぴしゃりと反論を封じられたクラクストンは、慌てて歩哨の定位置に戻った。

 そんな前線の一幕を、グラビディアンの女王グラビディア・ネルトリンガーは玉座に座りながら感知していた。前述の通り、グラビディアンは思念で一つに繋がった種族である。下位からのアクセスには制限があるが、絶対的な支配者であるネルトリンガーには王国の隅々まで、種族の個体一つ一つが自分と一体化した生き物のように感じる事ができた。
『抜かったわ』
 ネルトリンガーは誰も感知できない、ただ自分一人のための思念で独り言ちた。
『これほど些細な邪魔で手元・・が狂うとは……』
 ネルトリンガーが言う邪魔とは、彼女が感知した隕石の軌道に生じた小さな乱れだった。
 女王が操る隕石は、はるか頭上の宇宙にある南極直上小惑星帯を源として、それを“力”によって引き寄せ衛星軌道の下まで誘導し集めた後に、一気に敵めがけて落下させるという手順で行われる。
 さすがのネルトリンガーもまだ原因を完全に理解したわけではない。それが加速を始める隕石の前に、最小限のエネルギーを使って誘導された大型の宇宙ゴミスペースデブリ超銀河基地ヒーローズ・ベースA.E.G.I.S.アイギス”の一ブロック、つまり粉々に砕いて共に落下させることを狙って配置された廃棄建造物だったことを。
『何故かはわからぬ。だがこれは……』
 確かに手応え・・・として本日さきほどの隕石雨の一つには違和感があった。人間で言うと握りしめたボールにかすかな歪みを感じるようなものだろうか。
『何者かが、いや何かが隕石の前に置かれていたのか。意図した妨害なら、これは警戒せねば』
 ネルトリンガーは、自分が何か新たな方策を必要とするとは思ってもいなかった。
 なぜならこの南極大陸の地下深くで再び覚醒して以来、ブラントゲート国政府──彼女から見ればこの国と住民こそが新参者である──相手に、隕石という武器は極めて有効な攻撃であり、版図防衛のための示威だったためだ。
『考えるべきか、新たな“力”の導入も』
 ネルトリンガーは玉座に深く身を横たえた。支配者であり為政者、一族の女王としてやるべき事は多い。だが領土の安定確保は国家運営の第一要素である。もし従来の隕石戦術がその優位を脅かされるようなことがあれば、第一に対処せざるを得ない。
 ネルトリンガーの思念は疑念と不審で侵されつつあった。はるか上空でハイタッチを交わす、お掃除ワーカロイドのチームとは裏腹に。

Illust:黒井ススム



 もしもこの少し後、グラビディア・ネルトリンガーが、その特技のひとつである電波網への侵入を果たし、ブラントゲート衛星サテライトネットに流れるCMを視聴することができたなら、一層苦々しい気分を味わったかもしれない。
 そのCMの出資元が──それは宇宙ゴミスペースデブリの除去という目的の副産物とはいえ、ネルトリンガーの“整然たる隕石雨ニートネス・メテオシャワー”対策を編み出したことへの心ばかりの謝礼なのだろうか──ブラントゲート宇宙軍だったことも。

 顧客カスタマーサービスアンケート満足度、第一位!
 継続利用者リピーター人気ランキング、第一位!!
 同業者が選ぶ最高清掃人ベスト・クリーナー大賞、第一位!!!

「お電話一本即出動!どんな汚れも一網打尽!
 お掃除は私達!プッツェンシュヴェスタンにお任せ!」



※時間・温度などの単位は地球のものに変換した。※

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《今回の一口用語メモ》

南極大陸グラビディアン・コロニー
 グラビディアンは惑星クレイの外来種エイリアンである。
 ブラントゲート国内、南極大陸の極点近く、ぶ厚い氷床の下にグラビディア・ネルトリンガーを頂点とする王国を築いている。
 グラビディアンがクレイに飛来した年代は明らかになっていないが、少ないながら手元に集まっている情報からすると、女王ネルトリンガーは共に眠りに落ちる際に、未来においてこの南極の地をグラビディアンの版図とし繁栄させることを一族に約束したらしい。そして天輪聖紀となって覚醒したネルトリンガーは、統治者として自らの誓いを果たしたという訳だ。
 さて、ブラントゲート政府ならびに調査隊からあげられたデータから、現在のグラビディアンの棲み処について探ってみたい。※これは動物学者として非常に興味をひかれる所だ※
 グラビディアンは前述の通り、厚い氷床に守られた海中が主な生息域である。
 外宇宙から飛来したと推測されるグラビディアンは(当然ながら)惑星クレイの他の種族とは違う特性を持っている。身体は水中生活に適し、組織も強靱であり、──実物を分析したわけでは無いので推測になるが──動物と植物、両方の性質を持っているようである。自発的に休眠できることもあり、寿命は非常に長いものと思われる。知性は非常に高く、言語を解するが発音はせず、思念を送ることで会話する。この思念波は電気的なものらしく、女王グラビディア・ネルトリンガーに至っては、電子機器や電波に思念を侵入させることも可能だ。
 グラビディアン最大の特徴が「重力制御/操作」だ。
 ブラントゲート国との最初の接触ファースト・コンタクトにおいて、グラビディアンは南極の地に自在に隕石を降らせることで、版図防衛の意思を示し、あわや一触即発の事態となった。現在はやや落ち着いているが、地上にいる以上避けようがないこの“質量兵器”は、ブラントゲート政府・軍部にとって脅威であり頭痛の種である。
 さて、最後に今回判明した意外な対処法として、(隕石の落下点の)狙いを外させるというものがある。
 グラビディアンの隕石には「発生源(南極直上小惑星帯)」、「引力」そして「制御(照準)」が必要不可欠。このうち発生源(無数に存在する大質量)と引力(グラビディアン、特にネルトリンガーが持つ力)は妨害したり消すことができないが、落下位置の正確な照準には大気圏突入の角度や速度を制御コントロールすること、つまり数学的な精密さを求められる。宇宙ゴミスペースデブリたまたま・・・・その針路上に位置していた場合など、比較的小型の隕石の狙いが狂って味方撃ちフレンドリーファイアの危険に繋がってしまうこともあるかもしれない。

グレートネイチャー総合大学動物学教授/水晶玉マジックターミナル特設チャンネル客員アドバイザー
C・K・ザカット 拝
※なお、ザカット氏の職籍については同大学の学生・教授陣からの依頼により追記した/配信編集部より※


グラビディアンについては
→ユニットストーリー024「グラビディア・ネルトリンガー」および同話《今回の一口用語メモ》
 ユニットストーリー030「フォーリング・ヘルハザード」
 を参照のこと。

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本文:金子良馬
世界観監修:中村聡