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ユニット

Unit
短編小説「ユニットストーリー」
127 運命大戦第2話「熱気の刃 アルダート」
ドラゴンエンパイア
種族 フレイムドラゴン
 アルダートの片手剣は、持ち手の右腕と間合いの左腕が間断無くその位置を替えながら敵に迫る攻防一体の型を特徴とする。
「ここから先は通さねぇ!このオレ、“熱気の刃”がいる限りはなぁ!」
 炎竜フレイムドラゴンの少年は構えながら敵に吼えた。
 だがそれは残念ながら虚勢だ。
 深夜。背後からの明かり──病院正門にともされたかがり火──に照らされた、アルダートの顔も身体も握りしめた剣も乾いた血とすすに隈なく汚れている。
「アルダート!待っていて!僕も今行くから……!」
「るせぇ!こっちはいいから最後の病人をしっかり運べ!こっちんじゃねぇ!」
 背後から掛けられた声にアルダートは怒鳴り返した。
 う、うん……とまだ何か言いたげな天使の返事に耳は貸しても目は向けない。
 ヘッ、ちょっと言い方キツかったか?でもこっちは取り込み中でさ。それにそれ・・はオマエにしかできない仕事だろ。オレはわかってて引き受けたんだ。今さら気ぃ遣ってんじゃねぇよ。

Illust:なかざき冬


 アルダートの目の前には、文字通り燃え上がる闘志を全身から噴き上げる獣が彼を睨んでいた。
 その背後には手負いの獣ども──この轟炎獣カラレオルの配下のハイビーストたち──が地に臥せ、苦しげに呻いている。
 グルル……。
 轟炎獣は唸りを上げ、雪の上を左右に歩き回って威嚇しながらもまだ攻撃には移ろうとしない。
 にわかに風が強くなり、曇りだった空模様は吹雪になりかけている。寒い。野営地よりも下ってきたとはいえ、凍りつくような山の冷気だった。
「ヤバいぜ……」
 ハイビーストとはただの野生の獣ではない。高度な知性をもち合理的な思考ができる生き物なのだ。
 獣の群れをこの細い枝道に誘いこみ、数的優位を無くして次々と各個撃破に成功したこの炎竜フレイムドラゴンの少年に対して、迂闊には手を出さず用心深く勝機を待つほどには。
「なーるほど。やっぱりオマエはデキそうだ」
 アルダートは顔を歪めた。苦笑だ。持久戦にもちこまれたらこっちが不利に決まってる。数も──認めたくないが戦力も──明らかに獣たちが上なのだ。群れvs単身である。
「だけどわかんねぇコトがあるんだよ。その賢いテメェらがなんでいきなり人里襲って来てんだよ。お互い守るべきテリトリー、掟ってもんがあるだろうがよ、あぁ?」
 轟炎獣カラレオルの足が止まった。やはりこちらの言葉(共通語)は理解しているようだった。
 だがためらいは一瞬、轟炎獣の目はまた敵愾心てきがいしんに燃え上がった。
 獣の体勢が低くなる。襲撃の前兆だった。
「……そうか。仕方ねぇ。来な!」
 アルダートは左手を前に、右の片手剣を背後に引く形に構えた。ある決意を秘めた型だった。
 ──!
 跳躍はまばたきする間もなかった。
 屈んでいた轟炎獣の姿は次の瞬間、アルダートの目前に迫っていた。
 左の前腕に牙が食い込み、焦げた匂いが鼻を突く。轟炎獣の息は炎だ。声もでない激痛がアルダートの全身を痺れさせる。だが……。
「もらった!」
 アルダートは痛みにも熱にも気を取られることなく、ただこの動作だけを狙っていた。体力が残り少なく、こちらの消耗を狙うほど狡猾な相手だとすれば勝機は、肉を切らせて骨を断つ、相打ちを狙うしかない。
 がら空きになった轟炎獣の腹に剣を突き込む。それは厚い皮を切り裂いて脇に逸れた。
『……浅い?!』
 噛みついた轟炎獣と剣を突き込んだ炎竜フレイムドラゴンの少年は、絡み合ったままゴロゴロと転がって狭い山道を滑ると、手すりも柵もない断崖の縁から深い谷底へと落ちて、深い夜の闇に音も無く姿を消した。
「アルダート──ッ!」
 天使、エンジェルフェザー見習いソエルは絶叫した。
 知り合ってから間もないドラゴンの友、熱気の刃アルダートの死を確信した、それは嘆きと絶望の声だった。



 ベクトア・バザールは、D3を初めとするドラゴニア大山脈の峰々に挑むクライマーにとって第二の故郷とも呼べる集落である。
 その規模はせいぜい大きめの「村」程度なのだが、登山客だけでなく美しい風景を楽しむ観光を目的として訪れる者も、季節を問わず世界中から集まっている。
 人の賑わいは活発な経済の動きも呼びこむ。
 ここベクトアでは、周辺の町村とは比べものにならないほどの近代的な施設やサービスが備わっている。
 それが飛竜定期航空便(強風や悪天候のため飛行機や飛行船はもっと低地の飛行場までしか近づけない)や麓から続く登山鉄道(ちなみに天輪聖紀のドラゴンエンパイアでは主にディーゼル機関車が使われている)、ホテルやレストラン、商店、生活インフラ(軍事国家としては珍しく閲覧制限が緩やかで一般向けとしては高速環境のネットカフェまである)、国際銀行、そして病院だ。

 ──1時間前。
 そのベクトア・バザール病院、雪が積もる門前。
「どうだ?信じてもらえたか」
 アルダートは中から出てきた天使の少年ソエルに聞いた。剣は肩、雪に突き出た岩の上にリラックスした様子で腰掛けている。
「うん。父さんの名前が役に立ったよ。院長は古い知り合いで、僕の写真も見たことあるって」
 そりゃツイてるなとアルダート。ソエルは身分を証明する助けになった杖を見ながら──なにしろこれを勝手に持ち出して家出中の身なので──複雑な表情を浮かべている。
「どうしても動かせない病人がいるから、それは警護を残していくしかないそうだよ。中には人間ヒューマンしかいなくて……」
「あー。だがそれもしょうがないぜ。猛り狂ったケダモノの群れがすぐそこまで迫ってるんじゃあな。あとは被害が外壁とかだけになるのをお天道様ニルヴァーナにでも祈って、やり過ごすしかないだろ」

 この時を遡ること、さらに2時間ほど前。
 D3峰中腹の岩窟でアルダートとソエルが見つけたのは、すぐ目の前を移動するハイビーストたちの群れだった(幸いにもこちらに気づかれる事はなかったのだが)。
 その群れの殺気だった様子が異常だと指摘したのが、この辺りで修行を続けてきたアルダートであり、群れの行く先が人里の方角だと気づいたのは、山頂へのアタックの前に上空からこの山一帯を見てきたソエルだった。
 そこで2人はベクトア・バザール村に警告を発するべく、音も無く上空を移動して先回りをしたわけなのだ。注意すべきは、アルダートが高空の寒さにクシャミを堪えきることだけだった。
「しっかし運が悪いというか、なんで病院がこんな無防備な──獣の群れが押し寄せたらまっさきに被害に遭いそうな──登山道の入り口なんかにあるんだよ」とアルダート。
「怪我人も病人も、山に近いほうが急患だからね。ここにある方が便利なんだよ。それに病院を襲う者なんていないさ、獣の大暴走でもない限りはね」
 とソエル。さすがは見習いとはいえケテルの救護天使というべきか。土地の医療事情をよく理解している。
「さて、村への警告も終えたし、大門も閉じられた。嵐は過ぎ去るまで隠れてじっと待つ。賢明だよな。さっさとズラかろうぜ。何がアタマに来てるんだか知らないが、あの怒り狂った雪山ハイビーストの大行進の前に飛び出したくないだろ」
「うん……あの、アルダート、それなんだけど」
 あ?と炎竜フレイムドラゴンの少年は髪を掻き上げながら振り向いた。
「僕なら、寝たままの患者さんを運べると思うんだ」
「さっきオレにしたみたいにか」
 うん。でも、もっとそうっとね、ソエルはまた一本指を立てて微笑んだ。
 対するアルダートは渋面である。
「だが、どうするよ。もう群れはすぐそこまで来てるんだぞ。病院ごと押し潰されたら病人の搬送どころじゃないぜ。援護なしじゃ無謀だろ」
医師せんせいたちは自分で逃げられると思う。だからあと3人を村の中まで癒しながら運ぶだけの時間が、もしあれば……」
「ハァ!イヤな予感がしてたんだぜ」「?」
 ソエルは言葉を遮られて目を丸くした。
「素直に言えよ、天使のお坊ちゃん。このオレ様に時間稼ぎしろってさ」
「いや。でも……」
「師匠曰く。“強き者ほど『優』を課せられるもの、ゆたかすぐれ他にまさり。力無き『優しさ』とは弱さなり”だと。ま、伝聞ってヤツだけどさ」
 アルダートはもう剣を振って重みを確かめている。その表情に迷いは無い。
「飛べる翼と癒やしの力があるオマエと、村人みんな引きこもっちまって使える剣といえばこのオレ様だけ。となれば今夜の英雄ヒーローは決まりだ」
「……」
「やろうぜ」
 アルダートはそう言って不敵に笑った。
 この時のその笑いを、ソエルはずっと後になるまで忘れなかった。

Illust:北熊


 ベクトア・バザールの嘆きが、弱くなった山の吹雪に待っている。
 轟炎獣と炎竜フレイムドラゴンの身体は、一晩かけた捜索の末に谷底に厚く積もった雪の中から発見され、村の広場の中央に設けられた寝台に安置されていた。
 村人は病院と村人の命、そして謎の熱狂に陥ったハイビーストの群れをも救った──リーダーである獣が姿を消したことでそのまま村を荒らすはずだった暴走の勢いと敵意は嘘のように消え、山へと去って行った──、炎竜フレイムドラゴンと天使の少年の功績をベクトア・バザールの人々は決して忘れなかった。
「僕が……僕が悪かったんです。アルダートにこんな無茶をさせてしまって」
 天使ソエルはひと目もはばからずに泣いていた。
「ご自分を責めてはいけません」「あなたと彼は勇敢でした」「大人はみな逃げることしか考えなかったのに」
 村人は口々にソエルを讃え、そして横たわった竜の少年のために祈った。
「まだ息はあるのでしょう」「先生方、治療を!」「どうか我らが英雄に神格の恩恵を」
 だが、村の医師たちは──山で遭難した重病人や怪我人を治療するドラゴンエンパイアの名医ぞろいだったが──静かに首を振って、もはや彼らの力では消えかかる命の灯火を再び燃え立たせることができないことを認めざるを得なかった。
「僕に、もっと力があれば……」
 ソエルは横たわる友の身体に近づくと、叶わないまでもその左腕に噛みついたままの轟炎獣の牙を外そうと力をこめた。
「僕の癒やしの力を……!」
 天使の、エンジェルフェザー見習いが持つ杖から温かな光がにじみ出た。わずかな炎の吐息とともに顎が動き、ハイビーストの牙が抜ける。ソエルを囲む人々は、医師さえも驚きと歓喜の声をあげて癒やしの手に注目した。
 だが、ここまでだった。
 杖の光は弱まり、渾身の力を傾けていたソエルは友の身体の上に倒れ伏した。
 家宝の天使の杖も、使う者に心技体が揃っていなければ充分な力を発揮しえないのだ。
「ごめんね……ごめん……なさい、アルダート。僕のせいだ。僕が家出したから……いるかどうかも分からない“救世の使い”を探そうなんて……大きすぎる望みを、したから」
 周囲からかけられる慰めの声も今、心を閉ざす暗闇を見つめて涙を流すソエルには届かなかった。
 その時──。
 ……。
 最初、それは小さな声だった。
「……なに?」
 突っ伏していたソエルが思わず子供のように呟いたのはそれ・・が小さい頃、どこかで聞いたことのある声のように感じたからだ。それはまだ空を飛ぶことを覚えたばかりに耳元で吹いた風の中だっただろうか、お伽話を聞きながら眠りについた夢の中だっただろうか。
 “少年よ”
「……どなたですか、僕に呼びかけるのは」
 ソエルは、冷たくなりゆく友の身体から身を起こして辺りを見渡した。
 周囲のベクトア・バザールの村民は、悲しみに打ちひしがれていた天使の少年が急に天を仰いで、何かを探し始めたのを見て驚いた。
 “私は多くの嘆きの声を聞いた。今日、この地においてもまた”
「はい。みんな悲しんでいます」
 “何故か”
「英雄の命が失われようとしているからです。僕の力が及ばないばかりに……」
 “病、死そして老い。いずれも避けられないものだ。それが人間、天使そしてドラゴンであったとしても”
「でも早すぎます!彼は剣のお師匠さんの背中を追って、これから頑張ろうとしている所でした!それを僕が……僕が巻き込んでしまって……僕が頼んだばっかりに……」
 “大事な人という訳だな”
 荘厳ともいえるそのに今、少し感情の色が加わったようだった。
「ええ。そうです。出会ったばかりだったけど……友達でした。いえ、友達でいたかったです」
 “嘆きの子供よ。天使の少年よ。それが君の望みなのか”
「はい、もちろんそうです!彼さえ生きてくれれば他には何も……」
 “ではその横の獣は死んでも良いと?”
 ソエルは胸を突かれたような面持ちとなった。
 “君の親御さんならどうする。英雄は生き、何かに心狂わされて暴走した獣は死すべきだと言うだろうか”
 この声はなぜ僕の生まれを知っているのだろう。
「わかりません。ただそう考えるとなんだか胸が……苦しいです。生命はその始まりの神秘と終わりの旅立ちにおいて、また今この惑星に生きているという価値において等しく平らaequalitasです。僕が間違っていました。エンジェルフェザー見習いとして恥ずかしいです」
 “医とは大いなる強き力だ。それは命と健康を生かしもするし殺しもする”
「……『強き者ほど「優」を課せられるもの、ゆたかすぐれ他にまさり』」
 “それは君の言葉か”
「いいえ。彼が、アルダートがお師匠様の言葉として覚えていたものだそうです。『力無き「優しさ」とは弱さなり』と続きます。今ふと思い出しました」
 “なるほど。ではこうしよう。次の言葉に続くものを答えられたら、君の望みを一つ叶える”
「望みを?何でも良いのですか?」
 “そうは言っていない。私の提案は『一つ叶える』だ”
「わかりました。お願いします」
 今や、ソエルと見えない相手との会話を、村人たちは息を詰めて見守っている。これから何が起こるのか。
 “それでは。『医と癒やしに課せられるものとは』”
「……」
 “如何いかに
 は、それが突きつける難題ほどには厳しい調子ではなかったが、やはりその響きは重く威厳があった。
 ソエルは大きく息をついて、やがて決然と答えた。
「責任です。病や老いに対して癒す者の人生vitaを負い、生命vitaに寄り添うこと」
 “……”
「僕は傷つき、病んだ人すべてを癒やせる医者になりたいです。いま目の前にいる彼らを死の淵から救えるように、今すぐ。それが僕の望みです」
 “よろしい。だがその願いはいつか叶えることにしよう。ここからは私の仕事だ”
「!」
 いつか叶える・・・・・・、だって!?
 ソエルは驚き、今のいままでが何者なのかという当初の疑問をすっかり忘れ、この不思議な問答とその結果がもたらすであろうもの・・を、いつの間にか信じ、頼り、すがっていたことに気がついた。
 ソエルが言葉を継ごうとしたその時──
「あぁ!」「眩しい!」
 ソエルの背後から声があがった。だがソエルは振り返ることもしなかった。天使の少年もまたその光の奔流の中にいたからだ。
 光は強く、しかし優しく、風景を白く染めていた。
 ソエルはその間、まるで幼児の頃のまどろみに似た、何時までも続く安らかで調和に満ちた心地よさの中にいた。身体が軽くなりふわりと浮くような感覚。
 そしてそれは唐突に終わった。
「あぁ、よく寝たぁ。……ん?どうしたソエル。オマエ、なに泣いてんの?」
 目をパチクリさせるソエルの前で、炎竜フレイムドラゴンがあくびをしながら起き上がった。うーんと一つ伸びをする。凍えて、間もなく死を迎えるばかりだったその身体には傷の跡形もない。
 呆然としていた村人たちから歓喜の声が上がった。
「あ、このヤロー!さっきはいきなりガブリとやりやがったなぁ、へっへー!」
 と親し気に隣の獣の頭を撫でるアルダート。
 その視線の先ではハイビースト轟炎獣カラレオルが起き上がり、噛んだはずの炎竜フレイムドラゴンの左腕を舐めている。もちろんこちらにも剣の傷跡はない。
「あ……」
「ちょっと待て、泣き虫」
 アルダートは友の顔の前に手を広げて、ぐしゃぐしゃに泣き崩れそうな天使を止めた。
「おいおい!なーんで傷が全部治ってんだ?死んだんじゃなかったのかよ、オレたち」
 なあ?と顔を見合わせるアルダートと轟炎獣カラレオル。カラレオルは返事がわりにボッと口から火を吐いた。
 ハッとして、ソエルはまた天に向き直った。
これ・・をしてくれたのは貴方ですね?」
 “そうだ”
「姿を見せてください!」
 “……私は忙しい。それはまた次の機会としよう。さらば”
「待ってください。もし今、僕が名前を当てたら姿を現してくれますか」
 答えは沈黙だった。声の主はもう去ってしまったのかもしれないと思いながら、ソエルは青空に向かって叫んだ。
「貴方は『救世の使い』として知られている。または『奇跡の翼』とも。僕は調べたんです。大人が教えてくれない事を。それは旧都のサンクガード大図書館、書棚の奥の奥、古い文献のひとつにありました。……そう、思い出しました。あなたはいつもそうして姿を隠しながら諸国で癒しの旅を続けている」
 “……”
 ソエルは手応えを感じていた。誰かが聞いている。僕の答えを待っている。
「レザエル。貴方は元エンジェルフェザーの天使レザエルですね」
 そして、それは現れた。
 一同の頭上、何もなかった青空の下に。

 いま奇跡の翼が舞い降りる。あらゆる傷を癒さんと。

Illust:タカヤマトシアキ




※時間の表記は惑星クレイの共通単位を使っている(厳密には地球と同じではない)。軽油を燃料とする推進方式は地球の似たものの名称(ディーゼル機関)を使用した。※

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《今回の一口用語メモ》

ドラゴンエンパイアのドラゴン/二足歩行と四足歩行
 ドラゴンエンパイアは文字通り「竜の帝国」であり、様々な種類のドラゴンが棲んでいる。
 その多様な特性すべてを網羅するにはとても紙面が足りないが、今回はドラゴンの大分類とも言える二足歩行と四足歩行の違いについて触れてみたい。

 さて、生物学的にみると陸上で生活する動物は、身体が大きくなるほどしっかりとした支え、つまり強く大きな脚が必要となる。だがドラゴンに関して言えばこれは必ずしも当てはまらない。雲を突くように巨大なドラゴンでも後ろ肢で立つことも珍しくないからだ。

 ではドラゴンの場合、四足歩行と二足歩行を分かつものは何か。
 それは知性と会話の可否、道具・武器の使用だ。
 四足歩行の竜は、一般に「手で道具を使わない」。物を運んだり武器を持つ場合でも口でくわえることが多い。彼ら四足歩行の竜に取っての「口」は呼吸し、噛みつき、噛み砕き(食事をし)、時に炎などを吐き、物を扱うもっとも大事な器官なのだ。
 ここですでにお察しの通り、口が塞がると会話が困難になる。
 つまり四足歩行の竜は、共通語などの人語を喋らないか、または「わかっていても言葉で会話をしない(吠え声や仕草で伝える)」竜だと言える(もちろん竜と一口に言ってもその種類は多く、例外はあるが)。
 対するに二足歩行は前肢を「腕」や「武器」として使い、人間などと同じか、あるいはもっと高度な技と力の使い手であることが多い。またこちらは手が使える分、「口」が使えるため、会話する者も多くなる。

 そして、ドラゴンエンパイアの場合、ドラゴンにも戦闘技術を磨く、武芸者が数多くいる。人間などと同じく厳しい修行を積み、心身を鍛えて達人の域を目指す者たち。軍事国家であり強者が尊ばれるドラゴンエンパイアでは、「最強」は武人として誰もが憧れる称号だが、周りもまた強者ぞろいである此の国でそう呼ばれるには、ドラゴンといえども容易なことではない。
 なお噂では天輪聖紀の昨今、その「最強」にもっとも近いと言われるドラゴンが放浪の旅に出ており、弟子たちですらその所在は不明だという。おそらく二足歩行であろう武芸者竜はどのような姿なのだろうか。普段から穏やかな性格の森の竜たちに親しみ、武道には縁の無い私でも、これはとても興味がそそられる情報である。

動物学者 C・K・ザカット(レティア大渓谷 在住) 拝


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会話不能ないしは会話を拒む凶暴なドラゴンエンパイアの「はぐれ竜」については
 →ユニットストーリー123 「魂醒せし守主 ルアン」を参照のこと。

天輪聖紀の航空事情については
 →ユニットストーリー073 「ブリッツセクレタリー ペルフェ」の《今回の一口用語メモ》を参照のこと。

天輪聖紀のネット事情については
 →ユニットストーリー068「#Make_A_Trend!! キョウカ」の《今回の一口用語メモ》を参照のこと。

サンクガード大図書館については
 →ユニットストーリー093「天道の大賢者 ソルレアロン」ならびに《今回の一口用語メモ》を参照のこと。

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本文:金子良馬
世界観監修:中村聡