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短編小説「ユニットストーリー」
128 運命大戦第3話「奇跡の運命者 レザエル」
ケテルサンクチュアリ
種族 エンジェル
 剣客は宵の空に浮かんでいた。双爪を尖らせた竜翼を広げ、垂れこめる雲と朧月おぼろづきを背にして。
「奇跡の運命者とお見受けする」
 深編笠ふかあみがさからわずかに覗く眼光は、続く言葉が要望ではなく拒むことなどできない挑戦であることを如実に語っていた。
「ひとつ手合わせ願おう」
何故なにゆえに」
 レザエルは吹きつける殺気をただの寒風とでも言いたげに、落ち着いた声で問い返した。
「ひとつは貴様が“運命者”だから。ふたつ、我が剣気を浴びて平静でいられる貴様とは剣を交えずにはいられないのだ。武芸者としてな」
「何者か」
「名乗るほどの者ではない。が、こう言えば貴様も応じざるをえまい。人は俺を無双と呼ぶ。無双の運命者だ」
 あっ!と声があがった。竜の少年剣士アルダートである。
「その姿、“無双”を名乗れるただ一人の剣士……おおぉ、お師匠様ッ?!」
「知っているのか」とレザエル。
「知ってるも何も、この人こそオレが追い求めてきたお師匠様。その名は……」
「おまえを弟子に取った覚えはないが、小僧。そこに控えていろ。これよりは決闘の刻限だ」
 それは太く低い声だったが、平伏したアルダートだけでなく、レザエルさえ身構えざるを得ない重みと威圧感があった。
「では始めようか」
 剣客はすらりと抜いた。右は光、左のそれは闇を帯びている。無双が振るう双の剛剣だ。
 かくして、無双対奇跡の戦いは始まった。

Illust:萩谷薫


 ──30分前。
 ドラゴニア大山脈D3峰の麓、ベクトア・バザール村。夕刻。
 レザエルは彫像のように座していた。
 村の中央。折りたたまれた4枚の翼が後光のように後背を飾っている。雪が積もる地面に片膝と、右手の剣を下ろし、頭はやや俯き気味。かがり陽に照らされたその顔も姿勢も先ほどから微動だにせず、瞑想でもしているかのようだった。
 彼の身体からは穏やかな光が発せられ、薄闇を照らし、吹きすぎる冬の風よりも強く、周囲に広がってゆく。
「あー気持ちいい。……なぁ、この光って昨日のおまえと同じ?」
 アルダートは陽の光をいっぱいに浴びるように手を広げ、目を細めていた。昨夜までは敵だったはずの轟炎獣カラレオルもその横で寝そべり、心地よさげにくつろいでいる。
「うん、そう。天使が放つ癒やしの光なんだけど、比べものにならないよ。僕が出せる力とは、全然ね」
 ソエルは感嘆と憧憬とそして遺憾が混じった複雑な面持ちでレザエルを見つめていた。
 その背後。癒やしの光を求める人々はいつの間にか、レザエルを中心とした厚い輪を形成し、広場いっぱいの群衆となっていた。噂を聞きつけた近隣の民がこの雪の中、夜の冬山の危険をも恐れずベクトア・バザールに詰めかけてくるのだ。

Illust:タカヤマトシアキ


 最初にその“光”の効能に気がついたのは──天使ソエルと少年剣士竜アルダート以外では──、この村の病人と怪我人たちだった。
 痛みが消え、自由を失っていた部位が健康を取り戻す。厳しい冬の暮らしでいつの間にか擦り減っていた心までも。
 人々は、泣いていた。人は苦しくて泣き、またそこから解放された時にも泣くものだ。
 そして、この光景──本来不毛の雪原に生じた癒やしの輪──とその効能に出会った者は口を揃えて、レザエルをこう呼ぶ。
 『救世の使い』と。

「お師匠様、質問があります!」
 エンジェルフェザー見習い、つい先ほどから自らをレザエルの弟子と名乗ることにしたソエルは意を決すると、手を上げて元気に呼びかけた。うっとりと光を浴びていた群衆の一部が驚いて顔を上げる。アルダートは、空気読めよと言いたげに天を仰いだ。いいヤツなんだが、一所懸命が過ぎて時々周囲を置いてけぼりにしてしまうのが玉に瑕って所だね。
「何かね、ソエル」
 レザエルは師匠という呼称については特に訂正することもなく応じた。雪上にひざまずいて物思いにふける彫像のような静かなたたずまいはまったく崩れていない。
「お師匠様はどうしてそんなに強い力を使えるのですか」
「質問の意図により答えは違ってくるよ。ソエルが聞きたいのは“なぜ”か“どのようにして”のどちらなのか。質問は正確に」
「はい、すみません。師匠はどうやってこれほど強い癒やしの力を手に入れたのですか」
 ソエルは素直に謝って訂正した。
 師匠レザエルは本当に学校の教師のようだった。それもすごく優秀な。問題の提示と解法の指摘は厳密に、あとは生徒が自分の力で答えを掴むまで忍耐強く待つ。
「生き物の肉体と精神、生命のエネルギーと自然の力について研究し、実践してきた。とても長い時間をかけて」
 レザエルは嘆息をついたようだった。師匠の背にほんの一瞬、ソエルは悲しみの影を見たような気がした。
「でも……エンジェルフェザーの正式隊員でも一度にこれほど多くの生き物を癒せるなんて聞いたことが……」
「一人では、あるいはそうかもしれない。だが仮に私が衆に優れた力を持っているとして、それでも集団にしか成せないことがあるのだよ。個にできることとその限界を知ることが、社会と世界と向き合う第一歩なのだ」
 ふむふむとソエルはメモを取りながら聞いている。
「師匠はなぜいままで姿を隠してきたのですか」
「その理由は先の君の言葉に含まれている。生きている限り傷ついた者も病める者も絶えることはなく、争いも災いも、世界ではいまこの瞬間、無数に起こっている。ソエル、先に私は君に望みを聞いた。君は『傷つき、病んだ人すべてを癒やせる医者になりたい』と。今度は私が君に問おう。すべてとはどこからどこまでを考えているのか」
 ソエルは答えようとして背後の群衆を振り返り、言葉に詰まった。人はまだ増え続けているようだ。
「君の気持ちを否定しているのではない。志は高くもつべきだし、望みとしてはそれで良い。大事にして欲しい。だが、もし限られた者しか助けられないと知った時、君は順番を着けられるか。友達とそれを襲った獣、君が命がけで守ろうとした病人や怪我人の数と、自分の癒やしの力を天秤に掛けることはできるか」
「……」
「正直に言えば、私自身もその答えは見つけられていない。天使であれ人間であれ竜あるいは他の種族の者でも、正しい答えを出せる者などいないのかもしれない」
 いつの間にか、剣士のアルダートも身を乗り出してこの師弟の医術問答に耳を澄ませていた。
「ただ、医者というものはそれを常に心に置いて患者と病、怪我と向き合わなければならない。彼らが“奇跡”と呼ぶ力が出現すれば、たちまちこうした輪ができる。彼らは癒やしを求めて集い、もちろん我々もそれにに応じようと思うしできる限り手を尽くす。だが、見える形でこれを続けるかぎり、負う荷は無限に重くなり、患者と向き合う時間は極限まで減っていく。やがて癒せた者と癒す機会を逸した者との間に軋轢あつれきさえ生まれる。善意がいつか悲劇へと変わる。それを避けるひとつの答えがソエル、君が言ったことだろう。医とは責任を負うこと。そうだったな。だから私は目立つこと無く、傷ついた人々にそっと寄り添ってきた。大きな力ほど世界に大きな波を起こすもの。故に、密やかに気づかれぬままに振るわれるべきだと考えるからだ」
 ソエルはもうメモを止めていた。そしてただ頭を下げた。
「恐れ入りました。僕はまだ全部が理解できたとは思えないけれど」
 少年の上げた顔には決意がみなぎっていた。
「だからこそ、もっともっと学びたいと思います。僕を連れて行ってください!弟子にしてください!」
 師レザエルの答えは穏やかなものだったが、少年を歓喜させるものだった。
「もちろん。君の望みを叶えると約束したからね」
「ありがとうございます!ありがとうございます、お師匠様!!」
「よかったなぁ、ソエル!」
 アルダートは涙ぐむ友の天使の背を手荒くバンバン叩いて祝福した。
「なんだか難しくって半分もわからなかったけど、すごくいい先生なのだけはわかったぜ」
 こうして夕闇迫るベクトア・バザールにおいて、救世の使いと見習いエンジェルフェザーの運命は結ばれた。居合わせた竜剣士と村人の前で。

Illust:刀彼方


 村を見下ろす高台に、天使の青年が降り立った。この高い丘の頂は、今朝からある目的のために2人が詰める監視ポイントとなっていた。
「ソエルは探し求めていた師に巡り逢ったようです」
 良く通る声。両手持ちの大きなブーメラン、飾緒モールを着け整った服、知的にきらめくエメラルドグリーンの瞳。風巻しまきの斥候ベンテスタはケテルサンクチュアリの騎士ロイヤルパラディンである。
「ふむ」
 一方の声をかけられた側の返事は唸り声にしか聞こえなかったが、ベンテスタはこれにもう慣れていた。
「言いたいことは分かりますよ、騎士サーアゼンシオル。我々は危うく間に合わない所だった。ソエルと竜剣士の少年、そして村人の命までも危険にさらす所でした……あの『救世の使い』が現れなければね」
 騎士はまた無言で頷いた。
 躍進の騎士アゼンシオル。寡黙な彼もまたロイヤルパラディンである。
「私はソエルのご両親から、あなたは防衛省より受けた任務という違いはあっても、ソエルの監視という共通の目的があった訳です。ここで出会い、道を同じくする事になったのも何かの縁のように思います。改めてよろしくお願いします」
 天使の挨拶に応えるように、騎士アゼンシオルはゆっくりと身を起こし直立した。大柄な体躯。金属鎧ごしでさえも強靱さが伝わってくる引き締まり鍛え上げられた肉体である。冬の陽を鎧と巨大な戦斧がまぶしく反射する。その輝きは夕刻であっても、村からも注意深く探せば見られただろう。ケテルの聖騎士は隠れ潜んで事を進めることを良しとしない。たとえ密かに良家の子息(ソエル)を見守ることが任務であったとしても。
「さて、どうしましょうか。一旦、前線基地に戻りソエルの無事と救世の使い発見の報告をしてこようと思うのですが。天空の都では私はソエルと兄弟のようにして育ったもので、ご両親の心配を早く晴らしてあげたいのです」
「いや。もうひと仕事ありそうだ。しばし待て」
 天使ベンテスタは騎士の返答に目をしばたたかせた。滅多に口を利かないが、その発声は抑揚豊かに空気を震わせる低音バスである。ケテルギアのコーラス隊に交じればその美声は観衆を酔わせるに違いない。
 状況を掴みかねている天使に騎士は見ろ、と眼下を指差した。
「あれは!?」
 その先を辿ったベンテスタの視線は鋭いものとなった。

Illust:モレシャン


「なぁソエル」「ありがとう。アルダートのおかげだよ、こうして師匠に出会えて」
「あー、ソエル」「うん。せっかく友達になれたのに寂しいよね。ここを発つ前にぜひお礼をさせてよ」
「ソエルよぉ……」「ご馳走するよ。やっぱりお肉がいい?」
「ソエル!」
 剣士が怒鳴ると文字通り舞い上がっていた天使はようやく、えっ何?!と我に返った。
 アルダートが顎をしゃくるとD3峰に至る雪の斜面、暮れなずむ夕空の下、大勢の獣の群れが斜めに駆け下りてくる所だった。
 一番最初に気がついたのはレザエルだったらしい。巨大なキャンバスに這う小さな蜘蛛ほどの変化も見逃さず、彫像のような構えを解くと、アルダートに「備えよ」と目配せしたのだ。
「方角はおまえ達が来たのと反対側……ということは他人・・の群れか」
 アルダートは片手剣を構えながら問うと、轟炎獣カラレオルは牙を剥き出して頷いた。先ほどまでのくつろいだ様子とは一転、村に下ってくる群れに対してすでに戦闘態勢に入っている。
「ヘッ!じゃー遠慮はいらねぇなぁ。おい、あんた!村長だろ。みんなを避難させてくれ」
「ソエル」「はい!僕も手伝います。集会場や家に入るように空から伝えて誘導すれば良いんですよね!」
 師匠レザエルは名前を呼んだだけだったが、それで即座に自分のできることに気がついたソエルも動き出す。杖は武器としては弱いがこれを振るわなかったとしても、空を飛べること、頭が回ることはこういう時重宝する。
 弟子が飛び立つのを待って、レザエルはアルダートに語りかけた。
「私も少しは使えるが、剣士竜くん」「アルダートでいいっすよ」「アルダート。あれとこちらでは数の上で明らかに不利だ。生憎とあちらの斜面に対しては、昨日君が使ったように隘路に誘い込むような防御地形もない」「おっ!戦術ってものをなかなか分かってますねぇ。天使の師匠」「元エンジェルフェザーなのでね。救護天使はまず戦地で自分が生き延びる力を求められるから」「衛生兵は戦場の要ってね。アイツを行かせたの、ワザとですよね」
 レザエルは軽く肩をすくめた。苦笑の表現らしい。
「すまない。せっかく君を癒やしたのに、再び修羅場に立たせてしまうとは」
「いいっすよ。オレはこれしかないんで。アイツにはアイツ、オレにはオレ向きの仕事がある。それでいいです」
「君はいい奴だ」
「あなたもね。ズタボロになったらまた治してください。こいつもね」
 熱気の刃アルダートと轟炎獣カラレオルは不敵に笑い、レザエルは力強く頷いた。

Illust:ゆずしお


 轟雷獣キテンライズは先陣を切って雪の斜面を滑降していた。
 群れを率いるこのハイビーストは、もともとが雪山の生まれではない。
 だが本来のテリトリーを越え、行く手を阻むもの全てを破壊しながらある目的・・へと突き進む、彼を駆り立てる熱情──それが何だったのかが判明するのは轟炎獣カラレオル同様、まだ先のことだが──が、本来は荒れ地に向いたその脚を凍える雪の上を疾走させるのだ。
“潰し壊し、踏みにじる!”
 雷獣は咆え猛り、勝利へ向かって駈け走る。
 その狂気につられたように、群れはまっしぐらにベクトア・バザール村の大門を目指して駆け下った。
 だが、門の前に立つ天使と竜の剣士2人、歯を剥き出しにして唸る轟炎獣カラレオルを視界に収めた時、
 それ・・は起こった。

 オォォォォォオ!
 振り向かずにはいられない声というものがある。
 威嚇、誰何すいか、怒号、悲鳴。
 だがこの時、D3峰山麓を駆ける獣の群れに降り注いだのは、そのどれでも無かった。
 それは、戦闘開始を告げる雄叫びだ。
 獣たちのさらに上方、山腹にただ1人の姿があった。
 両の手が異様に長いように見えるのは、二振りの武器を広げているかららしい。
 その腕が閃くと、武器は逆手に握られた。
 続く動作は単純なものだ。両の手をあげて、さくりと雪の斜面に突き下ろす。それは何気ないように見えたが、雪山の恐ろしさを少しでも知っているものならば、その意図に凍りついただろう。
“回避!”
 轟雷獣キテンライズのあげた叫びは次の瞬間、真白な濁流に呑まれた。
 雪崩が音で起こる、というのは正しくない。
 特に、真冬に降り積もった古い積雪の上にある新雪が崩れ落ちる表層雪崩は、斜面への(信じられないほど)些細な衝撃が発端となることが多い。それは例えば斜面の新雪の上に、構造的に脆い一点を狙って突き立てられた二振りの剣などだ。
 キテンライズのすぐ後ろから、群れの半数が雪崩に流されていった。獣の生命力は強い。麓まで流されてもなおムクムクと起き上がれるものもいたし、自力で雪の中から這い出せるものもいた。だがどうしてもこの勢いで突進を続けたいのならば、彼キテンライズと分断された群れの半数でやるしかない。
“行くぞ!続け!我々は止まらぬ!誰にも止められぬぞ!辿り着く・・・・までは……!”
 群れのリーダーの叫びはまたも遮られた。いや呑み込まざるを得なかったと言うべきか。
 今度は無音で降ってきたモノ・・が群れに襲いかかってきたからだ。
 ギャオ!グォッ!
 獣同士の争いでは起こらない、悲鳴が雪の斜面にあふれていた。
 それ・・はあまりに疾かった。
 二振りの剣が開き、振り上げられ、閉じ、弧を描き、また広がる。
 繰り返しになるが獣の体力・耐久力は人間などとは比較にもならないものだ。剣であろうが棍棒であろうが斬りつけ、殴られたくらいでは怯むこともない。逆にその牙や爪で反撃し致命傷を負わせるのが、正常な力の均衡パワーバランスといった所だ。
 ところがその屈強な獣たちが、ただの一撃で無力化されてゆく。
“なんだ。あれ・・は……”
 キテンライズは恐怖した。
 高い知性と強靱な身体をもつ獣としては、本来ありえない感情である。
 その時、瞬く間に群れの残数すべてを片付けたそれ・・が振り向いた。
 斬られる。俺はやられる。もう嫌な未来しか見えなかった。
“逃げるか、戦うか”
 ハイビーストは考え、ほんの束の間迷った。それが敗因だった。
 彼我の距離は15mほどだっただろうか。
 キテンライズが思考したどちらの選択肢を選ぶにも充分な余裕はあった……はずだった。
 しかし次の瞬間、言葉は背後から聞こえた。
「だが遅い」
 振り向いた次の瞬間、は目の前にいて、キテンライズは頭部に激しい衝撃を覚え、気絶した。
 次の言葉の意味を咀嚼する暇も、あげる声も無く、轟雷獣は雪に倒れた。
 村を破壊し蹂躙しながら突き進むはずだった獣の群れ、その最後の一体として。
「案ずるな峯打ちだ」



※時間や長さの単位は地球でつかわれているものに変換した。※

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《今回の一口用語メモ》

調査報告書 初号 救世の使い、仮称「奇跡の運命者 レザエル」について
 ケテルサンクチュアリ防衛省長官 殿
 同報送信CC 円卓会議 各位

 捜索を続けていた「救世の使い」を発見。この報をもって小官からの調査報告の初号とする。
 結論から言うと、一部推測にあった通り彼は無神紀に活躍したエンジェルフェザー、レザエルと特定された。(但しレザエルは現在、エンジェルフェザーの正式隊員ではない)

 本案件は「救世の使い(レザエル)が“運命者”である可能性がある」という仮説が前提としてある。
 確かに小官がドラゴンエンパイア国ベクトア・バザールにて目撃している彼の力は、並の救護天使とは比較にならないほど強く、知の探求者セルセーラから報告があった龍樹消滅の際に散った運命力の落ちた先のひとつ(つまりは賢者達が“運命者”と呼ぶ者の一人)がレザエルである可能性は高い。
 以後、彼のことは「奇跡の運命者レザエル」と仮称する。
 レザエルは国境を問わず、姿を見せぬままに人知れず、病める者や負傷者を癒やしてきた。
 彼を呼ぶ名は他に『救世の使い』または『奇跡の翼』ともされる。
 各位ご諒解の通り、本件調査は賢人会議よりの提言を受けたもので、“運命者”が惑星クレイの今後に大きな影響を及ぼすというオラクルの予言に基づいている。
 レザエルについては引き続き、慎重に監視・調査を続行する。

 なお上記の特定については、エンジェルフェザー見習い(現在の立場としては「天使レザエルの弟子」と呼ぶべきかもしれない)である大望の翼ソエルが調べた情報に拠る所が大きい。
 見習いソエルについては捜索願が出されており現在「家出中」である。両親からの依頼を受けた(第5騎士団所属の)風巻の斥候ベンテスタもまた、ソエルの監視と保護任務を拝命している。小官はベンテスタと協働して、引き続き「救世の使い」レザエルと、今回現れたもう一人・・・・の運命者と思われる武芸者竜ドラゴンについての調査も続ける所存である。

 報告、一旦終了。

ロイヤルパラディン第4騎士団所属 国土防衛調査官 躍進の騎士 アゼンシオル


ケテルサンクチュアリ防衛省長官については
 →ユニットストーリー072「天輪鳳竜 ニルヴァーナ・ジーヴァ(後編)」ならびに
  ユニットストーリー073「ブリッツセクレタリー ペルフェ」を参照のこと。

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本文:金子良馬
世界観監修:中村聡