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短編小説「ユニットストーリー」
147 「ドラグリッター ディルガーム」
ドラゴンエンパイア
種族 ヒューマン
カード情報

Illust:ToMo


 ──新竜骨ネオドラゴボーン山系南方、ダークステイツとの国境線近く。
 天に向かい、網を張るような矢衾やぶすま
 それは眼下の林、まだ雪が残る木立の中から放たれたもののようだった。
 南側からの着地態勢アプローチに入っていた竜の編隊は、危機を察するなり、空に炎の軌跡を描きながら散開した。
 インペルキャリッジ・ドラゴン。
 ドラゴンエンパイア第1軍『かげろう』によく見られる火竜フレイムドラゴンだ。いま鮮やかな緊急回避を見せたのは緋炎所属のウインドドラゴンだが、その航続力と積載力の高さから兵站へいたん任務に就くことが多い竜である。
「ガーンデーヴァ様!」
「慌てるな。其方そちの手を煩わすまでもない」
 高台に立つガーンデーヴァは、腹に響く低い声で部下であり盟友でもある男を制した。
 緋炎闘将ブレイヴァルディン。
 この山地の防人さきもり緋炎武者の将としてドラゴニア大陸西方、その要を任される男だ。
 数ある緋炎武者の中でも、特に緋炎帥竜ガーンデーヴァの信頼篤く、大局を見て指揮官としても、前線の勇猛な兵としても自分を戦場という盤面に配置することができる。それでいて性格は謙虚。厳しい冬の山暮らしに進んで臨み、贅沢を好まず、国と民と緋炎軍団のためにいつでも身を投げ打つ覚悟で生きる、ドラゴンエンパイア軍人の鑑と称えられ皆の尊敬を集める竜人ドラゴロイドである。

Illust:伊藤未生


「しかし……」
 司令官の一言に、一旦は飛び出しかけた身を留めた将はしかし、まだ闘志を抑えきれない様子である。
「将たるおまえのつよき杖はより大きな局面で振るわれるべきものだ。ブレイヴァルディン」
 ブレイヴァルディンは燃え上がる髪を振って帥竜が指す先を見た。ガーンデーヴァが評する通り、ブレイヴァルディンの手にしているのは単なる指令杖ではない。振るえば炎を帯び、幾多の敵を蹴散らす竜頭のそれは杖というよりも、炎をもって悪を滅ぼす緋炎の戦棍メイスと呼ぶ方がふさわしい。
 編隊が散った空間を、地上に向け、返す矢の如く突進する影があった。
「ディルガーム、推参!!」
 叫んだのは緑の竜に騎乗した人間ヒューマンだった。
 長く鋭い槍に薙ぎ払われた林から、恐慌をきたした伏兵がまろび出た。
「逃すな、ストームバンド!」
 それが緑のウインドドラゴンの名らしい。
 指示されるまでもなく、緑の竜は射手たちに易々と迫るとその逞しい腕で全員を捕獲し、空へと運んだ。
(お騒がせいたしました!)
 ディルガームと名乗りをあげた竜騎士は、見守る将らに敬礼を送って、乱れた隊列を整えるべく上昇した。
 ガーンデーヴァは人と竜へ、ひとつ頷いて労をねぎらった。
 竜を駆る者ドラグリッターディルガームとストームバンド・ドラゴンは、この南北通商路においてもっとも信頼篤い護衛役である。
「補給路の確保は前線の維持にも勝る重要任務だ。野伏のぶせり、野盗への警戒は必定ひつじょうのこと」
「そして変わる戦局を見定めて、期待に背かぬ殊勲を立てる。お見事」
 ブレイヴァルディンもまた頷いた。
 交代制でこの地の任務にあたる彼ブレイヴァルディンにしても、一軍を率いる緋炎帥竜ガーンデーヴァの戦場全体を見透し、すべてを的確に配置する手際と判断、いわおのような落ち着きにはいつもながら感服させられる。
「あれには今夜、また頼みたいことがある。褒美をやらねばな」
「はっ。してお任せになる先とは」
「北だ。いわば返礼だな」
 ガーンデーヴァは腕組みをした。言葉はいずれも謎めいていた。
 背後の峻険な峰々を顧みる目に浮かぶものは何か。
 それは将として尊崇し、師と仰ぐブレイヴァルディンにもまだ窺えなかった。

Illust:桂福蔵


「ほら、お前さんも食いな!」
 ディルガームは差し出された大皿を、礼を言ってもらい受けると香ばしく焼き上がった肉を一切れ頬張り、もう一枚は後ろ手に放った。羽根を休めていたストームバンド・ドラゴンがそれを器用に顎だけでくわえ取る──彼は前肢を“手”として使えるドラゴンなのだが──のを見て、焚き火を囲んだ兵士たちがわっと盛り上がる。
「よいか、竜を駆る者ドラグリッター。いや、そのままでよい」
 声の主に向き直り、素早く単跪たんきの礼を取ろうとするディルガームを、ガーンデーヴァは手をあげて押しとどめた。その体躯の大きさを物ともせず、あっさりと歴戦の戦士の背後をとる辺り、ガーンデーヴァもさすが強者揃いの緋炎を束ねる総大将である。
「ガーンデーヴァ様に!」
 ジョッキが、杯が、彼らの司令官に捧げられる。立ちあがったガーンデーヴァが鷹揚に献杯を受けると座は一層盛り上がった。
 竜皇帝の腹心、帝国でも最高位の軍人の一人であるガーンデーヴァが、こうして一兵卒に混じって親しく酒を酌み交わすのは驚くべき光景だが、それこそが緋炎帥竜の名が崇敬をもって唱えられる所以ゆえんである。
 深山であれ砂漠であれ熱帯であれ、あるいは氷雪の中にあっても兵の第一の楽しみは食事と酒。
 特にこれら極地、外界から閉ざされた厳しい環境下にあってはそれも格別である。ゆえに普段は冬の間、出作りの里にこもり節制に励む緋炎の一党も、遅い春と補給便の訪れには気前よく蔵を解放して憂さを晴らし、英気を養うのだ。
「お役目ご苦労であった。このあと褒美を取らす」
「はっ。そのお言葉だけでも有り難き幸せ。はるか南極よりお届けした甲斐がございました」
 ディルガームは空の男らしい爽やかな微笑を刻みつつ上官の慰労を受けた。ストームバンド・ドラゴンも頭を垂れている。
「それだがな」
 ガーンデーヴァは床几しょうぎに腰を下ろして杯を傾けた。
 この時、ディルガームは緋炎帥竜の背後に緋炎闘将ブレイヴァルディン、もっとも信頼篤い竜人ドラゴロイドが控えていることに気がついた。
「あらためて其方そちらに頼みたいことがある」「何なりと」
 ガーンデーヴァは、宴のために積まれている荷のその向こうへと目をやった。
「ひとつはその空母のきみよりのを引き続き、の者の元へと運ぶ務め」「承知してございます」「長駆の旅に十分な休息も与えられぬことを許せ」「何をおおせられます。ガーンデーヴァ様と緋炎武者がたのお役に立てる事こそ、我ら前線補給部隊の誇りであります。お命じくださいませ」
 うむと頷いて司令官はふところから手を取りだした。何か輝く玉のようなものが握られているようだ。
「もう一つ。この土地ならではと言えようが実の所、こちらは公式の任務ではない。ちこう寄れ」「はっ」
 竜を駆る者ドラグリッターと緑竜は宴からそっと身を引き、将たるガーンデーヴァとその背後のブレイヴァルディンにかしずいた。



 ──新竜骨ネオドラゴボーン山系北方、竜の顎。デンジャラスゾーン。
ゴルフ。応答どうした、ゴルフ!」
「はぁい!お呼びですか~、ユニフォーム
 日よけの布がさっと取り除けられると、まぶしい砂漠の太陽が極小の隠れ家──砂漠の傭兵たちが砂地に潜むいわゆるタコ壺壕──に差し込んだ。
 緑色の髪をオレンジのスカーフで束ねた少女は、くるくるとよく動く瞳で指揮官のねぐらを覗きこんだ。
「あれ、驚かせちゃいました?」
 砂塵の重砲ユージンが驚いた表情を見せることは稀だ。砂塵の銃士デザートガンナーの中では勝率がきわめて低い賭けの対象となるほどに。
 そして本日それを成し遂げたのは、突然の着弾でも爆発でも雷鳴でもトラップすらでもなく、どう見ても10代半ばの少女だった。
「伏せろ」
 それはほとんど怒声だったが、ユージンもまた将たる器である証として、年齢と経験差のある新兵をいたずらに萎縮させたりはしなかった。ただ、ぐいと砂地に引き倒しただけだ。少女相手に荒っぽくなりすぎない程度に。

Illust:伊藤未生


「……げほっ!ちょっと!自分で伏せられますってば、ユージン!」
「つべこべ言わず身を隠せ、グリニス。狙撃されるぞ」
 ゴルフこと砂塵の躍弾グリニスは吸い込んでしまった砂を吐き出しながら、しぶしぶ熱い砂を掘って覆いの耐熱布をかぶった。
「それでいい」
 ちらりと隙間から覗いてみると、砂塵の重砲も元通りに完璧に砂漠に溶け込んでいた。
「のこのこと何しに来た」とユージン。
「決まってるじゃないですか、伝令ですよ。『周囲に野盗の影はなし。指示を乞う』です」
「暗号通信を使え」
「砂嵐が迫ってるんですよ、ユージン。ノイズだらけで使い物になりません。こういう状況じゃ、一番元気なわたしが直接来るしかないでしょ」
 ユージンは黙った。少女グリニスは砂塵の重砲が相手でも引くことをしらない。続くグリニスの問いもまた小気味が良いほどにテンポ良く的確なものだった。
「見えない敵、迫る砂嵐、みんなの疲労度も限界。どうします?」
 ユージンはまだ答えない。
 さすがのグリニスも、怒らせちゃったかな……と不安げに身じろぎし始めたあたりで、ようやく重々しい返事が聞こえた。
「待機だ」
「いいんですか?まだ陽は高いし、いくら砂塵の銃士デザートガンナーでも干上がっちゃいますよ」
「敵はもっとキツイだろう。そして砂漠を横断中のハイビーストたちもまた弱っている。帰還途中の彼ら・・を、密輸商人どもに捕らえさせはしない」
「へぇ、やっぱり優しいんですね。ユージンは」
 気のせいか、隣のタコ壷壕から小さくせた咳が聞こえたようだった。
「だってそうでしょう。別に誰に依頼された仕事でもないんですから、このハイビーストお助けって」
「嫌なら帰っていいぞ」
「もう、そんなイジワル言いっこなし!」
「……」
「うちらの国の獣さんたちが、ずっと南にできたゼロうろとか言うのに取り込まれてたんでしょ。じゃ助けてあげなきゃ、ね?……それじゃ、わたし定位置ポゼッションに戻ります」
「待て!」
 起き上がりかけた少女傭兵に鋭いユージンの声が飛んだ。
 また叱られたのかと思わず身をすくめるグリニスだが、あれほど身を低く保つことを命じていた砂塵の重砲ユージンも今、布をはだけて身を起こしていた事に気がついた。
「聞こえるか」
 ユージンは愛銃ヒエルHFR40GDSデザートスペシャルを構えている。
「いいえ。……いえ!聞こえる。これは何?」
 グリニスもまた抜いていた。雷銃BR24Fリボルバー。新人なのに得物は昔風オールドファッションという、2丁持ちの少女ガンマンである。
「砂地に仰向けになれ。このほうが視界が広くなる」
 グリニスは素直に従った。デンジャラスゾーンと呼ばれるこの砂漠独特の焼けるような砂の熱さが、耐熱布を通してさえ耐えがたく感じる。だが、戦場で生死を分けるのは「凝固フリーズ」が保持できるか否かだ。
 2人は待った。
 恐らくこの周囲に身を潜める、他の砂塵の銃士デザートガンナーもまた。

Illust:かんくろう


 最初に聞こえたのは吠え声だった。
「行くぞ、ストームバンド!」
 それは槍を構えた竜を駆る者ドラグリッターディルガームが駆る竜の名らしい。
 緑色のウインドドラゴン。緋炎所属である。
 パパパパ!!
 天に向かい、一斉に投げ上げられるつぶてのごとく放たれる曳光弾。
 それは眼下の砂漠、砂地に身を潜めた密輸商人たちの銃から放たれたもののようだった。
 ディルガームとストームバンド・ドラゴン。
 人竜一体の機影は弾幕を鮮やかに回避すると、勢いを殺さずにそのまま地上すれすれをかすめて飛んだ。
 ──!
 グリニスとユージンの位置からは、聞こえてきた悲鳴は微かなものだった。
 だが巻き上げられた砂の向こうに、今までしぶとく砂に隠れ潜んでいた商人たちが弾き出される姿を見るなり、ユージンは走った。大柄な体躯に似合わず、今までこらえてきた渇きも感じさせぬ敏捷で迫力に満ちたダッシュだった。
「ちょ、ちょっと!」
 グリニスは一瞬慌てたが、周囲からも湧き出すように次々と砂塵の銃士デザートガンナーが姿を現し、走り出すのを見て右に倣うことに決めた。つまり2丁拳銃を持ったまま、敵の制圧のため全力疾走したという事だけど。
「何もかも極端すぎるのよ、まったく!」
 なぜ都合良く増援が現れたのか、なぜ竜騎士なのか、そしてなぜ今なのか?
 グリニスにも、一緒に駆けている傭兵仲間にもわかる者はいないだろう。
 ただ、どうやらあの長く辛い待機状態が終わったことだけは確かなようだった。

Illust:BISAI


 地上に降り立った竜を駆る者ドラグリッターは、グリニスが思っていたよりも若かった。
 だがその整った顔立ちよりも彼女の意識は、この竜騎士が携える細長い槍の戦い方を予想する──あの揺れる穂先から繰り出される突きと、2丁拳銃の早抜きとではどちらが有利だろう──ことや、無駄なく鍛えあげられた身体=戦闘能力のほうに意識が移ってしまっていたが。
「援護、感謝する」
 ユージンはディルガームとストームバンド・ドラゴンに敬礼をした。
 これは砂漠の傭兵の流儀ではない。ドラゴンエンパイアの正規軍人の活躍に敬意を表したものだ。
「どういたしまして。自分は命じられた事をおこなっただけでありますから」
「謙遜だな。想定したポイントよりもずっと速く飛んでくれたではないか。おかげで道が確保できた。商いの道と獣の道」
 縛り上げられた密輸商人たちを睨みつけながら、ユージンは満足そうに頷いた。
「ガーンデーヴァ様からのご伝言を承っております。『雪の深林より熱砂の海へ。竜と槍と贈り物を受け取られたし』。何でも先日いただいたオアシスの果実のお返しとか」
「拝受する。皆、緋炎武者からの差し入れだ。有り難くいただこう!」
 ユージンは、竜騎士たちに少し遅れることしばし、たった今着地した火竜インペルキャリッジ・ドラゴンたちの背中を指した。そこには新竜骨ネオドラゴボーン山系の万年雪と、そこからしたたり落ちる新鮮な氷水があった。それは今、何よりも欲しいものだった。
 歓声。
 グリニスは手早く目先の渇きを癒すと、談笑する指揮官ユージンと緋炎から派遣された竜を駆る者ドラグリッターディルガームとの間に割って入った。
「ねぇ、教えて。あなた、何でこんなに都合良くやって来られたの?」
「あぁ、今回の任務につきましては……」
「敬語はやめて。いらいらするから」
 ディルガームはユージンに目線を送ってから微笑んだ。話していいぞと合図されたらしい。
 その指揮官の後ろには、砂塵の勇弾コンラッドがミニガンを、砂塵の砲弾ザクシスがロケットランチャー、それぞれ重い銃器をひっ下げて追いついてきている。全隊の出発準備ができた事を報告しに来たのだろうが、意外な場面に出くわして、砂塵の銃士デザートガンナーきっての銃撃手シューター2人も興味津々といった風である。確かに傭兵よりも、オアシスの踊り子と言われたほうが納得できそうな気の強そうな美少女が、竜を駆る者ドラグリッターと竜を問い詰めているのは、勇猛な傭兵たちも思わず肘で突き合うくらいにはおもしろい図であった。

Illust:在由子


Illust:桂福蔵


水晶玉マジックターミナルって知ってるかい」
 竜を駆る者ドラグリッターと砂塵の重砲はそれぞれきらめく球体を懐から取り出すと、彼女に指し示した。
「ガーンデーヴァ様とユージン隊長はその暗号個人チャンネルを共有している。盗聴は不可能だ。お二人はドラゴンエンパイア国民として立場と所属を超え、大陸をつなぐ通商路の確保と維持という目的で協調関係にあるのさ。ハイビーストの帰路予想と合流ランデブーポイントはあらかじめ決めてあったけれど、敵の動きに合わせて変更されるのと情報漏れを警戒して、連絡は俺たち2人の間だけだった」
「……」
 グリニスはちょっとユージンを睨んだ。何で増援が来るって教えてくれないのよ。
 ユージンはにやりと笑う。いつ来るか確証が無いものを知らせはしない、と言いたいのは察せられた。必要な情報を必要な時に共有し、部隊を目的に集中させる。それも指揮官の務めなのだ。
「砂嵐は想定外だったけれど、うまく行ったよ。な、ストームバンド」
 緑のウインドドラゴンは同意するかのように、騎士に頭をすり寄せた。任務となれば地の果てまでも、互いの命を預け合う人竜の友情はある意味、家族より深い。
「いいわ。じゃあわたし達に黙ってた分はあなた達のおごり・・・で許してあげる」
「何のことだ」
 と竜を駆る者ドラグリッターディルガームは首を傾げ、砂塵の重砲ユージンは苦笑いして彼の肩を叩いた。
「彼にはまだ仕事がある。邪魔してはならん。おまえには俺がおごってやろう」
「やった!獲物を狩り尽くしたから、街に戻って祝勝会よ!」
「ただし子供には水しか飲ませぬがな」
 笑うユージンは竜騎士の荷の中に、明らかに自分たちへの補給物資ではない大荷物も見て取ったが、余計な詮索は止めて砂塵の銃士デザートガンナーたちに向き直った。
 砂嵐が迫っている。
 からく拾った勝利でも勝ちは勝ちだ。
 悪党どもは暗き牢屋に、竜と騎士は次の任務に、そして我々は砂漠のオアシスに。そろそろ帰る時間だ。



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《今回の一口用語メモ》

ドラゴンエンパイア西部の漢たちと大陸通商路──砂塵の銃士デザートガンナーと緋炎武者
 深山の武者と熱砂の傭兵。
 どちらも局地を舞台にするという共通点はあるものの、緋炎武者は国境を敵や害獣から守る山岳の正規兵、砂塵の銃士デザートガンナーは軍隊ではなく、報酬と条件に応じてその腕を活かす雇われの戦士だ。
 兵隊のあり方に詳しい者ほど、この2つを結ぶものがあるとは想像し難いだろう。
 だが実際には、ドラゴンエンパイア西部を活動拠点とする両者の間には浅からぬ関係がある。
 竜を駆る者ドラグリッターやウインドドラゴンなどの空を駆ける戦士たちを介する、ドラゴニアと南極の2つの大陸をつなぐ2つの通商路のために。
 1つはドラゴンエンパイア東部つまり皇都から中央沃野セントラル・グレートプレーンを経るコース、もう一つはデンジャラスゾーン、竜の顎の砂漠を通じ暁紅院を始めとするドラゴンエンパイア西部と大陸南をつなぐものである。

 ドラゴンエンパイア西部の漢たちの交流が始まったのは、ごく最近のこと。
 そのきっかけは龍樹侵攻(ヒュドラグルムやマスクス、国内の予測不能な地点から出現する脅威に備えざるを得なかった)という説が有力だ。
 どちらが先だったかについては記録はない。
 ただ、通商路を脅かす脅威を排除するための戦いを続けるうちに、偶然お互いの存在を知り──おそらくはガーンデーヴァが竜皇帝や竜軍人に謁見するための皇都行きの途中に──直接出逢い、それぞれの立場で許される範囲で、物資や情報を分け合ことが習わしとなったらしい。
 また、いくさを専門とする立場と距離は離れてはいるものの隣接する守備範囲から、魔獣や野盗、災害などの脅威、それらに対応する増援要請と援軍出動の機会も増えているようだ。

 衆目が一致する所として、これらは双方の指揮官の人柄と度量による所が大きく、緋炎武者に緋炎帥竜ガーンデーヴァが、砂塵の銃士デザートガンナーに砂塵の重砲ユージンがそれぞれ居なかったならば、正規軍と傭兵が協働して地域を守るという、ドラゴンエンパイア西部の漢たちの交わりは起こりえなかったかもしれない。



ドラゴンエンパイア国境の防人さきもり、緋炎武者と帥竜ガーンデーヴァについては
 →ユニットストーリー094「緋炎帥竜 ガーンデーヴァ」を参照のこと。

竜を駆る者ドラグリッターと、竜騎士を養成する竜駆ヶ原兵学校については
 →098「ドラグリッター ラティーファ」を参照のこと。

砂塵の銃士デザートガンナーと指揮官ユージンについては
 →ユニットストーリー003「砂塵の重砲 ユージン」
  ユニットストーリー026「砂塵の榴砲 ダスティン」
  『The Elderly ~時空竜と創成竜~』
   前篇 第1話 鳳凰の夢
   前篇 第2話 砂上の楼閣
   後篇 第1話 遡上あるいは始源はじまりへの旅
  を参照のこと。

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本文:金子良馬
世界観監修:中村聡