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短編小説「ユニットストーリー」
178 朔月篇第3話「調停の封焔 バヴサーガラ・アークシャイア」
ドラゴンエンパイア
種族 ヒューマン

Illust:タカヤマトシアキ


 それは蒼穹そうきゅうそびえ立つ樹だった。それも途方もなく巨大な。
 雲を突くようなその大樹”の周囲に遊ぶ森の獣や鳥に混じって、あの水銀様のものヒュドラグルムが大群を成していた。
「龍樹」
「しかも極相きょくそうだ。これは見たくない光景だった」
 封焔の巫女の呟きに、トリクムーンが応えた。無口で無愛想なタリスマン、トリクムーンにとっても、かつて惑星規模にまで膨れ上がり危うくこの星自体を呑み尽くさんとした究極形、滅尽の覇龍樹グリフォギィラ・ヴァルテクスと対決した記憶は快いものではないらしい。
「調査の手は尽くしたし、警戒もしていたつもりだった」
「だが賢者やオラクル、AI、そして我々自身が出した方針は一つだった。自分を責めるな、友よ」
『その方針というのを聞かせて欲しいな』
 バヴサーガラとトリクムーンは、轟くようなその声に大樹の頂きを見上げた。
『自己紹介が遅れてすまない。僕は降誕の龍樹ゼフィロギィラ。僕の楽園──この理想郷を構成する森羅の集合体だ』
「こちらこそ、貴殿の版図に足を踏み入れようとした非礼を詫びねばならない。彼はトリクムーン。背後に控えているのが我が臣下」
 封焔竜アーヒンサ・スウル、ナモーカール・アヌイ、ハリバドラ・バラート。
 平時は新竜骨ネオドラゴボーン山系の最高峰、希望の峰で主に仕える封焔軍団の重臣が、この北方の不毛の地に勢揃いしていた。新たな力と名を付与された彼らの面持ちを見るだけで、封焔の巫女が今回の邂逅の成否にかける本気の度合いが窺える。
「方針とはつまり汝、新たな龍樹の種が善意をもって目覚めることを期待し、いたずらに刺激することなく放置するという共同歩調。だがもし万が一、大樹となって再び世界に覇を唱えんとする時は、封焔の一党が責任を持ってこれを阻止するという公約だ」
 この時、誰にも悟らせることなく、トリクムーンが主であり友である彼女の背後に遷移した。臨戦態勢だ。
「そして封焔の主とは私、バヴサーガラ。調停の封焔バヴサーガラ・アークシャイア」
 封焔の巫女は胸を張り、宣言した。
 眼前にそそり立つ大樹の前で、それはあまりにも小さな抵抗のように見えたかもしれない。だが……。
 黒と青の装い。羽根持つ冠。なびく黒髪。吸い込まれそうな紺碧の瞳。全身を包む圧倒的な魔力。
 この対決に臨むバヴサーガラの装いは──天輪聖紀となってさらに彼女自身が学び己がものとした──洞察と自省と内面の成長を反映して、より深く落ち着いた色調であり、まとう呪紋入りの飾り帯は鮮烈なまでに白かった。その心の深奥に秘める決意の強さと、純粋さを現すかのごとく。



 ──ドラゴンエンパイア国極北、龍樹安息の地。
 侵入者の一団は、山脈の峰を越えた自分たちが捕捉されたのを感じた。
「バヴサーガラ様」
 声をかけた封焔竜ハリバドラ・バラートは封焔の軍師である。
 一方のアーヒンサ・スウルに騎乗したバヴサーガラは悠然と、太刀持ちである封焔竜ナモーカール・アヌイに手を伸ばした。
「武具をトリクムーンへ」
 指示されたトリクムーンは差し出された武具を受け取って、宙に消した。いわばしまい込んだのだろう。空間を歪ませるのは元々、バヴサーガラとトリクムーンの得意技である。
「汝らは後方に控えよ。戦端が切られた後は手筈通りに」
 編隊で飛ぶ臣下たちは一斉に低く、控えめに異を唱えた。
「ではたった2人で正体不明の敵に向き合われると?」「我らこそ御前の盾。ぜひお供させてください!」
 封焔竜ユーグマシャドに至っては(無言のまま)苛立たしげに双腕の刃を打ち鳴らしたほどだ。新顔である彼は、さらに後方に控える軍勢の先鋒として名誉の随行を許されたのだから、不満にもなろうというものだ。
「汝らの忠誠と不屈の闘志こそ、我が宝である」
 バヴサーガラは振り向いて微笑んだ。
「だが最初から戦うと決めてかかるのではなく、私はまずと話してみたいのだ。ここはこらえて欲しい」
「御意」
 封焔竜は低頭する。特に長く彼女に仕える重臣3体の目には、他では決して見せぬ涙があった。
 バヴサーガラは魔術師にして武将、賢人、政治家であり教師、そして何よりも彼ら屈強な竜たちをして忠誠心をかきたてられる人間ヒューマン、身命賭して仕えたいと思わせる主君なのだ。
「先に降下する!総員、引き続き警戒せよ。彼にはすでに我らが見えているぞ」
 バヴサーガラはアーヒンサ・スウルの竜背を蹴って、自らの翼で大地へと舞い降りた。
『我が版図を乱す者よ、そこで止まれ』
 その声は封焔全員の頭に直接呼びかけるものとして聞こえた。
 バヴサーガラは凍える不毛の大地を踏みしめながら答えた。
「我らに呼びかける汝は、誰か」
『理想郷の作り手、そしてあるじと言ってもいいだろうね』
「汝は理想郷というが、我らには果てしなく続く荒寥とした大地にしか見えぬ」
『他人が感じる“理想”とはそうしたものじゃないかな。そして許された者にしか見えず、感じられない場所。それが理想郷。説明できるものではなく、その中に入って共に共感しなければ真の姿は見られない』
「なるほど。その理想についてだが、実は我らがこうしてやって来たのには目的がある」
『大勢連れてきたのだね。見えているよ、山脈の向こうに控えている沢山の竜たちの姿も』
いくさは本意ではない。しかし我らにはある懸念があるのだ」
『懸念とは』
「我らには尋ねたい者がある。その真意も」
『者?つまり意志ある存在ということか。それはたぶん僕のことだね』
 ここで初めて、バヴサーガラにもっとも近く控えていたトリクムーンが囁き、巫女も短く応じた。
「彼の成長と本質をどう見る?」
「まだわからぬ」
『そう、互いを理解するには慎重に。時間をかけてね。幸い、僕にとって時間は味方だ。大地も水も空気も』
あるじよ。そろそろ姿を見せてくれぬか」
『いいよ。見せてあげる、僕を。そして理想郷の扉を』
 封焔の一行の前で、荒寥とした大地が変化した。
バヴサーガラの立つ目前が境界だったかのように、そこから先には緑と水そして清浄で温かな空気に満ちた風景が広がっていた。
「これが“種”が築いた新たなる版図」とトリクムーン。
「そしてこれこそがだ」
 バヴサーガラはまっすぐに前方をみつめていた。
 森が鳴動し大地が呼応する。大気が渦巻き爽やかな水が雨粒となって降り注ぐ。
 一同が目を閉じ、そして開けた時、その巨大な姿、降誕の龍樹ゼフィロギィラが立ちあがっていた。

 ──ここで話は冒頭に戻る。
 封焔の一行、その先鋒たるバヴサーガラとトリクムーンの前に、ヒュドラグルム水銀様のものの羽音が群れを成して迫っていた。
『龍樹の落胤ドラコ・バティカル。僕の身体から生まれてくる、いわば分身であり家族だ。可愛いでしょう』
「見覚えはある」「説明して貰う必要はない」
 封焔の主従バヴサーガラとトリクムーンの言葉は、個々には事実を表しているだけなのに、合わさると別の意味を持って聞こえる。
『面白いね、キミたちは。僕も何故か、失われたはずの記憶が刺激される。とても興味深い』
 バヴサーガラは猛然と突っ込んできた一体のドラコ・バティカルを、わずかに身体を反らせるだけで避けた。
 彼女に影のように付き従うトリクムーンもまだ“奥の手”を見せたりはしない。
 2人が経てきた戦いは多く、場数を踏んでいる。相手はまだ本気では無いと見切っているのだ。
「では我々は、どうしても一戦交えずにはいられないか、龍樹」
「その名で呼ばれる以上、僕は理想郷のに手をかけた相手を試さざるを得ないんだ。ごめんね」
「謝る必要はない。それで良い。汝がこれから乗り出す世界には何よりもそれ・・が必要だ」
 バヴサーガラの唇が引き締まり、紺碧の瞳が燃え上がった。
「それこそが大いなる力を持つ者の責務なのだ。何事も疑い、まず警戒せよと私は友に忠告する。だまされてはならぬ、たばかられてもならぬ。悪意はその大小を問わず世に溢れている。己の意識を高く保ち正しく物を見よ。そしてまず自らに強くあれ。彼女・・がここにいればきっと私と同じ事をしただろう」
「その友だちって……」
 封焔の巫女は龍樹の言葉をさえぎって叫んだ。それは剣の師匠が弟子にかける号令のようでもあった。
「参る!」

Illust:いとひろ


 バヴサーガラは上空へと飛んだ。
 その目前を塞いでいた龍樹の落胤ドラコ・バティカルの群れを、封焔竜ユーグマシャドの双剣が蹴散らす。
 さらに彼女を追うもう一群のドラコ・バティカルたちの群れは、ようやく出番を得て闘志を燃やす封焔竜アーヒンサ・スウル、ナモーカール・アヌイ、ハリバドラ・バラートに阻まれた。
 元々、一騎当千として惑星クレイ世界の軍事関係者がみな恐れる封焔竜である。戦闘力に加えて練度も高い。ヒュドラグルム水銀様のものごとき、何体押し寄せようと立ち塞がろうとも優勢はゆるがなかった。
「ヴェルロード!」「オーバードレス変化!!」
 空高く聳える龍樹の頂きまで飛び上がりつつ、バヴサーガラは背後に呼びかけ、声がそれに応えた。
 そこにはトリクムーンの姿は無く、タリスマン、ヴェルロードの姿があった。
「封焔の盾ボウダナート!」
黎明れいめい寿ことほぐ、不朽の盾」
 ヴェルロードの呟きとともに、差し伸べられたバヴサーガラの左手に色鮮やかに彩られた盾が出現する。
「封焔の剣ディヤーヴァ!」
黎明れいめいひらく、不滅の剣」
 またもやヴェルロードの呟きとともに、バヴサーガラの右手に輝く大剣が現れ、握られた。
 龍樹の理想郷の蒼穹に、バヴサーガラが掲げる剣ディヤーヴァと盾ボウダナートが煌めいた。
 見よ!今、調停の焔は青く燃える。愛しき世界の明日を祈って。

Illust:在由子


Illust:在由子


  ガンッ!!
 バヴサーガラの手元で鳴ったのは、多頭の龍樹の首、その一つが激しく噛み合わされた音だ。
 封焔の盾ボウダナートはそれを弾き返し、続けざまに襲うもう一本のあぎとを封焔の剣ディヤーヴァが叩き伏せた。
「くぅ!」
「裏打ちだ」
 龍樹の残る首の間をすり抜けて飛びながら、バヴサーガラは告げた。要はあえて叩き斬らずに、剣の腹で殴ったのである。
「斬れたのに……斬らなかった」
 痛む首をかばいながら、降誕の龍樹ゼフィロギィラはバヴサーガラとヴェルロードに向き直った。
「真剣にやって欲しい。僕も全力で戦っているのだから」
「傷つけるために戦っているのではない」
 バヴサーガラは剣と盾を下ろした。油断なく、ヴェルロードはその前面に立って警戒する。
「互いの本質を見極めようとしている。そしてもう充分だ」
「なぜ?」
 バヴサーガラは盾で、眼下の戦いを指した。
「全力でとは言ったが、汝と汝の眷族の攻撃にはかつての殺気がない。他を押しのけてまで勝とうとする執念が感じられない」
「そうか。では僕は喜ぶべきなんだろうね」
 龍樹の首が下がると、配下のヒュドラグルム水銀様のものも攻撃を止め、対抗していた封焔竜たちもまた、バヴサーガラの合図で戦闘から離脱した。
「龍樹の名は貪欲と支配の象徴。恐怖をもって語られてきたものだろうから」
「しかしもうその恐れは無い。この私が身をもって感じたから」
「ようやく分かったよ。リノが言っていた友だちの凄い巫女ってキミ、バヴサーガラのことだったんだね」
「彼女は賢い。生まれ変わったばかりの汝には、あえて最小限の情報しか与えなかったのだろう。すべての経験が幼子おさなごを大人にする要素だから」
 バヴサーガラは微笑んだ。
「そして僕は理想郷を築き、この扉を外から開ける人を待っていた」
「目を曇らせる先入観なしに」
 この答えは変化オーバードレスを解いたトリクムーンのものだった。
「てっきり僕はリノが来てくれるかと」
「実は私もそう思っていた。……だが運命力は似た者同士を引き合わせるという特質も持っている」
 龍樹ゼフィロギィラの多頭が首を捻った。
「どういうこと?」
「我もまたこの世界を一度、滅ぼしかけた者だということだ。新しき龍樹よ」
「……」
 龍樹と封焔の巫女は見つめ合った。その沈黙は長かった。
「だが私は《世界の選択》を受け容れ、世界を支える側としての務めを己に課したのだ。リノやトリクスタ、天輪竜の卵が“陽”であるならば我ら封焔は“陰”。太陽と月のように」
「それはまさに僕が考えていたことなんだ、バヴサーガラ」
 周囲はゼフィロギィラの気持ちを反映するかのように、もはや荒野との境界もなく、ただ見渡すかぎり陽光が降り注ぐ豊かな山河が広がっていた。
「僕は生まれ変わった。これから世界を知るべき者だ。だからこの理想郷の扉を開け、外と内を繋げる者には、一切の邪心も野心も持って欲しくはない。逢いたかったのは無心であらがいの剣を振るい、盾で脅威を退ける者」
 多頭の首が一斉に頷く。
「つまりキミだ、バヴサーガラ。調停の封焔バヴサーガラ・アークシャイア。僕と世界を調和させてくれる人」
 ヴェルロードはようやく封焔の巫女の前から退いた。
 戦いは終わり、逢うべき者が逢うべき時にこの地に集った。また新しい周期サイクルが始まるのだろう。そして呟いた。心なしか軽く肩をすくめながら。
「互いの真意を理解し、共に世界の未来と均衡バランスを見守ろうと手を携えるにはこれほど手間がかかるものか。まぁそれでこそ、これまで準備と用心を重ねてきた甲斐があったというものだが」
「そしてキミもね。トリクムーン」
 いま、降誕の龍樹ゼフィロギィラは首とその巨体を版図の大地に横たえた。みるみるその大きさも人ほどに縮んでゆく。
「喜んで汝の師となり友となり力となろう、ゼフィロギィラ。汝の学ぶことは多い。知識、他人の気持ち、心の持ちよう、そして力の使い方もな」
 歩み寄ったバヴサーガラはそういいながら、龍樹の首をまとめて胸に抱きしめ、自らもまた草地に座り込んだ。
「とはいえ、今はまず眠ることだ。私もそうして力を蓄え、世界を見つめてきた」
 多頭の首を抱え、安らがせるその姿をトリクムーンは少し離れて、じっと見つめていた。
 孤独な魂と現世の器。
 後者リノリリの身体を造り出し、前者バヴサーガラの魂を降ろしたのは他ならぬ彼、トリクムーンだった。
 そのトリクムーンが、新たな種と世界を調停しようとする封焔の巫女の姿に、今なにを思うのか。
 それは今、龍樹に囁きかけるバヴサーガラの、あるいは人間リノリリの声に無表情のまま耳を傾けるトリクムーン自身にしか、たぶん判らぬことだった。
「おやすみ、ゼフィロギィラ。良い夢を」

Design:前河悠一 Illust:在由子




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《今回の一口用語メモ》

バヴサーガラ──神格ならざりし人間ヒューマン

 惑星クレイの歴史や諸学問そして宇宙的な魔術についての膨大な知識と経験、身の内に封焔の炎を宿す強大な魔力と体力、多彩な武具を操る達人の技、師匠と崇められる竜騎術、さらには絶望の司祭として一軍を率いる武将としてのカリスマ、大局を見て判断しその結果をも見越して人と物あるいは国家までも影響力を及ぼす政治力、そして世界と襲い来る危機を予測する“目”……バヴサーガラという人物を表現するにはあまりにも数多くの圧倒的な高みに達した、力と技と実績に直面することになる。
 バヴサーガラ。
 種族としては人間ヒューマンであり──惑星クレイ世界で有り得る特徴として“羽根”は持っているが──、現在の身体はリノリリという女性のものを共有している。つまりは肉体的限界は常人とそれほど変わらないはずだ。
 彼女がいつ生まれ、なぜこれ程の力と知識を持つことができたのか。
 それは長い間、謎とされてきた。
 現在も完全に解明されたとは言えないが、それでも天輪聖紀に入ってから得られた情報とその研究により、ある説が浮上してきたのでご紹介しておこう。
 バヴサーガラは無神紀に出現したものとされる。
 誕生ではなく“出現”というのは、この頃のバヴサーガラは(純粋な)生物として父母から生まれたのでは無く、新聖紀が終わり加護と魔法が失われた惑星クレイ世界がその方向性から突如出現させた「存在」だったのではないかという仮説に基ずいている。
 通常、世界に望まれて出現するほどの「存在」となれば、その多くは神格となるものだが、バヴサーガラの場合、無神紀となり枯れ果てた運命力の不足によってそうはならなかった。
 その代わりにバヴサーガラは身の内に宿した封焔の炎を、無神紀となっても眠らずにはぐれていた竜たちに分け与え──これが最初の封焔竜であり彼女に絶対の忠誠を誓う忠臣である──、そして自らはまた運命力が満ちる時代まで休眠することになった。
 つまりこの説を真実と取るならば、バヴサーガラとは神格ならざりし人間ヒューマンということになり、超人的な力や素養、そして精神的な長寿は生来のものと説明がつく。カリスマや知識、動じない性格や人としての器の大きさ等は膨大な時間と自己研鑽によって磨かれていったものなのだろう。

 天輪聖紀となり、目覚めてからのバヴサーガラの行動は、これまでの本編で語られている。
 現在のバヴサーガラ、つまり封焔の巫女バヴサーガラについては、もう一つ、絶望の妖精であるトリクムーンの存在も忘れるわけにはいかない。
 無神紀のバヴサーガラは生物というよりもエネルギー体に近い存在だった為に、天輪聖紀に覚醒し活動するためには肉体が必要だった。
 トリクムーンは惑星クレイ世界に出現した時、焔の巫女リノと希望の妖精トリクスタの関係を理想として記憶したために、自らの“絶望”の力をバヴサーガラの器とするべく人間の女性の形に練り上げた。これがリノリリである。リノリリは感情も意思も持たない存在だったが、バヴサーガラの精神を降ろし、共に活動する中で自我を持つに至った。そしてこれがトリクムーンも(バヴサーガラも)予想していなかった封焔の巫女バヴサーガラの「人間らしさ」を象徴する人格として、2人が融合してゆくことになったのである。

 最後に、バヴサーガラ自身はその出現からそもそも、衰退し力が減衰してゆく世界の一方、すなわち「絶望の巫女」として運命づけられた存在だが、焔の巫女リノたちとの出会い、神格ニルヴァーナと《世界の選択》を経て、今は惑星クレイ世界と運命力の均衡バランスのため、世界の未来を直接拓くいわば主役となる陽の“希望”側に対し、あえて裏から支える道を選んでいる。
 協力者、助言者、そして現在名に帯びる調停者という位置づけだ。
 よって龍樹戦役の最終局面で、大会戦でドラゴンエンパイア帝国ドラグリッター隊を率いた姿、そして今回、ある意味、惑星クレイ世界を代表して新たな龍樹の種ゼフィロシィドと対峙し、調停を引き受けた事などはこうしたバヴサーガラの意志からすると例外的なものだと言えるかもしれない。


封焔の巫女バヴサーガラについては
 →ユニットストーリー031「封焔の巫女 バヴサーガラ」を参照のこと。

バヴサーガラの世界を監視する“目”については
 →ユニットストーリー039「頂を超える剣 バスティオン・プライム」章末を参照のこと。

トリクムーンと少女リノリリについては
 →ユニットストーリー042「天輪聖竜ニルヴァーナ(覚醒編)後編 ~サンライズ・エッグ~」を参照のこと。

新たな龍樹の種と、ゼフィロシィドの覚醒については
 →ユニットストーリー122「トリクスタ」および
  ユニットストーリー175 「ゼフィロシィド」を参照のこと。

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本文:金子良馬
世界観監修:中村聡