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短編小説「ユニットストーリー」
236幻真星戦編「奇跡の幻真獣 リフィストール II」
ケテルサンクチュアリ
種族 幻真獣
「次に目覚めた時はきっとまたあなたがいる。レザエル」
 時の運命者リィエル゠アモルタが、ミラージュタワー玉座の間に出現していた。
「時の運命者だと?!」
 魔王竜ガブエリウスは、エネルギーの奔流を吐き切った姿勢のまま固まっていた。
 ガブエリウス(の記憶を共有する端末体)にとって、リィエル゠アモルタは特別な意味を持つ。
 なぜならアモルタは、聖竜ガブエリウスが惑星クレイに残した肉体に融合し、その魂のコアとなった存在であり、それぞれ世界の外へ(アモルタはギアクロニクルの拘留を受けるため)離れた、いわば一心同体だった者だからだ。


Illust:海鵜げそ


「お待たせしました。レザエル、リフィストール」
 白き運命者の天使は、2人にそれぞれ手を貸すと立ち上がらせ、敵に向き直った。
「……リィエル。これは一体?」
 レザエルは頭を振って、混乱を鎮めようとした。沈着冷静なリフィストールでさえ、この突然の援護には目をみはっている。
 思えばこうしてアモルタが、レザエルの前に出現するのは3度目のことである。
 1度目は、零の運命者ブラグドマイヤーに追い詰められた時。
 時の宿命者リィエル゠オディウムと対峙した時が2度目。
 そして今、魔王竜ガブエリウスが必殺の一撃を放った瞬間に、再び。
「説明は後。敵はもう戦闘態勢に戻っているわ、レザエル」

 そう。幻真星戦の仕掛け人である彼は、やはりその心も強かった。
「なぜその姿に戻っているかは知らぬが、その程度で我が覇道を止められると思うな!」
 魔王竜ガブエリウスはその剛腕を振るった。
 白い大気を巻き込んで、再び衝撃波が3人を襲う。
 だがアモルタの警告を受けていた抗戦者側には、ほんの少しだけ余裕があった。
 身を低くして烈風をやり過ごすと、レザエルが叫んだ。
「反撃開始だ!行くぞ、リフィストール!」
 号令に応え、リフィストールがいしゆみのように魔王竜に飛びかかる。
 幻真獣の突撃を避けてガブエリウスの体勢が揺らいだ瞬間、大上段に振りかぶった運命王の長大な聖剣がその頭上を襲った。
「その悪の心を斬る!」
「斬れるものか!」
 魔王竜は避けもせず、急激に集束させたエネルギーの障壁で、その斬撃を無効化してみせた。
 がら空きになった天使の胴に魔王竜は左手の剣を振るう。
 だがその凄まじい斬撃は、レザエルの素手によって掴み取られた。
 片手真剣白羽取り。剣術を志す者がその果てに辿り着く究極の技の一つ。
武爪ぶそう術か」
 魔王竜は唸った。剣の師匠として、他ならぬガブエリウス自身が伝えた、古代戦技。竜の爪による武術を、天使の徒手空拳技として発展させた、レザエルの奥の手だ。
「この技は何度も危機から私を救ってくれた。そしてこれこそあなたから贈られたものだ。……ガブエリウス!頼む、目を覚ましてくれ!」
「よく修行を続けたようだ。見事だ、レザエル」
「ガブエリウス!」
「だが、我が野望の炎は消えず、我が禁術は奇跡を葬る。幻を受け容れぬお前に、勝ち目はない」
 ガブエリウスは傲然と言い放つ。
 それでもレザエルの心は折れていなかった。
「勝ち目はある。いや掴み取ってみせる。“手を伸ばして”」
 レザエルが放ったその言葉に、なぜかガブエリウスは少しよろめいたように見えた。
「なぜなら、それこそ私がある人から教えられたことだからだ。ガブエリウス、あなたが言った」
 レザエルの横には、リィエル゠アモルタが寄り添っていた。彼女が横に、そして共に戦う友たちがいてくれる限り、諦めるという選択肢はなかった。
『わずかな光でも、手を伸ばした者にのみ、奇跡は舞い降りる』
 ガブエリウスは完全に立ち尽くした。
 そしてこの奇跡の瞬間。
 魔王竜の背後から、輝ける光の存在が迫った。
「それは我が幻真獣、最強の一撃!天の奇跡にして未来乗せる翼!」
 奇跡の幻真獣リフィストール!!
 最後の瞬間、ガブエリウスは振り向いた。
 が、それは魔王竜にしてはあまりにも遅く、鈍い反応だった。
「これで目を覚ましてくれ。ガブエリウス!」
 ──!
 断末魔の絶叫と共に、魔王竜は奇跡の炎に貫かれ、灼かれ、倒れ伏した。


Illust:タカヤマトシアキ


 レザエルとリフィストールが倒れた魔王竜に近寄った時、ガブエリウスは目を開け、彼らに続いて来たリィエルに呼びかけた。
「リィエル゠アニムスか」
 その言葉通り、彼女の姿はアモルタではなく、2人で1人のアニムスの姿に再び戻っている。
「たぶん、願う心ね」
 アニムスの言葉は一同の疑問に答えるものだ。
 アニムスが3体の近衞竜と戦い、全て倒した時、はるか頭上(玉座の間)から響く崩壊の音、降り注ぐ瓦礫、そしてレザエルの危機を感知した。その瞬間、“レザエルを救いたい”と願う心が、運命の奇跡を起こし、最もふさわしい姿に変えて力を与えたのだろう、と。
 惑星クレイ世界を支える運命力が、こうした人の強く切実な願いに応えるのは珍しいことではない。
「『わずかな光でも、手を伸ばした者にのみ、奇跡は舞い降りる』。……そうだったな」
 ガブエリウスは呟いた。
 その目にもう野望の炎は見えない。
 今はただ、彼を囲む戦士たちへ穏やかな視線を送るだけだった。
「我は過去へと手を伸ばし、お前は未来へと手を伸ばした」
 その身体は端から、消えつつあった。
「未来はお前たちのものだ」
「ガブエリウス……」
「さらばだ。友よ」
 声の残響とともに魔王竜の姿は完全に消え去った。
 こうして惑星クレイ世界に幻真星戦を仕掛け、その力で現実世界を脅かし続けたガブエリウスは去った。
『よくやってくれた。これで世界を元に戻すことができる』
 レザエルが携えていたスマートフォンから、ヴェイズルーグの感謝の声が響いた。
「終わったんですね。レザエル先生」
 静かな声に振り向くと、塔の外で戦っていたベルクレアと幻真獣ニルズベイグが、崩壊した壁から玉座の間に降り立った所だった。
「君たちも本当に良くやった」
 レザエルは歩み寄ろうとしたが、リィエル゠アニムスが手を差し出して止める。
「待って。何か変」

 部屋に立ちこめる白い霧が、1点に集束し始めていた。
「これは何だ。何が起きている?」
 レザエルは困惑を隠せない。
 そういえば、このミラージュタワーも、塔の外の幻世界も、事の始めから異常現象として報告され、今も惑星クレイ世界を包みつつあるこの《白い霧》も、まだ晴れてはいない。
「そう。幻真星戦は終わった」
 声は、白い霧の塊の中から聞こえた。
 それが突然霧散すると、そこに立っていたのは……ゼーリスだった。


llust:BISAI


「ガブエリウスを倒してくれてありがとう、レザエル先生。あなたたちもご苦労様」
 ゼーリスがそう言いながら手を伸ばすと、ベルクレアと幻真獣ニルズベイグの姿は白い霧となって消滅した。
「!」
 愕然とするレザエル、リィエル゠アニムス、リフィストールに微笑んで、ゼーリスは続ける。
「お陰でわたしも、やっと本来の力を取り戻せた」
「あなた誰?!」
 アニムスが鋭く叫んだ。
「わたしは、赫月の大魔法師ゼーリス “幻創ミラージュ”」
「だがゼーリスはベルクレアに……」とレザエル。
「倒された。でもあれは幻体。生きている頃のわたしそっくりのね」「幻体だと?」
 そう。ゼーリス “幻創”が微笑む。
「わたしの専門は泡沫うたかた。生物であれ無生物であれその“感覚”に作用して、幻を見せることができる。ヴェイズルーグやベルクレアとの戦闘報告を見ているでしょう。得意なのよ」
「じゃあベルクレアは幻を倒したってこと?ベルクレアとニルズベイグをどこに消したの!」
「気になる?そうか。あなた達は看病し合ったりして仲が良かったものね、リィエル゠アニムス。彼女たちには用が済んだから消えてもらっただけのこと。ベルクレアとニルズベイグも幻だったのよ、途中からね」
「どういうこと?」
 ゼーリス “幻創”は白い霧をまといながら、悠々と話し続ける。
「あなたたちを欺いていたのよ」
「何を言っているのか、わからない」
 レザエルは怒りをこめて、ゼーリスに抗議した。
「あら。解りやすい講義で人気だった医師ドクターレザエルにしては、ずいぶん察しが悪いのね」
 ゼーリスはその例えの通り、覚えの悪い生徒に対するように説明を続ける。
「では順を追って説明してあげる。まず、生物としてのわたしは死んだ。いまの私はゴースト」
「……」


Illust:BISAI


「好奇心旺盛な探検家、泡沫の大魔法師ゼーリスはね。ちょうどこの真下にある地下の遺跡で。たちの悪い呪いに出会って」「!」
 何か思い当たった様子のレザエルに、ゼーリスが微笑む。
「ええ、レザエル先生。学生時代みたいに、あなたがいてくれたら。いえ、あの時も実はぎりぎりだったものね。きっと無理。……まぁいいわ。そんなわけで、わたしは身体の内外から呪いに食われて、液状化して死んだ・・・
 リィエル゠アニムスが軽く眉をひそめる。医師である彼女でも胸が悪くなるような無惨な最期だ。
「でも滅ばなかったの」
 一同の無言の疑問に、ゼーリスは先回りして答えた。
「意識だけは辛うじて残っていた、地下の泉に漂う液体と化してね。たぶん、最期の瞬間に魔法が発動したのでしょう。それでも、そのままならばいずれ泉の水に同化して消えていた。この……」


Illust:凪羊


あかい月の光が無ければね」
 崩れ落ちた玉座の間の天井から、白い霧を透かして、空に輝く赫月が見えていた。
『まさか……』ヴェイズルーグの声が入る。
「そのまさか。わたしがまさに死ぬ瞬間、まったくの偶然だけど、惑星クレイの月が赫月病かくげつびょうを発症した。泡沫の魔法と赫月の力は相性が最高だった。まるで惹かれあうように、赫月の魔力の全てがわたしに収束し……」
 ゼーリスは両手を広げた。すると彼女を包む“泡”が祝福するようにざわめいた。
「わたしは力と身体を取り戻した。そして変わった。以前よりもずっと強く自分らしい存在に」
『我が見た、月があかくなって再び白く戻ったのは、それ・・が原因だったのか。お前が全て吸収して復活したのだな』
「そう。赫月の大魔法師ゼーリス “幻創ミラージュ”としてね」
 レザエルはまた頭を振った。
「だがまだわからない。それがこの白い霧とどう関係している?なぜ、君自身やベルクレアとニルズベイグまでを幻体化する必要があったのか」
「そこよ」
 ゼーリスが教壇に立つ講師のようにレザエルを指した。
「わたしがこの力を得た時、異世界の光景を見たの。そこでは今まさに死にゆく少女がいた。わたしは彼女の魂に触れ、そして決めたのよ。『彼女にとって理想の世界を作ろう』とね。彼女が死ななかった世界を実現する。そのためにわたしは、己が力の全てを使った」
 レザエルの表情を見たゼーリスは、当然のように話す。
「そんな目で見ないで。わたしはあなたの言葉に感銘を受け、そして最後の時までその精神に忠実でいただけよ、レザエル先生。あなたは『誰かを救うことに人生を捧げている』と言っていたじゃない。わたしも同じよ」
「……」
 リィエル゠アニムスは黙って聴いていた。愛しい人のため、何度も姿を変え、時を超え、あるいは時間軸さえも越えてレザエルを救ってきた彼女にも、それは刺さる話だったのかもしれない。
「質問の答えに戻りましょう」
 ゼーリスは言った。そして手を前に差し伸べる。
「わたしの目的は地球の少女の願いを叶え続ける事だけ。元々クレイをどうこうしようとは思っていなかった。でも、強すぎた幻創の力は白い霧となって、徐々に漏れ出した。そしてそれと同時に、地球で厄介な存在が誕生してしまった」
「ガブエリウス」とリフィストール。
「そうよ」
 ゼーリスは魔王竜ガブエリウスが消えていった辺りを睨んだ。
「地球にいるガブエリウスは幻の力で受肉し、わたしと繋がる幻創の力を奪った」
「ガブエリウスは、君の力を利用したと」
「それが、わたし――ゼーリスのものとは知らずにね。そして白い霧の発生源であるこの土地の上に、わたしの創ったミラージュタワーを模した、第二のミラージュタワーを創った。でも利用されたわたしの方は困ったものよ。力を奪われて自由に動くこともできなかったし。だからどうにかしようと、幻体を創って動くことにしたの。それが、ゼーリス “幻影ファントム”の正体。でもすぐにガブエリウスは、幻真獣の力を消すために、幻真星戦を始めた。何の因果か、わたしもファントムガーディアンに選ばれてしまった」
 察しのいいレザエルは、与えられた情報から先を推測する。
「だからそのまま、ファントムガーディアンに紛れていたと……隙を見て月の門を襲うことも、我々がガブエリウスを倒すことも、全て計画の内だったということか」
ゼーリスは頷く。
「いっそのこと、邪魔な存在は全て消しておこうと思ってね」
 ゼーリスはここで消えていった幻体のベルクレアの方を見た。
「ベルクレア……彼女たちにも手伝ってもらった。幻体として」


Illust:BISAI


「ガブエリウスを倒してもらうには、ゼーリス “幻影ファントム”は最終的に退場しなければならなかったからね。一番自然なのは彼女に倒されることだったし、月の門を攻略するために幻真獣側にも耳を置いておけるのは便利だと思った。もちろん性格も力も、完璧に複製したから、わからなかったでしょう?」
「待て。それならば本物・・の彼女をどうしたのだ?彼女はどこにいる!」とレザエル。
「倒したのよ。あなたたちが知らないところで、開始されたばかりの幻真星戦のルールに従って、ファントムガーディアン泡沫の大魔法師ゼーリス “幻影”として、悠久の大魔法師ベルクレアと悠久の幻真獣ニルズベイグをね。そして誰も知らぬまま、わたしの創った幻体と入れ替わった。本物のベルクレアとニルズベイグなら、わたしの泉で大事に保管しているわ。ずっと眠ったままね」
「ガブエリウスはお前が幻の根源だと、最後まで気づかなかったのか?」とリフィストール。
「さっき言った通りよ。わたし自身の幻体もまた完璧な複製だもの」
「つまりゼーリス、君は自分と、親友とその幻真獣の幻を創って、都合のいい結果となるように芝居を打っていた……」
「そして成功した。ガブエリウスは倒れ、幻真獣の母体であり最大の障害になるはずだった《月の門》もわたしが停止させた。月まで幻体を飛ばして、ヴェイズルーグを騙すのは、かなり手間がかかったけれど」
 レザエルとアニムス、リフィストールが顔を見合わせた。
 ようやく筋道が見えてきたようだ。
 さらけ出されたその真実はあまりにも複雑で、周到に企てられたものだった。
「あなた達の顔に絶望が見える」
 ゼーリスの表情には──恐るべきことに──慈悲と理解があった。
「賢いあなた達なら、すべての状況は見えたはずよ」
「そうだな」
「さすが、レザエル先生」
「もう、止まる気はないのだろう。いや、止められない、と言った方が正しいか」
「ええ。わたしの願いはあの少女の生きられる世界を実現すること。元々惑星クレイには興味なかったけれど、ここまで霧が広がってしまったら、もうわたしにも止めるすべはない。そして真実を知ってしまったあなたたちを、このまま見逃すこともしない。だから予定変更。クレイを幻で包んで、邪魔な存在は全部消すことにしたわ」
「そんなことは、させない」
「……」
「私は戦う。たとえそれが非業の死を遂げた、教え子の君であってもだ。ゼーリス」
「そう。……ありがとう」
 ゼーリスは俯き、そして顔を上げた。
 今まで豊かな髪に隠れていたその左目は、生きていた頃のエルフのものではなかった。
「では始めましょう。ゴーストである、赫月の大魔法師ゼーリス “幻創”の名の下に」
 ゼーリス “幻創”の姿は“泡”に包まれ、その異様に美しい顔だけが最後までレザエル達を睨み続け……。
 そして一つの言葉を残して、消え去った。
「最後の戦い、『運命星戦』を」



本文:金子良馬
世界観監修:中村聡