「——さん、ハイッ!」
ステリィのかけ声に続いて、音楽室に伸びやかな歌声が響く。
向かって左手にソプラノ、右手にアルト、二グループに分かれた少女たちの顔には瑞々しいエネルギーが満ちている。
合唱は新入生たちのお気に入りの授業だった。
国語の授業は眠い、数学の授業も眠い、楽曲分析の授業は難しい……それに比べたら!
一限の楽曲分析で鼻提灯をぷぅぷぅさせ、トカゲのワービーストであるデスファンブル先生の尻尾でビンタをされたミチュも、今は元気溌剌で、その天才的な歌声をリリカルモナステリオ中に響かせて——
「はい、ストップ!」
タクトをキュッと上げて、ステリィが制止をかけた。
口元に手をやって、うーんと唸る。
「いいね、いいんだけど……ミチュ」
「ハイッ!」
と、ミチュは元気に挙手。
「もうちょっと音量を下げてみようか。周りの音を聴いてみて。あとはそうだな……そのざらっとした音も減らせそう?」
ステリィが指摘したのは、ミチュの歌声に混じる砂嵐めいたノイズのことだった。
ノクノの歌を録音したときにそうだったように、彼女自身が歌うときも雑音が混じってしまうのだ。
「ハイッ!」
ミチュはほとんど反射で元気に答えたが、すぐにムムムと考え込む。
戦闘兵器として作られたミチュは優れた音楽装置を持たない。ノイズが混じってしまうのは生まれ持った性能の問題だけれど、どうしたら減らせるのだろう……
悩むミチュを尻目に、ステリィは生徒たちにアドバイスをしていく。
ソプラノのメディエールはアルトに引きずられないように。
同じくソプラノのハーゼリットは歌う姿勢に気をつけるともっと声が響く。
アルトのリルファは歌詞に想いを乗せてもっと感情的に。
「——次にノクノ」
「ッ、はいっ!」
タクトに指されてノクノの肩が跳ねる。
「もう少し歌声をボリュームアップできるかな? 素敵な歌声が掻き消えたらもったいないだろ? 音に圧されないよう意識してみて」
「はい……」
歌声の弱さを指摘されたばかりなのに、ノクノの声は小さくなってしまう。
合唱ならわからないだろうと思ったのに、ステリィにはすべてお見通しのようだ。ノクノは未だ歌声を出し切れずにいる。
人前ではワンフレーズですら歌えなかった頃と比べれば格段の進歩だけれど……それでも、ちょっとのアドバイスを深刻に受け止めてしまうノクノなので、アルトグループに埋もれつつ、ほの青い顔で俯いた。
そんな彼女の右手前方で、ぴょこぴょこ動いている春桜色がある。ソプラノの端でミチュが元気よく振り返り、ノクノに向かって口をパクパクさせていた。
(ノクノ、ノ・ク・ノ! 素敵な歌声だって。ね、ね!)
けれど俯いているノクノは気づかなかった。
さて、お次は歴史の授業。
「——こうして弐神戦争は終わりを迎え、それは様々な影響を及ぼしました。例えば、アクアフォースの消失によって大海賊時代が到来、その後ナイトミストとメガラニカの間で海洋協定が結ばれたの。それでやっと海の治安が安定し、海洋貿易や海外旅行が活発になったわ。そうして暮らしに余裕ができ、人々には娯楽を楽しむ余裕も生まれました。そこで人気が出たのが“バミューダ△”、マーメイドの歌姫たちで……」
銀狐のハイビースト、シルフォニック先生がずり下がった老眼鏡を押し上げながら話している。
その声は穏やかに流れる小川のせせらぎのようで……つまりとっても眠かった。ほとんどの生徒たちの顎がゆらゆらと前後に揺れてしまっている。
黒板に板書するカツカツという音でビクッと目覚めノートを取っては、また夢のなかへ……
シルフォニック先生は実は睡眠を操る魔術師なのでは、ともっぱらの噂だ。
ノクノも口の内側をぎゅっと噛み、必死に眠気をこらえている。色ペンやちょっとしたイラストを使いつつきれいにノートを取るのがノクノのこだわりで、ミミズが這ったような文字にするのは避けたかった。
対して……前席のミチュはこぶしで鉛筆を握りこんだまま、仰俯角45度で空中を見上げている。きっと目は完全に閉じられているだろう。清々しいほどの居眠りだった。
あとでノート見せてあげればいっか……
蛍光ペンで教科書に線を引きつつ、ノクノが考えたそのときだ。
「ではここで、前回の復習ですが」
シルフォニックの台詞で、小川が流れていた教室にピシャンと電流が走った。
夢うつつの生徒たちもハッと目を覚ます。
くる!
「海といえばマーメイドたちだけではありませんよね? 当時猛威を振るったものと言えば……さて、何でしたか? ミチュさん、どうぞ」
シルフォニックが眼鏡をきりりと押し上げる。ミチュは45度のまま微動だにしない。
(ミチュ、ミチュ!)
慌てて小声で叫びつつ、ノクノが背中をつつくと、寝ぼけまなこのミチュが振り返った。
「みゃ?」
(前、前!)
「ミチュさん、アクアフォース封印後、弐神期の海で猛威を振るったものは?」
「もーい……?」
眠そうなミチュにノクノは小声で囁く。
(海賊クラン「グランブルー」、「グランブルー」って答えて!)
「ぐ、ぐ……? あっ、擲弾発射器!」
シルフォニックは目を閉じ、ツツツ……と指示棒でミチュを差し示し、
「——不正解!」
ゴァンッ!
ミチュの頭上に金タライが落ちてきた。
「~~~~っ!」
声にならない悲鳴をあげつつ頭を押さえているミチュに、これ以上お馬鹿になったらどうしよう……とノクノは心配になってしまうのだった。
*
「すごい! この床、あたしが踊ってもびくともしない!」
ダンスの授業では、リルファの身長を生かしたド派手なダンスが開花した。
出身地のケテルサンクチュアリでは、なかなか思い切り運動することができなったのだという。
化学の授業ではメディエールが大活躍だった。
彼女はリリカルモナステリオの市街にある薬屋の娘で、調薬を幼い頃から見てきたのだとか。
もちろん、実験器具を扱うのはお手の物!
ノクノが初等学校に通っていたのは陸で暮らし始める前のことで、リリカルモナステリオでの授業すべてが新鮮で、何より大変だった。
ひと瞬きの間にじわりと汗ばむ日が増え、夏服に着替える生徒が増えてきた。
夏の予感はリリカルモナステリオの少女たちをより輝かせる。しかしウキウキと弾けんばかりの彼女たちに立ちはだかる物がひとつ。
それはデスファンブル先生の尻尾ビンタよりも、シルフォニック先生の金だらい三連発よりも、ステリィ先生の腹筋ボイトレよりも恐ろしい……
そう、テスト!
グラウンドに燦々と陽が差している。
ピッ!
鋭く笛が鳴って、少女たちが投げたボールが大きな弧を描いた。
「7メートル!」
「10メートルだよ~」
「すごい、21メートル!」
ペアの計測担当が飛距離を読み上げ、少女たちはそれぞれの記録用紙に書き込んでいく。
ボール投げをしているグループから少し離れたところに目を向けると、グラウンドの周りを走っている少女たちがいた。
「はぁ、はぁっ……」
荒い息で長距離走に挑むノクノは、走っているというよりも早歩きと大差ないスピードだった。なんたってノクノはマーメイド。水中ならすいすいと泳げるけれど、陸上で長時間運動するのは苦手だった。
水泳の授業は夏。そのため春学期のテストである体力測定に水泳の項目がないことに気づいたとき、サァッと血の気が引いていく音がした。
もう、どれだけ走ったのだろうか。スターターピストルが鳴ったのがずいぶんと前のような気がする。
ダンスや運動が大好きなハーゼリットはとっくにゴールして、遠くからノクノに向かって「頑張れ~」とピョンピョン跳ねながら手を振っている。
手を振り返す気力もなく、ノクノは空を仰いでしまいながら、ただただ必死で息を吸った。
「はぁ、はぁ、はぁ……っ」
もしかして、まだゴールできてないの自分だけだったりして……
不安になって周りを見れば、ほんの一歩後ろを、短パン姿のエルフが俯きながらも必死で走っていた。
「はひっ、はひっ……っ」
彼女もまた、ノクノと同じ不安を抱いたのだろうか。
ぎこちない動作で顔をあげ、ノクノを見た。
ノクノもまた、荒い息のなかぎくしゃくと彼女を見た。
月の明るい夜のような墨色の髪をした少女だ。エルフの特徴である尖った長い耳はララベルラと同じだが、肌が豊かな大地のような深い色をしている点が異なっている。
(もう、むり、ですよね……っ!)
声を出す余裕もないのか、エルフの少女が目で語りかけてくる。
(うん、もう、むりっ……っ)
ノクノも視線で返す。
(諦めたい、です……っ)
(私も……っ)
弱々しく視線が交差し——やがて二人ともキッと力強く前を見た。
(頑張りましょう!)
と、エルフの少女。
(うん、頑張ろう!)
と、ノクノ。
視線と視線で励まし合って、一歩、また一歩と地面を踏み、ついにゴールテープを切ったのだった。
『ゴール!!』
待っていた同級生たちから、ワァッ! と歓声があがる。応える前にルーテシアは派手にずっこけ、ノクノは崩れ落ちるように尻餅をついた。
「はぁ、はぁ……」
「はひ、はひ……」
もう一歩も動けそうになく、その場で視線を交わし、二人は声を合わせる。
『お、お疲れ様でしたっ……』
泣き笑いのようにふにゃりと笑いながら、エルフの少女が言った。
「あ、私、ルーテシアって言います」
「ノクノです。ルーテシアさんもこの春に入学を?」
「はい、ダークステイツから。ノクノさんは……マーメイド?」
ルーテシアはノクノの髪飾りに視線を向けている。ノクノが頷くと、ルーテシアは羨望のまなざしになった。
「すごいっ! だって——」
続く賛辞が予想できて、ノクノは慌てて首を横に振る。
「私はぜんぜん、ぜんぜんなんです!」
かつてはバミューダ△、そして近年ではAstesice(アステサイス)を輩出したマーメイドはアイドルを目指す少女たちにとっては憧れの存在だ。
そう見られるからこそ、ノクノはやや居心地の悪さを感じてしまうのだった。
謙遜なんてない本気の「ぜんぜん」を感じ取ったのか、ルーテシアも「ご、ごめんなさい!」と答える。
ノクノがハの字に眉を下げつつ、
「だって学園はみんな凄い人ばっかりで……」
と言えば、
「わかりますっ、ダークステイツはジメジメして、お昼も瘴気で暗くて、すっごく居心地がよかったのに……ここは陰キャの私と違ってみんなキラキラしてて……!」
ルーテシアも口をヘの字にして、すぐに「あ!」と声をあげた。
「けど図書室は静かで、紙の匂いがして、ちょっと暗くてオススメですよ。ここの図書室はすごいんです、ダークステイツの専門機関にも負けないぐらい研究書が揃ってて、読んでも読んでも無くならなくて。いくらお休みがあっても足りないぐらい! ……だけど」
ルーテシアの口は再びへの字になり、
「部屋に籠もっていたら、同室の子がたくさん遊びに誘ってくれて……身体がふたつあればいいのに……」
「仲良しなんですね、寮友の人と」
学園は全寮制で、部屋は例外を除きすべて二人部屋になっている。新入生はくじ引きによって部屋が決まるが、同じ部屋になった「寮友」とは特別な縁で結ばれることが多い。
ルーテシアはコクリと頷き、力強く拳を作る。
「だから、絶対に退学にならないように頑張らないと!」
「た、退学?」
突然出てきた不穏な言葉に、ノクノは目を丸くしてしまった。
はい、とルーテシアはか細い声。
「噂で聞いてしまったんです……テストの点数が悪いと……退学になるんだって……」
「うそ……」
確かに、キラキラして夢に満ちたイメージとは真反対に、リリカルモナステリオの授業は厳しくテストは難しい。
けれど退学になってしまうだなんて……!
ようやく掴んだ細い糸が、指の間からスルリと逃げていってしまう——そんな恐怖がノクノの身体を竦ませる。
立ちこめてしまった暗雲に、ルーテシアはハッとして、手をブンブンと振った。
「あ、でもあくまで噂です。噂ですから、気にしないでくださいっ!」
あまりにも怯えた顔をしていたのだろうか。ルーテシアが勢いこんでノクノの手を握った——と、そのとき。
どこからかミチュの声が対空車砲のように飛んできた。
「ノクノ、避けて——————っ!」
「えっ?」
振り返ると、大砲よりも強烈な勢いで、ボール投げの球が顔面のすぐそばに迫っていた。
「ノクノさん——っ!」
ルーテシアの絶叫が響く中、ノクノは目の前が真っ暗になる。
「う、うぅーん……」
ズキズキと痛む頭を押さえつつノクノが寝返りを打つと、まぶたに柔らかな毛束が触れた。目を開ければ、視界いっぱいの春桜色。
「あっ、起きた!」
至近距離で覗き込んでくるミチュに、ノクノは思わず「ひゃっ!」と声を上げてしまった。
「ミチュ、おどかさないでよ」
いつもミチュは距離が近く、ノクノはびっくりしてしまうのだ。
「エヘヘ、ごめんごめん」
と、ミチュに反省の色はない。
「もうっ」
頬を膨らませると、ふっと消毒液の香りに鼻孔をくすぐられた。ベッドの左右は白いカーテンで仕切られており、保健室に運ばれたようだ。
「これ持ってきたの。お見舞い!」
ジャジャーン!
勢いよくミチュが取り出したのは、アクリル絵具でカラフルな花が描かれた黒い玉だった。ビニールに包まれ、黄色のリボンが丁寧に結ばれている。
見たことがある。
晴れの日も雨の日もお休みの日も、もちろんテストの前日も、寮でミチュが丁寧に磨いているのを見た、それ。
花火玉だ。
「いらない」
「ブリッツ・インダストリーの新製品なのに?!」
ブリッツ・インダストリーとは『犬小屋から軌道エレベーターまで』をモットーに様々な工業製品を作っているブラントゲートの大企業だ。
CEOのヴェルストラはキレ者として知られるほか、(ややクセは強いが)イケメン社長として女性人気も高い。
『あぁ地より出でて天に聳える偉大なる建造物よ。新時代の拳となりて世界の敵を倒せっ! 爆誕、ブリッツ・インダストリーッ!(爆発音とBGM)』という動画CMは、通信環境のある者なら一度は目にしたことがあるだろう。
ミチュは何か合点がいった様子で「あ!」と手を打って、
「やっぱり閃光弾だった? 迷ったんだ~」
「せんこーだんもいいから」
「うぅ、そっか……」
と、ミチュはしょんぼりする。
「ありがとう、ミチュ。気持ちだけもらうね」
「うん。ね、ね、もう痛くない?」
「大丈夫みたい」
ノクノが身を起こすと、ベッドの傍らにはパイプ脚の丸椅子がふたつ。ひとつはミチュが座っていて、もうひとつにはパステルカラーの包みやサテンのリボンでラッピングされた包みが積まれていた。
「これは……?」
「こっちはみんなからのお見舞いだよ!こっちはメディエールから怪我に効くお薬のセット、こっちはハーゼリットからモコモコの靴下、こっちはリルファから……なんだと思う?」
ミチュが指さしたのは、小さめの枕ほどの物体だ。透明のビニールにラッピングされ、茶色でモフモフしている。
「……クッション?」
「ブッブー。正解は、でーっかいフィナンシェ! でーっかい鳥の卵で作ったんだって!」
「すごい……っ!」
これだけ大きければクラスで切り分けて食べられるし、生クリームやフルーツを乗せてパウンドケーキのようにしても素敵になる!
想像しただけで、お腹がクルルッと小鳩のように鳴った。
でも、みんなでフィナンシェ・パーティをする前に……
「午後のテストも頑張らないと! 」
ノクノは決意でこぶしを作り、ミチュはコテンと首を傾げた。
「午後? もう今日のは終わったよ?」
「え」
パッと窓の外を見る。
さっきまでピカピカのお昼間だったのに、今はもう綺麗な茜色に染まった雲が流れていた。
「えぇえぇぇっ?!」
無事にテストが終わるとお休みがやってくる。
ピリピリとした空気が漂っていた学園も、いつものウキウキ気分を取り戻したが、ノクノは浮かない顔だった。
みんなでパフェを食べに行ったときも(金彩が華やかな器に、クリームとフルーツが花束みたいに飾られたとっても素敵なパフェ!)。
みんなでビーチプールに行ったときも(ミチュの水着はカーネーションの花びらみたいにハッピーで、ハーゼリットの水着は青いオーロラみたいに華やかだった。メディエールの浮き輪はキュートなパンダ、リルファはサングラスがスポーティで似合っていた。プールで偶然会ったルーテシアは、言葉を交わす前に波に飲まれて流されていった)。
波に揺られつつ、ずっとノクノは上の空だった。
上の空のあまり、ミチュの打ったビーチボールが顔にぶつかって、バッシャーン! とプールの中に倒れ込んでしまうほど。
先のテストで、ノクノは実力を発揮することができなかったのだった。
ボールに倒れた翌日、個別に実施された追試で、ノクノは先生たちからの視線に緊張してしまい、ダンスのテストでは足を踏んづけ、歴史のテストでは回答欄をひとつずらした。
そのミスのショックを引きずって、翌日、翌々日のテストも散々。
「絶対大丈夫だよ!」
「そうそう、私も歌詞飛ばしちゃったし」
みんなが慰めてくれたけれど……プールサイドでかき氷を口に運びつつ、ノクノはぼんやりと頷くことしかできなかった。
楽しい初夏の一日が終わり、果たしてテストの結果は——
教室を出てすぐの廊下の壁に、長い長い紙が張り出されている。
「やったぁ!」
「あー、そっかー……」
悲喜こもごもの声があがる人垣の後ろで、ノクノはしばらくぎゅっとこぶしを握りしめていた。やがて一人また一人と教室に戻り視界が開け、ノクノは意を決する。
見上げた。
︙
49位 ノクノ
50位 ミチュ
以上
「~~~~~っ!」
ノクノが絶句している肩に、クラスメイトたちが優しく触れた。
「ドンマイ、ドンマイ!」
「次頑張れば大丈夫だよ!!」
コク、コク……
ノクノは壊れた機械のように頷き、力のない足取りで教室へと歩み出す。
一歩、二歩、三歩——
と、こんなとき大騒ぎしそうな声が聞こえないことに気がついた。
「……ミチュは?」
11位というなかなかの好成績だったハーゼリットはピョコピョコとご機嫌に耳を揺らしている。
「あっそうそう、さっきステリィ先生に呼ばれてたよ。研究室に行ったんじゃないかなぁ」
「研究室に……」
呟いたノクノの脳内で、不意にルーテシアの声がリフレインした。
——噂で聞いてしまったんです……テストの点数が悪いと……退学になるんだって……
「ミチュ!」