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小説

Novel
クレイ群雄譚(クロスエピック)

第2章 ブルーム・フェスにようこそっ!

作:鷹羽知  原作:伊藤彰  監修:中村聡

第2章 5話 こちら“星くずマールク飴”!

 アンドロイドは夢を見る。
 彼女のまなうらには電子的な青が広がっている。
 機械音声が響く。
『データを再生しますか?』
“YES”
『承認、データを再生します』

 暗転

 高度4112メートル、前方の視界は不良。重苦しい雲がどこまでも広がっている。

『みんなどこ? どこ行っちゃったの?』

通信確認シグナルチェック”——“ノーシグナル
 赤外線捜索 システム起動、敵機確認。
 前方12度、敵影数5。

『ね、ね、みんなは? ねぇ!』

通信確認シグナルチェック”——“ノーシグナル
通信確認シグナルチェック”——“ノーシグナル
通信確認シグナルチェック”——“ノーシグナル

『へっへーん、大丈夫! わたしが全員やっつけちゃうから!」

通信確認シグナルチェック”——“ノーシグナル

「だから、おーい、みんな、返事して~!』

通信確認シグナルチェック”——“ノーシグナル
 ミサイル接近、防御フィールド展開。
 着弾。
 バッテリー低下を確認、主力エンジン停止。
 エマージェンシー、高度の低下を確認。

 暗転

 青く広がるミチュの世界に機械音声が響く。 
『データを削除しますか?』
“No”

   *

 カッ!
 と目を開けたミチュは跳ねるように身を起こし、カーテンを開ければ空は燦々いい天気。ミチュは高々と両手を上げて伸びをする。
「よ~し、頑張るぞー!」
「……ぅん……」」
 ベッドの上で身じろぎをするノクノはまだまだ眠そうだ。
 なにせ昨日時計の針がてっぺんを指すまで起きていたから。
 ふわふわの毛布を引っぺがし、ミチュは対空ミサイルのように叫ぶのだった。
「文化祭、三日目だよ―――っ!」
 ベッドから身を起こし、ノクノは大きく伸びをした。
「ふぁ~ぁ……」
 ノクノが夜更かしをしてしまったのは、フェスで身につける衣装を決めかねたせいだった。
 ノクノがスキピアリの街で針子をしていた頃のわずかな給金ではビーズさえまともに買うことができず、客から預かった残りビーズで空色のドレスを仕立てるしかなかったが、このリリカルモナステリオでは違う。
 特殊な素材さえ望まなければ、糸も生地もレースもビーズも使いたい放題! ミシンだって最新式だし、多種多様な型紙も用意されている。
 裁縫が大好きなノクノにとっては天国のような環境で、入学してから今日までに仕立てたドレスは何と20着にのぼっていた。
 てっぺんまでかけてどうにか6着まで絞ったものの、それでも決めきれないまま眠りに落ちて気づけば朝、というわけだ。
 ミチュはワクワクと身を乗り出して、
「ね、どれにする?」
「えっと……」 
 ノクノが口ごもると、決めかねているその気持ちをミチュは察したようだ。
 そうだ! とミチュは手を打った。
「よし、もうぜーんぶ持って行っちゃお!」

 
 一般人にも広く開放されるリリカルモナステリオの学園祭は、主に三つの催しによって構成される。
 ひとつは課外活動の発表。リリカルモナステリオの生徒たちは学園の授業以外にも課外活動を推奨されており、学園祭はその発表の場となっていた。リリカルモナステリオのニュースを扱う『ニューズ・スタア』は号外を配り、学園の独自配信チャンネル・リリカルwebでは今日だけの生配信が行われその数は到底見切れないほど。
 そしてもうひとつが活動中のアイドルたちのライブ。デビューしたての新米アイドルたちによるアットホームなライブから、チケットの争奪戦が行われる大人気アイドルのライブまで、三日間いたるところでライブが催されている。
 ミチュとノクノがクラスオーディションを経てクラス代表として選出された“ブルーム・フェス”もこれにあたる。
 そして最後がクラスごとの出し物で、お化け屋敷をやるクラス、カフェをやるクラス、はたまたクラス一丸となって劇を企画するところもある。
 ステリィクラスの出し物は『マールク飴』!
 マールクの実に飴をかけて棒に刺した、お祭りの定番品だ。
 もちろん大広場に露店を構えるステリィクラスのマールク飴屋さん“星くずマールク飴”が作るのはシンプルなマールク飴ではない。
 チョコをくるくると纏わせた『ビターチョコ』や、パウダーをまぶしてちょっぴりスパイシーな『シナモン』、パチパチのラムネをトッピングした『ブルースカイ』など、色とりどりのフレーバーが並んでいた。
「いらっしゃいませ~! “星くずマールク飴”です!」
 真っ赤なマールク柄のミニワンピースを着たハーゼリットが、耳をぴょんと立てながら店頭に立っている。白い耳には星とマールクを模った耳飾りがキラキラと光っていた。
 キッチンに立っているのはメディエールとノクノだ。
 メディエールは飴がぐらぐらと煮立つ大鍋に串に刺したマールクの実をくぐらせて、鉄板の上に立てる。赤い飴がとろとろと垂れて、柔らかなシルエットを描きながら固まっていく。これで下準備はオーケー。
 次にメディエールはあらかじめ冷やしておいたマールク飴を鉄板から取って、チョコレートをくるくると垂らし、ノクノへとパスする。
 そしてノクノが鮮やかな手つきでリボンのついたビニールでくるんで完成!
「チョコレート2本できました~」
 できた飴はハーゼリットからすぐにお客さんの手に渡って、笑顔の花を咲かせた。
 つやつやとした飴をかじればパリッと割れ、じゅわりと果汁が溢れ出す。おいしいおいしい“星くずマールク飴”!
 お客さんの笑顔がまた次のお客さんを呼び込んで、“星くずマールク飴”の前はお客さんでごった返していた。
(次の飴を早く準備しないと……!)
 少し慌てながらメディエールがマールクの実が入った木箱に手を伸ばし、実が残りわずかになっていることに気づいた。そこから視線を右に向ければ、砂糖の袋も残りひとつ。待ってくれているお客さんすべてに渡すには到底足りない量だ。
「うぅ、ど、どうしよう……」
 背負ったパンダの顔もしょぼんとしてしまう。
 と、そのとき上の方から朗らかなリルファの声が聞こえてきた。
「お待たせ~!」
 沢山の木箱を持ったリルファが露店を覗き込んで、ニコッと笑う。
「マールクの実、ここに置くね!」
「良かった……間に合いました」
 メディエールとパンダはホッと胸を撫で下ろし、さっそく木箱の蓋を開けると、たくさんのマールクの実が陽光に照らされてつややかに光る。
 マールクの実はこれでOK!
 あとは砂糖が届けば一安心だけれど——
「ミチュ、遅いです……」
 メディエールは心配そうな視線を人垣の方へと向ける。最後の一袋が無くなろうというそのとき、ゴォオォオォォ! というエンジン音が聞こえてきた。
「砂糖、持ってきたよ~!」
 ようやく白砂糖の袋を山のように抱えたミチュが到着し、空っぽの木箱にドサッと追加する。これで文化祭期間中になくなることはないだろう。
 けれど不思議だった。どうしてこんなに時間がかかってしまったのだろう。
「備品庫ってすぐそこでしたよね……? なにかありましたか?」
 ミチュは「ごめん~」と両手を合わせる。
「あのね、デーモンのおじさんが生垣に落っこちてたから、迷子ルームに送ってきたんだ」
 メディエールはよく意味がわからなくて首を傾げてしまった。
「おじさんが……? 生垣に……?」
「うん! 部下の目を盗んで逃げだしたら、なんだか迷子になっちゃったんだって」
 迷子さんは生垣に落っこちているものでしょうか?
「うぅ~ん……」
 メディエールは右に左にといくつも首を傾げたが、すぐにハッとして、今するべきことを思いだした。
 だってみんなが“星くずマールク飴”を待ってる!
 メディエールは真っ赤なワンピースの裾をサッと翻した。
 “星くずマールク飴”のスタッフはそれぞれマールクの実を模したワンピースを着ている。デザインはそれぞれの個性に合わせ少しずつ異なっており、活発なハーゼリットはふわふわのペチコートがチラリと見えるミニ丈で、メディエールは飾り紐のついたハイネック、リルファはミニスカートの下にスポーティなショートパンツを合わせている。
 ノクノのスカート丈は長めだが、裾がスカラップにカットしてあるところがこだわりだ。ミチュはポップなベルトや太めのバングルで個性を出している。
 ミチュとノクノの装いのなかで他のクラスメイトと最も異なっているのは——スカートの裾に五弁の花の形をしたピンバッジがキラリと光っていることだった。その中心には可愛らしくレタリングされた文字で『7』と描かれている。
 それはブルーム・フェスの出場者であることを示すピンバッジだった。ふたりにランダムに割り振られたエントリーナンバーが『7』というわけだ。
 ブルーム・フェスの開始は今日の14時から。あと10分ほどしたら“星くずマールク飴”の制服を脱いでフェスの会場へと向かわなくてはいけない。
 クラスに協力できるのはあと少し、とノクノはラッピングのリボンを一層丁寧に結んだ。左右のバランスを整えるためにリボンの端をハサミでパチンと切り揃えたら——完成!
 ハーゼリットに手渡すためにノクノが顔を巡らせたとき、ふと目にとまったのは……
「ネコちゃんと、鳥さん?」
 ノクノの声に応えて二匹はニャアとキョウと鳴いた。
 一般のお客さんたちと一緒に入ってきてしまったのだろうか。唐草模様のポーチを担いだネコと、小さな傘を差したカササギが店の脇からノクノを見上げている。
 二匹は中に入り込むと、足下に積んである資材をするするとくぐり抜けノクノの足に擦りよった。
「わっ!」
 後ずさっても避けられず、二匹はノクノのふくらはぎにスリスリと頬ずりをして、潤んだ瞳で物言いたげに見上げてくる。
「ニャアッ」
「キョウッ」
「マールク飴が欲しいの……?」
 二匹はコクリと頷いたが、ノクノは表情を暗くしてゆっくりと首を横に振った。
「ごめんなさい、列に並んで買ってもらわないと、渡せないの」
「ニャア……」
「キョウッ……」
 きっと通じたのだろう。二匹は悲痛な声音で鳴くとノクノの足下から離れ、とぼとぼと去って行った。
 力の無い二匹の背中にノクノも心が痛んだが、ここで渡しては並んでくれているお客さんたちに申し訳が立たない、と心を鬼にする。
「よし、ラッピングラッピング!」
 掛け声で気合いをいれ、再びリボンを手にした——そのときだ。
 “星くずマールク飴”の前に黒い人影が立った。
「こちら風紀委員会です!」
 凜と声を響かせたのは、翼手に緋色の腕章をつけたヘビクイワシのワービーストの少女だった。白いショートヘアのすそから長い黒髪が長く伸びているのが特徴で、長い睫毛に縁取られた瞳は濡れた黒曜石のようだ。
 彼女こそリリカルモナステリオ風紀委員長にして、現役アイドルグループ『Absoluteアブソリュート Zeroゼロ』のセンター・サジッタだった。
 そのパフォーマンスは一言で表すならば「クール」。天真爛漫で華やかなアイドルが多いリリカルモナステリオにおいて、『Absoluteアブソリュート Zeroゼロ』の粛然としたパフォーマンスは異彩を放っている。
 ステージに立つサジッタのまなざしはいつも冷ややかで、近寄りがたいオーラすら放つが、ダンスによって散る汗は彼女が生身の少女であることを思い出させる。そのギャップに魅了されるファンが後を絶たないという。
 そして彼女が持つもうひとつの顔が『風紀委員長』。教職員では目が行き届かない学園内の風紀を守るのが風紀委員達の仕事だ。
「現在、学園内で盗難が発生しています。犯人はこちら、“泥棒猫どろぼうねこ傘詐欺カササギ”!」
 サジッタはポスターをパンッと広げた。そこに描かれた面相は唐草模様のポーチを背負ったネコと傘を差したカササギで、ノクノはポカンと口を開けてしまった。
「えっ……さっきの……!?」
 その声は静まりかえった中によく響き、サジッタは斬るような視線をノクノに向ける。
「なるほど、奴らがここに。何か被害はありませんでしたか?」
「特に何も……マールク飴をあげるのを断ったぐらいで……」
「それは不幸中の幸いでしたね。やつらはどちらに向かいましたか?」
「噴水広場の方に向かったと思います」
「ありがとうございます。皆さんもどうかお気を付けください。奴らは特に光り物を狙います。それでは私はこれで」
 サジッタは折り目正しく礼をして、颯爽と踵を返し噴水広場へ足早に向かっていった。彼女の姿が人混みに消えると張り詰めた空気が緩み、“星くずマールク飴”のメンバーがノクノの元に駆け寄ってきた。
 ミチュがノクノの手を取り、ぎゅっと強く握る。
「ね、ノクノ、大丈夫だった?」
「平気。普通のネコちゃんと鳥さんにしか見えなかったから」
「うーん、泥棒さんもグゥグゥお腹がすいてたのかも?」
「そうかも。あっ、時間!」
 気づけばフェスの会場に向かう時間になってしまっている。ブルーム・フェスの会場は学園エリアにある『フォーシーズン・ドーム』のうちのひとつ『スプリング・ドーム』で、ここから歩いて10分ほどの場所にある。
 受付時間まではまだ一時間ほどあり、ミチュのジェットエンジンに頼らなくても余裕があった。
「よし、行こ!」
 気合いをいれるミチュに向かい、ノクノはひとつ頷いて……違和感に気づいた。
「あれ、ミチュ……バッジは?」
「えっ」
 ワンピースのすそにつけたはずのフェスへの参加バッジがない!
「あれ、あれー? 落としちゃった?」
 ミチュは前を見て後ろを見て、その場でくるくると回りバッジを探したが、どこにもバッジは見当たらない。
 と、きょろきょろあたりを見るミチュの視線がノクノのワンピースで止まった。
「んんっ?! ノクノのバッジもないよ……?!」
「嘘っ!?」
 ミチュの言う通りだった。ワンピースにつけたはずのフェスバッジがない!
 あり得なかった。
 フェスのバッジは金属でできたネジ式で、きつく締めたそれが自然に落ちたとは考えづらい。とすれば考えられるのは、誰かに外され盗られてしまったとか……?
『——泥棒猫どろぼうねこ傘詐欺カササギ!』
 ミチュとノクノは声を重ねて叫んだ。
 そう考えればすべてが繋がる。二匹がノクノの足に擦り寄ってきたのはフェスバッジを盗むためだったのだ。
「もう怒ったぞ!」
 ゴオォオォォォツ!
 激しいエンジン音を響かせて、ミチュの足下から白い排気ガスが噴き出した。眉をぎゅっと吊り上げ見据えるは、泥棒猫たちが消えていった噴水広場。そこにはノクノたちと同じようにクラスで企画された露店のテントや、部活動の発表パネルなどが見える。
 ミチュは排気ガスの噴き出す足で地面を蹴り、物凄いスピードで走り出すと、ひとまたきのうちに遥か先へ。
 慌ててリルファが叫ぶ。
「ミチュ、忘れもの——!」
 ぶんっ! と。
 リルファからミチュに向かって忘れ物として放り投げられたのはノクノだった。宙に身体を踊らせながら、ノクノは引きつった悲鳴をあげる。
「———っ!」
「わっ!」
 軽やかに驚いて、ミチュはその腕にノクノをキャッチした。いわゆるお姫様抱っこの体勢でノクノを抱きかかえながら、ミチュは鼻からフンッ! と排気ガスを噴き出した。
「行っくよ——!」
 今度こそ本気でミチュは地面を蹴り上げる。
 前にではなく——上だ。
 一瞬にしてふたりの姿は地上から十メートル上空へ。視界が開け、あたりをすっかり見渡せた。
 噴水広場にはカラフルなポップコーンを売っているワゴンがある、ホットドッグを売っているテントがある、芝の上で即興演劇をしているグループがあり、美術部がキャンバスを展示している一角がある。
 どこもお客さんでいっぱいで、その中から一匹のネコと一匹のカササギを見つけ出すのは至難の技に違いない。
 飛び出してはみたけれど、どうしよう……
 ノクノが途方に暮れてしまったそのときだ。
『“赤外線捜索システム起動、対象——承認。捜索開始”』
 すぐ近くで聞き覚えのない機械音声が響く。
「えっ?」
 思わず驚きの声をあげてしまうノクノだが、ここは上空、ふたりの他に人の姿はない。ということは……
 視線をあげてミチュを見れば、見開かれた瞳孔は異様なほど小さく絞られていた。標的に照準を合わせるように、瞳孔が機械的に収縮を繰り返す。
 温度のない挙動にノクノが息すら忘れていると、ミチュの唇が感情のない声で告げた。
「“——発見”」
 その言葉がスイッチになったかのようにミチュの顔に表情が戻り、いつものように元気いっぱい宣言した。
「よし、あいつら懲らしめてやろ!」
 ミチュは地上の一点、ホットドッグに並ぶ人混みを指さした。
「う、うん!」
 ノクノが最後まで答え切らないうちに、エンジンが唸りをあげ一気に下方へと飛び出した。噴水広場の芝の上に降り立つと、数多の視線がふたりへと集中する。
 恥ずかしい。けれど構ってはいられない。だってフェスはもうすぐそこにまで迫っている!
 ホットドッグを待つ人混みに目を凝らせば、ミチュとノクノに驚く人々の足の隙間からこちらを窺い見ているネコとカササギの姿があった。
『いた!』
 ミチュとノクノが声を重ねれば、向こうも見つかったことに気づいたらしい。泥棒猫と傘詐欺は顔を見合わせたあとミチュ達へニヤァと笑い、口パクでこう言った。
 バ———カ!
 思いっきり憎たらしい顔をして、人混みの中に逃げていく。
 怒りでミチュの足元のエンジンから白い煙がもうもうと噴き出した。
「ぜーったいにとっ捕まえてギッタギタにしてやる!」
「うん!」
 強く頷きあって、ふたりは人混みの中に飛び込んだ。
 すみません! 泥棒猫がいるんです、通してください!
 そう声をかけ人混みをかき分けながら追いかけるも、すばしっこい二匹はなかなか捕まらない。その間にも、二匹が逃げて行った方から困惑の声が聞こえてくる。
「きゃあ!」
「何なにっ?!」
「わたしのブローチがない!」
「ネックレス、どこ行っちゃったの?」
 あっちで悲鳴、こっちで悲鳴。泥棒二匹の被害はどんどん広がっているらしい。
 早く捕まえないと……! 
 いくら焦っても、向こうの方が一枚上手でなかなか距離が詰まらない。むしろ一定の距離を保ちながら揶揄われているようですらあった。
 ミチュはイーッと歯ぎしりして叫ぶ。
『待て~~~~~~~~!』
 大砲のようなミチュの絶叫と、知らない誰かの絶叫がひとつに重なって、突き抜けるように響き渡った。
「え、え、誰の声……?」
 予想外の声にミチュが首を伸ばしてキョロキョロすれば、左手前方にも人混みを掻き分けながら走るふたつの人影があった。
 片方は赤銅髪のポニーテールの少女で、すぐ傍らに子ドラゴンを伴っている。
 もう片方は新緑色のロングヘアの少女で、オリーブの実のようなネックレスを身につけている。
 二人の少女もミチュとノクノに気づき、四人の少女は駆けながら横に並んだ。
「ね、あなたたちも何か盗られちゃったの?」
 ミチュが問うと、ポニーテールの少女は憎々しげに答える。
「そうよ、捕まえてとっちめてやる!」
「だよねだよね。じゃあ、わたしたち協力しようよ!」
「願ってもないわ、そうしましょう」
 ポニーテールの少女は瞳にめらめらと真っ赤な炎を燃やしている。
 決まりだ。
 泥棒さん捕獲作戦開始!