ケイオスが「狙え」と唆したまさにそこ、ロロワの喉笛にミカニは銃を向けた。
銃口からグリップにかけてオーラが寄生虫のように涌き、ミカニの腕に纏わりついている。赤黒いそれは、呪詛が形を取っているかのように禍々しい。
しかしそれが見えていないのか、ミカニは指先を引き金にかけた。
「排除する」
「——させないわよ!」
真上から少女の一喝が響いた。
稲妻が落ちるように、彼女はロロワの前に降り立った。
「ラディ!」
少女は地面を蹴り、剣でミカニの銃撃を弾いた。
続けざまの銃撃も剣でいなし、ミカニへと肉薄する。
「らぁっ!」
漲る気合と共に、炎剣がミカニの胴腹を狙う。
しかしミカニのまなざしは冷えている。音もなく背後に跳躍し、ラディリナの剣から間合いを取った。
銃口からは、荼毘の煙のような硝煙が黒く立ちのぼっている。
「なんであいつがここに居るのよ」
ラディリナは隙なく剣を構えながら吐き捨てた。
「いや……僕にもさっぱり」
ロロワだって知りたいぐらいだ。
「まぁいいわ」
ラディリナは、いつの間にやらサクリファイス・グラスと共に安全なところまで避難していたケイオスを睨みつけた。
「ケイオスをシバけばこのくそったれな状況は全部解決するってことでしょ」
「多分」
まぁいいか、それで。
うんとロロワは頷いた。
物騒な殺意を向けられつつ、崩れた鉄骨に腰かけてケイオスはひらひらと手を振っている。
「やぁ、ラディ少女、また会えて嬉しいよ。ご機嫌いかがかな?」
「ちょうど今最悪になったとこ」
「おやおや、それは気の毒に。パイでも食べて休息することをオススメするよ」
「糞食らえよ。——モモッケ!」
バサッという羽音が響く。
大きく成長したモモッケが、余燼に焼ける熱風をものともせず、頭上で羽ばたいていた。
モモッケは大きく顎を開いた。
ごうっ!
喉奥から炎が迸り、真っ赤な瀑布となってケイオスへと襲いかかる。腸はおろか、骨さえ燃えつきるような灼熱だ。
そこに銃声が鳴り響く。
地上から天へと弾道が伸び、炎を千々に散らして突き抜けた。
ミカニだ。
一瞬のうちにケイオスの元に戻り炎を防いだ彼は、滑空するモモッケに向かい銃をぶっ放した。
モモッケもまた、炎球で迎え撃つ。
怨嗟のこもった銃弾と炎球はぶつかって、熱波がとてつもない勢いで膨れあがった。
周囲を埋め尽くしていたマゼンダピンクの粘液が、焼け焦げながら散っていく。
ミカニは火の粉を腕で薙ぎながら、ケイオスのそばに立った。
「……失礼しました」
と、ケイオスのマントについた煤を払った。
「おや。ありがとう。見ないうちにモモッケくんも成長したものだねぇ」
ケイオスは手を庇のようにかざしモモッケが飛翔する姿に目を細め、ミカニを振り返る。
「だけど、モモッケくんもロロワ少年も、君の敵ではないだろう?」
「はい」
ミカニは感情のない視線をロロワへと向けた。
「あれは英雄のまがい物です」
「ふふ、さぁどうかな? その証が見たいものだね」
「かしこまりました」
ミカニが淡々と答えた、そこに。
「——させないわよ!」
モモッケに騎乗したラディリナが突っ込んだ。
燃え盛る剣を払い、ミカニの首を狙う。
ミカニは前に構えた銃身で剣を防ぎ、銃をラディリナへ向けた。
が。
引き金に指がかかったそのとき、ミカニの身体がグンと後ろに傾いだ。
地面からロロワの蔓植物が伸び、男の足首を掴んでいる。
「——……」
ミカニは静かに一瞥したが、そこに無数の蔓植物が襲いかかった。
足を、胴を、肩を、頭を、植物ががんじがらめに縛りつけていく。
またたく間に蔓人形となったミカニの脾腹に、ラディリナの剣が突き刺さった。
しかし、
「……は?」
手ごたえのなさに、ラディリナの眉が歪む。
そのまま袈裟懸けに斬って落とすと、断たれた蔓がバラバラと落ちていった。
しかし中は空洞になっており、ミカニの姿は跡形もない。
「一体どこに……」
ラディリナはハッとして振り返る。
ミカニはロロワに向かい、まるで氷上を滑るように駆けていた。
次の刹那には、息のかかる距離にまで肉薄している。
「っ!」
ロロワが反射的に生み出した硬化クルミを、ミカニの銃が撃ち抜いた。
破片が砕け散るなか、ミカニは地面を蹴り上げ跳躍、ロロワの脳天を狙って銃弾を放つ。
「っ!」
髪先を焦がし、銃弾がロロワの間近を掠める。
「あんたの相手はこっちでしょう!」
着地したミカニに、モモッケから降りたラディリナは刃を翻す。
炎の斬撃を避け、ひらりとミカニは距離を取った。
「あぁーもうちょこちょこちょこ! 羽虫?!」
苛立ったようにラディリナはかぶりを振った。
——羽虫のよう。
その表現に、ロロワはふと思考した。
ミカニの身のこなしは予想以上に素早い。しかし、彼と戦いづらいのはそれだけではない。
あぁ、そうか、とロロワは思い至った。
ミカニの気配はひどく希薄なのだ。
もちろん、モーダリオンやオブスクデイトのような、隠密に特化した人間には及ばないが、テグリアの豪放な戦い方とは異なっている。
どちらかといえば、リリミ・ララミのそれに近い。
夜闇に隠れて奇襲をかける者の持つ、独特の俊敏さ。
ラディリナも何か思うところがあるのか、ミカニを睨み据え、唸る。
「あいつ、ただ銃を適当にぶっ放す素人じゃないわね。職業軍人か、それに近い高等訓練を受けたなにか……エイリアンってことはブラントゲート? ブラントゲートの宇宙軍あがりってとこかしら」
「いや、違うと思う。国軍ならこんな気配の消し方はしないんじゃないかな」
「じゃあ一体どこの……いいわ」
はっ、と笑うように吐き捨てて、ラディリナは剣を地面へと振り下ろす。
「勝てば同じ!」
地面は大小の瓦礫に砕け、飛散し、妨害弾幕のようにミカニへと襲いかかった。
ミカニはそれを避けようともせず銃を撃つ。
弾丸は瓦礫にぶつかり、そのわずかな軌道の変化によってラディリナを撃ち抜けない。
まばたきの一瞬で、地を行くラディリナは距離を詰めた。
「——ッァ!」
大上段に掲げた剣で、ミカニの脳天を両断する。
ガギャンッ!
ミカニは両手で支えた銃身でそれを受けた。
ギギギ……ギギャッ……!
金属と金属がぶつかり、擦れ、火花が散る。
「らぁっ!」
「……——」
押し斬ろうとするラディリナと、それに耐えるミカニの力は拮抗している。
しかし戦意を漲らせているラディリナと反対に、ミカニのまなざしにはどこまでも温度がない。
男は静かに口を開いた。
「ドラグリッターの女、なぜお前は戦っている」
「馬鹿な質問ね。強くなるために決まっているでしょう」
「……違う」
それは、ただ事実を指摘する冷えた声。
「あのドラゴンは一人の方が強い。今もお前を巻き込まないために炎を放てない。お前は邪魔でしかないのに、なぜ戦っているのかと聞いている」
「——は、」
ラディリナが目を見開いたその瞬間、ミカニの銃が剣を弾いた。
ガァンッ!
剣が跳ね上がる。
「……実力を知らず近づいてくる」
冷たい銃口がラディリナの額に触れた。
「ラディリナ!」
絶叫したモモッケが滑空するが——間に合わない。
そのとき。
——ガァッ!
濁った鳴き声を響かせ、横から黒い塊が飛来し、銃にぶつかった。
銃弾はラディリナから外れ、見当違いの虚空を撃ち抜いた。
——ガァッガァッ!
声の主は黒い鎧をまとった烏——監視烏だった。モーダリオンが使役していたハイビーストだ。
烏はガァガァと鳴きながら執拗にミカニの手元を攻撃する。
「——……」
妨害によってミカニの手元はぶれ、狙いがまともに定まらない。
ラディリナは地面を蹴り込んで距離を取ったが、その残像を舐めるように天井から鋭い瓦礫が落ちてきた。
「ラディリナ!」
モモッケは飛翔し、ラディリナを背へと乗せた。そこにはロロワの姿もある。
ロロワは蔓植物で瓦礫を弾き飛ばしながら、周囲に視線を巡らせた。
「ここはもう保たない、一旦退こう」
焼け焦げた天井は今にも崩落しかかっている。
ミカニを倒したとしても、自分たちが瓦礫に埋もれてしまっては意味がない。
「……えぇ」
ラディリナの声は低かった。
視線を巡らせていたロロワは、天井にできたわずかな亀裂に目を留めた。
「右手前方、あそこから出よう!」
一見すればただの黒い亀裂だが、ロロワはその向こうに夜空が広がっていることに気がついた。
外に繋がっている、そこから出られる。
ロロワの指示のもとモモッケは見事な翼を広げ、地上はぐんぐんと遠ざかっていった。監視烏の妨害が効いているのか、ミカニの銃弾は追って来ない。
かすかな安堵を抱いたそのとき、空気を歪に震わせて声が聞こえてきた。
「ロロワ少年、行ってしまうのかい。だが大丈夫、すぐにまた会えるとも!」
ハハハハハッ!
奇妙なほど感情のない、空虚な笑い声が響いている。
外に出ると、秋風がロロワの身体に吹きつけた。
「わっ」
転げ落ちそうになり、慌ててモモッケの身体にしがみつく。
あたりは常闇が広がっており、目下には、赤々と燃えているオモチャ工場が見えた。そこからはネオンピンクの粘液が漏れ出し、周囲の平原を不気味に染めあげている。
その汚染はロロワが予想した以上に広く、早く、見ている間にも黒い平原は毒々しいネオンピンクへと染め変えられていく。
それはまるで、甘ったるいネオンピンクの悪夢が溢れだし、現実が侵されているかのような光景だった。
『——さぁ哀れな人々に万雷の言祝ぎを、グランドグマの復活は間もなく!』
行き場のない嫌な予感がロロワの胸をざわめかせている。
そこに、ばさばさ、と羽音がした。
『ふぅ、危ないところだったな』
ロロワが顔を真横に向けると、夜空に溶けこむように監視烏が羽ばたいていた。
ややノイズがかって掠れてはいるが、その声には聞き覚えがある。
「……モーダリオンさん、ですか?」
『あぁ、そうだ』
羽を折り畳み、烏はロロワの腕にとまった。
『カメラでそちらの様子は見えている』
声は烏の下げた小型無線機から聞こえていた。機械的に掠れているのはそのせいらしい。
「どういうつもり。テグリアに私たちを襲わせたわね」
ラディリナは剣の柄に手をやって、戦闘体勢を取った。
烏は慌てたようにバタバタと足踏みする。
『待て、誤解を解きたい。俺はお前達を助けるつもりで位置情報を辿ってダークステイツに来たんだ」
「——それで?」
ラディリナは戦闘態勢を緩めないまま続きを促した。
『テグリアに情報を共有したのはオブスクデイトと戦わせるためだった。俺は髪飾りを辿ってお前達を助ける、テグリアはオブスクデイトの首を取る。その予定だった』
「で、予定が狂ったってわけね。お陰で殺されそうになったわ」
『そうか……ごめんね?』
ちょうどモーダリオンが謝る仕草のように、ちょこんと烏が首を傾けた。
ラディリナは剣を抜いて烏を狙う。
「烏って焼けば食べられるわよね」
「ガァッ?!」
命の危機に烏本人が鳴いた。
「ま、まぁまぁ」
ロロワはラディリナを制止し、モーダリオンへ言葉を投げた。
「それで、モーダリオンさんは今どこに? 状況を教えてください」
『落下物で負傷し、今は部下の救援を待っている』
そしてモーダリオンは『俺はあの馬鹿力共と違って繊細だからな』と溜息をつき、
『だが顔は無傷だから安心してくれていい』
ウン、とロロワは力強く頷いた。
「モーダリオンさんが元気そうで安心しました」
「殺しても死なないわよこいつは」
ラディリナは吐き捨てたが、それについてはロロワも同感だ。
『オブスクデイトとエバの生死は不明だがブラスター兵装は回収できた。だが、テグリアの生死は不明だ。目の前で“ピンクのジャムになって”ブラスター兵装に……いや、魔法石に取り込まれた。さすがに死んだかな』
「いえ、たぶん生きてます。今ケイオスさんに囚われてる」
『……ケイオス?』
ロロワは『ケイオス』について知ることすべてを語った。
トゥーリで食客だったこと、リリカルモナステリオのフェスで審査員をしていたこと、それぞれの国で有力者として扱われていたこと、突然目の前に現れサクリファイス・グラスを復活させたこと——
なるほどな、とモーダリオンは独り言のように呟いた。
『そいつが“巨躯”現象を起こしているのか』
「えっと……?」
『あぁ、すまない』
モーダリオンは“巨躯”と呼ばれる現象とグランドグマ信仰について語った。
『そうして“呪い”に感染した犠牲者はグランドグマ復活のための生贄となる。テグリアもその運命を辿ったわけだ。お気の毒様だな』
そう言いつつも、モーダリオンの語調は素っ気ない。
「助けないんですか」
『今はあいつの生死よりもグランドグマの顕現を阻止することが優先だ。人員を割きたいのは山々だが、国外のことだしな……とりあえずロロワは捕まらないように頑張ってくれ。最悪ラディリナは捕まってもいいから』
「……焼き鳥がいいかしら」
ラディリナは剣先を揺らめかせ、監視烏がブンブンと必死で首を横に振る。
モーダリオンのほうは平然と続けた。
『グランドグマの信徒がどこにいるかわからないから、一旦ダークステイツを離れたほうがいいな。ケテルサンクチュアリなら保護できるが、ブラントゲートのほうが近い。すぐそこだ。とりあえずこのまままっすぐ南に向かって国境を越えろ』
ラディリナは口角を歪め、無言を返答に代えた。
そうして話しているうちに、目下に広がる黒い草木はまばらになり、代わりに巨大な岩が剥き出しの荒野になった。
地面をベールのように覆っていた紫の霧は薄く、空が明るくなっていく。
「ダークステイツを抜けたのかしら。瘴気が薄いわ」
『……ん? ずいぶんと早いな』
「モモッケのスピードのお陰よ。見くびらないで」
ラディリナがフンと鼻を鳴らす。
モーダリオンからいつもの『ごめんね』があるかと思いきや、スピーカー越しの声にノイズが混ざり、上手く聞き取れなかった。
『…………そ……な……ガガッ……ガッ……』
かすかな声も、またたく間にノイズによって掻き消されていく。
「モーダリオンさん、聞こえますか? モーダリオンさん?」
ロロワが問いかけても、ガガガッ……というノイズが途切れ途切れに聞こえるだけで、やがてそれすらも無くなった。
無線機を叩いてみたが、うんともすんとも言わない。
「故障かしら」
「距離が離れすぎたのかも」
監視烏にも理由がわからないようで、首を傾げるように顔を左右に揺らしている。
「いいわ、どこかで直してもらいましょう。例えば——ブラントゲートとか」
ラディリナの言葉につられたように、ロロワも顔をあげた。
地平線の先に、針の一点ほどのぼんやりとした光が見えている。
ロロワはじっと目を凝らした。
「……街だ」
荒野のなかにそれは在った。
距離があるため影絵のようにシルエットしか見えないが、無機質なビルが建ち並んでいる様は、常闇村の街並みとは明らかに異なっていた。
古くはスターゲートと呼ばれ、その高い科学力によって栄えてきた国——ブラントゲート。
「着いたんだ」
「よかった。急ぎましょうモモッケ」
ラディリナが声をかけた、その瞬間だった。
朝焼けに染まる中空に光の筋が奔り、モモッケの羽先を掠めていく。銃声がそれを追いかけるように聞こえてきた。
「っ!」
銃声は下から。地上からの銃撃だ。
「まさか先回りされた?」
しかしモモッケの飛行スピードに翼がないミカニやケイオスが追いつけるとは思えない。
ならばグランドグマの信徒だろうか?
一瞬の思案のあいだにも、二発三発と銃声が響き、至近距離を白い弾道が奔っていく。
「二人とも、捕まって!」
モモッケが叫ぶ。
言葉が終わらない間に、モモッケは攻撃を避け、錐揉みをするように降下していった。
「いっ——!」
自由落下よりもさらに早い降下によって臓腑が浮き上がるような心地がして、すぐに着地の衝撃が伝わってくる。
ロロワとラディリナは転がり落ちるように地面に降りた。
そこは大小の岩が剥き出しになった荒野だった。
真っ黒な秋草がどこまでも広がっていたダークステイツの景色とは異なり、どこか寒々しく無機質だ。
地面にはまばらに雪が積もっており、ケテルサンクチュアリやダークステイツと比べると気温はかなり低かった。もしジラールの屋敷で衣類をもらっていなければ、ロロワは寒さに凍えていただろう。
ラディリナとモモッケは戦闘態勢を取り、ロロワも慌ててそれに倣った。
「……エンジン音が聞こえる」
ラディリナが低い声で呟く。
すぐにロロワもブロロロ……とエンジン音が近づいてくることに気がついた。
白く霞む朝霧にヘッドライトの光をまいて、やってきたのは白いセダンだった。
停まるやフロントドアが開き、人型バトロイドの男が降りてきた。
身の丈はロロワの倍以上あり、やや小柄なジャイアントだと言われても納得してしまうだろう。
男が着ているのは、端正な仕立ての真っ白な制服だった。どこかの軍か警察組織に所属しているようだ。
男はパカッと口を開け、鼓膜が粉々になるほどの大声を張りあげた。
「おうおう、テメェら一体何モンだ! 勝手に人の国に入っちゃなんねぇと、母ちゃんに習わなかったか?」
ラディリナは剣を収め、敵意がないことを示した。
「あなた、国境警備兵? 悪いけどブラントゲートに保護をお願いしたいの」
「保護ォ? 子守りは本官の仕事じゃねぇ。さぁ元来たところに帰った帰った! 母ちゃんのおっぱいが待ってるぜ!」
そう言って、男は両手を掲げ、花火でも打ち上げるように銃を乱射した。
国境警備兵と言うよりも、野良の反社会的勢力だと言われた方がしっくりと来る荒々しさである。
「ん?」
ふとロロワは声を漏らした。
男が乱射しているその銃に見覚えがあったからだ。
「……ミカニさん?」
それはミカニが使っていたのと全く同じ銃だった。
人間と変わらない体躯のミカニが使っているとずいぶんと大振りに見えたが、この男の手にあるとまるで小型拳銃のようだ。
「ミカニだって?」
男は大げさに目を見開き、ロロワへと腰を屈めた。
目と鼻の先で絶叫する。
「おぉ、ずいぶん久しぶりに聞く名前だな! テメェら、ミカニの知り合いかっ?」
耳を手のひらで押さえつつ、ロロワとラディリナは顔を見合わせた。
「知り合いというか……」
「殺されそうになったわね」
「ドワハハハハッ、そうかそうか、殺されそうになったかぁ!」
バトロイドの男はのけぞるようにして豪放に笑った。
「そりゃあ元気そうで何よりだ!」
「元気どころじゃないけど……まぁいいわ。あなたは何者なの?」
ラディリナは眉頭に濃い皺を刻み、剣の柄に手をかけている。
もしこの男がミカニやケイオスの仲間だとしたら戦闘も辞さない——殺気が全身から立ちのぼっている。
しかし男はそれに気づいているのかいないのか、バチッと額を叩いた。
「おっといけねぇ、名乗るのが遅れたな!」
男は仁王立ちして拳を上げ、妙に気合いの入った決めポーズを取った。
「本官の名前はヒッコリー。正義の味方、悪いエイリアンを絶対に許さない! “白服の男”のヒッコリーだ!」