惑星クレイの北極圏に、人の心を読み、その感情の力を分けてもらうことで生き続ける共心竜がいた。クレイの精霊だったともいう共心竜は本来、目立たなく無害で、真に気の合うパートナーを探し求める人懐こい生物だった。
その名はシヴィルト。シヴィルトはスペロドという少年に出会い、彼を相棒とする。
だがスペロドは島の守護団に入るため無謀な試練に挑み、再起困難なほどの大怪我を負ってしまう。
それがスペロドを妬む少年三人の陰謀であったことを知ったシヴィルトは、スペロドの心の奥底にある衝動を解き放ち、彼を自由にする。だが結果はとてつもない悲劇となり、共心竜シヴィルトは竜の友スペロドを失い、守護団の砦は壊滅した。
この事件と邪竜シヴィルトを指すものとして、現在でも『ツバレンの悪夢』という言葉が残っている。

シヴィルトの精神汚染がもたらした数多くの災いの中でも、特に後世の歴史に影響したと言われるのは2つ。
1つは新聖紀。ユナイテッドサンクチュアリ最北部にあった守護聖竜の神殿で起こった叛乱。これによって当時、少年竜だったガブエリウスは愛する父母と尊敬する叔父、そして一族のコスモドラゴンを失い、災いの元となった正体不明の精神寄生体(シヴィルト)を生涯の敵とし、滅ぼすまで追い求めることになる。
もう1つは無神紀に同国で起こったプロディティオの乱。その最後に起こったエンジェルフェザー リィエルの死とその悲しみのあまり隊と国を捨てたレザエルの失踪である。

運命大戦は、龍樹侵攻の終結時、滅尽の覇龍樹グリフォギィラ・ヴァルテクスから飛び散ったカケラを浴びた者たちが運命者となったことから始まる。
龍樹によって吸い上げられた惑星クレイの運命力の総和が6つに分かれた機会を逃さなかったガブエリウスは、惑星クレイの後をレザエルに託し、肉体を捨て精神のみの存在となって地球に向かう。仇敵であるシヴィルトの精神が異世界に逃れたことを知ったガブエリウスは長い時間をかけて一族の秘術を発展させ、彼もまた“世界渡り”を完成させていたのだ。
奇跡の運命者レザエル(運命大戦を円滑に進めるためガブエリウスとの記憶を消された)を始めとする運命者同士の邂逅は、運命力の均衡を傾け合ってゆく。

ヴェルストラは他と違い、開発チームにブリッツ社の粋を集め、運命力科学を機械と融合させることに成功して運命者となった。その開発の核となった技術とアイデアがギアクロニクル遺跡から発見された“卵”。その囁きに導かれたヴェルストラはレザエルに、“卵”から出現したかつての恋人そっくりの天使、時の運命者リィエル゠アモルタと邂逅させる。
リィエル゠アモルタは《零の虚》に呑み込まれ全てが零となった未来からやってきた存在。そこで滅んだレザエルの全ての記憶と最後の運命力が、ギアクロニクル遺跡を発動させ、肉体を得たのだという。
《零の虚》はレザエルの大きすぎる悲しみが溜まって出現したもの。そして《零の虚》による滅びは避けられない。ならばせめて悲しみの原因をもたらした自分=リィエルが、力尽くでもレザエルに戦いを止めさせ、滅びまでのわずかな安らぎの時間を共に過ごそうと考えたのだ。
レザエルは真実と避けられぬ未来を明かしたアモルタに「奇跡を起こしてみせる」と誓う。

《零の虚》の中心にいたのは零の運命者ブラグドマイヤー。
世界中の悲しみが降り注ぐ沼から生まれたブラグドマイヤーは、自らを生み出した悲しみであるレザエルを呑み込み、一つになろうと欲して戦う。絶体絶命の危機を救ったのはリィエル゠アモルタ。最後の運命力を振り絞ったアモルタは、レザエルの勝利を確信してこの世界から消滅する。
【宿命決戦】
運命大戦がガブエリウスの仕掛けた術式による攻勢だとすれば、宿命決戦は邪竜シヴィルトによる反撃だと言える。運命大戦によって大きく動いた運命力の潮流は、かつて封焔の巫女バヴサーガラによって集められ、世界を2つに分けて、異なる世界線へと消えた「絶望の運命力」を惑星クレイに揺り戻した。
この時、宿命決戦の術式により、絶望の運命力と精神汚染を同時に受けたのが、運命者たちと相対することになる宿命者である。
宿命者のほとんどは「より大きな力」、野望や欲するものに素直であること。
それはシヴィルトの精神汚染の影響であり、運命者たちは友人や生徒、戦闘衝動にかられた古代機械と戦い、好むと好まざるとに関わらず、また運命力の均衡を傾け合うことになる。
だが時の宿命者リィエル゠オディウムは、絶望が勝利した世界線の運命力が生み出したリィエル複製。絶望から生まれた彼女が抱くのは憎しみ。レザエルに悲しみを負わせてしまった自分=リィエルの罪の意識。故に滅ぼしたいと切望するのだ。レザエルを、そして自分を。
オディウムの圧倒的な力に敗北しかけたレザエルを救ったのは、またもリィエル゠アモルタ。《零の虚》の中に残されていた白い羽根。アモルタの存在、その最後の一欠片が強大な運命力の衝突によって蘇ったのだ。アモルタは自らの記憶の中にオディウムを導き、自らが知るすべての情報とこの後のことを、敵であるはずのオディウムに開示し託してから戦う。
だが辛くも勝利したアモルタを凶刃が襲った。

しかしレヴィドラス、ヴェルストラ、オディウムが命がけで稼いだ貴重な時間によって、レザエルもまた地球側の少年との交感に成功。惑星クレイ世界の運命力を背負う、奇跡の運命王レザエル・ヴィータとなる。
世界の存続を賭けた戦いの終盤。この時のために傷を押して、クレイに残されたガブエリウスの肉体に自らの魂を重ね合わせたアモルタは、聖竜ガブエリウスとなってレザエルの危機を三度救う。
ガブエリウス=アモルタが吐き出す運命力の奔流は精神汚染を弾き飛ばし、ヴァルガを正気づかせる。
ここに運命者と宿命者たちは勝利し、シヴィルトは滅んだ。おそらくは永遠に。
そしてガブエリウスと共に世界を救った英雄リィエル゠アモルタは、これまでに侵犯してきた時空法の罪を自ら清算することを選び、ギアクロニクルに確保されてこの世界の外へと連れ去られるのだった。
【朔月篇──月の試練へ】
宿命決戦が終わった後、均衡を取り戻したかに見えた惑星クレイ世界。
だがリィエル記念病院でオディウム、ブラグドマイヤー、ソエルと共に働くレザエルは、《在るべき未来》として自分が選択したはずの「病も争いも完全に無くなった世界」が実現しなかったことを訝しんでいた。
そんなレザエルの元に月からの使者が現れる。
クレイ第1の月付近に出現した《月の門》そして月の門番ヴェイズルーグに率いられる一族ムーンキーパーたちはレザエルたちを呼び、月の試練に挑ませる。
今の所、幻真獣と戦い、勝利し、試練をクリアして幻真獣を得たと報告が上がっているのは奇跡の運命者レザエル/奇跡の運命王レザエル・ヴィータだけ。
ヴェイズルーグが何を思い、何のために、惑星クレイ世界の強者を月の試練へと誘い、幻真獣を与えるのか。無双の運命者ヴァルガ・ドラグレスが言い当てた「鍛練」という言葉もその有力なヒントになりそうである。
