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第4章 歌が聴こえる
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第4章 1話 余燼 記事を読むテグリアに勝利したラディリナは、彼女を追わなかった。
うわごとのようにぶつぶつと呟くテグリアの様子は尋常ではなく、戦意を喪失していることは明らかだったからだ。 -
第4章 2話 慈悲深き者 記事を読む声をかけられたことによってようやく気づいたのか、異形頭の男はケイオスへと顔の正面を向けた。
目も耳もないが、一応は前後の区別はあるらしい。
「あぁ、ケイオス。君ですか」 -
第4章 3話 冷徹な遂行者 記事を読むケイオスが「狙え」と唆したまさにそこ、ロロワの喉笛にミカニは銃を向けた。
銃口からグリップにかけてオーラが寄生虫のように涌き、ミカニの腕に纏わりついている。赤黒いそれは、呪詛が形を取っているかのように禍々しい。
しかしそれが見えていないのか、ミカニは指先を引き金にかけた。
「排除する」
「——させないわよ!」 -
第4章 4話 英雄の街 記事を読む寒冷な雪原地帯に存在する各ドームとは異なり、その街には防雪防寒を主目的とする円蓋状シールドは存在しなかった。
摩天楼とはよく言ったもので、天を摩するような高層ビルが無数に立ち並んでいる。
ビルの壁面は黒い酸性雨によってタールを垂らしたように薄汚れ、そこに『常夜無双』『幸運保障』などと書かれた怪しいネオン看板がビカビカと光っている。 -
第4章 5話 英雄の歌 前編 記事を読む惑星クレイ行き旅客輸送船『テセア』。
数多ある惑星クレイと外宇宙を行き来する船のなかでも格安の旅費で知られており、船内環境は旅費相応に劣悪だった。
最大42日の旅程のなかで、旅客の何人かが“居なくなる”が、原因が追及されることはない。 -
第4章 6話 英雄の歌 後編 記事を読む魔法技術コンサルタント——ケイオスという男は、自らの仕事をそう名乗った。
あまりに胡散臭い響きに、その場の全員が思っただろう。 -
第4章 7話 摘果 記事を読む岩だらけの荒れ山を車が走っている。
荒野走行向けの車種ならば震動も抑えられただろうが、都市走行用セダンでは衝撃は免れない。車内はシャイカーに入れられたラム酒のように揺れていた。 -
第4章 8話 顕現せし大天涯 記事を読む世界はひとつの巨大な杯だった。
内に甘やかな欲望がなみなみと満ちて、その水面は縁をこえて柔らかに膨れている。
世界は、溢れるための最後の一滴を待っていた。 -
第4章 9話 欲望 記事を読む真っ黒な炎は、怒りにまかせた咆吼のようだった。それでいて、奈落の底から迸る悲鳴のようでもあった。
数えきれないほどの負の感情はぐちゃぐちゃに入り混じって、およそ人の身から放たれるものとは思えない熱となり、ロロワの身体を焼いた。 -
第4章 最終話 生命の歌 記事を読む饐えたような闇が吹きぬけて、ロロワは視界を奪われた。
まばたきをして、目を開けると、そこには誰も居なかった。
闇が光によって掻き消えるように、塵が塵に還るように、ケイオスとミカニの姿は消えていた。
ロロワは彼らを追おうとは思わなかった。追えるとも思わなかった。
第3章 光さす墓碑
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第3章 1話 墜落 記事を読む言われるまでロロワは忘れていた。
いや、心のどこかではわかっていたのかもしれない。
わかっていたからこそ、あえて見ないようにしていたのかもしれない。 -
第3章 2話 沈黙のモーダリオン 記事を読むケテルサンクチュアリ——かつてユナイテッドサンクチュアリと呼ばれた神聖国家。
過去にはブラスター・ブレードを筆頭に優れた騎士を輩出し、今なお天と地の騎士団により治安は維持されているという。
しかしロロワの眠っていた3000年という年月はあまりにも長く、時間という無慈悲はこの神聖国家にも降りかかった。 -
第3章 3話 ふたつの碑 記事を読むリップモはケテルサンクチュアリの中でも温暖で美しい海に恵まれ、夏には観光客で賑わう。
沿岸には白亜の家々が立ち並ぶが、そのほとんどが豊かな上流階級の人々の別荘であり、本宅は天空の首都ケテルギアにあるという。 -
第3章 4話 空白 記事を読む間もなく正午になろうという頃、ロロワたちは南の領都ポルディームに入った。
領都は地方ごとの領主によって治められており、テグリアを団長に置くロイヤルパラディン第二騎士団の兵舎もここに構えられている。モーダリオンの案内のもと、そこを訊ねようというわけだ。 -
第3章 5話 過ぎし日 記事を読む——事件である。
ロイヤルパラディン第二騎士団の兵舎から、ケーキのオーダーを受けたという噂は『パティスリー・ジュエルロシエ』内ですぐに広まった。 -
第3章 6話 濃霧と沈黙 記事を読む部屋の扉が閉まる、バタンという音でロロワは目を覚ました。
入ってきたモーダリオンの手にはビストロ皿があり、テグリアのパウンドケーキがいくつか乗っている。昨日の晩餐で余ったものだろう。 -
第3章 7話 おいでよハッピー常闇村! 記事を読む天も地もまぜこぜになって、世界が激しく揺れている。
ニグラの馬体にしがみつくロロワの手からは感覚さえ失われつつあったが、ここで振り落とされるわけにはいかなかった。 -
第3章 8話 おかしなおかしなオモチャの街! 記事を読むまだ夢の中にいるのではないか?
現実逃避じみた疑心がよぎったが、ここはまぎれもなく現実だ。
オブスクデイトは壁に立てかけた大剣を取る。しかし振り下ろすよりも先に、少女の鋭い声がかけられた。 -
第3章 9話 コドモとオトナ 記事を読むハートルールーに導かれ、ロロワたちは『お菓子の国』に足を踏み入れた。
しかし二歩、三歩と歩かないうちに、呆気に取られて立ち尽くす。
「わぁっ……」 -
第3章 10話 懐旧 記事を読むモーダリオンが口を開く。
満を持しての第一声、どれほど重い台詞を放つのかと思いきや、
「老けましたね」
である。
思わずオブスクデイトは苦笑いを浮かべてしまった。 -
第3章 11話 閃火 記事を読むテグリアが微笑んでいる。
ポルディームでケーキを作っていたときと同じ、見ているこちらの心が安らぐような温和な表情だ。なのに、どうしてだか近寄ることができない。ラディリナの内にある生き物としての本能が、警報を鳴らしている。
近づくな、近づくな、もし近づいたら——“死ぬ”。 -
第3章 12話 光さす墓碑 前編 記事を読むオブスクデイトの剣が突き立つよりも先に、モーダリオンは間合いの内まで迫っていた。
音さえも追いつけぬほどの速さで、黒く歪な光が駆けていく。
恐怖や絶望がよぎることはなかった。 -
第3章 13話 光さす墓碑 中編 記事を読むエルフの男は沈黙を保ったまま、凍りついた冬の湖面のような表情でオブスクデイトを見つめた。
奇妙なほど長い沈黙が流れ、ようやくエルフの男は口を開いた。 -
第3章 14話 光さす墓碑 後編 記事を読む薄暗闇に青い松明が燃えている。
シャドウパラディン第四騎士団、その本部である。
石造りの回廊は迷路のように入り組み、団員すらその全貌を知ることはない。万が一にも無いことだが、もし部外者が迷い込んだとしたら、二度と地上の光は拝めないだろう。 -
第3章 最終話 騎士 記事を読むふわりと白衣をひらめかせ間に立ちはだかった少女に、モーダリオンは「ふむ」と呟いた。
「お前がエバか」
雪人のような白い服はとっくに脱ぎ捨てられ、今のエバはオブスクデイトと出会ったときと同じ薄着に白衣という装いだった。 -
第3章 断章 光さす墓碑 記事を読むすべてを引きずりこむような闇だった。
呪いだけが満ちみちて、ジラールの意識を奈落の底へと押しやっていた。
第2章 ブルーム・フェスにようこそっ!
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第2章 幕間1 嘘つきのサーカス人形 記事を読む一晩にして街中の七面鳥がしめられる、謝肉祭の夜のことだ。
魔が統べるダークステイツの一都市、毒霧めいたバイオレッドの靄が、乱痴気騒ぎを染めあげる真っ最中、広場にサーカスが立った。一世一代の奇術もかくや、突如として現れた極彩色の大テントがぬらりと口を開く。 -
第2章 幕間2 嘘つきのマーメイド 記事を読むこういうの、万事バタンキューって言うんだよね、たしか。
ちがったっけ?
瞬間、敵の空対空ミサイルが炸裂し、ミチュの視界は真っ白に染まった。 -
第2章 1話 ここがリリカルモナステリオ! 記事を読む授業なんて放りだしてまどろみたくなるぐらい、すてきな天気だった。
天蓋(ドーム)にはうららかな陽光が降りそそぎ、教室の窓を開ければ白いカーテンが風になびいていく。
ここはリリカルモナステリオ——飛ぶクジラの背に乗り、アイドルたちが世界中に歌と希望と愛を届ける学園都市。 -
第2章 2話 テストがやってきた! 記事を読む「——さん、ハイッ!」
ステリィのかけ声に続いて、音楽室に伸びやかな歌声が響く。
向かって左手にソプラノ、右手にアルト、二グループに分かれた少女たちの顔には瑞々しいエネルギーが満ちている。
合唱は新入生たちのお気に入りの授業だった。 -
第2章 3話 激闘クラスオーディション!前編 記事を読むステリィの研究室は静かな中庭に近い研究棟の一角にあった。
その外装は白い磨りガラスの窓は鍵盤、黒い窓枠が黒鍵と、ピアノがモチーフになっている。 -
第2章 4話 激闘クラスオーディション!後編 記事を読む早く歌ってみたい、早く踊ってみたい——いくらそわそわしたって、練習する場所を確保できなければどうにもならない。
リリカルモナステリオで歌やダンスの練習ができる場所は多く、空き教室や体育館、音楽室など。
けれど指揮者が演奏をまとめあげるオーケストラならともかく、ペアのダンスはやはり鏡で振りつけをチェックしながら練習したいところ。思うことはみんな同じで、鏡のある体育館の予約はいつも争奪戦だ。 -
第2章 5話 こちら“星くずマールク飴”! 記事を読むアンドロイドは夢を見る。
彼女のまなうらには電子的な青が広がっている。
機械音声が響く。 -
第2章 6話 泥棒さん捕獲作戦 記事を読む「ラディリナよ、ラディでいいわ」
ポニーテールの少女はそう名乗り、傍らで羽ばたく子ドラゴンを視線で示した。
「彼はモモッケ。あぁあと、あっちはロロワ」 -
第2章 7話 ブルーム・フェススタート! 記事を読むステリィとケイオスがいるのは客席の一角に設けられた解説ブースのようで、二人は長テーブルに並んで座っている。
横からにゅっとステリィはカメラの画角に入ってきて、ケイオスの腕を肘で無邪気につついた。 -
第2章 8話 二人はアイドル! 記事を読む『——さぁ、“花は紅、柳は緑!”』
ステリィがタクトを振り下ろすと、その先端からパウダースノーのような光が生まれ、溢れ、言祝ぎのように参加者たちへと降り注いだ。 -
第2章 9話 そしてサーカスがやってくる 記事を読む「待って~!」
ノクノが必死に呼びかけても、トコトコと前を走って行くスミレの花は、ちっとも聞き入れてはくれなかった。 -
第2章 10話 マーメイド四姉妹 記事を読む息が切れる。刺すような恐怖がノクノの身を支配している。
嫌だ、嫌だ、死にたくない……!
必死で会場に繋がるドアを開けると、まばゆい光と大きくうねる歓声がノクノを包みこんだ。 -
第2章 11話 爆弾を見つけなきゃ 記事を読むズガァンッ!
視界が揺れるほど強烈な爆発音が響き、衝撃でノクノは尻餅をついた。
痛みを堪えながら目を開ければ、ミチュの身体の隙間から火薬臭い白煙がもうもうと溢れていた。
ミチュは動かない。 -
第2章 12話 ヒトガタの望み 記事を読むリリミとララミの胸には、オモチャに詰められていた物と同様の爆弾が差し込まれていた。
数は5本を超えている。もし爆発すれば、この一角は吹き飛ぶだろう。
もちろん、それを起動させる彼女たちも無事では済まない。いくら生身の生き物より丈夫なワーカロイドとはいえ、ヒトの形が残れば奇跡だ。 -
第2章 13話 露命の願い 記事を読む泥濘からの声に、ミチュはゆっくりと顔をあげた。
「だれ?」
正体を問う言葉に返答はなく、ふふふ、と蝶が舞い飛ぶような、からかい混じりの笑いが返ってくるだけだった。 -
第2章 最終話 夢のステージへ 記事を読む『エントリーナンバー8番、“ネオ・ガルガティア”!』
控え室にステリィの実況が響く。
液晶モニターには、ビビッドな原色の衣装を着た少女たちが、ステージから客席に向かって手を振る様子が映っていた。
第1章 誰が為の英雄
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第1章 0話 プロローグ 記事を読む——これは厄介なことになった。
彼がそう思ったのは、長い眠りにつく直前のことだ。 -
第1章 1話 はじまり 記事を読む「キャァアァアァァッ!」
そうして三千年後の世界は、わけもわからないまま、問答無用で幕を開ける。 -
第1章 2話 ラディリナとケイオス 記事を読むバイオロイドの少年・ロロワと、ドラグリッターの少女・ラディリナが逃げ込んだのは世界樹を取り囲む石造りの神殿だ。
逃げ場はそこだけ。 -
第1章 3話 3000年後のストイケイア 記事を読む聖域を守るためだろう。石造りの門扉は堅く閉ざされていたが、ケイオスが手で合図をするなり開いていく。
と、その先に広がる光景にロロワは思わず声をあげた。 -
第1章 4話 テグリアとメープル 記事を読む往来の喧騒を行くラディリナの歩みは早く、体力の落ちているロロワでは、ついていくだけで精一杯だった。
「あ……のっ……!」 -
第1章 5話 エバとオブスクデイト 記事を読む棚ぼた的に昼食の支払いを済ませると、何枚か銀貨が残った。テグリアからの詫び代なのだろう。とは言っても、暮らしを営む資金にするには到底足りない金額だ。
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第1章 6話 伝説の記憶 記事を読む「ねぇねぇ、これ、なんで?」
幼い頃からエバの口癖はそうだった。 -
第1章 7話 忠実なる冷徹 記事を読む「——そしてこれが、その宝具というわけです。って、もう壊れちゃったんですけどね」
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第1章 8話 穿通 記事を読む埃と蜘蛛の巣にまみれた出窓を降りると、石造りの大階段が奥へと続いている。神殿を守護すべき近衛兵も、市街の救出に出ているのだろうか気配を感じられない。
——ドク、ドク、ドクッ -
第1章 幕間 泥濘の声 記事を読む闇の奥から声がする。男のようで、女のようで、ただ音を組み合わせただけの弦楽器のようにも聞こえる。やわい音が、ロロワの鼓膜の敏感なところをカリカリと引っ搔いている。
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第1章 9話 清廉なる騎士 記事を読む「——さて」
エバは煌結晶を月明りに透かす。深い緑の石は、その奥に炎めいた灯を宿し、仄かに、明確な生命の力強さで揺らめいた。
「実験を始めたいところですが……っと、ほほーう、ちょうどいい実験体が来ちゃいましたね」 -
第1章 10話 崩落 記事を読む聖域の松明は燃え、煤が天に溶けていく。その明かりに照らされる人影がふたつ。
エバはオブスクデイトの肩の上に座りつつ、人差し指をピンと立てた。
「——つまり、必要なのは〝欲望〟なんですよ」
「……そうか」 -
第1章 11話 白の研究所(ブラン・ラボ) 記事を読むこの国では、闇は最高密度の白だった。
天で編まれた六花はやがて地上に降り注ぎ、希望も絶望もへだてなく染め上げる。それは潔癖な悪魔のごとき白。 -
第1章 12話 時空竜の声 記事を読む天国は、あるのか。
地獄は、あるのか。
惑星クレイにおいて死生観は様々だ。何せ『事実』として幽霊も、降霊術師も、動く死体も、天使も、悪魔 も暮らしている惑星だ。死した魂が目に見える形で身近にあるのだから、死生観が多種多様になるは当然のことと言えるだろう。 -
第1章 13話 世界樹の若芽 ロロワ 記事を読む疲労していた、薄暗い視界の中だった、そんな言い訳は全て無意味だった。
戦いにおいては結果だけがすべてであり、ラディリナは持ちうる力のすべてをその一太刀に込め、上空から落下する勢いのまま、オブスクデイトへと振り下ろした。
しかし——少女の魂を燃やした炎剣は、肉を断つよりも前に火の粉と散った。オブスクデイトの斬撃にて薙ぎ払われたのだ。 -
第1章 14話 世界樹の街 記事を読む夜が燃え尽きていくなかで、聖域は静まり返っていた。
地面から立ちこめた靄が夜露となって、世界樹の葉先で珠となり、星を散らしたように光っている。
地面が揺らいで、ひとしずく落ちた。